コ バ ル ト グ リ ー ン の 輝 き

 

久々のオフ。

部屋の片づけをしようと、デーモンは寝室に向かった。

まだ暗いままの寝室のカーテンを開ける。

シャッという音と共に射し込む太陽の光に、思わず目をつぶる。

明るくなった部屋を振り返り、盛大な溜息をついた。

連日、真夜中にしか帰宅しないマンションの、しかも寝室は、殆ど暗い時の記憶しかない。

太陽の光に晒された部屋は、想像以上に散らかっていた。

何処から手を付けたものかと思案していると、ベッドとは反対に側に設置してあるステレオの上に、レコードが見えた。

「?」

それを手に取って見たが、自分のモノだという記憶がない。

表、裏、そして中身を見たところで思い出す。

「あ・・・、ライデン。」

何時だったか忘れるくらい前、ライデンから借りたモノだった。

借りてきてすぐはよく聴いたが、忙しいのも手伝って、最近はそれを手に取ることはなかった。

「そろそろ返さなきゃな。」

そうでないと、また『貸したモノを返さない』と言われてしまう。

本当のことだから仕方ない。

・・・が、なるべくそういう汚名は返上したい。

「今から返しに行くかな。」

散らかった寝室から逃げ出すように、車の鍵を手に取ってマンションを出た。

 

車を飛ばすこと30分。

ライデンの住むマンションに着くと、近くの駐車場へ車を滑らせる。

レコードを持ち車を降りると、部屋へ向かう為、エレベータに乗り込む。

目的の階のボタンを押し、暫し、どうしても慣れることのない浮遊感に身を任せた。

チン。

到着を告げる音と共に扉が開く。

最奥の部屋に向かうと呼び鈴を押す。

出てくる気配はない。

もう一度押す。

「留守か?」

アポ無しで来たのだから仕方がない。

引き返そうとした時・・・。

何かが頭をかすめた。

思わず振り返る。

「ライデン?」

頭の中に、横たわる魔影のビジョンが浮かぶ。

デーモンは、周りを見渡し、誰もいないことを確認すると、ドアの向こうへと消えた。

「ライデン?」

声をかけるが、返事はない。

気のせいだったかと思いながら、部屋を見て回る。

最後に寝室に入ろうとした時、呻き声が聞こえた。

「ライデン!!!」

慌てて飛び込んだデーモンの目に映ったのは、ベッドの上で真っ赤な顔をして、入り口を見つめるライデンの姿だった。

「あ、デーさん・・・。」

突然現れたデーモンの姿に驚くことはなく、力無く微笑んだ。

「悪いとは思ったが、勝手にあがらせてもらった。お前の呼び声が聞こえたような気がしたからな。熱が高そうだな。」

優しい口調で話しかけながら、手はライデンの、手、額、頬、首に、そして最後に自分の額をライデンのそれに当て確かめる。

「デーさん来たのが分かったから、俺が呼び止めたんだ。ごめんね。」

されるがままになっていたライデンは言った。

「不法侵入にならずに済んだな。」

デーモンの暖かい微笑みは、ライデンを安心させた。

「何時からなんだ?」

「昨日。」

「誰かに連絡すれば良かったのに。」

力無く笑ったライデンの頭から、手を離す。

「39度前後ってところかな。相変わらずお前の熱は高いな。熱は下げておくが、身体の怠さは抜けないと思う。お前は、厳密に言えば悪魔ではないからな。吾輩の癒しも完全

には効かないのだ。すまないな。」

「ありがとう。」

デーモンは微笑むと、左手でライデンの手を握り、右手はライデンの額に再び触れた。

目を閉じると、神経を集中させる。

デーモンの体の回りにオーラが現れた。

そのオーラは、光の流れとなって、握られた手と触れた額から、ライデンの体内へ流れ込んだ。

ライデンは身体の奥から、暖かくなるのを感じ、その温もりに身を委ねる。

フッと身体が軽くなった時、デーモンの両手がライデンから離れた。

ライデンは、閉じていた目を開けると、大きく深呼吸をしたデーモンの目と合った。

「気分はどうだ?」

「うん。楽になった。ありがとう。」

「どうせ何も食べてないんだろう?冷蔵庫、見て良いか?食事作ってくるから。エースが作ったモノほど美味しくは無いかもしれないが、食べれるモノは作れるだろう。待ってろ。」

ライデンは、寝室を出て行こうとするデーモンの手を握った。

呼び止められた形になったデーモンは、振り返る。

先程より随分顔色が良くなったライデンは、手を離さずに言った。

「ごめん、デーさん。今、忙しい時期だろう?なのに、癒しまで使わせちゃって・・・。」

癒しは、魔力と言うより、本悪魔自身のエナジーを相手に注ぎ込む。

と言うことは、ライデンに癒しを行ったデーモンの今の体力は、かなり落ちているはずである。

そんなデーモンを気遣うライデンの手を布団の中に入れてやる。

「熱は引いたな。待ってろ。」

 

台所に入ったデーモンは、冷蔵庫を開ける。

めぼしい食材を取り出し、鍋を探す。

・・・が、なかなか見つからない。

仕方なく寝室に戻ると、そうっと扉を開ける。

「ライデン、鍋・・・。」

そこに見えたのは、安らかな寝息を立てて眠るライデンの姿。

「どうするかな・・・。」

デーモンは、扉を静かに閉めると、取り敢えず携帯電話を取り出し、ダイヤルを押す。

「あ、もしもし、ゼノン?今、ライデンの部屋に居るんだけど・・・。うん。風邪かな?・・・いや・・・。交代してくれるかな・・・。ううん。吾輩が出来ることは、もう・・・。お前の方が良いかな

と・・・。うん。頼む。」

電話を切ると、テーブルの上に放り出していたレコードを思い出す。

近くにあったメモ用紙を1枚切り取り、伝言を書いた。

それをレコードの上に置く。

もう一度、ライデンの様子を見に行き、眠っているのを確かめると、マンションを出た。

大きく伸びをする。

ライデンのことは、ゼノンに頼んだので安心である。

眩しい位の良い天気。

今日は、まだ始まったばかり。

「やっぱり、部屋の掃除かな?」

車に乗ると、帰路に着いた。

 

 

 

Fin

 

 

 

Presented by aoi

 

 

 

「あとがき」

 

DRのつもりで書いたのですが、雅に

「完璧にRXだ。」

と、言われてしまいました。

最後の最後で、和尚に持って行かれたらしいのです。

をや?

 

葵 拝