ファンタシースターオンライン二次創作「パイオニア2奮戦記!」
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    [ PHANTASY STAR ONLINE-パイオニア2奮戦記!]
                      vol.08 02.07.07
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―――――――――――――――――――――――――――――― 「PHANTASY STAR ONLINE-パイオニア2奮戦記!-」 SECOND STAGE「PAST GHOST?」 ―――――――――――――――――――――――――――――― 「君がオロチアギトのラファナさんかい?」 「そうだが?」 「あっ、やっぱり!  良かったよ。こういうジャンク街って危ないんだよね。  もっと奥深くにいたら、どうしようかと思ったよ」 「…………………………」  本人の理知的な顔には少々不釣合いな幼い笑顔。  純粋とでも言うか、こういう連中を相手するのは苦手だった。 「で、アンタは?」 「あっ、ごめん。  そうだ!これを見たら、気付いてくれるかも」  そう言って、男は腰に下げたアギトを誇らしげに差し出す。  ラファナの目線が鋭く光る。 「AUW1991年製キコク作。  ―――つまり、贋作だ。  私が持っているものがオロチアギトだからな」 「ははは、知ってるよ。  僕は贋作を真贋だなんて言って下げてるオメデタイ連中とは違う」  その言葉でラファナは男の正体に気付いた。 「あんたが『愚者』の名前を持つライオットか。  アンドロイド開発者でありハンターでもあるっていう」 「御名答」  この男の名前は有名である。  優れた剣士でありながら贋作のアギトしか使わない剣士。  贋作から来るイメージと本人の優れた能力の差。  いつからかこの男は『愚者』の名で呼ばれるようになった。  ある意味、『オロチアギト』のラファナよりも有名な人物と言える。 「何の用かは知らないが、お前に興味がある。  何故、敢えて愚者の称号を受ける?」 「そういう質問をしてくる人には答えないことにしてる。  って、言う所なんだけど―――僕も君に興味がある。  君と一緒に仕事がしたい。それが満足行く物なら教えてもいいよ?」  それでいいなら安い物だ。 「是非もない。お前こそ、私を失望させるなよ」  彼との出会いは自分にとって間違いなく有意義なものであった。 「既に死んでたとはね―――」  家のベットで寝転びながらマリアが持ってきた報告書に目を通す。  パイオニア1の科学者として惑星ラグオル内のセントラルドームに勤務。  そして―――セントラルドームはパイオニア2がラグオルに到着した時に爆発した。 「………………………………」  死とは何だ?  昔、母が自分を置いて消えた時に思った事。  死とは、もう会えなくなるということだ。  話したくても答えてはくれないということだ。  そこでその者の時間は終わりを告げる。  間違いを訂正することも、修正する事も出来なくなるということだ。  悪戯に命を狩り続ける自分を諌め、結果それが原因で別れた二人。  今なら、言える。 「もう一度、やり直す事は出来ない?」  と。  しかし、もう遅い。  全ては既に手遅れなのだ。 「………愚者、か。  あんたを笑ったりする事は出来ない。  本当の愚か者は私だ」  瞳を閉じて黙考する。  決戦の日は近い。  ………………………。  開け放した窓から涼風が吹いては流れていく。  幾つも交差していく思考に任せて寝てしまおうと思った時。  コンコンとドアを叩く音がした。 「あっ、なんかいい曲だね」 「ん〜〜〜マティエか」 「ティアお姉ちゃんと一緒にケーキ作ったんだよ〜」  マティエが綺麗にデコレーションされたケーキをラファナに見せる。 「―――怪我人と一緒に優雅なティータイム」 「なんか言った?」  セーラムの一言にラファナが睨む。 「とにかく!みんなで楽しく食べましょう!」  その間に割って入るようにしてティアが声をあげた。 「美味しいんだから〜」  手際良くケーキを切り分けて皿に盛るマティエ。 「はい! お姉ちゃんには特大サイズだよ〜」 「………悪いわね」  ラファナが手を伸ばすより早く機械の手が皿を掴む。 「おねえちゃん」  「セーラムさんじゃなくて」 「………………………ちっ」  聞こえる様に舌打ちしながら手を離すセーラム。  彼女に代わってラファナが皿を受け取る。 「ん? ユーリアは?」 「お仕事中だよ〜。  私もね、朝の内にティアお姉ちゃんと依頼終わらせたんだ〜」 「ラファナさんがいない間、みんな頑張ってるみたいですよ」 「ありがとうね、ティア」  ケーキを切り分け一口食べる。 「むっ、そういえば『私のクレハ』は何処に!?」 「だから、お仕事だって」  マティエはパクパクとケーキを食べ進めていく。 「あの、『私の』って」 「なんか最近クレハの顔を見てないわよ!」  抗議しようとしたティアを無視してラファナは続ける。 「朝から夜遅くまで仕事して、帰ったらすぐ寝ちゃうからね」  全て食べ終わったマティエは付け合せの紅茶をコクコクと飲む。 「昨晩は―――ティアとリビングで談笑してたわね」  ボソッ、と呟いた一言が皆の視線をティアに集中させる。 「談笑って!?  ちょっとお話ししただけですよ〜」 「………1時間30分程ね」 「う”っ、ちょっと話しがはずんで」  どんどん痛くなっていくラファナの視線を感じつつ、しどろもどろに言い訳するティア。 「ゆるさーーーーーーーーーん!!」  ザスッ、とケーキを差して一気に口に放りこむ。 「………勿体無い」 「味わって食べてよーー」 「お黙り! オブザーバー共!!  クレハは誰にも渡さん!  あの子と一緒にいる時間は私が一番長くないと駄目なのよ!」  ベットの上でギャーギャー騒ぐラファナに溜息をつく。 「そろそろクレハ君も大人になるんですから。  ラファナさんもそう過保護にならなくてもいいんじゃ?」 「………老兵は死なず、ただ去りゆくのみ」 「見に行って来る!」 「はっ?」 「えっ?」  立ちあがってサッと武器を手に取ると窓から飛び降りる。 「ちょっとラファナさん!」 「お姉ちゃん! 怪我は!?」 「もう治ったよ〜〜〜ん」  お気楽極楽な返事を返しながらラファナは疾走する。  アッという間に彼女の姿は消えてしまった。 「………完全に治ったみたいね」  走るスピードから、セーラムは断定する。 「やれやれ、お姉ちゃんにも困ったもんだ」 「ほんと、あそこまで過保護だなんて。不健全です」 「………さて、お茶の続きでもしますか」  そしてそれぞれの時間は過ぎていく。 「ふっ!」  クレハはラグオル内にて仕事をこなしていた。  まだまだ一流には程遠い彼であるが、その練習量は感心するほどのものだ。 「頑張ってるじゃないの」 「姉さん」  流れる汗を拭おうともしない弟の顔にタオルをかぶせる。 「でも、ちょっとオーバーワーク気味かな。  それがあんたの悪い所。あんまし無理しちゃ駄目よ」  ゴシゴシと汗を拭うラファナの手をクレハが止める。 「まだ大丈夫だよ。  それより姉さん、身体の具合は?」 「見ての通り、もう万全♪」  明日が約束の日なのだから、治ってなければ困る。 「じゃあさ、稽古の相手になってよ」 「いいよ。いつでもおいで」  ヒュン!  答えた途端にクレハの拳がうなる!  しかし、不意打ちの拳はむなしく空を切る。 「おーおー気合入っとるのう。  しかし、いきなり姉の顔面を狙うなんて―――ちょっと卑怯だぞ」  ほんの数秒間の攻防。  その間にラファナは大きく間合をあけて対峙している。 「ユーリア姉さんやセーラム姉さんに鍛えられたからね。  自然と不意打ち、だまし打ちが得意になったんだよ」  棍を構え、ラファナに向かって疾走するクレハ。 「成程ぉ、あいつらそーいうの得意だもんね」 「いつになったら姉さんは相手してくれるのさ!」  間合を詰め、下段から薙ぐように棍を振り上げる。 「そうさなぁ」  振り上げる棍に対して拳で対抗するラファナ。  ガンッ!  拳で棍を弾き、そのまま棍を掴む。 「まーだまだ、私が出る幕でもなかろう」 「ぬぬぬぬっ」 (なんて馬鹿力だ!) 「僕は、早く、一人前になりたいんだ!」  ラファナの手を外す為に渾身の力を込める。 「ほいっ」  力を最大にかけた瞬間、それを見計らったようにラファナは手を放す。 「うおわっ!」  予想外の事態にクレハの体勢が大きく崩れる。 「まったく、クレハは可愛いんだから♪」  その隙を見逃す筈もなくラファナの足がクレハの腹部へ飛んだ。 「ぐっ!!」  鉄杭でも打ちこまれたような衝撃が脇腹を走る。  クレハはたまらず地面を転がった。 (マズイ!折れたか!?)  視界がくるくると変わる中でも冷静さは失わない。  あの衝撃の中でも棍を手放さなかったのは成長した証だ。  以前なら、ここで終わっていただろう。 「このっ!」 「おーー偉い偉い」  痛みを気合で制し、立ち上がるクレハにラファナの歓声が飛ぶ。  これでは、まるっきり子供扱いだ。 「さてと………んじゃ、相手してあげますかね」 「…………………………」  周りの世界が変わる。  自分にはそう感じられた。 「あっ、そうだ。  勢い余って殺したら―――ごめんね」  薄く笑う姉の顔を見て、心臓を鷲掴みにされたような恐怖が走る。  額を流れる汗は油汗から冷や汗に変わろうとしていた。 「………くっそ」  幾通りものパターンを考え、そのどれもを却下していく。  恐ろしい。  逃げ出したい。  今の姉はいつもの姉じゃない。  何の考えもなしに突っ込めば自分の首が飛ぶことになりかねない。  だが、しかし! (恐れるな!踏み出さないと前には進めない!) 「行くぞ!!」  考えがまとまらないままに突っ込む。  このままでは彼女の気配に飲まれて何も出来なくなってしまう。 「そうそう、若い内は止まらない」 「てりゃあああああああああ!!」  ラファナの間合の一歩外。  棍を使う自分の間合から槍のように突く。  時間が間延びしたような奇妙な空間。  姉の目線が棍に集中するのが見えた。 (弾かれる!)  棍をしっかりと握り、来るべき衝撃に備える。  その瞬間に凄まじい衝撃が走った。 「―――やるっ」  ラファナがぽつりと呟く。  その間に間合へ一歩踏み込む。 「その足! 貰った!!」  拳の衝撃に逆らわず、そのまま回転させて足を狙う。 (さあ! どう出る?)  飛んで避けるか?  それとも足で弾くか? 「こらっ!」 「えっ?」  ドゴオッ!! 「っ!!」  ナックルが見事にクレハの鳩尾に突き刺さる。 「足を狙うなら、もっと体勢を低くしなくてどうする。  それじゃ、カウンターの絶好の的じゃないの」 「ぐっ……………っ〜〜〜」  返事も出来ない。  クレハは地面にうずくまって血の混じった胃液を吐き出す羽目になった。 「それに足を殺しても人は死なないわよ。  あんた、やられてもいいから一矢報いるつもりだったでしょ?  最初から逃げ腰になってどーするのよ!」  これが実戦ならラファナは足をやられることを覚悟して首を跳ねただろう。 「私の方が攻撃スピード速いんだし。  カウンター食らう確率高いでしょ?」  返事をしようとするが声が出ない。 「まだまだ、だね」  蹲っている弟の頭に手を置いてヨシヨシと撫でる。  本当は払いたかったが、腕にそんな力は篭められそうになかった。  ……………………………………。 「おーい、生きてるかぁ?」  姉の声が何処か遠い所から聞こえるような気がする。 「何とか………まだ死んでないよ」  ラグオル地上が夕焼けに染まる。  パイオニア2では決して見れない綺麗な光景だ。  稽古のせいでボロボロになった身体を横たえて、クレハはそんな事を思った。 「で、ストレス発散になったかな?」  寝転がる自分の顔を姉が覗きこんで来る。 「敵わないな、姉さん達には」 「どーした? 私がいない間に何かあった?」 「………セーラム姉さんに少しね。  僕はまだ半人前なんだなって思ってさ」  自分が未熟だということは分かってる。  そして、自分はまだ伸びるという事も。  いつかは、きっと認めてくれるだろう。 「でも、僕は早く一人前になりたいんだ」  覗きこむ姉から逃れるように転がる。 「ふ〜〜〜ん」  ラファナもごろんと寝転がる。 「男の意地とか、そういうのかもしれないけど。  いつの頃からかそう思うようになったんだ」 「それがクレハの目的か。  いいもんだねぇ、目的がちゃんとあるっていうのは」  そこでクレハは半身だけ起こしてラファナの方を向く。 「姉さんは何でハンターになろうと思ったのさ?」  ………………………。 「血」 「ち?」 「血が見たかったから」  ラファナはクレハに背中を向ける。 「私の母親、ハンターの仕事の途中で死んだんだ。  今でも覚えてる。  化け物の住む星で殲滅なんだか掃討なんだか。  まあ、そんな依頼受けてたんだろうね―――それがあの人の最後だった」 「………………………殺されたの?」  ラファナは首を振る。 「仕事の途中。最後の一匹を目の前にして、唐突に死んだ。  まるでスイッチを切ったみたいにフッって。  ほら、ハニュエールって色々と問題があるでしょ?」  その後は酷いものだった。  物言わぬ屍になったのだとラファナが理解する前に――― 「死体は残らなかった。  目の前の化け物が食べたから」 「なっ!!」 「訳も分からないで私は武器を取った。  それが私の最初の戦い。  母から手ほどきは受けてたけどね。  終わった後には返り血でベタベタになっちゃった」  うわ言のようにラファナは話しつづける。 「今まで分からなかった。  私は何故、こんなに血を求めるんだろうって。  どうして、求めるのに見るとイライラするんだろうって。  つい、最近気付いたんだ。  私は、母の死を受け入れられなかったんだって」  返り血の中に混じる朱が母の血。  手に持ったオロチアギト。  自分は化け物の死体を呆然と見下ろしていた。 「私は、返して欲しかっただけ。  母さんの身体を。  それだけの為に、私は色々なものを奪って生きてきた」  血だけが母を思い起こしてくれていた。 「姉さん」 「それがラファナ・ルイがハンターになった目的」  サッと起きあがり、ラファナは大きく背伸びをする。 「目的が何なのか、それすら分からず彷徨ってたけど。  やっと分かった―――これでラファナ・ルイは死ねる」  何の意味もなく人を殺していたのではなかった。  ちゃんと意味はあったのだ。  それが分かっただけで、自分は充分に満足だ。 「何言ってるんだよ!  目的なんて次を見つければいいじゃないか!  何時までも同じ所に立ち止まってないでさ!」  振りかえったラファナの瞳が驚きに見開く。 「だってさ! そうだろ?  僕は姉さん達に一人前だって認めてもらいたい!  でも、そこが僕の終点じゃないよ?  いつか、必ず―――この星界一のハンターになってみせる!  それが叶ったら、僕はまた別の目標を見つけて走りつづける」  夕焼けが刻々と沈んでいく中、クレハは姉に語る。 「姉さんにもそうあって欲しいんだ。  過去は変わらない。  でも、明日は姉さんの思うがままに変えられる。  だから、一歩でも多く、前に進もう?」 「………クレハ」  弟は知らない。  自分のもう一つの顔を。  血に取り憑かれた淫魔の顔を。  そして、彼は知らないまま血煙の淫魔は眠りにつく。  もう二度と、彼女が現れる事はない。 「何さ? 何でそんな顔するんだよ?」 「貴方が看取って、今日がラファナ・ルイの命日。  明日から、私はラファナとして生きていくから」 「えっ? どういう意味?」  訳が分からず首を傾げる。 「いつか話してあげるわよ。  ―――もう一人の私の話しをね」  自分はもう血煙の淫魔ではない。  自分の傍にいてくれる人がいる。  そして、それが自分を必要とするのなら―――死ぬわけにはいかない。 「あっ! それってセーラム姉さん達が話してた事と何か関係が?」 「さてね、すっかし日も暮れたし帰るよ〜」  弟の後ろに廻り込んで背中を押す。 「ちょっと姉さん!」 「ほれ、キリキリ歩く!」  そういう彼女の顔は何処か幸せそうだった。  そして、六日目の夜は終わる。  欠けた物を拾い集め、完成されたラファナ。  明日、彼女は過去の亡霊に再戦を挑む。  To be continued..... ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆