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                         〜 聖 鐘 学 園 四 重 奏 〜             
                          [ B L A C K  O R  W H I T E ? ]
                                     vol.01 03.07.27
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  〜はじめの挨拶〜
   なんか久しぶりに連載小説を再開してみようじゃないか企画物。
   そんな企画物。ラブあり、ひなあり、バトルありのゴッタ煮作品。
   楽しんでいただければ、これ幸い。
   別に楽しんでくれなくても、書いてる私はこれ幸い。
   それでは、早速行ってみよーー

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   聖 鐘 学 園 四 重 奏 〜 B L A C K  O R  W H I T E ? 〜
   第一楽章「愚者への堕落」
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  「水月さん。覚悟はしていると思いますが、あなたは退学です」
  「はい」
   くだらないな。
   自分自身の言葉に――ただただ、そう思う。
   しかし、それもこれで終わりだ。
  「今までお世話になりました」
   私は社交辞令の礼をして、扉へと向かう。
   リノリウム張りの床を歩き、私の手が扉に触れる。
   扉を開けようと指に力を込めたと同時に背後から声がかかる。
  「水月さん」
  「はい?」
   私は振りかえらずに理事長の言葉を待つ。
  「最後に、一ついいですか?」
  「ええ、かまいませんが?」
   今更、話すことなどない。
   つまらない戯言を聞くのかと、私は内心苛立っていた。
   矛盾した行動の裏にある真意は分かっている。
   自分が去ることになった学園に失望したいから、
   失望することで自分の行動は正しいのだと信じたいだけだ。
  「お話しは何でしょう?」
   拒絶するように背中を向けたまま、私は聞いた。
  「あなたのした事は間違ってはいません。
   しかし、決して正しいことでもありません。
   そんな生き方では、いつか貴方自身が押し潰されますよ」
   私の背中がぴくんっと跳ねる。
   そんな言葉を聞くなんて正直思っていなかった。
   咄嗟に振りかえって、理事長を見つめる。
  「あなたが教師に対して反抗的な生徒である事は有名な話しです。
   実は学園の教師一同、入学してから貴方の動向に気を配っていました。
   しかし、あなたは噂とは違う真面目な子だったんですね。今日の騒ぎで分かりました」
  「……理事長」
   それが本心であるかどうかは知らない。
   しかし、そう言われたことで私の心は少し安らいだ。
   やはり、自分のした事は間違ってなんかいない。
   だから、私は何の後ろめたさもなく学園を去れる。
  「だけど。この世界はね、水月さん。道理と真実で出来ている訳ではありません。
   あなたが正しいと思ってした行為が社会で正しいとは限らないのです。
   もっと上手に世の中を渡る方法を身につけないと……。
   いつか、必ず。他の誰でもない――自分自身に、あなたは追い詰められるでしょう」
   予言めいたその言葉に私は冷笑を浮かべる。
  「水月さん?」
  「それは私自身の望む所です」
   何処まで私は有りのままの自分でいられるのか。
   それを知ってみたい気もする。
   そして私自身を貫けなくなった時――どうするのかも知ってみたい。
  「……そうですか」
   理事長は私の顔を見て、苦笑する。
  「では、お元気で」
  「理事長も」
   互いに言う事はない。
   もう一度だけ、今度は心からの礼をして私は背中を向ける。
   こうして、たった二ヶ月の高校生活は幕を引いた。

  「それでは店長。お先に失礼します」
  「はい。おつかれさま」
   軽く頭を下げて、冷房の効いた喫茶店の扉を開ける。
   来店を知らせる鐘の音。
   蒸し暑い夏の空気が冷房で冷えきった身体には丁度良かった。
   でも、それも少しの間だけだろう。
  「夏は、これだから」
   好きになれない。
   日焼けした肌を健康的と解釈出来ない私には辛い季節だ。
   こんな日は海にでも行って、思いきり泳ぎたい。
   ただし、日焼けはしないで――と、我ながら都合のいい要求を思い浮かべる。
   そんなことを思いながら、街を歩いて行く。
   街の中心地であり、交通・観光の要所でもあるので人込みは多い。
   まだ授業中だろうに制服を着た男女――サラリーマン、大学生だろうか若者。
   人込みに紛れるのが好きな私は勝手に彼等の生活を思い浮かべて、駅への道を進んで行く。
   程なくして、駅の改札が視界に入ってくる。
   私はいつも通りに定期入れを取り出した。
  「これの期限も、夏までか」
   定期と共に入った学生証。
   夏の終わりと共に定期の期限は切れて、私の学生という身分も白紙に変わる。
   世間で二学期が始まると同時に月見里水月はぷーさんになるわけだ。
   定期入れを取り出すと、いつも思い出して不思議な感覚に捕らわれる。
   苛立ちというか鬱というか……それとも学園の哀愁か。
   しかし、全ては終わった事。
  「さてと、今日は何をするかなぁ」
   世間の学生より一足早い夏休み。
   私はそれを持て余しながら過ごしていた。

   さて、自己紹介が遅れたようなので、ここで済ますとしよう。
   私の名前は月見里水月。
   まず名前を見た印象はどうだろう?
   月が二つもあっては語呂が悪いのではと思われるかもしれない。
   だけど、大丈夫。月見里と書いて「やまなし」と読む。
   フルネームは「やまなしみづき」だ。
   月に始まり、月に終わる。中々、印象的な名前ではないだろうか。
   少なくとも、私は自分の不思議な苗字と名前は気にいっている。
   この不思議な――つまり一般的ではない苗字のせいかは知らないが、私は変わり者でもある。
   変わり者だけに、そこそこ変化に富んだ人生を歩んできた。
   超お嬢様学校と呼ばれる聖鐘学園を推薦入学。
   たった二ヶ月で退学になったのも変化の一つと言えよう。
   訳あって、今は一人暮し。バイトをしながら、来年の高校入試に備えている。
   性格的な欠点をあげるとすれば、災難を呼び、それに好んで首を突っ込むところか。
   私のことを知る人間は、それを直すようにと忠告してくることが多い。
   ちなみに、私のことを深く知っている人間は、好きにしろと諦めている。
   女の子だからかは知らないけど、綱渡りや吊り橋を見るとワクワクしてしまうのだ。
   まぁ……それ以外は見た感じは何処にでもいそうな普通で綺麗な女の子。
   これは、そんな私がある日体験したちょっとした話し。

  「電車が出ない?」
  「はい。人身事故がありまして」
   電車の時刻表が停止している理由はそれか。
  「復旧の目処は?」
  「すいません。まだ分からないですね」
  「ありがとう」
   切符を買う前に聞いて良かった。
   私の性格を考えると、復旧するまで待ちぼうけをすることになるからだ。
  「あんまり車は好きじゃないんだけどな」
   そう思いつつ、私は駅から出て歩き出す。
   私が住んでいるアパートは電車で三駅ほどの距離がある。
   歩いて帰るには少々遠すぎる。
   つまり、電車が駄目ならバスを使うしかあるまい。
   もしくはタクシー。さすがに冗談だが。
  「しかし……このまま帰るのも癪に障るな」
   と言って目の前にある建造物を眺めて見る。
   駅に隣接した百貨店。
   地元の人間が遊び場などに使う人気のある建物だ。
  (よしっ、寄っていくか)
   なんせこちらは毎日労働に明け暮れるアルバイター。
   世間一般の高校生より財布は暖かいというもの。
   それに時間が過ぎれば電車も復旧する可能性もある。
  「よし、それで行こう! さぁー使い込むぞ!!」
   意気揚揚と百貨店へと向かう私。
   蜜を求めて彷徨う蝶のように、私は百貨店への道を歩く。
   不意に起きた事故。狂った予定。それに対するストレス発散。
   行動に動機をつけるなら、こんな感じ。
   でも、この時はまだ――自分が本当は何を求めて百貨店にいったのか分かっていなかった。
   
  (ローズマリーは飽きた。ラベンダーは気に入らない)
   陳列棚に置かれた袋入りの紅茶を取っては置きを繰り返す私。
   最近、紅茶の葉っぱにこだわりを持つのが趣味なのだ。
   聞こえはいいが、ここにある物を片っ端からあたってるだけとも言うかもしれない。
   私の目線が棚の最上段から横へと移動していく。
   その途中で、私の目は止まった。
  (レッドローズ……紅い薔薇か)
   最後の一袋だけ残った茶葉。
   そういえば――まだ一回も試していなかったことを思いだして、それに決める。
   そして、手にしようとした瞬間、別の手が私の指先に触れた。
  「あっ、ごめんなさい」
   心の中で舌打ちしながら、私は横を向いてにこやかに謝った。
  「いえ、こちらこそ――あれ? 水月さん」
  (はて? 私の名前を知ってる……誰だろ?)
   記憶を探ってみるが、心当たりがない。
  「覚えてるかな? 同じクラスの早川だよ」
  「……早川さん? あっ、うわ〜懐かしいね」
   言われてから私はようやく思い出した。
   二ヶ月ばかりの高校生活だったので人の記憶も曖昧だ。
   確か――文系タイプの子で休み時間に本読んでるようなタイプ。
   背丈は私より、10cmは低い160くらいか。
   縁の細い眼鏡がシックな服と合わさって、彼女を知的で大人の女性に見せていた。
  「……久しぶりだね」
  「ええ。元気してる?」
  「うん――まぁ、問題もなくね」
   歯切れが悪いのは、退学した私と話すのは嫌なのか、それとも地なのか。
   多分、地だろう。
   彼女は極端に大人しい子で、友達は本みたいな感じの子だったのを覚えてる。
  「あれっ? 早川さんは学校はどうしたの?」
  「サボリだよ。内緒だけどね」
  「ははは、成程ね」
   悪戯をばらす子供の笑み。
   本が友達の彼女だって、やはり年頃の女の子。
   こういう笑顔だって出来るのだと思う。
  「早川さん、その紅茶がお気に入りなの?」
   私が問いかけると、早川さんはコクッと頷いた。
  「うん。先月買ってみたんだけど、苦みがなくて香りがとてもいいから。
   あっ、でも――これが最後の一袋なんだね。困ったな、どうしよう?」
  「ああ〜、私はいい。早川さん、どうぞ」
   私の紅茶好きなどただの流行だ。風が吹けば変わる。
   なら、久しぶりに会った同郷の友に譲るのもいいだろう。
  「待って。それなら半分ずつ分けない?」
  「――――?」
   早川さんの申し出の意味が私には分からないので首を傾げる。
  「私の家、この近くにあるからそこで半分個しない?」
  「じゃあ、そうしようかな」
   妙に熱のこもった口調で話し掛けるので、私は彼女の好意を受け取ることにした。
  「うん。じゃあ買ってくるから其処で待ってて」
   少し慌てながら彼女はレジへと向かっていく。
  (……………ん?)
   彼女の背中を眺めていた私に聞き慣れた電子音が聞こえてくる。
   携帯電話から流れてくる一昔前のポップス。
   これはメールの着信音で、しかも比較的仲のいい子からのだ。
   手提げの鞄から携帯電話を取り出して慣れた動作でメールの確認をする。
  「………………」
   援交のお誘いだ。束縛時間と金額が表示されている。
   私のもう一つのバイトであり、生活をする為に切っては切り離せないもの。
   ここ最近は不景気のせいか、払われる金額は昔よりずっと少なくなった。
   昔は相手次第では10万くらいぽーんと払ってくれたものだ。
   でも、今は精々1〜3万……悲しい。
   まあ、私のするサービスならこれくらいが適当な値段なのだろうが。
  (むむっ……むむむっ…)
   束縛時間は22時から24時。これが私を自由にしていい時間。
   報酬は一時間につき、三万円也。安いとは言わないが、決して高いわけではない。
   だが、仕事は出来るときに稼ぐ。これは商売人の信念だ。
  「お待たせ、どうしたの?」
  「いや、なんでもないっす。あははは〜」
   後頭部に手をやって明るく笑う。
   勿論、その隙に携帯は鞄に放り込んでいる。
  「水月さんって明るいんだね」
  「そう? 普通だよ、ふつー」
   彼女の何とはなしに言った言葉に私は適当に答えた。
  「それじゃ、行こうか? ホント、直ぐ近くにあるんだ」
  「うん」
   まあ、今日は辞めておくか。
   彼女の後ろをついてきながら私は思った。
   聖なる鐘の乙女達。私も、昔はそう呼ばれていたのだ。
   だから、今日くらい――普通の女子高生でいようと思ったわけである。

  「ここが私の家なんだ」
  (…………大きい)
   彼女の家の前に立ちながら、私はその家の大きさに迫力負けしていた。
   乗用車なら10台は置けそうな広い空間。
   そしてその奥には純日本風の建物がどかーんと建っている。
  「どうしたの? そんな所で立ってないで入ろう」
  「あ、ああ……そうしようかな」
  (ああ……悲しき中流階級の娘。きっと一生縁のない建物だわ)
   私の非合法なバイト何時間分とか考えてる辺りが素敵なほど悲しい。
   さすが初対面同然の同級生と紅茶の茶葉を分け合おうなどと言う位はある。
   多分、と言うかほぼ絶対に箱入り娘なんだろう。
   よく考えれば、聖鐘学園は超お嬢様学校だったのを思い出した。
  「お邪魔しま〜す」
   ちょっと緊張したのか小声で言ってみる。
  「多分誰もいないよ。部屋はね……こっちなんだ」
   靴を軽く脱ぎ捨てて、早川さんは先へと進む。
  (やれやれ……せめて靴くらい並べましょう)
   律儀に自分と彼女の靴を並べてから私も後を追う。
   軽快に階段を二階分昇り、鍵のかかった扉を開けて案内してくれる。
   階段が二階分あることと、家の中に鍵を使って開ける扉があることに私は驚いていた。
  「……広いねぇ〜」
  「そう? 普通だと思うけど……」
  「ははは」
   畳十四畳くらいある子供部屋は一般家庭に置いて、そうあるものではない。
   彼女の交友関係というものが何となく分かる一言である。
  「早川さん。学校の方はどう? 楽しい?」
   手短な場所に座ると、ふわりとしたカーペットが心地よい。
  「なんだか、お母さんみたいなこと聞くんだね」
   部屋にあるポットで紅茶を注ぎ込むとお茶受けのクッキーと一緒にテーブルに置く。
  「普通だよ。楽しいわけじゃないし、楽しくないわけでもない」
  (……枯れてるなぁ)
   楽しいことのない学校を楽しく、とは思わないのだろうか。
   そりゃ、行ってるだけで楽しい場所なら誰だって幸せだろうが。
  「学校は勉強する所だって割りきってるからね」
  「ふ〜〜ん、そっか」
   私は入れられた紅茶を飲みつつ、彼女を見る。
   早川さんは早速、空の瓶に紅茶の茶葉を入れていた。
   じっくり部屋を観察するのも無作法だし、ここは色々と話し込んでみよう。
  「どうして、私を家に?」
  「そうだね……偶然的必然、かな」
   茶葉を入れる手を止めて、早川さんは呟いた。
  「偶然的必然?」
  「何となく学校を休んで、何となく誰かと喋りたくて、そこに水月さんが居たから。
   少し興味がある人で、同じ紅茶好きだったのもあるかな。
   そういうのが重なったから、もう少し話したいと思った。ごめんなさい、気を悪くしたかな?」
  「いや……ふ〜ん、早川さんってそういう人なんだ」
   この子、箱入りお嬢様だと思っていたが、それなりに人間は出来てるのかもしれない。
   私は退学した人間を家に入れるのか、という意味で質問したのだ。
   しかし、それに気付いてないのか、早川さんは誘った理由を述べている。
   それに、私を見る目に偏見がない。
   今までも色々な場所で同級生にあったが、私を見る人間には偏見の目があった。
   だから、私も誘われたのだ。
  「水月さん。気を悪くしたらあやまる。
   でも、出来たら聞かせて――学校を辞めて、これからどうするつもりなの?」
  「………………」
   私は目線を変えて、彼女を見つめる。
   相手の考えを読む目、本気の眼差しというやつだ。
   単純な興味、というだけでもあるまい。
   彼女は何か思い悩んでるように見える。
  「来年から、また高校に行くよ」
  「そうなの?」
  「うん。私は一人暮しだから定時じゃないけどね」
   元々、聖鐘学園も特待生として助成金があったからこそ居られただけ。
   でも、一度退学したとなっては助成金は出ない。
   休日や夜間のみ行われるような場所でないと通えないのが悲しい実状である。
  「そう……水月さんは、強いね」
  「どっちかというと馬鹿かな」
   そんな自分でいいと思ってるから、気にしてないけど。
   でも、早川さんは強く否定した。
  「そんなことない! あの時も、水月さんのしたことは間違ってないと思った」
  「………………」
  「私は駄目ね。間違ってることを間違ってるって言えない。
   守られてばかりで、しっかりするんだって思ってるけど……結局、甘えて」
   成程、早川さんは私に悩みを聞いて欲しかったのも理由にあるわけだ。
  「早川さん」
  「えっ?」
  「そのままでいるのも悪くないよ?」
   彼女の目が非難めいたものに変わる。
   まるで、このままでいいわけはないと言いたげに。
  「変わるってのは結構辛いことだしね。子供のうちは無理をしない方がいい」
  「………………でも」
  「早川さんが甘えてる事を自覚していて、それをいけないと思ってるならいい。
   今はまだ。ある物を捨ててしまうより、ギリギリまで生かしてみたら?
   捨てるのは簡単だけどね。そーいうのに限って一回捨てると……中々、戻ってこないのよ」
   彼女が何を悩んでるのかは知らないけど、思ってる事を言ってみる。
   適当だと思うかも知れないが、私は実際、他人に適当なんだから仕方ない。
  「学校を辞めると、色々辛いぞ?」
   それは確実に言える。
   こういうのも一つの傷がつくということなのだ。
   手を切るのや、心ない言動に傷つくのと同じで。
  「じゃあ……」
   少しの沈黙を置いてから、早川さんは聞いてくる。
  「何かな?」
  「じゃあ、水月さんは辞めた事を後悔してる?」
   私は少し冷めた紅茶を飲み干す間に黙考する。
  「だから、馬鹿なのさ」
   突き放した口調、それが頭に浮かんだ最初の言葉だ。
  「ごめんなさい。こんな事を聞いて……」
  「気にしないで。早川さんと話せて良かったよ」
  「助かる。学校の友人でこういう事を話せる人っていないから」
   苦笑すると、茶葉を半分瓶に入れて、私に差し出した。
  「これ、どうぞ」
  「そっちの袋のでいいけど?」
  「ああっ、こぼれると困るから瓶の持って行って」
  「成程、気付かなかった」
   よく気の効く子だ。
   私なら、気付かずにバックの中身を茶葉だらけにして絶叫してただろう。
  「それじゃ、ありがたく頂きます」
   手持ちのバックに瓶を放り込む。
   これでバックを振りまわしたりしない限り、中身が出ることはあるまい。
  「………………ん?」
   私がバックに瓶をいれた時に、携帯のバイブレーションの音が響く。
   私は着信に音楽を鳴らすから、早川さんの物だろう。
  「ええっと……あれ?」
   早川さんは携帯が嫌いなようだ。
   多分、メールだろうが、何やら手間取りながら操作をしている。
   最近の女子校生にしては珍しい姿だ。
  「………………」
   メールの内容を無表情で見ると元あった所に戻す。
   間違っても恋人からではないのは不快な顔を見れば分かる。
  「ああっ、と……迷惑メールだったとか?」
  「……いえ、そうでもない」
   今一つ、はっきりしない返事をかえしてくる。
  「別クラスの子が駅のホームで投身自殺したから通夜に出ないといけないんだって」
   くだらないとでも言いたそうな顔で紅茶を飲み、クッキーをつまむ。
  「皮肉な偶然ね」
  「えっ?」
  「わたし、実は電車が止まってたから百貨店に行ったんだ」
  「……そうだったんだ」
   早川さんの言うことを借りるなら、偶然的必然か。
   運命論などは信じてない私だが、ここまで来るとたんなる偶然で片付けるのも難しい。
  「不謹慎な発言だけど……」
  「ん?」
  「この偶然に感謝してる。良かったら、水月さんの友達でいさせて」
   夏の始まりは、そんな何気ない一言で始まった。
   この少女と会わなければ、私の夏はつまらないもので終わったであろう。

   だけど――――私達は出会ってしまったのだ。

   To be continued.....
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