桜 詩
目が覚めた。
別に寝苦しかった訳ではなく、ふっと・・・。
ふっと・・・、何故か目が覚めた。
閉めたカーテンの隙間から、月明かりが差し込んでいた。
エースは、ベッドから降りると、窓辺に歩み寄った。
シャっと、カーテンを開ける。
先ほどまで一筋だった月明かりが、眩しいくらいに部屋の中に入ってきた。
窓を開けた。
柔らかい風が入る。
弱い風だが、今まで無風状態だった為か、実際よりも強く感じた。
エースの、紅く長い髪を撫でる。
乱れた髪を鬱陶しそうにかきあげると、窓の縁に腰掛けた。
優しく吹いている風は、辺りの木々や建物にまとわりつきながら、歌うような音を立てていた。
決して不快ではない風の音。
そっと目を閉じて、風に耳を傾けた。
その時、風の音に混じって、本当に歌う声が聴こえてきた。
微かに聴こえた声は、しっとりとエースの全身を包んだ。
確かに聴こえたその歌声に誘われるかのように外へ出た。
歩を進める度に、その歌声は、彼に近付いていることを教えてくれる。
気が付くと、小高い丘の上に辿り着いていた。
そして、目の前に、彼の姿が現れる。
岩に腰を下ろしていた。
甘く切ないメロディ。
その声とメロディに酔ってしまいそうになる。
口ずさむ様に歌っているが、それは、廻りの静寂を飲み込んでいくかのように、どこまでも響いた。
「眠れないのか? デーモン。」
「エース・・・。」
驚くこともなく、デーモンは歌うのをやめて振り向いた。
「月が綺麗だから・・・。」
そう言って、再び月に向かって歌い出したデーモンの瞳がぬれたように輝いて見えたのは・・・。
何を求めて歌っているのか。
何を想って歌っているのか。
何を願って・・・。
Fin
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「あとがき」
閣下の歌声には、囁く様に歌われていても、どこまでも響く様なイメージがあります。
そんなことを考えながら書きました。
私自身、閣下の歌声に包まれているような感覚を味わった経験があるんです。
あの時の感動と言ったら・・・。
葵 拝