褐 返 し の 中 で
ビルから一歩踏み出す。
外は既に暗かった。
「来た時は、確か、真っ昼間だったよな。しかも昨日の。」
デーモンは、誰にともなく言いながら、大きく背伸びをした。
「やはり、朝晩は冷え込む様になったな。」
「エース・・・。」
後ろから急に声を掛けられ、驚いて振り返る。
「しかし、寒くなった分、空が澄んでいる。」
エースの言葉に、空を見上げたデーモンは、思わず感動の溜息を漏らした。
「うわぁ。星が綺麗だ。」
珍しい位、輝いている星達。
手を伸ばせば届きそうな位、近くに感じる沢山の星々。
満天の星空は、星を身近に感じさせてくれる。
「届かないからこそ、美しく、憧れるのかもな。」
「今日は詩人だな。今度の新曲、詩を書いてみるか?」
エースのロマンチスト的発言に、デーモンは真顔で言った。
「冗談・・・。」
どちらからともなく、顔を見合わせ微笑む。
「エースも今から帰るのか?」
「ああ。お前も、もう終わったのか?」
「今日の所はな。吾輩、今日は車で来ているんだが、もし直で家に帰るのであれば送るぞ。」
言いながら、デーモンはポケットから鍵を取り出す。
「そうだな。今日は疲れたし、真っ直ぐ帰るかな。」
そう言ったエースに、飛びつかんばかりの勢いで喜びを表したデーモンは、駐車場まで走り出す。
「そこで待っていてくれ。すぐ車を持ってくるから。」
何も走らなくても・・・と思ったが、それを口にすることはせず、ポケットから煙草を取り出すと火を点けた。
ゆっくりと煙を吐き出しながら、先程、デーモンがいたく感動した夜空を見上げた。
「手に入れることが出来ないからこそ、恋い焦がれるのかもな。」
その言葉は、煙草の煙と共に風に乗って流れて行く。
煙を目で追う。
・・・とその先に、車のヘッドライトが近づいて来た。
「お待たせ。」
目の前に横付けされた車のドアが開かれる。
エースは煙草を消すと助手席に乗り込んだ。
車のスピードが上がるに連れ、窓の外の光が流れて行く。
暫く静かな車内が続いたが、その沈黙を破ったのはデーモンだった。
「訊いても良いか?」
「何だ?」
「ずっと訊きたかったんだ。」
デーモンにしては、珍しく歯切れが悪い。
エースは黙って次の言葉を待った。
「吾輩が地球に降りることを決心した時・・・。」
「またえらく前の話だな。」
予想外の話に、エースは思わずデーモンの横顔を見つめた。
「反対しただろう?」
「・・・・・・・・・・。」
エースは、胸ポケットから煙草を取り出すと、車のシガーライターを押した。
「何故反対したんだ?」
「・・・・・・・・・・。」
ポンッと音がする。
エースは、シガーライターを外すと、煙草に火を点けた。
大きく息を吸い込む。
窓を少し開けると、息を吐き出した。
デーモンは、その様子を目の端に捉えると、アッシュトレイを引き出した。
「エース・・・。」
デーモンは、エースの答えを待った。
赤信号で車を止める。
デーモンは、サイドブレーキを引くと、答えないエースの口から煙草を取り上げ、自分の口にくわえた。
「喉に悪いぞ。」
一度だけ煙草を吸うと、デーモンはその煙草をアッシュトレイに押しつける。
エースは再び煙草を取り出した。
デーモンは、シガーライターを押すと車を発進させた。
冷たい風が吹き込んで来る。
エースは窓の外に目をやった。
窓に運転するデーモンの横顔が微かに映っている。
手放したくなかったから・・・。
ボソッと口にする。
「エース?」
「お前が居ないと魔界が混乱するんじゃないかと思ったんだ。」
「それだけ?」
心なしか不満気な声。
「外にどんな理由がいる?」
何となく気まずい雰囲気。
お前と離れたくなかったと言ったら、信じるか?
口に出せない想い。
「吾輩は、エースが行くなと言ってくれて、本当は嬉しかった。」
気まずさを破って口を開いたのは、やはりデーモンだった。
「あの時・・・、エースが止めてくれた時、エースと離れたくないと思ったんだ・・・。」
デーモンのストレートな想い。
「だから・・・。エースが一緒に来てくれることを望んだ。エースの都合も考えず、地球行きのメンバーに入れた。後悔してないか?吾輩の我が儘で・・・。」
「赤だぞ。」
エースの声に、慌ててブレーキを踏む。
エースは、デーモンの頭をコツンと叩いた。
「後悔していたら、今こうして、お前の車に乗ってないさ。」
その言葉に、デーモンは、エースの横顔を見つめる。
「青。」
ハッとしてアクセルを踏む。
俺が、お前の傍に居たかったんだから・・・。
車がマンションの前に横付けされる。
「じゃあ、今度逢えるのは来週かな?」
車を降りるエースに、デーモンは声を掛けた。
逢える・・・。
エースは、車のドアを閉める手を止めて言った。
「夕食、食って行くか?」
「褐返し」・・・いったん別の色で染めた上に更に一面に藍をかけた色をいう。
Fin
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「あとがき」
なんかなあ・・・、アンニュイ?
・・・というより、私が書くヤツって、全てがまったり。
たまに、「閣下至上主義?」って自分で思ってしまうんです。
「閣下さえ幸せなら・・・。」と思って書いている自分が居ます。
おやおや。
葵 拝