紫 黒 色 の 海
俺は、扉が開く気配で目が覚めた。
−−− また、夢・・・? −−−
夢だというのは分かっている。
俺は夢の中で、俺自身を殺すのだ。
毎晩、同じ夢を見て目を覚ます。
しかも、結末は分かっているのに、この恐怖から逃れられない。
俺は、俺が殺した俺自身を見て、声にならない悲鳴を上げて目を覚ます。
そう、毎晩・・・。
いつの頃からだったろうか?
俺は、奇妙な夢を見る様になった。
寝ている俺は、やはり扉が開く気配に目を覚ます。
何故か、その気配に恐怖を感じ、目を開けることが出来ない。
戦場で、どんな敵と戦っても、何の感情もなく倒してきたこの俺が、扉を開けて入ってきたモノの気配に、恐怖で目を開けることが出来ないなんて・・・。
全身が、震えているのが分かる。
その気配は、俺の方へ近付いてくる。
そして、俺に口付けた。
その一連の動作に、身動き出来ずされるがままの俺。
しかし、恐怖を振り払い、手に剣を呼び出すと、その気配の背に突き刺す。
そして、目を開ける。
俺の目に映ったのは、口から血を流しながら笑みを浮かべる・・・俺だった・・・。
俺は、飛び起きる。
辺りには何もない。
血を流した俺はおろか、血一滴見あたらない。
そして、それが夢であることを思い出す。
−−− ああ、また・・・。 −−−
昨日も、一昨日も。
そしてきっと、明日も、明後日も。
いつまで続くのだろうか?
俺は、ベッドから降りると、グラスにワインを満たして一気にあおる。
『誰を殺したい程愛してるの?』
先日言われた言葉を思い出す。
−−− 愛す? この俺が? 殺したくなる程? −−−
自問自答する。
−−− 誰を? −−−
と。
『叶わない想いなの?』
叶うのであれば、きっと、こんな夢など見ないのだろう。
窓の外が少しずつ明るくなっていく。
今日も見るのだろうか?
あの夢を。
そして・・・。
扉が開く。
何者かが近付いてくる。
しかし、今日は、何故か恐怖を感じなかった。
慣れてしまったのだろうか?
近付いた何者かの腕を掴み、その身体を組み敷くと、俺は、俺自身であるはずのその者の口を塞ぐ。
そうしながら、首を絞めた。
苦しそうな喘ぎ声が漏れる。
俺は、唇を離した。
そこから聞こえた掠れた声。
「・・・く・・・苦し・・・エ・・・ス・・・。」
その聞き慣れた声、しかし、想像もしていなかった声に、首を絞めていた慌てて手を離した。
突然体の中に流れ出した空気に、むせて咳をする。
「デーモン・・・。お前だったのか・・・?・・・」
月明かり照らされる黄金の髪。
正気に戻った俺は、初めてそれがデーモンであることを知る。
まだ苦しそうに咳き込みながら、潤んだ瞳を俺に向ける。
「うなされてたから起こそうと思ったんだ。大丈夫か?」
デーモンは、やっと落ち着くと、体を起こした。
そして、俺は思いだした。
デーモンの屋敷で夕食を取り、遅くなったので、そのまま泊まり込んだことを。
「すまない。また夢かと・・・。」
「眠れないのか?」
デーモンは、俺の顔を覗き込む様に見つめた。
「汗かいてるぞ。」
そう言って伸ばしてきた腕を、思わず掴み抱き締めた。
「エース・・・。」
デーモンは、驚いた様な声を発したが、敢えて腕から逃れようとはしない。
「眠れないのなら、お前が眠るまでここに居るぞ。」
俺は、更にデーモンをきつく抱き締め呟いた。
「もう少し、このままで・・・。」
デーモンは、黙って俺を抱き締め返す。
その温もりに安心する。
再び甦る言葉。
『誰を殺したい程愛してるの?』
−−− 誰を? −−−
今、腕の中にある温もりに安堵しながらも、それを壊したい衝動に駆られている自分に気付く。
『叶わない想いなの?』
−−− 叶うことならば・・・。 −−−
Fin
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「あとがき」
またまた雅に
「これって、『妄想の魔』か『死体安置所』じゃない?」
と言われましたが、強引に『瞑想の魔』に納めました。
なんか最近、長官の【夢】にこだわっている私ですが・・・。
悩んでるんですよね、長官の【殺したい相手】。
辛うじて、まだ明言してないでしょ?
葵 拝