閉め忘れた窓の隙間から風が滑り込んだ。
それはカーテンを踊らせ、ベッドの上に横たわっている一名の頬を撫でては・・・消える。
普段ならこんな微かな刺激如きでは目を覚ます事は無いのだが、今夜はふと・・・意識を取り戻した。
パチパチと瞬きを二、三回。
染み入るような黄金の光は、空に浮かぶ三日月だった。
軽い眩暈を覚えながらも身体を起こそうと、下敷きになっていた右腕に力を入れてみる。
が、それ以上に強い力によって敢え無くそれは失敗してしまう。
「・・・?」
月光の全てに晒されない為なのか、彼を守るよう一回り大きな身体が自分を包み込んでいるのを見つけた。
抱きしめた腕が彼の動きを封じているのだ。
思わず苦笑いを零し、起こさないように巻きついている腕(かいな)をゆっくりと持ち上げ、シーツの上に置いた。
やっと自由になった身体を起こし、窓辺に立つ。
星も無い。
ただ紺色に近い暗闇の中、鎌を持ち上げた月が微動だにせずこちらを見つめている。
誰もいないのに、視線を感じるようで・・・ドキリとした。
振り向いて確かめても、背中を向けたまま眠るもう一名のベッドの住人は動く気配はなかった。
もう一度・・・月に視線を返した。
沈黙の中、月の光に犯されている。
冷たくも優しく・・・数時間前に後ろのベッドでの行為を彷彿とさせた。
初めての時、彼の冷たい指先に改めて驚かされた。
まるでリュートを奏でる様な滑らかな手の動き。
時に激しく、時にしっとりと・・・反応する自分の嬌声に合わせてリズミカルに変化する。
そして、指先に冷たさとは裏腹に彼の炎の熱さも・・・知っている。
お互い昼間の冷酷で隙の無い表情を、理性諸共溶かしてしまう。
それは・・・彼だからこそ、自分だからこそ。
与え、奪い、共有することができる。
ふぅ・・・と溜息ではない長い吐息を洩らし、彼は窓を閉め、振り向いた。
「・・・!・・・起きていたのか?いつから?」
ベッドの上では枕に肘をつきこちらを見つめている視線があった。
「お前が俺の中で動き始めた頃から。」
「・・・吾輩が起きてすぐからか?」
ベッドの中に戻りながら、デーモンは尋ねた。
「そんなことは知らないが・・・何をするのか見てやろうと寝たふりをしてみた。」
赤い唇にイタズラな笑みを浮かべて、エースはサイドテーブルの煙草を引き寄せる。
「意地悪だな・・・言ってくれればいいのに・・・。」
もぞもぞと布団を肩まで上げて、エースの胸の中にデーモンは顔を埋めた。
「・・・どうした?」
吸い始めたばかりの煙草の火を消して、エースはデーモンの身体を望むままに抱き寄せた。
「ん・・・エースの香りがする。・・・吾輩はお前の香りが好きなんだ。」
そう言うと、まるで赤子のよう甘えて、背中を丸め全身をエースの懐に忍ばせてくる。
「煙草の匂いか?」
クスリと笑ってエースは尋ねた。
デーモンは軽く首を振った。
「いや、違う。それだけではない。・・・なんと言って良いのかは分からないが・・・吾輩を安心させてくれる。だから、傍にいてくれ。吾輩の傍に・・・
吾輩も・・・お前の傍を離れないから。」
声の最後の方は小さくなっていった。
クフンと息をすると、デーモンはゆっくり寝息をたて始めた。
「・・・傍に・・・頼まれなくたって居てやるよ・・・。それは俺が望んだ事だ。」
布団を持ち上げてデーモンの肩の上までシッカリと着せてやり、エースはまた、デーモンを両腕の中に抱き込んだ。

いつも貴方の傍にいるよ・・・。

 

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