E A R T H
数々の惑星がひしめき合い、仄かな光を放ち続ける。
ここは宇宙の片隅。
広大無辺な大空間の一郭。
重力に逆らうように浮かぶ1つの影。
少なくとも星ではない。
時々ものすごい勢いで走り抜けてゆく流星が影の羽織るマントを舞い上がらせていく。
その瞬間、太陽の強い光に反射して紅の裏地に施されたの豪華な刺繍が金色に煌めいた。
ずっと一点だけを見つめていた目がふと、振り向いた。
その瞳はまるで暖かみを帯びた湖の色。
周りに縁取られた紋様はそれと反対に真冬の空を思わせる冷たい蒼。
ゴッソリと元は豊か過ぎる表情を隠す頬の灰白色は哀しく存在する。
「夜明け・・・・・・・・?」
今まで姿を見せなかった太陽が、真後ろの惑星の背後から地平線を銀色に染め変えて顔を出し始めていた。
「最後の夜明け・・・か。」
再び視線を戻す先にはくすみがかった金の惑星が無言で浮かんでいる。
風も死に絶え、生きることをとうの昔に止めた星。
それは・・・。
「吾輩が選択した道だったな・・・。」
自嘲気味に吐き捨てる。
そして最終作戦。
自分に与えられた最後の使命。
「思えば・・・刹那の時間だったのだな。」
目を閉じて思い浮かぶのは目の前の惑星での思い出ばかり。
異次元に生まれ、そこで永久の命を持つ悪魔に比べたらホンの数瞬にも満たない短命種達が生きた星。
とても愚かで、我が儘な生命体だった。
そこを征服し、滅ぼし、惑星を救う筈だった。
そう・・・そういう計画だった。
しかし。
「これは吾輩の責任なのだからな。」
再び呟く。悪魔には不似合いな金色の髪を無造作に掻き上げ、掴んだまま右手に一本の鋏を取り出した。
鈍い銀色の口を開き、とても無機質なそれは、大きな一束の金糸を切り落とした。
ゆっくりと髪の束を目の前に持ってくる・・・と、それまでは背中で揺れていた髪が不揃いに頬の横に靡いた。
「これは・・・もう要らない。」
手を開いた。自由になった糸達は思い思いの風に乗って宇宙の中へ消えてゆく。
自分を彩っていた飾りはもう必要(いら)ない。
息を吐いた。
両手を重ね、呪文を唱える。
まるでランプの灯火が照らすように仄明るい光が手の中に集まってくる。
充分に光を集め、開いた掌の中には小宇宙が広がっていた。
かつて・・・蒼き惑星と謳われ、何よりも美しい惑星。
今この瞬間に。
放たれた力は真っ直ぐに目の前の星に向かって飛んでいった。
小さく・・・その音は響き、亀裂が走った。
流れ出す紅い悲鳴は滴り、惑星自体を飲み込んでゆく。
沸々と命を吹き返したかのように打ち震え、一瞬の沈黙。
次の瞬間、静かに消滅していった。
何事もなかったかのように・・・最初から何もなかったかのように・・・。
「・・・。」
いつまでもいつまでもその空間だけを見つめていった。
霧散していったちっぽけな生命。その事実をいつの間にかこぼれ落ちた涙が必死で受け止めた。
「もう・・・泣かぬ。これで最後だ。吾輩はもう二度と泣かない。」
両手で顔を覆い、涙が零れるのを押さえる。
そして次に開いたときに最初に見えたのは、黒い二つの光。
黒曜石に似た艶やかな色だった。
既に涙はなく、代わりに現れたのは無表情な瞳。
何も感じず、全ての感情を封印させた悪魔そのものだった。
彼はそのまま異空間へ消えた。
後の世。
黄金色の悪魔が天界を揺るがし、破滅寸前にまで導いたという伝説が風に乗って伝わっていった。
それは蒼の惑星歴で言うところの11番目の月、10の一夜という時間だという。
F I N
Presented by 高倉 雅
Demonmas 11/10
Postscript
デーモン小暮閣下、御発生日おめでとうございます。
折角の「企画小説」なので(笑)、とても珍しく後書きなんぞ書いてます。
とってもとっても悩みました。(爆)
閣下の御発生日ですし、明るくやってみようかと思ったのですが、私の砕けた(?)脳味噌がそれを許しませんでした。
で、この小説。
聖飢魔IIは解散してしまいましたが、それでも閣下は悪魔でいらっしゃいます。
私の書くモノはケッコウ閣下が悪魔らしくないモノが多いので、今回は閣下にしっかり悪魔していただきました。(笑)
私の中の閣下のイメージというモノは、「綺麗」という言葉が一番に当てはまりますが、もう一つ。
「畏怖」という言葉もあるのでございます。
私はデーモン小暮閣下が大好きですし、敬愛しておりますが、とても怖いです。
聖飢魔II時代に発布された小教典、大教典の歌詞を眺めておりますと、最初は「ふふ・・・。」ってなカンジですが、よくよく読み返すと
かなり辛辣なことを書いておいでです。それに気付いた瞬間、私は閣下がとても怖く感じます。
その辛辣さが何に対してなのか、何をおっしゃろうとしているのか、何に対する警告なのか・・・。
考えると、ゾッとする時さえございます。だから今回。
私の中の怖い閣下に登場していただきました。デモンマスの小説にするには少々不似合いだとは思いましたけど。(^−^;)
そんなカンジで後書きは終わりです。(なんじゃそら〜〜〜〜!!!)
あ、そうそう、私がゾッとした曲を2つばかりここに書いて締めと致します。ではでは、引き続き、当病院の徘徊(爆)をお楽しみ下さいませ。
「害獣達の墓場」 「いざ戦場へ」(←はっ!!聖飢魔IIじゃない〜〜〜〜〜〜!!!・爆死)
高倉 雅 拝