No.100.1:インチアップ
100回記念になにか凄いネタでもというどころか逆にどうでも良いネタに。むしろ3ヶ月ぐらい前から書きかけで捨ててあったネタだったりします。失礼。
インチアップというものを知っているだろうか。いつの頃からか突然耳にするようになった、自動車の、タイヤの、アレです。私が走り屋である事を知っている周囲の人間からたまにインチアップというものについて聞かれます。というわけで今回はインチアップの話で。
人にインチアップについて聞く以上、彼らはインチアップが何なのかよく知りません。車がカッコ良くなるというイメージだけしかないようです。具体的にはインチアップというのはタイヤの内径を大きくすることです。
そのまんま。
タイヤの外径を大きくすることは道路交通法違反なので公道を走る車には不可能です。だからタイヤの外径を(ほとんど)変えずに内径だけ大きくするのです。そうすると必然的にホイールの外形が大きくなり、結果として偏平率(タイヤの幅に対する高さの比率。コレが低いほどペタンコになる)が下がってカッコ良くなるのです。もちろんカッコ良さというものは個人の感性の問題なのですが、世間一般に低偏平タイヤはカッコ良いとされているので「インチアップはカッコ良くなる」となるわけです。
「インチアップの事はよく知らないけど、最近よく聞くしカッコ良くなるらしいからちょっと気になるかも」なんて思っている若造がなんとなくオートバックスや近所のタイヤ屋でインチアップの事を聞いたりしてしまうと、店員から「愛車の見栄えの向上以外にも車の運動性能が向上するんだよ兄チャン」なんて事まで聞かされてしまい、思わず大金をはたいてインチアップをしてしまう。そう、インチアップは金がかかるのです。
タイヤなんて1インチサイズが大きくなれば1セット4本分の値段にするとかなり高くなるし、ホイールとて同様。タイヤメーカーは別にみんなの車をカッコよくしたいからインチアップを勧めてるわけではないのです。金になるからです。日本人は欧米に比べてタイヤを買い換えようとしない国民ですから(大多数のドライバーがツルツルになったタイヤでもそのまま走って、車検や冬のスタッドレスが履き終わったときに店員から言われてシブシブ交換している)何か理由をつけてもっと日本人にタイヤを買わせようとしているわけです。しかも通常よりサイズの大きい=値段が高い=儲けが多いタイヤを。もちろんホイールも買い換える必要があるし、愛車をカッコよくしたくてインチアップするんだから下手なホイールは買えない。そしてカッコ良いホイールは得てして値段が高い。小売店はタイヤもホイールも売れてウハウハだし、タイヤメーカーはホイールも手がけているので、一緒に自社のホイールまで買ってくれたらウハウハなわけです。
でもまぁ金もかかるし多少罠にはまったような感じはするけど、車はカッコよくなるし運動性能も良くなるなら良いじゃんと若僧は思うでしょう。若僧は自分が愛車を改造しようとしている事に気が付いていないのです。
車をイジれば何かは良くなりそして悪くなる。車内にティッシュの箱を置けば便利になるけど重量増加で車の運動性能は確実に悪くなるのです(ただし誰にも体感できないほどの違いだけど)。ましてや車の性能にとても大きく関わるタイヤとホイールを交換するのです。確かにインチアップで偏平率を下げればブレーキの効きもリニアになるしハンドリングもシャープになるし加速も良くなるのは確かです。
でもインチアップはいい事ばかりではない事も消して忘れてはいけない。タイヤがサイズアップしたというだけでまず次に購入するタイヤの値段が上がる。そして明らかに燃費も悪くなります。ハンドリングがシャープになると言うことはマイルドさが無くなるという事だし、ダイレクト感が上がるという事は騒音も上昇するのです。更にもともとある程度低い偏平率のタイヤを履いている最近の車は更に30や35なんて低偏平にする事で逆に運動性能が落ちることもあるのです。F1マシンのタイヤが高偏平なのを見れば偏平率が低ければ何でも良いとは言えないことが分かるでしょう。
そして思わぬ弊害として走行中の振動が増えたりすることもあります。もともとその車専用に作られたホイール(または目的のホイールに合わせて車を設計している)から汎用性のある社外品のホイールに交換した場合、タイヤと車軸の中心がズレてタイヤが回るたびに振動が来る事があるのです。一般のドライバーでも確実に体感できるほどにハンドルに振動が来る。ハブカラー等で軽減させる事は可能ですが、それでも高速走行では感じる事もあるらしい。また、インチアップしたタイヤは外径がほぼ同じというけれども、厳密には少し違うからスピードメーターや走行距離計が僅かながらズレる事もデメリットといえばデメリットかも。
これら多くのデメリットがあることは十分知った上でインチアップを行っていただきたい。
確かにインチアップをすることによる車の性能向上は凄いものがあるのですが、それはサーキット走行などで車の性能を限界まで引き出したときの話で、そういう用途に使われる車には燃費も快適性も必要ないのでそういう意味では良いことづくめなんでが、一般の人がこの運動性能の向上にどれほど恩恵を受けることができるのか。費用対効果を考えた場合、割りに合うかは微妙な所だと思います。どーせ車のブレーキ性能やハンドリング性能を限界まで引き出して運転した事もないくせに運動性能の向上なんて言葉に騙されないように。
インチアップは外観はカッコよくなって運動性能もなんか少し良くなったような気がするけど、燃費も乗り心地も悪くなりタイヤも高くなる。そう考えた方がいいのではないかと私は思う。
以前、「静かな大人のインチアップ」なんて詐欺まがいのコピーでRE○NOというタイヤを売っていたブリ○ストンというメーカーがありますが、あれはインチアップで静かになるのでは無く、多くの車が純正で履いているタイヤよりも静粛性に優れたタイヤを履く事によってインチアップしても騒音の増加を抑えることができるだけなのです。同じR○GNOなら小さいサイズの方が静かなのです。おそるべしブリヂ○トン。
自動車というのは各メーカーの高い技術力を誇るエンジニア(消してディーラーのメカニックの事ではない)が安全性・運動性能・経済性・快適性等を考慮したベストな調整をして販売している物です。全てのパーツには意味があり、買ったそのままの状態で使用してこそ、作り手側の意図したとおりの最良のパフォーマンスを発揮するのです。タイヤを大きくして良いことづくめならメーカーが初めからやってます。タイヤのサイズを替えるなんて大変更をするときは、その事をお忘れなきよう。
私としてはカッコよくしたいだけならサイズそのままでホイールだけ好みのデザインに変更したほうが良いと思う。その時同サイズでもより軽量なホイールを選べば確実に運動性能は上がるし、同じサイズのタイヤでもより自分のスタイルに合った銘柄を選べば十分に効果はあるのです。 |