桃 色 の 灯 火
魔界。
仕事が一段落したエースは、窓際に立って煙草に火を点けた。
もう、真夜中である。
しかし、明日朝までに仕上げて提出しなければならない書類が、なかなか出来上がって来ず、自分の元に届いたのは、既に夕方であった。
膨大な書類の量。
これの全てに目を通さなければいけない。
その書類を受け取ったとき、徹夜を覚悟した。
「明日の朝、必ず。」
デーモンに大見得切った手前、意地でもやり遂げなければいけない。
しかし、予想以上の書類の多さである。
部下に、進捗状況を聞いておくべきであったと後悔した。
そんなエースが、想像以上に仕事が進み、先が見えたとき。
「?」
森の向こう側に、火の粉・・・と言うには大きい火の玉が見えた。
慌てて窓を開ける。
風はない。
その火の玉は、断続的にポンポンと上がる。
微かな音がしたかと思うと、ポーン。
その音と火の玉には見覚えがある。
「花火?」
確か、地球にいたとき、構成員やスタッフなどの大勢で、ツアーの合間に楽しんだ記憶があった。
祭りなどで打ち上げられるような大袈裟なモノではなく、おもちゃ屋等で手に入る、袋入りの簡易打ち上げ花火。
「誰だ?こんな時間に。」
あの方角は、文化局の裏にある泉の辺り。
こんな時間に花火。
しかも、文化局の裏。
検討するまでもなく、予想は付いたが、それを確認する為、煙草を揉み消し窓を閉めると、目標を定め転移した。
森の入り口・・・と言っても、大して広い森ではない。
森と言うより、木が生い茂っていると行った方がしっくり来る。
なんせ、文化局の裏である。
そこの局長の所為か、必要以上に植物が群生していた。
その森を、音と時折見える火の玉の方向へと歩いた。
泉へと辿り着く。
想像通りの後ろ姿。
「花火とは風流だな。ライデン。」
ライデンは、ゆっくりと振り返った。
「よく分かったね、ここが。」
「何言ってやがる。この花火、俺の執務室から見えるぞ。」
ライデンは、にっこりと微笑み、花火へと視線を戻した。
「まだ仕事してたんだ。」
「ああ。デーモンに『朝一で渡す』と言っちまったからな。」
「ふーん。大変だね。」
そう言うと、ライデンは花火に火を点けた。
ヒューっという音と共に上がり、遠くでポンと音がする。
「お前、そうやって点火してたんだ。」
珍しそうに、その一連の動作を見ていたエースが言った。
「まあね。」
そう言ったライデンは、もう1本花火を地面に置くと、目を閉じた。
その瞬間、パチッという音がしたかと思うと、ライデンの頭から火花が飛び、それが花火へと引火する。
「電気を起こすのと同じ原理さ。」
その花火が最後だったのか、そばにあった袋をゴソゴソと探り、その中からデカイ蝋燭を出した。
「この蝋燭ね、地球にいたとき、友達の結婚式に行って、その時、貰ったんだ。」
それは、キャンドルサービスの時、各テーブルに置かれている、螺旋状のピンクのキャンドル。
ライデンは、それをエースの方に差し出した。
その意味を察し、エースはパチンと指を鳴らした。
すると、そのキャンドルにポッと灯がともる。
「サンキュ!」
ライデンは、近くの岩の上に、蝋を落としてキャンドルを固定させた。
「エースもする?」
袋いっぱいの花火を指さす。
しかも、全部、線香花火。
エースは、一束掴むと、その1本に火を点けた。
パチパチという音と共に、勢いよく火花が散る。
それは、だんだん弱くなり、小さな火の玉になると、ポトンと落ちた。
それを見ていたライデンも同様に、火を灯す。
「俺、線香花火、好きなんだよね。」
ライデンは、花火をじっと見つめながら言った。
「夏の終わりって感じがするよね。」
「しかし、打ち上げ花火は冬が一番綺麗だぞ。」
「へー。俺、冬の花火見たことないや。」
「冬は、空が澄んでいるからな。」
とりとめのない会話が続く中、線香花火は絶えることなく燃え続けた。
まるで、暗闇を畏れ、微かな灯りを求めるかの様に・・・。
そして、最後の1本。
ライデンの手に握られたその花火を無言で見つめる。
燃え尽きたとき、それを待っていたかの様にキャンドルもまた消えた。
周りは、真夜中にふさわしい暗闇を静寂が漂う。
エースは立ち上がった。
「俺は、仕事に戻るが、お前は?」
ライデンは名残惜しそうに花火の燃えかすを眺めている。
「俺も、もう帰る。」
そう言ったライデンの頭をポンポンと叩き、エースは言った。
「寂しくなっtら、また呼べばいい。花火の相手位いつでもするぜ。」
「別に寂しくなんか・・・。」
ちょっと膨れて反論しようとするライデンに言った。
「今度は皆も呼ぼうぜ。寂しいのは、お前だけじゃないんだから。」
ライデンは、満面の笑みで大きく頷いた。
Fin
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「あとがき」
ARは難しかったです・・・。
ちょっと、寂しい雰囲気になってしまいました。
殿下のイメージって、元気良いだけど、どこか「元気に振る舞っている」様に見えるんですね、私は。
「元気でなければいけない」と思い込んでいる・・・雰囲気?
そんな殿下を表現出来ていれば良いのですが。
葵 拝