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                         〜 聖 鐘 学 園 四 重 奏 〜             
                          [ B L A C K  O R  W H I T E ? ]
                                     vol.04 03.08.19
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  〜前回のあらすじ〜
   死んだ人間と会話出来る『霊話』の能力者、月見里水月。
   彼女と共に学園を退学となった者が復学したことを知る。
   その者は死神のカードを持つ女生徒。
   水月は再び学園に戻って、彼女を退学させるために動き出す。

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   聖 鐘 学 園 四 重 奏 〜 B L A C K  O R  W H I T E ? 〜
   第四楽章「期間帰還」
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  「久しぶりだわ」
   視線の先には夕闇にそびえたつ校舎。
   私が二ヶ月前まで通っていた聖鐘学園だ。
   辺りに人の気配はない。何故なら学園が建っている場所は人気のない山の上だからだ。
   最近になって開発が始まり、ようやくスーパーやら本屋やらが出来た辺鄙な場所である。
   しかし、それも当然のこと。
   幼稚園から大学まである学園の敷地を確保するには人里離れた場所である必要があった。
   予算対策の為に取った案は、結果的に幸を為した。
   この学園は外界から隔離され、純粋無垢なお嬢様の育成に一役買ったわけだ。
   ここの学生でもなければ、こんな辺鄙な場所に来ることはないだろう。
   私自身、二度と来ることはないと思っていた。
  「なのに、また来れるなんて不思議」
   校門を潜り、桜の並木道を通っていく。
   私が夏休みを過ごすことになる学生寮は校内から行き帰り出来る場所にある。
   なまじ近いだけに寮生の遅刻は厳しく罰せられる。
   この学園は一節の罪を許さず、全てを罰するという厳しい校則がある。
   罪と罰。
   それは聖鐘学園における命題とも言えた。
   聖鐘学園には大きく分けて二つの歴史がある。
   聖音学園と聖鐘学園の時代だ。
   聖音学園とは初代理事長が運営していた時代のことを言う。
   その時の学園は荒れ放題の酷いものだったらしい。
   しかし、この流れはそう続かなかった。
   一人の少女が理事長を失脚させ、問題のある生徒・教師を排除させた。
   全てを世間に曝し、自分の父親である理事長を自殺においやってだ。
   その後、少女は現在の元になった校則・制度などを考案。
   それを守らせることを条件に、友人である四方に理事長の座を明け渡して学園を去った。
   そして、四方の家系が学園を『聖鐘学園』に改名。
   現在の平和な学園の時代に至るわけである。
  「と言っても、実際はねえ」
   傍から見ると厳しい校則や学園の体制。
   それはぬるま湯に慣れた人間には辛い。
   耐えられずに学園を去る者もチラホラと存在する。
   この学園は世間的にも精神的にも一流の女性を育てる学園なのだそうだ。
  (まぁ、純度を保ったまま出荷するという観点から見ると、環境面では最高か)
   外界から隔離し、世俗の汚れを落とす。
   これが父親を死においやってまで学園を変えた少女の狙いだったのか。
   何にせよ、相当な潔癖症であったのは確かだ。
  「……とか言ってる間に到着か」
   校門から桜並木を通り、煉瓦が敷かれた道を渡る。
   固い煉瓦の感触に酔いしれて考えこんでる間に、寮の前まで来ていたようだ。
  「ああっ、懐かしの我が家! ってところか」
  「……治ってないのね。独り言を呟く癖」
  「うわあっ!?」
   いきなり横から声をかけられて、猫のように全身が震える。
  「水月、遅いわよ」
   聖鐘学園の制服に身を包んだ四方先輩が桜並木を背もたれにして立っていた。
  「まだ門限五分前です」
  「分かってるじゃないの。それじゃ、入るわよ」
   背もたれにしてた木から離れると玄関に向かって歩き出した。
  「あの……わざわざ待っててくれたんですか?」
  「当たり前でしょ? 荷物持ちもいるだろうからと思ったんだけど……」
   先輩は肩越しに振りかえって私を観察する。
  「貴方、荷物は?」
  「必要なものは全部鞄に入ってます」
  「……女の子なのに少ないわね」
   先輩は呆れたように呟いた。
   私の荷物は旅行用の大きな鞄が一つ。
   この中に着替えや日用品などは積めこんである。
  「入り用になったら、取りに戻りますよ」
  「貴方は自分のことに関してはズボラなのね」
  「大量に荷物を持ってきても、どうせ直ぐに出る運命です」
  「………………」
   咄嗟に言った一言で先輩はしばらく沈黙した。
   言葉にしてはいけなかっただろうか。
   今、先輩は何を思ってるのだろう。
   そんな疑問が頭を掠める。
  「………………そうね」
   深く溜息を吐いてから先輩は同意した。
  「水月、お仕事の方は大丈夫なの?」
  「はい。ちゃんと夏休みを貰ってますので」
   辞めさせられるかと思ったが、霧慧さんは休みということで了承してくれた。
   バイト仲間で友人でもある高梨恭子がフルで活動してくれるそうだ。
   人の縁は良くも悪くも素晴らしいと思う。
   二人には感謝している。これが終わったら存分にお礼しよう。
  「いい仲間を持ったわね」
  「類は友を呼ぶ。それだけです」
  「ふふふっ……まっ、そういうことにしておきましょう」
  「はい」
   そして、私は二度と戻ることはないと信じてた玄関に立った。
   私が去って、まだ二ヶ月。
   当たり前だが、何も変わっていない。
  「水月。おかえりなさい」
   感慨にふける私に先輩は優しい声で言ってくれた。
   返す言葉は決まってる。
   少し恥ずかしいものがあるが、私も返事をしないといけない。
  「……ただいまです」
   私は、帰って来た。

   ………………。

  「夏季休暇中に残ってる生徒は、そう多くないわね。
   実家で過ごす人が六割強。三割は夏季補講中の受験組み。
   一割は何でか残ってる人……まぁ、ここもそれなりに静かだわね」
   お嬢様学園とはいえ女性の園。
   普段なら活気のある女子寮もひっそりと静まりかえっている。
  「皮肉なもので死神は寮に残ってる。
   実家に逃げ帰られたら手の打ちようもないけどね」
  「アレは私から逃げたりしませんよ」
   確かに実家に帰って夏休みが過ぎるまで待てば、私に手の打ちようがない。
   だが、そんな曖昧な決着のつけ方はお互い望んでいない。
   それは断言できる。
  「……よく分かってるのね」
  「ええっ。アレとは因縁がありまして……」
   出会えば殺しあうような関係は充分に因縁だろう。
   私と彼女はそういう関係だった。
   二度と会いたくなかった関係。
   しかし、皮肉なもので出会ってしまったからのだから仕方ない。
   程なくして、私の部屋についた。
  「部屋は前と同じね。真に遺憾ながら同居人も同じよ」
  「そうですか? 私は好きですよ」
   苦い顔を浮かべてる先輩に告げると、さらに苦悩を深くした。
  「あんまり毒されないでね? 貴方は私のお気に入りなんですから」
  「はいはい」
   先輩が部屋の中の人物を苦手にする気持ちも分からないでもない。
   私のルームメイトは色々な意味で有名な人物だからだ。
  「七瀬。入るわよ?」
   宣言してからドアノブを回す。
   部屋を開けた瞬間、私と先輩は絶句した。
   部屋には二人分の机とベットが用意されてるが、見事に私の場所は占領されていた。
   二台のパソコンに一台のノートパソコン、それに一台のプリンター。
   これが自分と私の机を引っ付けて置かれていた。
   私のベットには大量の本とアルバムが平積みされてある。
  「ふっ。私にかかれば、この程度の合成など容易いことよ」
   部屋の主はカチッ、カチッとマウスをクリックしてモニターを眺めている。
   作業に集中してるのか、こちらにはまったく気付いてないようだ。
  「………………」
  「………………」
   先輩も私も足音を殺して、モニターを覗いて見る。
  「!?」
   先輩は凍りつき、私は呆れかえる。
   モニターの中にはウェディングドレスに身を包んだ四方先輩が映っている。
   いわゆる合成写真というやつだ。
  「七瀬!! なんなの、これはっ!?」
  「は、はひっ!」
   真後ろからかけられた怒声に女性が飛びあがる。
   七瀬空咲花(ななせ・はなび)
   私のルームメイトであり、学園でも『御三家』の異名を持つ伝統ある家系。
   初代学園長の不正を暴いたのは三人の少女と一人の少年だそうだが、その一人が七瀬の祖母にあたる。
   元々、英国で有名なジャーナリストを家系に持つのだそうで、どんな時でもカメラは離さない。
   学園の不正・悪事を暴く正義の味方。
   しかし、平和な時は乙女達に話題の種を提供する騒動屋。
   それが七瀬の家系というやつだ。
  「これは合成写真じゃない! 七瀬の家系ともあろうものがでっち上げを使うの!?」
  「ええっと、これは夏の大予想というか……うおっ! 月見里さん!?」
   私が帰ってくるのを知らなかったのだろうか?
   ルームメイトは驚きに目を丸くしてる。
  「今日帰ってくるから部屋を掃除しろと言ったでしょ!?」
  「面目ない。すっかしきっぱし忘れてました。あはははははっーー」
   七瀬は困ったなあという感じで左手を頭に、右手を胸元のスカーフにあてる。
  (……相変わらず隙がない)
   笑い声で聞き取りづらいが、確かにシャッター音が聞こえた。
   スカーフに隠しカメラを用意してあるのだろう。
   まぁ、そういう人物なのである。
  「あ、あなたねえっ!!」
  「お静かに。聖鐘学園全生徒の憧れにして女神様。
   通称、聖なる鐘の守護天使ともあろう方が大声で怒鳴るもんじゃございません」
   四方先輩の顔にカメラが向けられると、先輩は間合いを離す。
  「そうそう。いつでも優雅さを忘れちゃいけませんよー」
  「あのねっ……って」
   尚も言い募ろうとした所に、カメラのフラッシュが光る。
   結果、怒った顔をどうにか平静に戻そうとしてる微妙な顔を撮られた。
  「うんうん。中々見られない表情だった。
   後でパネルにして持ってきましょうか? 先輩」
  「いりません! それより、このウェディングドレスは何なの!?」
  「これは学園新聞の予想写真っすよ〜。
   ほらっ、毎年家庭科の授業でウェディングドレス製作するじゃないですか」
   たしかに家庭科でそういう授業がある。
   三人一組でチームを作り、毎年一着のドレスを作るのが一学期の授業内容だ。
   ちなみに聖鐘学園はクラス替えというものがない。
  「あたしゃ、どんなドレスが出来るのかと予想しただけでして」
  「ほほぅ、それで何故私のドレスになるわけ?」
  「眼鏡で華のない私が紙面を飾るより、麗しの姫君が飾るほうが受けるでしょう?」
  「むっ……う、分かりました」
   七瀬はもっともらしい正論で先輩をやりこめたようだ。
   しかし、上手いこと霧に巻いてるなと思う。
   問題は先輩に許可も取らずに写真を合成してることだろうに。
  「まあ、いいでしょう。とにかく水月の眠る場所を確保して頂戴」
  「はいはい、お任せを。ところでサロンの方に出向かなくて宜しいので?」
   四方先輩は部活動が終わると、寮内のサロンで過ごすのが日課だ。
   と言っても遊びではなく、各種有力クラブの部長やら委員長などと会談するわけだ。
  「もう、そんな時間? 水月、悪いけど失礼するわ」
  「はい。御苦労さまです」
  「さいなら〜」
   足早に去っていく先輩の足が止まる。
  「新聞は必ず出版前に私に見せにくるように!」
  「うぃっす」
   軽く七瀬を牽制しながら部屋を出ていく。
   そして、二人になる。
  「さてと、作業作業。あっ、ついでにおかえり〜〜月見里さん」
  「どうも。貴方も相変わらずなようで」
   多分、新聞の締切が迫っているのだろう。
   忙しなくキーボードを叩いている。
  「まあねぇ……ああっ、ベッドの本はロッカーにでも片してくれる? 今、忙しいんよ」
   スティックパンを一本取り出すと口に咥えて、またキーボードを叩く。
  「あのね、どうして私がそんなことを?」
  「あ〜んっ?」
   不満気に言うと、七瀬はパンを手に持って振り返る。
  「そりゃ、勿論ギブアンドテイクっす。
   水月さんがいない間の学園状況と死神の近況知りたくない?」
  「……むうっ」
  「あたし、味方にしといたほうがお得よ?」
   七瀬の視線と銀縁の眼鏡がキランッと光る。
  「分かりました」
  「毎度〜」
   私が折れると、またキーボードを叩き出す。
   四方先輩もそうだが、私も彼女は苦手だ。
   どうも、話しの主導権を取りづらい。
  「よくもまあ、こんなに汚せるわね」
  「そうかなあ? 普通だと思うけど」
  「この部屋を見たら、大半の生徒は腰を抜かすわよ」
  「ははは。水月さんは冗談上手だね」
   冗談じゃなくて本当なんだが……七瀬には通じてない。
  「適当に並べますよ?」
  「あいよ。お願いします」
  「………………」
   ベットに置かれた本は写真やら新聞やら教科書やら雑多にある。
   ここで適当に放りこんだら、本が必要になったときに困るだろう。
   まずは乱雑に置かれた本を種類別に整頓するところから始めよう。
  「まさか、戻って来た早々にルームメイトの荷物を整理することになるなんて」
  「水月さんの荷物整理は私がやったげるって」
  「遠慮しとくわ」
  「あっ、そう? 悪いねぇ」
   七瀬の方は仕上げ間近なのか、キーボードを叩く音がヒートアップしている。
   私の方も本の整理に集中することにしよう。
   なんせこれを片付けないと七瀬のベッドで眠ることになる。
  (……なんだか懐かしい)
   今思えば、彼女との生活はこんな感じだった気もする。
   いつもこんな風に七瀬の助手みたいな真似をしてたなと思い出す。
   そう思うと、この作業も悪くなかった。

   ………………。

  「あー、疲れたわ……っと!」
   タンッ、と一際高い音。
   どうやら七瀬の方が先に仕事を終えたようだ。
  「お疲れ様」
   私の方も後少しで終わる。
   種類別にわけた本をロッカーに入れるだけだ。
  「結構な量ですね。漫画だけかと思ってたけどそうでもない」
  「あっ、心外だねぇ。政治・経済・純文学、何でもござれっすよ」
  「絵本もあるところが可愛らしいと思いましたよ?」
  「これでも乙女ですから」
   私が彼女に向かって微笑むと、七瀬もにんやりと笑みを浮かべる。
  「狭い狭いと思ってたけど、一人だと結構広いもんでさ。
   つい実家から本とか持ちこんで来たんだよね〜。PCも増やしたしね」
  「………………」
   私は整理の手を止めて、七瀬を見つめる。
  「ああっ、こいつは失言だったかな?」
  「いえ、私が去ったのは事実だから」
   何も変わっていないわけじゃない。
   時間は決して同じ場所に留まらず、常に流れてる。
   この部屋に私の居場所はもうなかった。
  「そうだね。まあっ、おあいこってところか」
  「えっ?」
  「朝、何事もなくお別れして。夜には退学になって去っていった。
   部屋に帰って来たら、もう何もないでやんの。
   教科書も何もかんも。まるでここには誰もいませんでしたよってみたいに。
   この七瀬さんも見事にノーガードの上にストレート決まったね」
   いつもヘラヘラと笑ってる七瀬の瞳が真面目に引き絞られてる。
   まるで銃口を相手に突きつけるような気配を感じる。
  「そこに転がってんのは、それを埋めるためのものさ。
   つまり、あたしが片付ける必要のないもんだ。水月さんが片付けないとね」
  「七瀬」
  「……とか言うと、掃除をさぼった口実にもなろう」
   真剣な表情も束の間、いつもの彼女に戻る。
  「ありがとう」
  「まあ、いいさ。それよりも問題は水月さんが帰ってきたことだ」
  「……帰って来たわけじゃないかな」
  「どういうこと?」
   七瀬が首を傾げる。
  「退学処分が消えたわけじゃないの。夏休みの間まではいられるだけ」
  「期間限定の帰還つーわけですか」
  「ええ。どうしても納得いかないことがあってね」
  「銀鏡梗華(しろみ・きょうか)やっぱり彼女が原因なわけ?」
  「………………」
   その問いには答えず、七瀬を見る。
  「すっげえ怖い目するんだね。いや、もう……それで充分っす」
  「そんなに怖い顔してる?」
   自分では少し険悪な顔をしたかな程度に思ってるんだけど。
  「うんっ。二度とその事を話すな、みたいな……もう、殺気出てるね」
  「………………そう」
   ということは、私の怒りは収まってないわけだ。
  「近況とかはどうしやしょ?」
   まあ、情報っていっても大したもんないけどね」
  「七瀬とは思えない発言ね」
   彼女の情報収集能力は圧巻の一言に尽きる。
   本気で彼女が調べ始めれば、周りの噂、心象などの外部の情報は元より。
   家族関係、昔の恥ずかしい秘密などの超個人的な情報すら手に入るくらいだ。
  「そういえば……」
  「はい?」
  「七瀬は何処から情報を手に入れたの?」
   私が訊ねると、七瀬は得意げに胸を張る。
  「へっへっへ……どんな人間のパーソナリティでも侵害する。
   これが七瀬空咲花の人には言えない個人的七不思議の一つです」
  「………………」
   全然、威張れる能力じゃないな。
  「で、お得意の七不思議が通用しないと?」
  「いや、うちの勘が関わるなと警鐘を告げてるんで関わってない。
   あの人は怖いね、何となくだけど。水月さんと同じ気配がする」
  「……いい勘してるわ、七瀬」
   彼女が持つ『死神』の名は伊達ではない。
   温室育ちの花々の中では私も彼女も異端だろう。
   いや――元より私も彼女も住んでる世界が違うのだ。
  「だから興味がある。水月さんと銀鏡さんの関係がね」
   手に持った一眼レフのレンズが私を覗いてる。
   私はレンズを見つめながら警告する。
  「首を突っ込まないほうがいいと思うな」
   別に脅したつもりはないのだが、七瀬は降参とばかりに両手をあげる。
  「分かった。情報提供だけにする。
   現在の彼女は左腕骨折、右目には眼帯。
   松葉杖がないと歩行出来ない。中々悲惨だったわよ」
  「……見た目はね」
  「えっ?」
   私は立ちあがって、鞄から携帯電話を取り出すとスカートの裾に突っ込む。
  「どちらにおでかけで?」
  「夜の散歩に。消灯時間までには戻るわ」
  「今は夏季休業中だからいつもより一時間遅い23時っす」
   七瀬の机に置かれてある時計は21時を指している。
   二時間もあれば充分だ。
  「ねえ、七瀬」
  「ん〜〜? なんっすか?」
   部屋を出る前に言ってやろう。
  「そのスカーフに隠したカメラとか使うのは止めたほうがいいわよ」
  「あっれー気付かれてる? 秘密兵器なのにっ!?」
  「あんまり調子に乗らないようにね」
   苦笑しつつ、私は扉を開けて部屋を出る。
   部屋でじっとしてるのもつまらない。
   ここは夜の散歩にでも勤しむとしよう。

   そうした方が面白いと自分の勘が告げていた。
   
   To be continued.....
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