風 は 萌 葱 色
「何、むくれてるの?」
文化局の近くにある泉。
春風が吹いていた。
基本的に、魔界には季節は存在しない。
しかし、その日によって、空や陽射しや風・・・。
ありとあらゆる自然は変化していた。
厳密に言えば、太陽のない魔界に陽射しというものも存在しないのだが。
空の色が変わるのは、2つの月によるモノ。
白い月と赤い月。
その2つの動きによって明るさが微妙に変化する。
そして、今。
ゼノンは、いつもの様に文化局の近くにある泉に来ていた。
暗い部屋で机に向かっている気もせず、書類を持ち出した。
今日の陽気は、地球で言う小春日和。
少し肌寒いものの、外に出るには丁度良い気候。
鳥や植物達に話しかけながら泉に辿り着くと、そこには先客が居た。
見覚えがありすぎるポンポン頭。
彼は、泉の水辺に、まるで子供の様に膝を抱えて座っている。
その背中からは、明らかにいつもの彼のオーラとは違う雰囲気を漂わせていた。
ゼノンは、彼・・・ライデンの隣に座った。
「何、むくれているの?」
ライデンからの返事は当然のごとくない。
ただ一心に澄んだ水面に映る樹木の陰を見つめていた。
ゼノンは、ポンポンとポンポン頭をたたく。
「デーモンが探してたよ。」
その言葉にも答えはない。
ゼノンは軽く溜息をつき、持ってきた書類を放り出して草の上に寝転んだ。
「空が曇って行く。きっとライデンの心が反映しているんだね。」
やっと、ライデンの瞳がゼノンを映した。
「好きで雷神の息子に生まれた訳じゃないもん。」
再び視線を水面へと移す。
「父君からの帰還命令があったって?」
ライデンの肩がぴくりと動く。
「心配されているんだよ。もう、随分帰ってないんじゃない?」
「親父の考えるコトなんてさ、見え見えなんだよ。」
ライデンはゼノンの隣に寝転んだ。
「俺さ・・・、魔界に来たのって、勉強する為じゃん?だから、まだ正式にはさ・・・、皇太子としてのお披露目ってヤツ?あれ、やってないんだよね。」
ポツリポツリと語り始める。
「多分さ、その為に帰って来いってんだと思う。めんどくせぇ。」
「でも、帰んなきゃ、でしょ?」
「正式にお披露目やったらさ、なかなか魔界に来れない・・・。」
声がだんだん小さくなっていく。
「安心したいんだよ、きっと。君がなかなか戻らないから。」
再び膝を抱いて座ってしまったライデンの隣に、ゼノンは体を起こした。
「すぐ帰ってくればいいでしょ?魔界に。」
帰ってくれば・・・。
その言葉に、ライデンは破顔した。
「だって雷帝、すっごく元気じゃない。まだまだ遊べるよ。」
あまりのゼノンの言い様に、ライデンは逆に言う。
「それ、あんまりじゃ?俺だってさ、『帝王学』学ばなきゃいけないんだよ。」
「俺達の・・・、特にデーモンの側にいたらさ、イヤでも身に付くでしょ?そんなの。」
「・・・ま・・・ね。」
どちらからともなく吹き出す。
ひとしきり笑うと、ライデンは立ち上がった。
「デーさん、呼んでるって言ったよね。」
少し気が紛れたのか、そう言って走り出していく。
ゼノンは、その後ろ姿を見送ると、ポケットの中から、今日送られてきた封書を取り出した。
雷帝からの招待状。
ライデンを正式に皇太子とする為の『降雷の祭典』。
この招待状、デーモン達の所にも届いているはずである。
この事は、当日までライデンには黙っておこう。
きっと、慣れない、緊張した場に、僕たちを見つけての驚き、そして、大喜びしたライデンの顔が目に浮かんだ。
そして、今頃、デーモンからの親書が雷帝に届いているはずである。
『貴殿のご子息、ライデン殿下を、その時が来るまで、自分たちの元でお世話させて欲しい』
Fin
Presented by aoi
「あとがき」
初の試み「RX」。
ほのぼの系を目指して書いてみました。
いかがでしたでしょうか?
和尚宗のわりには、和尚が出てくることが少ない私の小説ですが。
お気に召して頂けたら幸いです。
では、また次の作品で。
葵 拝