GO AHEAD
やけに静かだ。
疲れ果てて全く動けない。
歩くのも、もうイヤだった。
ただただ広がる草原に立ちつくす自分がいる。
風がマントを翻す。合わせるように自分の腰の高さまである草もサラサラと踊る。
目の前に・・・・・・・・・いつの間にかクスノキが1本。
ふと、見上げた。
一番高い枝に風船がひとつ・・・。
蒼く、澄み切った青空の中に、紅い風船が引っ掛かっていた。何故?こんな所に・・・?
取ってあげなくちゃ・・・。
何故か・・・そう思えた。
力を使えばあれくらい取るのは何ということではない。
出し惜しみするほどの力ではない。風船に近付いた。
虚空の彼方に向かって飛び立とうと風に身を任せようとしてるが、いかんせん、枝が邪魔をしている。
哀れに見えた。
この地に捕らわれている自分のようで・・・。
手の中に淡い光を出す。風船に向かって手を伸ばした・・・・・・・・・・・
その刹那。
ここに辿り着いて初めての「音」を聞いた。
鈍く、その音は鼓膜を振動させる。
身体中の力が硬直し、一瞬のうちにまた脱けていく。
燃えるように熱い。胸が・・・熱い。
やっと自覚した。
「死ねる・・・」
と。頭がガクン・・・と上がる。ゴボリと口から溢れる鮮血。
視線は風船を追った。と、先程まで存在していた場所に風船はなく、何かに煽られて遙か彼方の空へ舞い上がっていった。
・・・飛んでいけ。吾輩にも許されたんだ。
遥かな時代を生き、たった1名で生きた永遠の時間に何の未練がある?
誰も信じず、誰も信じられずに生きた空虚な歴史に・・・。
ようやく安息が許されたのだ。このまま・・・誰も・・・起こさないでくれ。
このまま眠らせて・・・。
「・・・・・・モン・・・・。デー・・・モン・・・・。」
遠くで声が聞こえる。
「デーモン!!!」
はっとして目を覚ました。
「・・・たく・・・。いい根性してるなぁ、お前は。この緊張感漂う最悪の事態のど真ん中で熟睡とはな。」
「え・・・?」
呆れた顔でライデンが言い放つ。
いつもの顔がいつものようにそこにいる。・・・1名だけではなかった。
「なに惚けた顔してるの?まだ終わっちゃいないんだよ。」
ルークがゼノンに手当てを受けながら、これも呆れたように見つめていた。
「・・・どこも怪我はない?まだ今のうちだよ。ボクが手が空いてるのは。」
ゼノンが優しく尋ねる。デーモンは自分の身体を見た。かすり傷、痣、軽い打ち身があるだけで、手当を受けるような大怪我は無さそうだった。
「大丈夫。・・・ところで・・・エースは?」
頭数が1名足りないのを感じ、デーモンは尋ねる。と、答えの代わりにルークの指先がデーモンの後ろを指していた。
「バカ、真後ろにいるだろうが・・・。どこに目を付けてるんだ?」
この上なく不機嫌な声が帰ってくる。しかし、デーモンは思わず笑みを浮かべていた。
「何だ?何がおかしいんだ?」
エースが眉をひそめる。
「大将??」
ライデンも不思議そうに顔を覗き込んでくる。
「すまない。まだ夢見心地だったらしい。・・・で?吾輩が寝てる間に何か変わったことは?」
「何も。神々の方は確実に少なくなっている。人間共も焦り始めたようだ。自分が寄るべき者達がどんどん少なくっているからな。次に向こうが何かを仕掛けるときには死にものぐるいで攻撃してくるはず。その時・・・・全てが決まる。」
ゼノンが手短に戦況を話す。
誰も何も言わない。・・・と、デーモンはルークの方を見た。
「軍事局参謀。お前だったらどうする?」
ルークはにやりと笑ってゼノンが巻いてくれた包帯の端をクイッと口で引っ張り、きつく結んだ。
「きっとデーさんと同じだ。」
デーモンも口の端に笑みを浮かべる。
「やはり・・・な。」
それだけ言い放ち、他3名を順番に見つめる。
3名とも何の事だか分かっているらしかった。
「我々の中に『ギブアップ』の言葉はない。向こうから仕掛けられるよりも先に、こっちから行ってやるよ。準備はいいか?」
その言葉を合図に全員、立ち上がった。
死にものぐるいで闘っていたのは・・・こちらだった。
仲魔は全て死に、神々も残り少なくなってきている。
しかし、向こうは『人間』という自分達に似せて作ったクローン体を駆使し、反撃を仕掛けてきた。
『正義のために』
それが大義名分。
『何の』為の正義か、『誰の』為の正義か・・・。
悪魔達は知ってる。
最後に生き残るのは『何か』を。
知ってて闘う。
最後まで。
「おっし!!行くか!!」
ライデンが尻に付いたホコリをはたく。
「そうだね・・・そろそろ。」
ゼノンも救急箱を消して戦闘服の襟を正した。
「準備はいい?俺が合図したら5手に分かれるんだよ。そして・・・。」
ルークは見えない敵に向かって指をさした。
「デーモン・・・。」
エースはデーモンの耳元で囁いた。
「何だ?」
「お前らしいな・・・って思って。」
「え?」
デーモンは不思議そうにエースを見た。
エースは少し照れくさそうにデーモンの頭をこつんと叩きながら呟いた。
「人間を傷付けるなと命令した辺りが・・・な。」
その言葉にデーモンも少し紅くなりながら聞こえるか聞こえないかの声で言った。
「・・・期待をしたいのだ。吾輩は・・・。人間という生命に。」
満身創痍に近い悪魔達。
ぼろぼろの戦闘服を翻し、まだ闘う。
どこかに隠れている己れの中の見えない敵に立ち向かう。
ルークが手を上げた。
「生きて帰るのが俺達の最後の目的だ!!!」
5名の悪魔は一歩を踏み出し、最後の戦闘態勢に入った。
「GO AHEAD!!!!」
Fin
presented by 高倉 雅