く り ー む 色 の 虹
「ライデン様がお見えです。」
ある休日。
屋敷でくつろいでいたルークに、執事は伝えた。
「ライデンが? 珍しいね。通してくれる?」
そう言ったルークに、執事は更に言った。
「いえ。それが、ご一緒にお出かけなされたいそうで、お呼びするようにとの事です。」
「出かける?」
訳が分からないと言うような顔のまま、ルークは立ち上がると、玄関に向かった。
そこには、自転車を横に据えたライデンが、・・・そう、人間界で言うならば、丁度、競輪の選手のような服装をしたライデンが立っていた。
「どうしたんだ? その格好。」
ルークは、ライデンの、あまりにも成りきったその姿に吹き出した。
「サイクリング行かない?」
「でも、俺、チャリ持ってない。」
「ちゃんとルークの分も持ってきたよ。」
ライデンは、ルークを玄関の外に導き、もう1台の自転車を見せた。
「何処で手に入れたんだ?」
悪戯っぽい目をしたライデンは言った。
「人間界。」
「は?」
「絶対、こっちでも乗りたいって思ってさ。その時はルークも一緒が良いなって思ったんだ。行かない?」
「着替えてくる。」
ルークは、ダッシュで部屋に戻った。
10分後。
「やっぱり気持ちいいよね、チャリってさ。」
ライデンは、ルークを振り返って言った。
すり抜ける風は、柔らかく身体を包む。
暖かい陽気で、少し汗ばんできた身体に、その風は心地よく感じた。
「うん。」
ルークは、大きく頷いて訊いた。
「何処行くの?」
「考えてないんだ。行き当たりばったりで良いかなと思ってさ。」
ちょっと照れたように笑ったライデンにルークは微笑む。
「良い感じ!」
風を切って自転車を進めてで行く。
2名とも、別に会話はなかったが、それは優しい空間だった。
1時間程進んだ頃。
大きな一本の木をを見つけた。
−−− 桜 ? −−−
何処までも桜に似た大木。
しかし、魔界である此処に、人間界と同じ桜が咲くはずもなく・・・。
見渡す限りの草原。
その中にぽつりと一本の満開の桜。
2名は自転車を降り、その木に近付いた。
「桜だよね? どう見ても。」
ライデンは、大木の周りをぐるぐると何周か回って言った。
「うん。でも、魔界には桜はなかったと思うけど・・・。」
ルークは、木を見上げて言う。
「・・・誰かが植えた・・・?」
その時浮かんだ顔は、多分同一人(魔)物。
「相変わらずロマンチストだね。」
ポンポンと木を叩く。
「でも、らしいよね。」
ルークの言葉にライデンは言った。
2名は、桜の根元に腰を下ろす。
暫くの間、風を楽しんでいたが、ルークは言った。
「何か、用だったんだろ?」
「流石だね。お見通し?」
ライデンは俯いた。
「何?」
「うーん。別に大したことじゃないんだけどね。」
そこで黙り込んでしまったライデンを、ルークは待った。
「俺さ、明日、帰るんだ。」
「『降雷の祭典』?」
「うん。」
再び黙り込んだライデン。
何かを言いたいのに、うまく言葉が見つからない、そんな風に。
1名で帰っていくことの不安。。
仲魔と離れることの寂しさ。
自分1名が置いて行かれそうで、そのため感じる必要のない疎外感。
そんないろいろな気持ちが入り混じったライデンの気持ち。
その気持ちを、どう伝えて良いのか、また、伝えたところで、どうなるものでもなく・・・。
いつも、自分の感情にはストレートなライデンが、言葉を探しているのが分かった。
「俺、その式典に招待されてるんだ。」
「えっ?」
『降雷の祭典』
それは、ライデンを正式に雷帝の後継として世間に知らせる、いわば、お披露目の儀式。
その儀式のため、ライデンは魔界を離れ、雷神界へ帰らなければならない。
先日ルークは、その式典への招待状を受け取っていた。
もちろん、他の仲魔も。
ライデンは、その事を知らされていない。
皆で話し合い、驚かせるため、ライデンには黙っていようと言うことになった。
しかし、あまりにも寂しそうなライデンの横顔に、ルークは思わずその事を口にしていた。
「本当に?」
ライデンの顔が、パッと明るくなる。
「ああ。他の皆も行くんだよ。」
「何で言ってくれないんだよ。」
少々むくれるライデンを微笑みながら見つめる。
「驚かせたくって。」
こんなに喜ぶんだったら、言って良かったかなと思う。
あんなに寂しそうなライデンは見たくない。
皆も許してくれるだろう。
「それでね。」
ルークは続けた。
「俺、その後長期休暇をとってんだ。暫く、雷神界に居て良い?」
ライデンは、喜びのあまり、ルークに抱きついた。
「もちろんだよ!」
ライデンの背中をポンポンと叩いて身体を離す。
「ねえ、ルーク。俺が皆が式典に出ること知ってるって黙っててね。驚かさなきゃ。」
フフッと、2名は目を見合わせて笑った。
「ライデン。式典が終わって、魔界に帰ってきた時にさ、皆で、お花見しようよ、ここで。それ迄は、この場所知ってるって、2名の秘密にしておこう。」
Fin
Presented by aoi
「あとがき」
全てのカップリング制覇しました!・・・よね?
なんか、連続モノになってるし・・・。
どうしたんでしょ?
この話は、何の筋書きもなく書き始めて、書きながらオチを付けたんです。
大体の粗筋を思い描いて書く私にしては、珍しい出来事です。
ちゃんと纏まってます?
葵 拝