Excellency of Silver 【銀色のExcellency】 〜改訂版〜
少し高めの靴のまま、足音軽く城のトップタワーの先から身を躍らせた。
「待て!!早まるな!」
後ろから聞こえる声には目もくれず、ふらっ・・・と風に乗り、重量の法則に従って簡単に落ちてゆく。
【力】を使えば、たかだか地上500メートルの高さ、飛び降りて着地する事など赤子の手を捻るより簡単なのだが・・・。
どう見ても・・・落下し続けるその身からはその様子は感じられない。
我に返り、羽を広げ全速力で追いかけたが・・・間に合わなかった。
ドサリと叩き付けられる音、ダラリと投げ出され、ピクリとも動かない身体・・・。
僅か数瞬遅れで地上に降り立ったエースは、その場の状態を見て絶叫できなかった。
喉に何か硬いものが詰まってしまったかのように、息も出来ない。声もあげられない・・・。
穴があくほど見つめていた人形のように倒れるそれの口端から、一筋の細い血液が流れ、地面を黒く染め始める。
その時初めて・・・エースは迸るような悲鳴を上げた。
「デーモン!!!!!」
「ゼノン・・・?」
心配そうに、でも小声でルークはベッドサイドでデーモンの手首を握りしめている彼に話しかける。
暫く何も答えてはくれなかったが、ゼノンは諦めたように溜息を一つ吐きだし、濡れタオルで手を拭きながら振り返る。
「・・・ゼノン?」
その後ろで既に泣き腫らした瞳を湛えていたライデンがルークに代わり、再び尋ねる。
「大丈夫だよ、他ならぬデーモン一族の長・・・だからね。ちょっとやそっとじゃ消滅しない。魂を身体の中に押し止める事は出来たけど・・・。
デーモン自身に還る意志が無いのなら・・・。」
そう言いながら一番奥の椅子に跨る姿勢で座り、先程から身動ぎ一つしないエースを見遣った。
エースも彼らの注目を集めていた事は気付いてはいた。が、それに反応する気には全くならずに・・・身体が石になってしまったかのように押し黙り、
動こうとしなかった。
ふっ・・・と何かの香りがして、ゆっくりとデーモンは目を開いた。
「ここは・・・って言うまでもないな。吾輩は死んだんだ。」
ふぅと溜息をついて立ち上がった。
ヒト一人が立った状態で腰の高さまである草は、座り込んでしまっているデーモンの姿など、難なく隠してしまう。
何処か分からない草原にデーモンは居た。
昼間のように明るいのだが、空は宇宙の深い藍色である。
「吾輩は・・・ここで座っているのが・・良いな。」
その瞬間、風景が奇妙に歪む。
水に絵の具を落として掻き混ぜたようにそれは吐き気がするほど、気分が悪くなる光景だった。
次に襲ったのは暗闇。
刃向かう事も出来ず、デーモンは目眩を感じてそのまま倒れた。
「デーモン!!!戻ってこい!!!俺達の所に戻ってこいよ!!!」
「ルーク!!!揺らすんじゃない!!!」
ゼノンが珍しく叫んだ。
「待て・・・待つしかない。自分でこいつが・・・デーモンが戻ってくるまで・・・。」
冷め切った紅茶を一息に飲んでしまい、ゼノンはソファーに座り込んだ。
視線は・・・ただ一点。
デーモンに向かっている。
彼の血で汚れたお気に入りのローブの事などどうでも良いらしい。
「デーモン・・・。」
時間の重さと雰囲気の苦しさと不安に押しつぶされ、我慢できなくなったのか大声を上げてルークは泣き始めた。
「戻れ・・・戻ってこい・・・デーモン。」
【目覚めよ。】
トーンの低い声に、デーモンはふと目覚めた。
鼻を抓まれても分からないような暗闇。
「だ・・・誰・・・?」
【デーモン・・・お前は死んではいない。】
いきなり単刀直入に事実を突きつけられて、デーモンは面食らった。
「な、何?!」
【ここはどこでもない。】
「じゃぁどこだ?!吾輩を死なせてくれ!!」
半ば哀願するようにデーモンはガックリと膝を落とした。
途端に姿は見えないが、音と衝撃が彼の頬を襲った。
【デーモン・・・見るがいい。自分が犯した事で彼らがどうなっていくか・・・その目で見るがいい・・・。】
「待て!!お前は誰だ?!どうして吾輩を知ってるんだ?!」
パシンッとラップ音が聞こえると再びデーモンは倒れた。
「誰・・・か・・・。」
頭痛がする頭を押さえつつ、立ち上がった。
その時、しゅっ・・・と音と共にエースの後ろ姿が現れた。
「エース?!」
思わず呼びかける。
エースはスローモーションのように振り返った。
「うっ・・・。」
エースの口は血塗れで、右手には血だらけの腕のようなモノを持っていた。
座っている足の前には先程までは全裸の人間だったであろうモノの首が目を見開いて、口は恐怖に叫んだ状態のまま時間を永遠に止めている。
ガムを噛んでいるような音がして、ぺっ・・・と吐き出したモノは人間の骨・・・。
「エース・・・。」
いかに冷酷無比の情報局長官とは言え、理不尽な・・・そして必要以上の殺戮も傷も付けないのがエースの美学。
今目の前に展開されているその様子は明らかにそれに反したものだった。
あまりの事に言葉が出てこないデーモン。
暫くフィルターを通している気分で彼を見つめていた。
エースは感情のない微笑みを浮かべ、それを張り付かせたまま手がヌゥッとデーモンへ伸びてきた。
「・・・ひっ!!」
思わず振り払った腕。
ヌルリとした感触の後に僅かに冷たさが残ったその部分・・・そこに転がっている物体から流れ出た赤い体液が生乾きの光でデーモンの腕を濡ら
していた。
「やめてくれぇ!!!」
「・・・エース・・・。」
聞こえるか、聞こえないか程の小さな声が、静まりかえった部屋の中で一際大きく響く。
透き通るように白く、まるでセルロイド製の人形のようなデーモンの口から漏れ出でたものだと分かるのにたっぷり5秒以上はかかった。
「デーモン・・・?!」
エースはそのとき初めて顔を上げ、デーモンの様子を真剣に観察する。
・・・が、やはり瞼はきつく閉じたままであり、先程の声がまるで幻だったかのようにその表情はぴくりとも変わらなかった。
ただ一心に、後ろを振り返らずに走り続けてどのくらいたっただろうか。
・・・ぼぉ・・・と誰かが蹲った姿が現れた。
「誰・・・だ・・・?」
思わず走るのを止めて歩き出した彼の視界に飛び込んだそれが、次第にライデンである事が分かってきた。
「ライデン?!」
安心して駆け寄り、その姿を見た瞬間・・・もう少しで悲鳴を上げそうになった自分に理性が辛うじて歯止めをかけた。
もうその姿は彼のそれではなかった。
腕は痩せ細り、皮膚が暗い灰色で細かな皺に覆われていた。
それなのに何故か黄色く濁った瞳だけが妙に光り、獲物を狙う怪物のようだ。
服はあちこち破れ見えている皮膚は、まるで幼虫がキャベツの葉でも食いちぎったかのような跡が点在していた。
「デー・・・モン・・・。」
蚊の泣くような声でライデンはデーモンの腕を掴んだ。
「や・・・やめろ・・・やめてくれ!!!」
振り切ろうとするが、怖ろしいほどの力に阻まれ、その腕の自由は一切無くなっている。
刃物のように鋭く尖ったライデンの爪が腕に食い込んだ。
「つぅ・・・やめ・・・て・・・。」
力を振り絞って腕を引き抜こうとする・・・とそれは案外簡単に外れた。
・・・が、同時に自分の皮膚が無理矢理引き裂かれる痛みと、悲鳴のようなリアリティー溢れる音がデーモンの五感を襲った。
「うわぁあああああ!!!」
右手を押さえて走り出そうとするデーモンの背中にたった今経験した痛みが今度は背中を襲った。
見たくもない・・・が、確信できる。
自分の腕を引き裂いたのと同じものが今度は背中を握り裂いたことを・・・。
「・・・が・・・・・はっ!!!」
「・・・ラ・・イデ・・・ン。」
今度こそ絶対に幻ではない。
全員が注目する中でとてもそれは微かだったが・・・それでもハッキリと唇を動かし、名前を呼んだのだ。
「ライデンの名だ・・・。」
呆然としたまま聞こえたとおりのことを呟くルーク。
当のライデンは驚きのあまり硬直していた。
「誰か・・・・・・助け・・・て・・・。」
ヨロヨロ蹌踉けながら逃げていた。
何かを掴もうと手を伸ばすが・・・空気を掠るだけで何も無い。
暗褐色に彩られた視界の悪い世界の中、何度も・・・何度も・・・デーモンは手を伸ばし、誰かを求めた。
そして・・・どのくらい歩いたであろう?半分機械的に伸ばしていた手の先に・・・確かな感触があった。
「助け・・・て・・・くれ。」
痛む右腕で懸命に引き寄せる・・・とそれはゆっくりと振り向いた。
見覚えのある銀の二角、グレイに近い同じ銀色の髪が一房、デーモンの頬を打った。
「ゼノン?!」
「・・・こ・・・ろ・・・せ・・・。」
日頃温厚以外何者でもないゼノンの口から出るとは思えない言葉が零れてくる。
「侵入者・・・殺す・・・。」
黒く変色した血液がこびり付いているナイフを手にゼノンは近付いてきた。
「ゼノン・・・。」
「殺・・・す。」
しゅっ・・・と風を切る音がしてゼノンのナイフが鈍色に光った。
「ゼ・・・ノン・・。」
避ける暇も与えられず、左肩にぐっさりとナイフは突き刺さった。
ゼノンはそのままナイフの柄から手を離し、すぐに消えてしまった。
忘れていたかのような熱い痛みが、デーモンの体を狂わせるような激しさを伴った。
「ぐっ・・・ぁああああ!!」
刃の部分が見えなくなる程に深々と突き刺さっているそれを、デーモンは渾身の力を込めて抜き取る。
そしてそのまま、彼の膝は頽れ、蹲ってしまった。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・。」
熱を帯びた息を規則的に、そして早く繰り返す自分の音に戸惑いながらも、もう何がなんだかワケが分からなくなってきた。
何故この様な目に遭うのか。
何故自分がここに放り出されたのか。
何故ここで・・・。
虚ろな思考が同じ事を堂々巡りさせていたその時、誰かがデーモンに抱きついた。
「つぅっ!!だ・・・れ・・・。」
目の前で信じられないくらい残虐に裏切られ、傷付けられたデーモンの身体が悲鳴を上げ、硬直する。
霞んだ目で振り向くとそこにはルークが立ち竦んでいた。
「ルー・・・クっ!!!」
ルークはほぼ全裸のまま薄い長めの上着を被っていた。
無言のままデーモンを押し倒すと傷口に触れた。
「あつっ!!ルーク・・・やめて・・・!!!」
その瞬間、膜が張ったような目が突然光り、両手がデーモンの首を絞めた。
「あっ!!・・・うぐっ・・・息が出来なっ・・・!!!」
その声に反応してか、一段ときつく首を絞め上げる彼の目には、多分デーモンの姿など映っていない。
意識を手放し楽になろう・・・そう考えて、諦めた次の瞬間・・・突然消えて誰かの叫び声が聞こえてきた。
『待て!!!早まるな!!!』
確かにエースの声である。
『デーモン!!!』
ボンヤリした視界でいてもまだ信じられなかった。
そのシーンはまさしく、ついさっき、自分が演じた一連のものだったのだから。
「ゼ・・・ノ・・・ン・・・ルー・・・ク・・・・・。」
「デーモン?!」
弾けるようにルークが駆け寄ってきた。
ゼノンも驚いてベッドに横たわったままの彼を凝視する・・・と。
「な・・・なに?」
デーモンの目から涙が一筋・・・流れ落ちた。
【デーモン・・・分かったか?】
不意に最初の声の主が姿を見せたようだ。
朦朧とした意識でデーモンは気丈にも顔を上げ、影を睨み付けた。
「違う・・・これは未来じゃない・・・・・・これは・・・お前が見せた幻影だ!!!吾輩を・・・吾輩を貶める為に!!!」
【・・・。】
「そうだろう?!この映像は・・・!!!・・・っ!!!」
苦痛の波が襲い、思わず顔を歪める。
【違う・・・お前の夢だ・・・デーモン・・・いや、お前の姿だ・・・そうだろう?ではもう一度、彼らの姿を見るがいい。】
目の前に4つの影が現れた。
ビクリと全身を震わせ、恐る恐るそれを見上げ・・・声を上げそうになる。
「・・・!」
自分を裏切った仲魔達の顔ではなかった。
姿こそ先程のままだがその顔は明らかに・・・。
「・・・吾輩?」
脳に到達する前に口から出てきた台詞・・・ハッとしてデーモンは頭を振るった。
「嘘だ!!!吾輩はこんな姿ではない!!!吾輩はこんな・・・こんな姿にはならない!!!なりたくない!!!!」
叫んでみても・・・彼等はただ、小さくなって震え、否定を続けるデーモンを見つめたままだった。
パチンと指を鳴らすような音がして4つの影は霧中に消えた。
【デーモン・・・何を恐れている?何から逃げている?・・・お前は逃げることなど出来ない筈・・・違うか?デーモン・・・いや、Demon Fear Unieasiness。】
突然・・・最も恐れていた名前が耳元でざらつき、異常な不快感を覚えた。
忘れていた・・・隠していたのに・・・自分の名を言われ、デーモンは脅えた瞳を隠すことが出来ずにいた。
「・・・どうして吾輩の・・・名を・・・。」
【お前は凶星の元に生まれし者、Fearとは恐怖、Unieasinessとは不安。この二つの意味を同時に持つ名を発生したときから与えられていた。】
仲魔に出会い、もう二度とは思い出さなくてもいいと思っていた名前。
もう誰も知る者は無いと信じていたのに・・・いとも簡単にその事実は覆された。
【ここまで凶星に満ちた者は発生して数ヶ月もせぬ内に惨死するのが通常。もしくは発生を確認次第、闇の中に葬り去られる。】
「じゃぁ何故吾輩は!!!」
【もう一つお前には与えられたものがある。デーモン一族の長として、その力の強大さを認められ、副大魔王として・・・Excellency。これがお前を
生かしてきたのだ。】
「・・・Excellency・・・が?」
意外な言葉に思わず聞き返す。
【Excellency・・・これを与えし者は言わなかったか?力を抑えるな、ありのままを受け入れ許す者達が居ろう・・・と。】
遙かな昔・・・副大魔王として任命を受けたあの広間での出来事。
デーモンは今でも鮮明に覚えていた。
羊皮紙に書かれた誓いの言葉を読み上げると、大魔王直々に冠と剣が与えられ、言葉を頂く。
その時・・・まだ『少年』の面影が抜け切れてない近代希の若き副大魔王。
それまで地獄の政権を担ってきた老臣達の妨害等を受けなかったわけはない。
が・・・最終的には半ば強引に大魔王が決定してしまった、それを覆せる者など無く。
湖水の瞳でデーモンは生まれて初めて大魔王を拝顔した。
闇をそのまま織り込んだローブで身体を纏い、表情は黒に飲まれて見えなかったが・・・。
誓いの書を渡す時、ポタリと一滴・・・彼の手の甲に落ちてきたのだ。
乾いた砂漠の大地を思い起こさせれる様な黒の化身の中からたった一滴。
絞り出すような一粒の雨が・・・。
驚いてデーモンはローブの中を覗き込んだが・・・何も見えず。
『若き副大魔王よ、力を抑えるな。お前のありのままを受け入れ許す者達が居るはず。若き一族の長よ、恐れるな・・・。』
見た目の印象とは正反対に、まるで水のように低く心地のよい声が、デーモンの頭に直接響き、それは忘れることが出来なかった。
【お前には呪われた運命(さだめ)に立ち向かう使命がある。間もなく勃発するであろう最後の天魔大戦(ハルマゲドン)の表舞台に必ずや引きず
り込まれる。】
「使命・・・。」
【お前の使命はたった一つだ。お前を導き、従う者達と共に歩むこと。天魔大戦(ハルマゲドン)を終結させること。】
あまりにも事が大きすぎて、デーモンは唖然とした表情を隠せない。
既に痛みは忘れ、流れていく血など気にもしていない。
「吾輩の使命なのか・・・?それは・・・。」
いつの間にか跪き、全てを探ろうと影を一心に見つめ続けた。
【そうだ。運命(さだめ)は変える事はならぬ。生きとし生けるもの全ての生命が背負うべきモノ、ただ・・・お前のそれはあまりにも過酷で悲しい、
そして・・・残酷なものだ。】
初めて影は本体の手を掲げ、光の玉を差し出した。
薄ぼんやりと銀色に輝くその中には、見慣れた仲魔達・・・そしてその輪の中で笑う自分がいる。
【人間も・・・悪魔も・・・輪廻転生がある。しかしお前は、使命を果たさぬ限り死なぬ。いや、死ぬ事が許されていない。死して逃げることはならぬ・・・】
一瞬・・・影が小さくなり、声の主が静かにその正体を現した。
「だ・・・大魔王・・・陛下・・・サタン様・・・。」
誓いの儀式を受けた時以来、姿を見せずにいたその方が再び彼の前に立っている。
【お前の運命(さだめ)はお前自身と、今から進んでいく時間が証明してくれる。進むしかないのだ。そして・・・許してくれ・・・デーモン。】
声のトーンが下がり、一旦、黒き最高権力者は口を閉ざした。
「・・・?・・・どういうことですか?」
しかし、その問いには答えず、大魔王はデーモンの目の前を指さした。
【彼等はお前を見捨てたりはしない。お前がどんな姿になろうと、どんな・・・醜い破壊の獣(モンスター)に変化しようと・・・。】
ギクリとしてデーモンの身体が震えた。
デーモン一族の血がある程度まで濃いものとなった時・・・それは突然起こる。
何度も何度も・・・魔界を破壊し尽くした突然変異の化け物。
力の衝動を抑えられずに不安定になった一族の者の成れの果て・・・。
血族間の遺伝子配合により強い悪魔が生まれるから。
そうなることを分かっているはずなのに・・・歴代の長は過ちを繰り返した。
そして・・・デーモンの身体にもその血は組み込まれ、歴代の者達の中で最強と言われている・・・つまり・・・。
「・・・吾輩は・・・。」
何を言って良いのか分からなくなった彼の口からは次の言葉が出てこない。
無理矢理何か言おうとしてもそれは溜息となって風に乗るだけだった。
【銀色の悲しき魂を持つ運命(さだめ)多き悪魔よ。お前はただ信じればよい。お前の力も、お前の能力も、お前が使いたいと思う時だけ発生する。
お前が力を使う時・・・彼等を守る時・・・運命(さだめ)の扉を開く時・・・。】
その時ふわりと意識が遠くなった。
【・・・忘れるな、お前には使命がある事・・・そして許せ・・・我が魂を受け継ぐ者よ・・・我はお前を見守ることしかできぬ無力さを・・・。】
大魔王の声が遠くなり・・・何もかも見えない世界へと引きずり込まれた。
そして・・・。
「デ・・・デーモン!!!」
ルークの声が耳元でする。
それは次第に煩くなってきた。
「デーモン!!デーモン!!!」
半泣き状態でルークが叫んでいた。
「・・・るせぇ・・・たまには静かにできないのか・・・?」
デーモンは半分目を開けて言った。
「デーモン!!!!」
ライデンとルークが目を盛大に腫れさせてそれを隠そうともせずベッドの横に走り寄った。
「気が付いたね。」
ゼノンも滅多に見せない砕けた笑顔で2名の横からデーモンを覗き込んでくる。
重く感じる頭を何とか横に向けると・・・一番離れたところにエースがいつもの仏頂面で睨んでいた。
「エース・・・。」
あの時、止めにきてくれたエース。
それを振り切って・・・自分は逃げ道を選んだ。
何と言われようと、何をされようと・・・今回ばかりは文句も言えない。
空を切ってエースの右手があがった。
覚悟は決めたとはいえ、思わず目を固く閉じ衝撃を待つ・・・・・1秒・・・2秒・・・3秒・・・・・・・いつまで経っても思っていた痛みはこない。
怖々目を開けると・・・・・思いも掛けない顔が待っていた。
「エ・・・−ス?」
極上の紅色を彩った瞳から一筋・・・涙が流れ、一直線にデーモンの頬に落ちてきた。
「どれだけ・・・心配したと・・・思ってやがるんだ?この馬鹿・・・。」
恥ずかしいのか、それだけ言うと振り上げたまま為す術の無くなった手をゆっくり下ろし、顔を背けた。
「ただいま・・・。」
一番に言いたかったのは謝罪でも何でもない、この一言。
デーモンの心の奥底から紡ぎ出されたその言葉は4名の中で驚くほど自然に浸透していった。
花が開くように微笑みかけてくれた仲魔達を確認し、デーモンは窓の外を見た・・・その時。
冷たい春の風が吹いた・・・。
【銀色のExcellency・・・。】
F I N
DC4年 11月10日 Demonmas
高倉 雅的恥も外聞も捨てきったわけじゃないあとがき(意味不明)
デーモン小暮閣下、御発生日おめでとうございます。
敢えておいくつになられたのかは・・・書きません。多分10万とちょっとでしょう。(笑)
何でも10万過ぎたら【ちょっと】になってしまうんですからね。(苦笑)
そんなわけで・・・。
タイトルを見て「おや?」と思われた方もいらっしゃるでしょう。
そうです、この小説は改訂版なんです。
以前書いていたものに手を加えたもの。
問題はこの小説の最初のパターンを私がいつ書いたのか?ということでしょうけど・・・。
ええ、小学校高学年か、中学生になったばっかりのころでした。(確か)
自分で言うのもなんですけど・・・ショボイです。(爆死)
もうショボ過ぎて涙も出ません。
ワープロ(まだ我が家にはワープロがございます)のFDに入ってたモノを発掘(?)し、恥ずかしさのあまり氷水に頭突っ込んで冷やしながら
感熱紙が既に存在しなかったためにプリントアウト出来ず、ワープロの画面を傍らにパソコンで写し取ったんです。
せっかく発掘したので、Demonmas記念に・・・と思ったところでハタと気付きました。
このままでは駄目だということに・・・。
慌てたワタクシ、全てを書き直すこととなったんです。
大筋の部分は変わってはおりませんが、設定や台詞等はかなり変えてお送りいたしました。
因みに・・・。
ただナツカシモノを発掘したから勿体無くて掲載したわけではございません。
現在『腎臓の魔』で私が書いている小説は殆どが繋がっております。一つの大きな話です。
その一番最初の最初、大元となった小説が実はコレだったんです。
全てはここから始まっております。何としつこい性格でしょうか?高倉
雅・・・。(自爆)
言い訳めいた事を長々書きましたが、取り敢えずそういうことです。