ベ ビ ー ピ ン ク の 翼

 

「何を見ている?」

もしここが地球だったら、“抜けるような青空”とでも言うのであろうか?

魔界の二つの・・・、赤と白の月は、古の地球を懐かしむかのように、限り無く彼の地を醸し出していた。

小高い丘の上。

見渡す限りの草原。

デーモンは、その丘に立つと、ただ一心に空を仰いでいた。

「首、痛くないのか?」

あまりにも動かないデーモンに、エースは思わず声をかけていた。

「ん。」

心ここにあらずの答えが帰ってくる。

 

たまの休日、エースはデーモンの元を訪れた。

別に何か用があった訳ではないが、2名揃っての休日というのは、なかなか無く、ただ何となく、デーモンの屋敷を訪ねたのだ。

しかし、エースがデーモンの屋敷に着いたのと、デーモンが出掛けようと玄関に現れたのは同時であった。

「悪い。何処か出掛けるところだったみたいだな。」

何となく、バツが悪そうな顔をしたエースに、デーモンは微笑んだ。

「一緒に来るか?」

自然な誘いに、思わず素直に頷く。

何処に行くとも、何をしにとも言う訳ではなく、2名並んで無言で歩いていた。

きっと問えばデーモンは答えるのであろうが、敢えてそうはせず、ただ着いて行く。

どれくらい歩いたであろうか?

さほどの時間ではない。

小高い丘に立っていた。

珍しいくらい良い天気。

そんなに高くはない丘ではあるが、その天気の良さに、魔界が隅々まで見渡せるのではないかと思えた。

そして、手を伸ばせば届きそうな青空。

エースは、デーモンが立ち止まったのを確認すると、その場に腰を下ろすと大きく伸びをした。

デーモンは・・・と言うと、その空をただ見上げている。

何かを待つかのように。

かなりの時間、デーモンは空を見上げていた。

そして・・・。

 

「何を見ている?」

とうとう、エースは声をかけた。

「首、痛くないのか?」

心配したエースの言葉にも、心ここにあらずの返事のみ。

「ん・・・。」

一心に空を見あげるデーモンに、何故か不安を覚えた。

その時、デーモンの身体がふらつく。

慌ててエースは立ち上がり、デーモンの身体を抱きとめた。

溜息混じりにもう一度言う。

「そんなに上ばかり見ていたら、ふらつくのは当たり前だろう?何をそんなに見てるんだ?」

エースの腕から離れながら、彼の屋敷を出てから初めて口を開いた。

「ある天使に逢いたかったんだ。」

「天使?」

思いがけない言葉、よりにもよってデーモンの口から『天使に逢いたい』などと聞くとは思っていなかったエースは、思わず口調を強めた。

そんなエースに動じることもなく、デーモンは続けた。

「この丘、たまに天使が舞い降りるんだ。以前、1名でここに来た時、目撃したんだ。一瞬目を奪われた。初めて天使を綺麗だと思った。そして、その天使をもう一度見たいと。今日

は逢えそうな気がしたから・・・。」

デーモンに誘われて良い気分で着いてきていたエースは、一変して不機嫌になる。

デーモンが心を奪われた?

しかも天使に?

天使が綺麗?

では、その天使はデーモンを見て、何を思わなかったのか?

その天使もデーモンを見て心奪われなかったという保証はない。

ものすごい嫉妬と独占欲が、エースの中を駆け巡った。

デーモンが綺麗だと思った天使。

見たこともない、逢ったこともない天使を、まるで射殺すかのような強い視線で、今までデーモンが見ていた空を見上げた。

そんなエースの心中を察したのか、デーモンは話を続けた。

「でも、もういい。」

「?」

あれだけ一生懸命見つめていたくせに・・・。

「今日、エース・・・、お前と一緒にこの丘へ来れたから、もう会えなくても良いんだ。」

何故?

不審そうに見つめてくるエースに、デーモンは帰るよう促した。

「付き合わせて悪かったな。一緒に食事でもどうだ?暇・・・なんだろう?美味い酒もあるぞ。」

先を歩き出すデーモンに、急いで追いつく。

「天使はいいのか?」

「ああ。今日、エースと一緒に来れたから、もう良いんだ。」

先程と同じ言葉を繰り返した。

「俺?」

何故、自分が関係する?

「何故、その天使に逢いたかったんだ?」

心なしか顔を赤らめたデーモンは、そっぽを向いた。

「綺麗だったから・・・。」

そう言うと、デーモンはエースの首に腕をまわし、耳元で囁いた。

その囁かれた言葉に、エースの瞳が大きく開かれる。

エースの首から腕を解き、先程より少し歩調を早めたデーモンの背中を、ちょっと照れくさそうに、髪を掻き上げながら見つめた。

耳の中でリフレインするデーモンの声。

 

「その天使、エースに似てたんだ。」

 

 

 

Fin

 

 

 

Presented by aoi

 

 

 

「あとがき」

 

小説を書く時、何となく、モチーフになる音楽があるんです。

まあ、殆どが聖飢魔IIの曲なのですが・・・。(違う時もあるんですよ。)

さて、今回は何を聞きながら書いたと思われます?

 

葵 拝