エントルゥザンクの軌道 (皆殺しの呪文)


by 佐藤クラリス (宮崎駿ネットワーカーファンクラブ)


 2010年02月26日アップデート  → キャラクター名ミス修正(ソース参照)

 このページは、宮崎駿ネットワーカーファンクラブ(旧「PC-VAN宮崎駿ネットワーカーFC」)の佐藤クラリスさんが掲載した作品「エントルゥザンクの軌道 (皆殺しの呪文)」の全文を掲載しています。なお、無断転載等は厳禁です。(編集者)


あらすじ

 「13の悪い国を滅ぼしてくれ。最強呪文を貸す。専用の列車とガイドを用意する」

 謎の人物の依頼を引き受けた仕事人ハインデルは各地を旅する事になった。
 「単純な」仕事のはずが、それは困難と不安、更に疑惑に満ちた物だった。
 そして、彼を待っていたものは巨大な陰謀。
 全てが判ったとき、世界の未来はゆらいだ。ハインデルに託された未来。
 彼が選ぶ未来とは!?

 夢と感動、そして希望の未来を、読者のキミも掴めるか!?


目次

第 1話 「或る依頼」----- (2005.04.04)
第 2話 「一番目の国 公開処刑の国」----- (2005.04.04)
第 3話 「二番目の国 強盗の国」----- (2005.04.06)
第 4話 「三番目の国 嘘つきの国」----- (2005.04.09)
第 5話 「四番目の国 探偵の国」----- (2005.04.10)
第 6話 「五番目の国 無法の国」----- (2005.04.12)
第 7話 「六番目の国 大砲の国」----- (2005.04.16)
第 8話 「七番目の国 聖人の国」----- (2005.04.17)
第 9話 「八番目の国 ゴミの国」----- (2005.04.20)
第10話 「九番目の国 暗殺の国」----- (2005.04.23)
第11話 「十番目の国 不幸の国」----- (2005.04.25)
第12話 「十一番目の国 恐怖の国」----- (2005.04.29)
第13話 「十二番目の国 真実の国」----- (2005.05.01)
第14話 「十三目の国 心の国」----- (2005.05.02)
第15話(最終話) 「そして最終的解決」----- (2005.05.04)
FAQ ----- (2005.05.08)




第 1話 「或る依頼」

 今度の依頼は、それほど難しい物では無さそうだった。

「13の悪い国を滅ぼしてくれ。最強呪文を貸す。専用の列車とガイドを用意する」

 いや、難しいどころか、結構美味しい依頼のような気もした。

「いいでしょう。お引き受けしましょう」

 と私が云ったのも当然の成り行きであった。ただ、職業的カンと云うか、ちょっと気になったのは、依頼主が身元を明かさない事であった。姿形はどうにでもなるから当てにならない。

 そこで、念押しをした。

「依頼を受けるからには、表と裏の事情を教えて頂くことが条件となります」

「知っている。私は或る国の王なのだが、世界を良くしようと思っている。笑うかね。ほう、キミは一流のビジネスマンのようだ。それはそうと、相手は独立国ゆえ、なかなか手が出せない。私が呪文を使って自分の手で滅ぼすことも出来るが、それでは私の意思が正しく伝わらない。つまり侵略と考えられてしまうからね。それは私の望むところではない。だから、キミに依頼するワケだ」

「なるほど…しかし、悪い国々を滅ぼした後はどう為さるのですか? 世界の王…ですか?」

「その様な野心はない。その証拠に、指定する13国は誰に聞いても判るほどの悪い国だ」

「しかし、悪い国と云っても国民に罪はありますまい。その国民ごと滅ぼすのですか?」

「ならば、キミに聞こう。正しい国と悪い国のどっちを取るかと選択を迫られた時、キミはどっちを選ぶのかね」

「私なら、そんな状況に追い詰められる前に逃げてしまいます」

「逃げられるならイイ。しかし、逃げられない者も居るのだ」

「閣下は逃げられない…と云う事ですね」

「国民の犠牲の重さを考えても滅ぼさねばならない」

「…では、具体的な手順を教えて頂きたいのですが」

「依頼を引き受けた…と解釈して良いのだな」

「その通りで」

「先ず、キミは駅から専用列車に乗って、最初の国に行く。途中でガイドが封書を渡すだろう。そこには最初の国でキミが会う者の名前が書いてある。キミはその者に会って、次の国の名前を聞き出すのだ。ここよりもっと悪い国はどこだとな」

「なぜ、そのような面倒な事を…」

「最強呪文のお約束だ。国を滅ぼすには推薦者が必要なのだ」

「なるほど」

「ポイントは説明した積もりだが。細かい事はガイドに聞いてくれたまえ」

「判りました」

「では、依頼が終わった時、再び逢えることを期待しているよ」


 次の日、私は、中央駅から指定された専用列車に乗って旅立った。専用列車と云っても、王族の列車はみな専用なので、特に凄いものではない。それにして、どっしりとした調度品に飾られた客室は、これで動いていなければ、まるで城の中にでも居る様な見事なものであった。わたしが調度品と、窓の外の流れる風景を半々に眺めていると、ガイドなる者がやってきた。重厚慇懃な執事かと思ったら、軽装の女性であった。思わず「おぉ」とため息をつく位の美人である。どの位美人かは人それぞれの好みがあるので、何とも言い難いが、一口で云うとため息をついて、ついでに息をするのを忘れる位の美人であった。その女性が玉を転がす様な声で説明を始めた。

「主人からの説明が有った通り、貴方には13国を滅ぼすと云う任務をお願いしております。宜しいですね」

「はい」

「国を滅ぼす為に、最強呪文エントルゥザンクの使用許可が下りているはずですが、許可書はお持ちですね」

「はい、ここに」

 許可書を提示した時、ふと、魔法省でのやりとりを思い出した。
呪文の使用許可願を提出した時の係官の驚いた様な表情。許可願と私の顔を見比べて、更に、例の依頼主の推薦状に目を凝らして、一層難しい表情になった。

「確認しますが、この呪文を使うのは、あなたですね」

「そうですが、何か?」

「いや、これほどの呪文の使用許可と云うのは殆ど例が無いもので」

「まァ、国一つ滅ぼすわけですから。でも、世界を滅ぼすワケでも無いですし」

「いや。条件が揃えば、それも可能ですぞ」

「え?」

「職権を超えますので、これ以上は…」

「気になりますね。注意事項として聞きたいです」

「これは秘密なのですが、呪文を使う対象によっては、世界それ自身を滅ぼす事が可能とだけ云っておきましょう」

「対象…か」

「どうしました」

にこやかな笑みを浮かべたガイドの顔が間近にあった。

「いえ、失礼しました」

 次の瞬間、ガイドの笑みは消え、事務的な表情に戻った。

「許可書は確認しました。この呪文を唱える事により、その国は滅亡します。滅亡の仕方は状況によって異なりますが、基本的には天変地異に類するものとの事です」

「国民は国と運命を同じくする…と云う事ですね」

「その通りです」

「その辺が納得行かないのですが」

「貴方は納得したはずです」

「そりゃまァ一応は」

「次に参ります。これに最初の国で貴方が会う者の名前が書いてあります」

 ガイドが差し出す封書を開けると、「公開処刑の国 ハンス」と書いてあった。

「公開処刑の国…ですか」

「その国の詳細は私は知りません。貴方はその者に会い、次の国の名前を聞いてくる事になります」

「もし、聞いて来れなかったら?」

「そんな事は有りません。会えば貴方の質問に答える事になります」

「で、私が例の呪文を唱えると、その国は亡びるワケですが、わたしはどうやって列車に戻るのですか」

「例の呪文を唱えると、自動的にここに戻ってきます。貴方の安全は保証されます」

「まァ、大体は判った様な気がします。後はぶっつけ本番と云う事ですかね」

「質問が有れば、随時お受けします。そういえば、間もなく、最初の国に到着します」

 愛想良くガイドは応え、無表情に去って行った。





第 2話 「一番目の国 公開処刑の国」

 駅を出ると、人集り(ひとだかり)だった。
 それも半端な数ではない。1万人位は居る様だ。しかも、彼らの視線は一様に駅前の広場に釘付けになっていた。何が有るんだろう。興味本位で人集りの前に出た。すると、そこは異様な光景であった。ステージが設けられ、TVカメラとニュースキャスターみたいな人達が居る。ステージの上には、きらびやかな軍服の兵士が5人居り、銃を或る標的に向けていた。柱に縛られた一人の人間であった。ニュースキャスターみたいな人物がその縛られた人間を脇にして、喋っていた。

「死刑囚ジョーンズは、先日、繁華街で無差別に通行人を刺し、死者5名、負傷者12名と云う恐るべき罪を犯しました。よって、ここに死刑を執行する事になりました。天網恢々疎にして漏らさず。悪人は全てこの様に処刑されます。善良な国民の皆さんは安心して生活して下さい。そして、悪事を企て居る連中は、自分の結末をここに目撃し、己の独善的な行動を悔い改めて、善良な国民になるよう努力して下さい」

 ニュースキャスターは更にジョーンズなる人物に近付き、マイクを向けた。ジョーンズは目隠しの無い顔をマイクに向けた。

「ジョーンズさん、今の心境を一言…」

「無神経なヤツめ!」

「国民の皆さんは、貴方の謝罪と反省の言葉を求めているのです。どうでしょう」

「…鬱だ」

「撃つ…だそうです。話が落ちたところで、早速処刑を行いたいと思います。では処刑隊の皆さん、どうぞ!」

  軽やかな音楽が流れ、処刑隊が整列、銃を標的に向けた。

「はい! では処刑を行います。撃て!」

  乾いた破裂音がこだまし、ジョーンズは血しぶきをあげて、崩れ落ちた。観客からは歓声とため息が漏れた。

「はい。次、参りましょう。今度は血も凍る残虐事件の犯人、ハンスです」

「ハンス」

 私は、ハッと我に帰った。彼こそ、私が答えを聞かねばならない相手だ。
 ハンスは、ステージに引きずり出され、ニュースキャスターの質問を受けていた。

「さて、ハンスさんはどの処刑を選びますか?メニューでは、寸刻み、ノコギリ引き、蓑踊り、電気椅子、銃殺と有りますが」

「ふ。苦痛の少ない銃殺がイイかな」

「苦痛が少ないとの理由で銃殺を選びました。まァ、彼の行った連続婦女暴行殺人焼殺事件からすれば、寸刻みか蓑踊りが適当かと思いますが、彼には方法を選ぶ権利がありますので、やむを得ないですね。では、銃殺の準備をして下さい」

「ちょっと待ってくれ」

 私は警備の人をかき分けて、ステージに近付いた。

「はい? 貴方は何者ですか? ここは神聖な処刑場ですよ」

「わたしは仕事人だが、このハンスに答えを聞かなければならない事が有るんだ」

「ちょっと困りますね。外国の方ですか? ここにはルールってものがあるので、処刑囚への話しかけは困ります」

「じゃあ、直接でなくてもイイ。貴方に聞いて欲しいことが有るんだ」

「まァ、それならイイでしょう。聞いたら、客席に戻っていただけますね」

「約束します」

「では、その質問とやらをどうぞ」

「この国よりももっと酷い国の名前を教えてくれ」

「ほう? 今聞いた通りですが、ハンスさん。答えられますか」

「強盗の国…だな」

「強盗の国…との事です。これでイイですか」

「有り難う。では失礼します」

「さて、ちょっと乱入者が有りましたが、処刑を続けましょう」

 私は、人混みを抜け、右手を天にかざした。


「エントルゥザンク、召喚!」


 突然、天空が暗くなったと思ったら、それは近付いてきた。地鳴りに似た空震を伴って、無数の岩の矢が飛んできた。直径10m長さ100mほどはあろうか。その一撃で地面は埃と化し、人は一陣の血しぶきと化した。殆ど一瞬で町並みは消え失せた。しかし、それでも矢は次から次へと降ってきた。

 私は、その光景を見る間もなく、列車に戻された。

「ご苦労様でした」

 ガイドが笑顔で迎えた。

「次の国はどこですか?」

「強盗の国…」

 わたしは息を切らせて答えたが、顔は青く、冷や汗がつたっているのに気づいていた。




第 3話 「二番目の国 強盗の国」

 椅子に座り込んで、車外の様子を見ようとしたが、全ての窓には鎧戸が下りており、伺い知る事は出来なかった。

「外がどうなっているか、観たいのですが」

「現在、例の呪文が発動中なので危険です。尚、この列車には強力な防御呪文が掛かっていますので、乗っている者は安全です。ただ、時々揺れますけど」

「鎧戸の意味は?」

「ちょっと前に、防御呪文を破られた事が有ったんです。鎧戸が無ければ、ガラスを破られていました。その教訓からです」

 それを聞いたら、外を見たいとは思わなくなった。

 間もなく、ガタンと音がして列車が走り始めた。

「どこへ行くんですか」

「勿論、強盗の国です。そして、ここに2通目の封書があります」

 渡された封書を開けると、「強盗の国 ルドルフ」と書いてあった。

「強盗の国…。どんな国なんですか」

「わたしは知りません。それより食事の準備が出来ましたので、食堂車の方へどうぞ」

 隣の車両であった。

「いやぁ、恐ろしい目に遭ったけど、空腹になるときはなるもんだなぁ〜」

 と、自分で感心しながら、着席した。

 車窓は既に鎧戸が上げられて、どこかの国の田園風景が広がっていた。公開処刑の国の出来事がまるでウソの様に思えた。

 ガイドが、今度はメイドになって、ワゴンを押しながらやってきた。

「お手数ですが、後はご自分で召し上がれ。食事が終わりましたら、呼んで下さい」

「やれやれ、セルフサービスとは寂しいもんだな…」

 ぶつぶつ云いながら、ワゴンからテーブルに食事を移動させ、冷えたスパゲティーをむさぼり食った。

 それにしても、こんな仕事をあと12回もやらなければならないのか。確かにいわゆる悪い国は減るかも知れないけど、国であるからには国民が居て彼らも生活しているワケだし、悪い事ばかりではないはず。それを一緒くたに滅ぼすなんて云うのは余りにも傲慢と云うか、一方的で好きではない。

「まァ、それはそれ。これはこれ。仕事は仕事」

 食事を終え、元の椅子に戻った時には、次の国に着いていた。

 ガイドがやってきた。

「この強盗の国では、このキャッシュカードをお持ち下さい」

「ほう。現金は危険と云う事ですか」

「それだけではなく、ご自分の命を守るために必要です。このカードは、シュープリム・プラチナカードと云って、お金は無尽蔵に出せます。但し、使う際は、貴方の生体認証が必要です」

「生体認証…」

「手のひらをかざすとか、網膜パターンや指紋を使うとか、そう云ったものです」

「でも、金を手にした強盗に撃ち殺されてしまうのでは?」

「このカードは、貴方が死ぬと、支払った金が消えてしまうものなのです」

「なるほど、強盗は絶対にわたしを殺せないと云う事か」

「はい。その通りです。でも殴る蹴るは出来ますから、それを避ける為に、金を使うのです」

「判りました」

「では、お気をつけて」

 強力なカードを手にした私は、余裕たっぷりでホームに降り立った。

 すると、早速妖しげな男が3人ばかりやってきた。

「おいおい、いきなりかよ…」

 内心の驚きは隠せない。

「おっさん、手を挙げろ」

 わたしを取り囲んだ男達は手慣れた様子で、ピストルを突きつけた。

「金か?」

「命が惜しかったら、金出しな」

「有り金全部だぜ」

「カードで払いたいが」

「いいだろう」

 強盗は、チョッキからハンディターミナルを取り出し、

「さァ、カードを切るんだ」

「こいつは人差し指認証だから、指出しな」

「金額は、まァ、素直だから60万ゴールドで良いだろう」

「よし、入金を確認した」

「行っていいぞ」

 ムダの無い、流れるような仕事ぶりである。

 彼らの背中に一瞥をくれてから、町並みに向かって歩き始めた。

 3人の警官が歩いてくるのが見えた。

「そうだ、一応、連絡しておかなければ」

 小走りで近付き、

「今、そこで強盗に遭った。60万ゴールドを取られたんだ」

 すると、警官が私を取り囲み、ピストルを抜いた。

「金出しな」

「え?」

「何ぐずぐずしてんだよ。有り金全部出せってんだよ」

「あ、あんたら警官だろ」

「それがどうした。この国で守って欲しければ、金を出すってのがルールなんだよ」

「お前、外国人だな。こいつは高くつくぜ」

「お前、オレ達が守ってやるから、そうだな、300万ゴールド出しな」

 あっけに取られた事もあって、再び素直にカードを切った。

「おお、金払いの良い外国人だぜ。どうだい、オレ達が観光案内してやろうじゃないか」

「い、いや、結構だ。それより私は人を捜している。それを教えてもらえれば、もっと払おうじゃないか」

「そうかい。そりゃいいな」

「で、そいつの名前は?」

「ルドルフ」

「うーん、聞いた事が有るな」

「ああ。それもそのはず。大蔵大臣じゃないか」

「そうだ。そう云えば」

「じゃあ、お客さんよ。オレ達がルドルフの所に連れていってやるよ」

「…では、頼みますか」

「プラス300万ゴールドって所だな」

「そりゃ安すぎだ。何しろ護衛付きだぜ。600万はもらわないとな」


 警官の護衛付きで、大蔵省へと向かった。途中、誰かが呼んだのか、警官の同僚が集まってきて、分け前を奪い合っていたが、20名ほどの隊列も15分ほどで大蔵省に着いた。

「じゃあ、お客さんよ。オレ達はここでおさらばだ」

「毎度ありぃ」

 やれやれと大蔵省の門を通り抜けようとしたら、守衛がやってきた。

「こら。何者だ」

 自分は仕事人であり、用が有ってルドルフ大臣に会いたいと告げると、
守衛は脇に抱えた自動小銃を私に向けて、

「おい、金出しな。有り金全部だぜ」

「いや、そんなに脅さなくとも払うさ。それより案内を頼む」

「ふん。話の分かるヤツだな。昨日来たヤツなんか、オレに説教し始めたので、このAKのサビにしてやったぜ。ここから先は省内の職員に聞くんだな」

「くそ。なんて所だ。どこもかしこも強盗だらけか」

「おい!こら、そこの!」

 急に怒鳴り声が聞こえた。まさか自分とは思わなかったので注意しなかったら、突然警棒の様なもので後頭部を殴られた。目の前が真っ白になった。

「な、なにするんだ」

「この馬鹿野郎、歩行税を払え!」

「ほこうぜい…?」

「外国人か。全く世話の焼けるヤツだ。いいか、この国では、息をするのにも、歩くのにも、喋るのにも税金が掛かるんだよ。えーと、お前がこの国に入ってからの税金は、延滞税を含めて8000万ゴールドだ」

「8000万!?」

「あ、今、反抗的な態度を取ったな。反抗税が加算されて、1億7000万ゴールドだ」

「いや、喜んで払います」

「当然だ。納税は国民の義務だからな」

 再びカードを切った私だった。

「ところで、旦那。大臣にお会いしたいのですが」

「そうか、…ん!」

「は?」

 よく見ると、その旦那は手のひらを突き出している。

「幾らですか」

「バカ野郎。13億ゴールドに決まっているだろう。全く、田舎者はこうだから困る」


 金が振り込まれた事を確認した係官は、ほくほくした顔で、大臣秘書に取り次いだ。

「この方が大臣にお会いしたいとの事だ」

「かしこまりました。どうぞ、こちらへ」

 大臣秘書は金髪の美青年であった。

「暫く、ここでお待ち下さい」

 こじんまりとした待合室の、キーキー鳴る椅子に座って、暫く待っていたが音沙汰無し。

 30分待った所で、再び大臣秘書に問いかけた。

「あの〜、大臣はまだですか」

「大臣は多忙なので、すぐにはお会いできません」

「どの位待てば宜しいのですか?」

「そうですね。場合によっては10時間ほどでしょうか」

「そ、そんなにですか。…。ああそうか、お手数ですが、これで大臣にお取りなしをして頂きたいのですが」

「ほう。幾らですか。10億…ですか。判りました。すぐにお会い出来る様に取りはからいましょう」

 早足で大臣室に向かった秘書はまもなく戻ってきて、

「大臣がお会いになられるそうです」

「有り難うございます」

 内心は、

「これが地獄の沙汰も金次第…ってヤツだな」


 大臣室に入った。内装のけばさにびっくりした。部屋の突き当たりの壁には巨大な抽象画が飾ってある。テーマは判らないが、金粉やら宝石やらをふんだんに使った物の様で、目が痛い位である。フロアはムートンを敷き詰めてあり、大臣の机には分厚い金の板が貼り付けてあるようだ。その机に居るのが所謂大蔵大臣である。

「ようこそ、おいで下さった。わたしが大蔵大臣のルドルフです」

「わたしは仕事人のハインデルです。世界各地を旅している者です」

「ところでご用件は?」

「この国よりももっと悪い国を教えて下さい」

「その前に貴方には国民の義務を果たして頂かないことにはお答えする事は出来ませんね」

「どれ位必要ですか」

「私は強盗ではない。金を要求するワケがないではないですか」

「では、何が必要ですか」

「貴方の誠意ですよ。その誠意によって、私の対応も変わってくると云うものではないですか」

「取り敢えず、20億ゴールドでは如何でしょうか」

「ははは、冗談のお好きな方の様だ。だが、冗談など言っている場合ではないでしょう?」

「200億ゴールドでは?」

「話にもなりませんね。不誠実な人間と話す時間など無い。そろそろ打ち切って宜しいか?」

「判りました。1000億ゴールドではどうでしょう」

「貴方は人にケチと云われた事はありませんか?」

「3000億ゴールド!」

「…まァ、良いでしょう。では質問に答える事にしましょう。嘘つきの国ですね」

「嘘つきの国ですか」

「さて、折角我が国に来ていただいたのですから、もっとゆっくりして下さい。我が国自慢の剣舞でも観て行きませんか?」

「いや、そろそろ帰らなければなりませんので…」

「そうですか…。おい! お客様がお帰りだそうだ」

 その声と同時に部屋の壁に仕込まれたドアが開き、いかめしい連中がぞろりと現れた。

「いやぁ、彼らは私の護衛なのですが、貴方に近づきになりたいそうなので、可愛がって下さい」

「いや、しかし、時間が無いもので」

「おうおう、下手に出れば、随分な物言いだな。オレ達を誰だと思っているんだ。泣く子もショック死して黙る程の地獄の天使、大蔵大臣親衛隊だ」

「彼らは何にせよ、礼儀を知らない乱暴者ですので、寛大な気持ちで付き合って下さい」

「おい、おっさんよ。随分派手に金使っているじゃねぇ〜か」

「オレ達にも寄こせよ」

「みんなで仲良くやってゆこうぜ」

「おうおう、おっさん。あんまり楽しそうじゃないな。そうか、いっちょここのベランダから下の地面にでも叩き落としてやろうか」

「やりすぎるなよ。殺してしまったんでは金が取れないからな」

「さァ、こっちへ来るんだ」

「ちょ、ちょっと待て。自分でベランダに行くよ」

「おい、何をしようってんだ」

 小走りでベランダの窓を開け、手を天空に掲げて、叫んだ。


「エントルゥザンク、召喚!」


 急にグラグラと建物が揺れ始めた。


「うわぁ、地震か」

 その揺れは一段とひどくなり、建物が崩れ始めた。更に、大蔵省の地面が渦巻きながら、沈み始めた。
沈みながら、まるで水のように周りの建物や人々を次々と飲み込んでいった。

 わたしは発動と同時に列車に戻され、沈み行く国の姿は幻の様にしか見えなかった。




第 4話 「三番目の国 嘘つきの国」

「お帰りなさい。次の国はどこですか?」

「嘘つきの国…」

「判りました」

「ああ、ひどい目に遭った。殴られた頭がズキズキするんです」

「そう云う事なら、車内のメディカルセンターで診てもらったら如何ですか?」

「え? メディカルセンターってひょっとして病院ですか。そんな物がこの列車の中に…」

「ええ、有ります。食堂車の次の車両です」

 早速、その車両に行ってみた。ドアをノックしても反応が無いので、開けて入ってみたが、誰も居ない。

「なんだ、居ないじゃないか」

 そう行って、戻ろうとしたら、白衣の女医がやってきた。よく見ると、ガイドが今度は医者になって居るのだった。

「ガイドさんじゃないですか」

「ええ。私は医者も出来るので」

「失礼ですが、医者の免許とか持ってらっしゃるんですか?」

「勿論ですとも」

「じゃあ、ちょっと診て下さい。さっきも云った様に、あの国で殴られたもので」

「拝見します。まァ、これはでっかいコブになってますね。ちょっと簡易CTを使って診てみましょう」

 女医はコの字型をした装置を私の頭に近付け、なにやら装置を操作していた。

「映像が出ましたが、これを観ると、特に骨には異常が無いようですね。脳も問題なし。ちょっと毛細血管が切れて皮下出血している様ですね。これは癒しの呪文で直しておきましょう。はい、出来ました」

 なかなかの手際である。しかも、呪文の効果もすぐに出て、痛みはすっかり無くなった。

「いやぁ、有り難うございます」

「どう致しまして。それはそうと、これが次の封書です」

 早速、開けてみると、

「嘘つきの国 オットー」

「嘘つきの国って、どんな国なんでしょうね」

「それは知りませんが、封書とは別に、メモが届いています」


 そのメモには、こう記されていた。

『1.これは本当の事だと、嘘つきが云った。果たして、それは信用できるだろうか?
 2.たとえ、嘘つきでも死ぬ間際には本当の事を云うものだ』


「何ですか、これは。禅問答かクイズですか」

「さァ、判りません。所で、今度の国にはこのピストルを持って行って下さい」

「まさか、先ほどのメモに有った、死ぬ間際を作って、本当の事を聞き出そうと云うのですか」

「それは貴方の解釈次第です」

「………」

とても、真意が判るとは思えないので、質問は止めにした。


「嘘つきの国に到着した様です」

「では、行って来ます」


 私はホームに降り立った。行き交う人の顔を見ると、皆、自信と優越感に満ちた、尊大な顔つきをして、肩で風を切って歩いていた。駅の建物は豪奢で、不必要な程に高い天井を持っていた。街に出た。やはり尊大な建物と人間が満ちていた。

「あの、すみませんが…」

 比較的尊大でなさそうな中年男性に声を掛けた。

「何ですか? 私は忙しいのです」 

「すみません。あの、オットーと云う人を捜しているのですが」

「オットー? あ、そうそうこの先の12番通りの中程にある、パン屋の主人です。では、失礼」

「どうも有り難うございます」

 なんだ、随分と親切な人じゃないかと和らいだ気持ちになって、目的地に向かった。ところが、12番通りが見つからない。仕方がないので、近くの雑貨店の主人に12番通りを聞いた。

「ああ、この前の道を通って、二つ目の十字路を右に曲がるとすぐだよ」

「どうも有り難うございます」

「えーと、二つ目の十字路…って、ずっとT字路しか無いじゃないか」

「すみません、12番通りに行きたいんですが」

 今度は通りすがりの老夫婦に聞いた。

「ああ、それだったら、この道を真っ直ぐ進んだ所がそうだよ」

「どうも有り難うございます」

 真っ直ぐ…って、すぐに行き止まりなんだけど…。途方に暮れてしまった。

「これがこの国の正体か…」

 公園の階段に腰掛けて、ぼぉ〜としていたら、軽快な音楽が聞こえてきた。

 我らの国は世界一
 偉大な国王統べる国
 一番強い軍隊と
 一番賢い国民が
 一番優れた芸術と
 一番磨いた技術もて
 世界を統べるその時は
 まもなく来るその時は

 我らの軍隊世界一
 偉大な国王統べる軍
 一番鍛えた肉体と
 一番耐える精神が
 死をも恐れぬ肉弾の
 最強兵器の力もて
 世界を統べるその時は
 まもなく来るその時は


「なんだ、こりゃ」

 犬の散歩をさせている夫人に聞いてみた。

「すみません、この流れている曲は一体なんですか?」

「ああ、貴方は外国の方ですか。これは我が国の国歌です。どうです、我らの国は正に世界一でしょう。貴方も世界各地を旅行しているのですか。そうですか。その国と比べてみても、我が国はやっぱり世界一でしょう」

「まァ、結構元気の有るほうでしょうか」

「そうでしょう。何しろ我が国は世界一なんですから」

「所で、私はオットーと云う人を捜しているのですが…」

「オットー …。ああ、そう云えば、12番通りの端っこにそんな人の店が有りましたね。確か、料理屋だったと思いますけど」

「どうも有り難うございます。因に、12番通りってどう行けば宜しいんですか?」

「そこの道を真っ直ぐ行って最初のT字路の所で、左に曲がってすぐですよ」

「最初のT字路を左ですね。どうも有り難うございます」

「えーと、最初のT字路って、どこまで行っても今度は十字路しかないじゃないか。うわぁ、またかよ。一体どうしろってんだ」


「…取り敢えず、交番にでも行ってみるか」

 打ちひしがれた私はトボトボと向かった。まもなく見つけた交番には警官が立っていた。

「あのぉ、済みませんが、オットーと云う人を捜しているのですが」

「オットーですか。国防大臣の?」

「肩書きは知りませんが」

「他に聞いた事が有りませんから多分そうでしょう」

「遭うためには、どうすれば良いでしょうか」

「国防省に行ってみたらどうですか」

「どう行けば良いんでしょうか」

 内心、緊張が増してきた。

「この道を真っ直ぐ行って、最初の十字路を左に行けば、有りますよ」

「…ちょっと、済みません。一緒に来て頂けませんか」

「どうしてです」

「いや、何人の人にも聞いたのですが、みんなデタラメを云っているんです」

「そんな事は無いでしょう。我が国の国民は世界で一番賢く誠実で、優れた者ばかりです」

「…まァ、そんな話はどうでも良いんですが、とにかく、国防省まで連れて行って欲しいんです」

「しかし、本官は他にもやらなければならない事があるし、ここを空けて置くこともできませんから」

「いんや、絶対に国防省まで連れて行って下さい」

「私の云った道順で間違いありませんよ」

「さっき通ったんだけど、どこにも国防省なんて建物は無かったよ!」

「大きな建物ではないんですよ」

「ああ、そうですか。で、道順はどうでしたっけ?」

「この道を真っ直ぐ行って、2番目のT字路を右に行くんです」


 ブチッ。私の頭の中で何かが切れた。


 腰のピストルを抜くと、すかさず警官のこめかみに突きつけた。

「てめぇ、さっきと云っている事が違うじゃないか。いい加減な事を云うのもほどほどにしろ!」


「…手を挙げろっ」

 短い言葉が背後から聞こえてきた。

 しまった。後ろを取られたか。

「うるへぇ、オレはオットーって人に会いたいだけなんだ。それをどいつもこいつもウソばかり云いやがって。さァ、オットーと云う人間に会わせろ!」

「どうします、隊長」

「下手に逆らうと人質が撃たれる。ここはマニュアル通り、下手に刺激しない様に、相手の云う事を聞いたフリをするに限るな」

「はい」

 隊長が穏やかな様子で話し始めた。

「…ちょっとキミ。先ずはキミの言い分を聞こうじゃないか」

「さっきも云った。オレはオットーに会いたいんだ」

「オットーは国防大臣だ。キミは彼にどんな用事があるんだね」

「大した用件ではない。この国よりもっと悪い国の名前を聞くだけだ」

「そうか。それなら大した話ではない。それが何でこんな事になったのかね」

「全くさ。みんながウソをつくからだよ」

「それは間違いだよ。いや、キミの意見を遮るワケではない。取り敢えず、オットーの所に連れて行く。それで良いか」

「…まァ、それならば良いでしょう」

「では、ピストルを下げたまえ。暴発でもしたら大変だ」

 素直に従った。と、その途端周りの警官がどっと飛びかかってきた。私はアッと云う間に組み伏せられ、蹴られ、踏みつぶされ、ピストルの銃尻と警棒で、気を失うまで殴り続けられた。鼻血が喉に入って苦しいと云う感覚の後、意識は無くなった。


「気がついた様だ」

 誰かの声がした。

「署長。容疑者の意識が戻った様です」

「やぁ、犯人君。気が付いたかね」

「あんたは誰だ」

「キミに話す必要はないのだが、警察の署長とだけ云っておこう」

「オレをどうしようってんだ」

「キミは重罪を犯した。一等市民である警察官に対する脅迫、暴行、傷害、殺人未遂、公務執行妨害、銃砲刀剣類不法所持…まァ、その他で強制労働30万年は固いな」

「そうかい」

「で、聞きたいのは動機だ。なんであんなマネをしたのだ」

「何度も云った。オレはオットーと云う人に会うために道順を聞いたんだ。ところがどいつもこいつも、挙げ句の果てには警官までウソを付く始末。で、頭に来たんだよ」

「ふん。愚かな人間だ。それに比べて、我が国の国民は世界で一番賢く誠実で、優れた者ばかりだ。ウソなどつく者など一人も居ない。全ては自分の偏見と誤解だと云う事に気づかないのかね」

「そうかい。で、私をどうしようと云うんだ」

「その事さ。何と国防大臣が会おうと云うんだよ」

「ウソだろ」

「わたしはウソは付かない。本当の事だ」

「だったら、ウラが有るんだろう。わたしに何をさせようと云うのだ」

「それは、私は知らない。大臣が説明するだろう」


「…そうとも。キミにはやってもらいたい事がある」

 急に甲高い声が入ってきた。

 署長が耳打ちした。

「大臣だ…。失礼の無いようにな」

 大臣が近付いて語りかけた。

「そうか。キミか。私に会う為に、ひどい目に遭ったと云うのは」

「お目にかかれて光栄です」

「そうかそうか。いや、我が国の者が失礼した。代わって謝罪する」

「いえ、その件はもう良いのですが、閣下に質問が有ってやって来たのです」

「その話も聞いた。それは後ほどと云う事で、先ずは私と一緒に来て欲しい。暫く、我が国の素晴らしさを堪能して欲しいのだ」

 再び署長が耳打ちした。

「おい。大臣の自慢話に付きあえとの事だ」

 このままでは埒が明かないし、止むを得ないな。

「判りました。閣下、宜しくお願いします」

「そうか、そうか。では参ろう」

 わたしは大臣の後を付いていったが、警護と称して左右を4人の屈強な男達に抑えられ、身動きできない状態であった。

「ここは、我が国防省直属の病院でな、その隣が最新兵器の展示場となっているのだ。どうだ、兵器には興味が有るか」

「いささか…」

「そうかそうか。何しろ我が軍は世界一。兵の質と量、士気の高さ、勇敢さ、礼儀正しさ、全てが世界一だ。戦えば勝ち、負ける前に敵を全滅させると云う気迫に満ちておる。しかし、兵隊だけでは強さを世界に示す事は出来ない。その強力な兵隊に世界一の兵器が合体した時、誰もが屈服する最強の兵団が生まれるのだ。そして、我が国は既にそれを持っている。さァ、見せてあげよう、最強の兵器群を!」

「はぁ」

「先ずは、これだ。世界最大の大砲だ。口径は80cm。砲身だけで30m。総重量は1500トンもあるのだ。この巨大砲から打ち出される7トンの砲弾は40km先の5mのコンクリート壁でも紙の様にぶち抜くことが可能なのだ。正に恐怖そのままだ。素晴らしい、いや、見事だ。どうだ。これをみて、我が軍が世界一だと云う事が真実だと確信できるであろう?」

「ええ。まァ」

「なんだ、まだピンと来ないのか。何が気になるのだ」

「つまり、こんなにデカイと目標になりやすいし、しかも装弾時間が凄く掛かりそうなので、結局兵器としての効果は小さいのかなと」

「な、なんだと。貴様ぁ民間人の分際で、良く知りもしないのに、けなすな。お前の云う事は全て予想の範囲内だ。これが世界最強なのは間違いの無いことだ」

「そうですか。失礼しました」

「よおし、この私を本気にさせてしまったな。では、未だかつて誰も観たことの無い新兵器を特別に見せてやろう。これだ。どうだ、世界最強のミサイル群。飛行機型とロケット型が有り、共に1トン爆弾を積んでいる。実戦配備数は、飛行機型が3万発、ロケット型が6000発にのぼる。特に、ロケット型は、突入速度がマッハ5を超えるので、迎撃は物理的に不可能だ。打ち込まれた国の者達は、このミサイルの落下音を聞く前に死んでいるのだ。どうだ、正に恐怖そのものであろう。参ったか」

「でも、費用と効果の関係を考えると、爆撃機で爆弾を落とした方が何10倍も安上がりなんですよね」

「き、貴様ぁ、この最先端ハイテクウェポンの戦略的意味や価値すら判りもしないのに、発言するな。何れにせよ、我が軍が世界一であることは判ったであろう」

「まァ、一応は…」

「そうかそうか。当然そうであろう」

「で、閣下、そろそろ本題に入りたいのですが」

「そうだな。キミにやって欲しい事、それは既に終わったよ」

「え?」

「つまりだ。我が軍の強さが世界一であることは疑いの余地も無いのだが、外国の人間の目で、それを確認してもらいたかったワケだ」

「つまり、国民は世界一に馴らされているので、正確な評価は出来ないと」

「いやいや、国民は固く信用している。我が国の国民は世界で一番賢く誠実で、優れた者ばかりだ。だから、一応参考として、聞いておこうと云う事だ。判ったか」

 ふと、ウソも百回繰り返すと本人まで信じる始末…と云う諺を思い出した。

「判りました。では、閣下、私の質問に答えて頂きたいのですが」

「いいだろう。ここよりもっと悪い国か」

「はい」

「聖人の国…だな」

「聖人の国ですね」

「うむ。間違いない」

 私はここでハッとした。そうか、ここは嘘つきの国。と云う事はこれもまたウソなのではないのか。しかし、云う事が全てウソならば、それは真実の逆を正直に喋っている事に他ならない。だったら苦労はしない。この国はもっとたちが悪い。つまり、どこまでウソでどこまで本当か判らないと云う罠。ならば、保険を掛けるしかない。

「閣下、もう一点だけ。ここよりもっと良い国はどこですか」

「もっと良い国か…。そうだな、探偵の国か」

「判りました。では私はこれで帰らせて頂きます」

「いいだろう、キミは自由の身だ」

 わたしを取り囲んだ警護の者はサッと道をあけた。わたしは囲みを抜けて一気に走り出した。すると、足をすくった者が居る。激しく転倒。

「何をするのか」

 4人の警護の者は、私を掴み上げて、展望台から、20m下のコンクリートの地面めがけて投げつけた。

「くそ!」


「エントルゥザンク、召喚!」


 次の瞬間、空気が透明な刃となった。それは猛烈な速度で走り始め、あらゆる物をズタズタに引き裂いて行った。先ほどの巨大砲も寸刻みの竹輪の様に崩れ、落下していった。

 私はその風の速さよりも早く、列車に戻された。




第 5話 「四番目の国 探偵の国」

「お帰りなさい。次の国はどこですか?」

「いや。ちょっと問題が有るんだ」

「どんな問題ですか」

「嘘つきの国だから、云った事が嘘とすると真実は『探偵の国』になる。でも、嘘でなかったら『聖人の国』になる」

「つまり、2カ国の名前を聞いてきたと云う事ですね」

「そうです」

「私には判断できません。貴方が決めれば良いでしょう」

 ガイドはニコッと笑いながら、答えた。

「やっぱりそうですか。では、探偵の国にします」

「判りました。探偵の国ですね。それはそうと、全身ボロボロになっていて、おまけに顔は腫れていますが」

「ああ、あの国で、ボコボコにされたんだ。持っていったピストルも、このボコボコの原因にしかならなかったし」

「では、また、メディカルセンターに行って下さい。私は後から参りますので」

 1時間後、修復は殆ど終わり、続いて、どの食事だか判らない食事をした。

「いててて。脇腹が痛い」

「肋骨を何本か骨折しています。癒しの呪文が効くまでに暫く時間が掛かりますので、無理な動きをしない様に」

「…判りました」

「次の封書はこれです」

 開封すると、こう書かれてあった。

「探偵の国 エーリッヒ」

「探偵の国…ってどんな所なんでしょうねって、やはり知りませんか?」

「ええ。ところで、この国には、この指輪をつけて行って下さい」

 その指輪は、金色で、2羽のスズメの絵が彫り込まれていた。

「なんですか、このマークは」

「さァ、判りませんが」

 さっそく、指輪を付けた。

「…さて。探偵の国には、あと、どれくらい掛かるんでしょうか」

「予定では、あと4時間位です。その間、少し休憩されたら良いのでは?」

「ええ。勿論そうする積もりです。次の国もどうせ、ハードな展開になるのでしょうから」

 ソファの上で、横になり、眠りに落ちた。
 と、夢の中で、何かイヤな感覚が走った。起きなければ。しかし、身体が動かない。やっとの思いで、腕を振り動かした時、目が覚めた。
 何の感覚だったんだろう。いや、今でも感じる。後ろからだ!
 しかし、そこには象牙の彫刻が置かれているだけで、異状はない。

「観られている…。だが、誰も居ない」

 納得は行かなかったが、再び眠りについた。不思議な感覚は最後までつきまとっていた。

 メイドに起こされた。

「探偵の国です」

「判りました。じゃあ、行って来ます」

 ホームに降り立った。人の気配が殆ど無い。駅員と思える人が何人か歩いているだけだ。

 駅の外、大通りに出てみた。流石に人通りが多い。馬車はひっきりなしに走っている。しかし、歩行者は皆サングラスを掛け、帽子を深々と被っている。中にはマスクをしている者も居て、これでは顔が殆ど見えない。馬車は窓に鎧戸が下ろされ、中を伺い知る事は出来ない。

「なるほど。探偵の国では、自由を守るために、あんな苦労をしているのだな」

 歩行者の一人に声を掛けた。

「すみません」

 と、その人物は雷に打たれでもした様に、ビクッとして、足早に去った。

「自分は探偵じゃないのに…何を警戒しているんだ」

 もう一人に聞いてみた

「ちょっと聞きたいのですが…」

「何か?」

「人を捜しているんです。エーリッヒと云うんですが」

 すると、彼の周り50cmの空気が凍り付いた様に感じた。
同時に、周りの歩行者の目が自分に焦点を結んだ様にも感じた。

 あ、何かヤバイかも。

 その場から脱兎の勢いで逃げた。
 大通りから1本入った路地で様子をみていた。特に変化は無い様だ。人通りも元に戻った様だ。

「ちょっと店にでも入って、ほとぼりを冷ますか」

 ちっぽけな食堂に入った。カウンタが5席ほどの店で、向こうには主人が居た。

「いらっしゃい」

「チャーハンとか出来るかい?」

「へい」

「じゃあ、それを一つ」

「まいど」

「所で、ご主人。人を捜しているんだが、教えてもらえるかな」

「どなたさんで」

「エーリッヒと云うんだが」

 再び、空気が凍った。

「どうしたんだ、ご主人。私は外国人なので、事情が全然判らないんだ」

「旦那。だったら、その名前を口に出さない方がいい。…それと、その指輪は何ですか? ダメだ、旦那。すぐにここから出ていってくだせい。オレ達が巻き添いを喰っちまう!」

「何だか知らないが、判った!」

 店を飛び出して、左右を伺った。幸い人影はない。大通りの反対側へ足早に向かった。

「くそ! 名前が云えないんじゃ、捜しようが無いじゃないか。とにかく、どうやらヤバイ人間の様だ。エーリッヒってヤツは。そう云った連中が居る場所と云えば、昔から地下水道か」

 路地ウラの人目の無い場所で、マンホールの蓋を開けて、中に入った。蓋は昔から動かした様子が無いので、自分の推理が合っているかどうか、心配ではある。
 鉄の梯子を下りる。ぬるぬるしていて、やっぱり使ったことが無い様だ。底に下りた。相当にひどい臭気が漂っている。しかし、嬉しいことに、通路面に多くの足跡が有った。

「間違いない。ここは使われている」

 水道の支線から本線へと進んだ。ふと、向こうから明かりがチラと見えた。正体が分かるまでは身を隠さねば。明かりはどんどん近づき、足音も聞こえてきた。時折、金属がぶつかり合う音が聞こえるので、銃を持っているのかも知れない。

「こっちで良いんだな」

「はっ。間違い有りません。不審者が逃げ込んだのは、この先の支線です」

「赤外線レーザー検知器の反応は?」

「本線に向かっているとの結果です」

「警戒を続けよ。遭遇するかもしれん」

「ピィ」

 突然、警報音が鳴った。

「どうした」

「例の組織が北部本線B地区付近で爆弾テロを起こした模様です」

「なに。すぐに周辺地下水道の制圧に出なければ」

「こちらの不審者はどうします?」

「優先順位だ。北部本線に行く」

「陽動とも考えられますが」

「兵力の厚みが違いすぎる。問題ない」

「判りました」

 軍靴の音が急に騒がしくなり、やがて遠ざかっていった。

「やれやれ。上手いこと助かったか」

「手を挙げろ」

 突然、背後から声が聞こえた。

「だ、誰だ」

「振り向くな。ゆっくり両手を上げるんだ」

 云われた通りにした。

「お、この指輪は!」

「少佐、あの指輪を」

「うむ。ちょっと聞きたいのだが」

「なんだい。こんな不利な体勢で何を聞こうってんだ」

「キミは、フライギルドを知っているか?」

「なんだ、そりゃ」

「知らないのか」

「知らない。オレは外国人で、或る人物に会いに来ただけだ」

「だれだ」

「エーリッヒと云う人物だ」

「それはオレだ」

「え?」

「オレに何の用件だ」

「質問がある。この国より…」

 突然、強烈なライトが当てられた。

「…全員、手を挙げろ。そこまでだ!」

「しまった、陽動だったか!」

「撃て!撃て!」

「発砲許可!」

 サーチライトがぶっ壊れる音や、銃声、怒号、悲鳴、絶叫がこだました。このままではやられると、私は支線に向かって走り出した。そこへも銃弾が降ってくる。どうやら、暗視装置を使っている様だ。そのまま走り続ける。前から何個ものサーチライトがやって来た。エンジン音がする。どうやら装甲車を水路に入れた様だ。重機関銃の重い発射音がとどろく。コンクリート製の壁面に当たった跳弾が、その先の連中を次々と倒して行く。

 敵味方関係なしかよ。そんなヤバイ連中と付き合う気はない。

 一気に装甲車との間合いを詰め、車の底のドブを目がけて飛び込んだ。装甲車の後ろに出ようと云う作戦だ。ブハッと顔を水面に出したら、そこは自由の空間ではなく、重武装の特殊部隊の真ん前であった。

 5本の銃身が向けられ、数発が身体をかすめた。狙った撃ち方だ。技量は高い。とても勝てる相手ではない。手を挙げながら、ゆっくり立ち上がった。後ろから銃座で殴られ、再びドブの中に崩れ落ちた。

 目が覚めた。全身がひどく痛む。頭は割れる様だ。しかも身動きできない。鉄製の椅子に縛り付けられている。ローブではなく、有刺鉄線でだ。

「あ、目が覚めたかね」

「ここはどこだ」

「そんな事は気にしなくても良い。早速本題に入ろう。お前は何者だ」

「ただの外国人だ。頼まれて、エーリッヒと云う人物を捜しに来たんだ」

「キミは、エーリッヒが何者か知っているのかね」

「知らない。この国に来て聞いても、誰も教えてくれなかった。地下水道で出逢ったんだ」

「そうかな。キミはウソが上手い様だ。本当のことを話したらどうなのかね。キミがエーリッヒの部隊の仲間であると云う事を」

「え? それは違う」

「違うという証拠でも有るのかね。無いだろう。いや、全ての事実はキミが彼の部隊の仲間であると示しているのだ」

「どう云う事だ」

「我々相手にシラを切れるとでも思うのか? キミがこの国の駅のホームに降り立った瞬間から今までの全ての行動は監視されているのだよ。いや、もっと正確に云うのなら、キミが列車に乗っている時からね」

「そうか、あの感覚はやっぱり監視されていたんだ」

「キミの行動に関する詳細な、そう、如何なる事も逃さず書かれた詳細な報告書がここにある。どうだ、分厚いだろう。1mはあるかな。ここに書かれている事実は語っている。キミはスパイなのだと」

「全然違うぞ」

「キミの指輪はここにある。これはエーリッヒの部隊のメンバーのみが使うものだ。連中の仲間意識を高める為のものだ。これだけで、キミの有罪は確定だな」

「その指輪はもらったもので、別に自分で進んで付けていたものではない」

「そうかね。全く説得力のない話だ」

「エーリッヒだ、エーリッヒは何と云っているんだ」

「慌てなくとも、ちゃんと尋問しているさ。キミの事については、知らないとの事だ」

「ホラ、やっぱりそうだろう」

「因に、キミが入った食堂の主人も尋問したが、大した情報は手に入らなかったよ」

「なんだって。あの人は無関係じゃないか」

「それを判断するのは我々だ」

「なんてひどい事を」

「それはそうと、エーリッヒの尋問が緩い様だ。もっときつく絞り上げれば、真実を白状するだろう。来たまえ。…と云っても、その状態では歩くこともできまい。おい、そいつを椅子からはずせ。後ろ手錠を付け直せ」

 私は、ポタポタと血を垂らしながら、尋問室へと向かった。分厚い鉄のドアが開かれ、一同はその中に入った。目の前にはエーリッヒが居た。まァ、エーリッヒと云われたから判った位で、拷問でボロボロになった状態では、顔や姿を見ても、誰だか判らない。

「おい、水をぶっかけろ!」

「さて、テロリストのエーリッヒ君。キミと、ここに居る外国人の関係を聞きたいのだ」

 エーリッヒは、やっとの思いで、こちらを観たが、見えているかどうか判らない。

「さァ、答えろ。この外国人はお前の仲間だな。どうなんだ!」

「ち…ちがう…」

「違うだそうです、将軍」

「ちょ、ちょっと待って下さい」

 私が口を挟んだ。このままではエーリッヒから答えを聞くことが出来ない。生きている内に聞いておかねば。

「なんだ、スパイ」

「同じ質問を繰り返しても、埒があきません。どうです、質問の方向を変えてみては」

「ふむ。そう云えばそうだな」

「先ずは、この国よりも悪い国はどこだ…なんて云うのはどうでしょう」

「そうか、うまくするとテロリストを支援している国を白状するかも知れない。これはポイントが高いぞ。スパイくん、良い事を教えてくれた。早速やってみろ」

 将軍の部下がエーリッヒの耳元で云った。

「我が国よりももっと悪い国はどこだ?」

「…無法の国」

「無法の国…ですね」

「なるほど、無法の国か。そこと繋がっていたワケだ! 早速、連絡だ」

 興奮する将軍を後目に、3歩下がった私は、両側の兵士の様子を見た。彼らは将軍の命令に気を取られている様だ。

 いまだ。


「エントルゥザンク、召喚!」


 次の瞬間、全ての光が消え、あらゆる物と人が闇となった。そして、巨大な音と悲鳴を響かせながら、一気に崩れ落ちた。

 私は、後ろ手錠をしたまま、列車に戻された。




第 6話 「五番目の国 無法の国」

「お帰りなさい」

「うーん。今度もひどい目に遭った」

「次の国はどこですか」

「無法の国…」

「無法の国ですね。判りました。所で、腕の肉が切れていますね。頭は例によってたんこぶが出来ているし、全身切り傷で、しかもこの臭い。これはドブですか」

「そうです」

「こんな傷でこんなに汚しては感染症になってしまいますよ」

「早速治療して下さい」

「その前にシャワーを浴びて下さい。車両はメディカルセンターの一つ先です」

 手錠を外してもらい、シャワー室の有る車両に行った。シャワー室と並んで、大理石造りの浴槽まである。

 浴槽に入りたかったが、この傷ではひどい事になるだろう。取り敢えず、汚れを落とすことだけに専念した。パジャマ状のゆったりした服が用意されていたので、それを着て、メディカルセンターへと向かった。ガイドは既に女医に着替えていた。今回は癒しの呪文だけでは間に合わず、傷縫いの呪文まで使うことになった。この呪文は実に痛かった。要は麻酔無しで傷を縫うワケだ。最後に傷消しの呪文を使えば、出来上がり。それにして、治療に2時間も掛かった。

 食事の後、癒しの呪文が効果を発揮しやすい様に、ソファーで休みながら、考えた。

 既に4つの悪い国を滅ぼした。確かに悪い国ではあるが、それなりに上手くやっていたのではないだろうか。別に他国を侵略しようとしているワケでもないし。まァ、世界一とか云って、見栄を張っていた国もあったが。今のところ、この仕事に迷いは余り無い。だが、もし、これから悪くないと思える国が出てきたらどうしよう。その時、自分はその国を滅ぼす事が出来るだろうか。仕事と割り切って滅ぼせるだろうか。

「まぁ、その時になったら考えるさ」

 傷の痛みも無くなって、ぐっすり眠った。やがて、列車の止まる軽い振動で目が覚めた。

 ガイドが近付いてきた。

「無法の国に着きました。封書はこれです」

 そこにはこう書いて有った。

『無法の国 ジョー』

「ここでは、このピストルを使って下さい」

「無法の国だから、やっぱり自分の身は自分で守れと云う事ですか」

「そうかも知れません。因に、このピストルには、相手よりも先に引き金を引くと云う呪文が掛かっていますので、決闘の場合は絶対に負けません」

「そりゃ結構。でも、相手も同じ呪文を掛けていたら?」

「その場合は、貴方の実力が物を云うでしょう」

「やれやれ。判りました」

 ホームに降り立った。楽団が演奏をして、来訪者を歓迎していた。

「へぇ、なかなか感じが良いじゃないか。無法の国って云うから、すぐにズドンと撃たれるのかと思ってたよ」

 駅を出て、通りをながめた。大きな看板が掛かっている。

『ようこそ。ここは自由の国。束縛や差別は一切ありません』

「無法の国じゃないのかな。間違いか?」

 その看板の端っこに小さい殴り書きが有った。

『そして、保護も』

 ま、そう云う事だよな、完全な自由ってのは。だから無法の国って事か、ここは。

「そこの旦那、土産を買っていかんかね」

 人なつこそうな老人が、店から身を乗り出して云った。

「どんな物が有るんだ」

「この国に来たら、何は無くとも自由饅頭だろう。どんな味がするか、とんと見当が付かないと云う代物じゃ。それと、自由カレンダーとか、自由時計なんかもレア物だなぁ」

「まァ、あんまり使い物になりそうも無いから、今度にするよ」

「そうかい、毎度あり」

 店を出ると、衣を裂くような女の悲鳴。観ると、酒で赤黒くなった凶暴そうな男が、女を引きずり回している。しかし、街の者は、誰も近寄ろうともせず、知らんぷりで為すがママにしている。

 私は助けに行こうかとも思ったが、こんな所でトラブルにでも巻き込まれると面倒だと、回れ右をした。

 突然、右手が勝手に動き、ピストルを抜くと、その男を射殺した。きゃあぁと女の悲鳴。そして、自由になったと知ると、あっと云う間に逃げ去った。その逃げ足の早いこと。

「うわぁ、なんだ」

 私は思わずうめいた。人が集まってきた。

「決闘かい」

「いや、急に、その…」

「ああ、確かに相手はピストルを抜いているよ。確かに決闘だな」

「それにしても、見事な腕前だ。見せてもらったよ」

「いや、その…」

「こいつはこの辺では有名なゴロツキでね、バックに市長が付いているから、誰も手を出せなかったんだ」

「あんた、勇気有るね。でも大丈夫か。市長一味は強いぜ」

「あの、その…。 ところで、ジョーと云う人を知りませんか?」

「ジョー…って、市長の名前だが」

「うん、そうそう」

「あんたは市長に会いに来たのかい」

「なんと!市長を倒す英雄がやって来たんだとよ。皆の衆」

「そりゃ凄いぞ」

「ひょっとすると、新市長の誕生かも知れんぞ」

「賭けるか?」

「え? 市長って選挙で選ぶんじゃないんですか」

「ここは自由の国だ。金と銃と仲間の数で勝負は決まるのさ」

「そう。市長はいつも云っているよ。弱肉強食、力は正義。オレがルールだ、法律だと」

「あんたが新市長になる為には、先ず、実績を作らなきゃならない」

「そうだ。先ずは、この街にいる市長一味を倒さなければ」

「次に、市長一味の本体が全力で向かってくるだろう。それを倒せば、新市長の誕生だ」

「でも、私は別に市長になりたいワケではないんです」

「今さら、何を云ってるのよ。既に市長の手先を片付けちまったんだよ。報復されるのは当たり前。前に進むしかないじゃないの」

「いや。それはそうなんだけど。私にはやらなければならない事が有るんです」

「そんな言い訳を聞くような、市長じゃないよ。覚悟を決めな。市長を殺すか、それとも殺されるか」

「そ、そんな事云ったって…」

「おっと。噂をすれば…。みんな、気を付けて」

 地平の彼方から、砂埃が上がっている。それは着実に近付いている。更に地響きも聞こえてきた。

 20台ばかりのトラックがやってきた。大通りに入ると、散開して停車し、荷台からはライフルやマシンガンを持った男達が、どやどやと下りてきた。彼らは私を取り囲むように並び、私の正面の人垣から、一人の男が現れた。

「お前か? オレの手下を殺したと云うヤツは」

「名前ぐらい名乗れよ。オレはイヌ畜生とは話さない主義なんだよ」

「な、なんだと、テメエ。なかなか云うじゃねぇ〜か。まァ、良いだろう。オレは市長四天王の一人…」

 私は発砲した。四天王の一人は即死した。たじろぐ手下共。

「ばかやろう。オレは四天王なんてゴミには興味ないんだよ。市長をだせ!」

 忠義面して、撃ってくるヤツが居る。しかし、私のピストルは、それよりも早く相手の心臓や眉間を打ち抜いた。もはや烏合の衆と化した連中に、私は云った。もうヤケクソって気持ちである。

「オレは市長になる。その力を持っている。オレに付いて来れるヤツだけ付いて来い。さもなくば、ここで死ね!」

 ぞろぞろと私の側に並ぶ連中が殆どであった。残った勇気有る連中に対して、私は云った。

「命は助けてやる。市長に伝えろ。逃げるな、とな!」

 かつての仲間の嘲笑を浴びながら、彼らは尻尾を巻いて逃げていった。

 サルーンを貸し切って、宴会をやった。100人ばかりのにわか同士を前に、私は宣言した。

「最後に勝つのはオレ達だ。これからはオレ達がルールになるのだ。市長達との闘いでは全力を尽くせ。この国を手に入れ、我が物顔で生きようじゃないか!」

 観衆は、床を踏みならして、同意した。

「新市長、敵がやってきましたぜ」

「よーし、手配通りに動けよ」

 街の入り口で待ちかまえた。すると、街の各所で爆発音が発生した。

「どうしたんだ」

「決まってるさ、市長の軍隊だ」

「陽動だ。惑わされるな。正面に集中しろ」

 その間にも、銃声や爆発音が轟く。ついには正面から突入してきた。装甲車に武装ジープ、更には軽戦車までやってきた。続く歩兵の数は1000名を超える。

「新市長、どうする。市長は全軍を投入した様だぜ。これじゃあ負け戦だ」

「オレは下りる」

「死ぬより降伏しよう」

 圧倒的な兵力を見せつけられて、烏合の衆は一瞬で戦意を喪失した。

 重装甲車が前に進み、スピーカーが怒鳴った。

「私は市長だ。無駄な抵抗は止めろ。抵抗すれば、世界の果てまで追い詰めるぞ。すぐに降伏しろ!」

 烏合の衆は銃を捨て、両手を上げて市長軍の前に並んだ。すると、装甲車の重機が一斉に火を吹き、降伏者をなぎ倒した。

「な、何をするんだぁ」

 悲鳴と怒号が轟く。だが、すぐに静寂が訪れた。

「ははは。オレがルールだ。裏切り者はまた裏切るものさ。だから始末したのだ」

「くそ。なんてひどい事を」

 思わず、私は叫んだ。

「自分の首が危ないのに、死んだ人間の心配をするヒマなんか無いだろう。さァ、お前も大人しく殺されろ」

「ちょっと待ってくれ。今、お前の所に行く」

「早くしろ。どうせお前らは吊し首で皆殺しだ」

 ピストルを捨て、市長の乗る重装甲車の前に進んだ。

「お前か、身の程知らずの馬鹿野郎と云うのは。オレに逆らうのは百万年早いんだよ」

「吊されるのは覚悟の上だ。ただ、その前に、2つだけ望みがある」

「ほう。なんだ、云ってみろ。気が向いたら聞いてやるかも知れんぞ」

「先ず、お前に聞きたい。この国よりももっと悪い国はどこだ」

「もう一つは?」

「首吊り台の上で、みんなに一言だけ云いたい事がある。それだけだ」

「それだけか。良いだろう。先ず、もっと悪い国だな。そうさな、大砲の国か。さて、次は台の上に登って世界の終わりの演説でもするんだな」

 市長の仲間達はバカ笑いを始めた。私は、首吊り台の上に登り、縄を前に云った。


「エントルゥザンク、召喚!」


 すると、急に風が止み、代わりにもやの様なものが地面から沸き上がってきた。

「な、なんだ。これは」

「み、観ろ。ここだけじゃないぞ。向こうも、いや、見渡す限りだ」

「一体、どうなってんだ」

 もやが、人々の胸の辺りまで上がってきた途端、オレンジ色の火花が飛んだ。次の一瞬、もやは一気に白熱と化し、見えるもの全ては火球に中に沈んだ。

 わたしは火球の速さよりも早く、列車に戻された。

 次の瞬間、列車は物凄い衝撃に包まれ、わたしは車内の反対側に吹っ飛ばされた。窓の鎧戸はひしゃげ、ガラスにヒビが入った。




第 7話 「六番目の国 大砲の国」

「お帰りなさい」

 ガイドがよろけながらも、引き起こしてくれた。

「うーん。今度はこぶを作らずに帰って来れたと思ったのに、またこぶが出来てしまいました」

「次の国はどこですか」

「大砲の国です」

「判りました。所で、今の衝撃の為に、列車の一部が壊れてしまったようです。発車まで暫く掛かるそうなので、ゆっくりしていて下さい。食事にしますか?それともお風呂が良いですか?」

「そうですね。この前入り損ねたお風呂にします」

 私は浴槽に向かったが、ふと観ると、ガイドが割れた窓ガラスに傷直しの呪文を掛けていた。窓ガラスは見る間に復旧していった。かなりの使い手のようだ。

「これは結構早く復旧するかも知れないな」

 そそくさと浴槽に向かう私であった。

 浴槽と云っても所詮は列車の中。共同風呂にちょっと毛が生えた位のものだが、10人くらいは一度に入れる位の大きさ。しかも浴槽の周りを露天風呂風の造りにしているので、なかなかのものである。

 湯気の中で、まどろんだ。ハードな世界が実にウソのように感じる。思わず笑えるくらいに。
 …と、急に、忘れかけていた物を急に思い出したような感覚に襲われた。

「これは、前にもあった」

 そう。探偵の国に着く前に感じたものだ。つまり、監視している奴が、ここに居るって事か。

「だれだ!」

 私は、浴槽の中でガバと振り返った。だが、誰も居ない。湯気で視界が遮られている。しかし、その先に、うっすらと揺らぐ物が見えたような気がした。

「止まれ。動くな!」

 思わず、手を前に突きだし、ピストルを構える仕草をした。しかし、そのピストルは無法の国で失ったはず…と思いきや、何と、手の中に忽然と現れた。驚く間もなく、ピストルは勝手に発砲する。

「ぐぅ!」

 鈍い叫びと共に何かが倒れた。私は浴槽を飛び出すと、その場所に飛び込んだ。と、その一瞬前に、カゲは渾身の力で閉ざされた窓に体当たりを食らわせ、何とかぶち破って車外へと消え去った。

 風がびょうびょうと入ってくる。

「逃げたか…」

 手のピストルを観ると、既に消えかかっていた。危険が迫ると出てくるのか?それとも別なルールがあるのか? 風呂場のドアをどんどんと叩く音がする。

「大丈夫ですか」

 ガイドの声だ。

「大丈夫です。スパイが入り込んでいた様ですが、今、窓を破って逃げました」

「取り敢えず、風呂を出て下さい」

「判りました」

 5分後、私はガイドに事件の顛末を話していた。

「そうですか。そんな者がいつの間に入り込んでいたのでしょう」

「全然気が付きませんでしたよね」

「取り敢えず、車外に出たようなので、これ以上の危険はないでしょう。それと、壊れた風呂場はあとで直しておきます」

 ガイドと別れ、私は途中の食堂車で食事を済ませ、いつもの部屋に戻ってきた。列車は既に動いており、安定した振動が伝わってきている。

 修理が済んだ鎧戸を開けると、外はすっかり夜だった。澄んだ柔らかな光を投げかける月と、それに照らされた丘と建物が見えた。ただ、建物に明かりは見えないので、妙に寒々とした雰囲気を醸し出していた。

 ガイドがやって来た。

「新しい封書です」

 開封すると、

「大砲の国 カール」

 と書いてあった。

「大砲の国って、やっぱり要塞みたいに、そこらじゅう大砲だらけなんですかね」

「さァ、私は知りませんが。まもなく着くので判るでしょう。それよりも、この国には、このカプセルを持っていって頂きます」

 ガイドが差し出したカプセルは透明で、ガラスの様な物で出来ているようだ。中には、黒褐色の塊が入っていた。受け取ると、思ったよりも随分と重い。

「これは何ですか?」

「プルトニウムです」

「プルトニウム…って、あの核兵器に使う核燃料と云うか核のゴミですか!」

「そうです」

「そ、そんなヤバイ物は持ちたくないです」

「問題有りません。このカプセルは10mの高さからコンクリートの上に落としても割れません。更に、プルトニウムは紙1枚でも、その発するアルファ線を遮ることが出来ます。化学毒性から云うと、致死量は1グラム位です。吸引すると100万分の1グラムでも発ガンして死にますが、このカプセルが有るから大丈夫」

「た、たとえそうでも、やだぁ」

「さァ、聞き分けのないことを云わないで、大人しく持って行きなさい」

「でもヤダぁ」

「何しろ、これが無いと任務は達成できないそうですよ」

「まァ、そうなのかも知れないけど」

「任務が達成できないのでは、仕事人の資格が抹消されますよね」

「そうなんですが」

「だったら、何しろ絶対安全なのですから、持って行きなさい」

「…何か、どこかの政治家が原子力発電所を誘致するときの台詞みたいですね。こう云うのは大抵ウソなんですから」

「どうするんですか、やるんですか、やらないんですかぁ!」

「わ、判りましたよ。やりゃいいんでしょ、やりゃぁ」

「そうです。どうせ折れるんだから最初から抵抗しなければ良い物を…」

「ったく…」

「それはそうと、大砲の国に到着しました。では、行ってらっしゃい」

「はいはい」

「返事は一回だけでいいんです」

「はいよ」

 ホームに降り立った。周りを見渡すと、特に大砲とか置いてある様子はない。

 駅を出た。通りは街灯が有るものの、かなり薄暗い。車が走っている。それを観て凍り付いた。戦車である。戦車が平然と走っている。流石にトラック(所謂、キャタピラー ←これは商標名)にはゴムパッドを取り付けているが、50トンクラスのレオパルド2とか、懐かしいティガー1辺りが走ると、地響きが凄い。
売買でもされているのか、20台とかまとまって走って行く姿もあった。

「さ、さすがに大砲の国だな…」

 取り敢えず、食い物屋に入った。中はカウンターとテーブル席が有り、私が入ると、客達はジロッと一瞥をくれた。私はカウンターに座り、取り敢えず、簡単な食事を頼んだ。

 すると、隣の席に、スッと男が座り、

「旦那。良いブツがありますぜ」

 と来た。

「どんな物だ」

「NBC。どれでもOKですぜ」

「Nだと、どんなものが?」

「20年ばかり前の水爆。起爆装置の核爆弾は無し。威力は0.3メガトン」

「20年前だと?燃料のトリチウムが半減して使い物にならないじゃないか」

「それはそうと、じゃあ、他はどうです?」

「Bって云うと、どんな物が?」

「兵器級炭疽菌20グラムを200万ゴールドでどうですか? それよりボツリヌス毒素10グラムを80万ゴールドで」

「あんまり好きじゃない。Cだと?」

「取り敢えず、三塩化リン、イソプロピルアルコール、ヨウ化メチル、フッ化ナトリウムのセット100キログラムで2000万ゴールドって所でどうです」

「合成している手間がおしい。完成品の毒ガスは無いのか?」

「この前、二液混合型の毒ガス弾頭が出てたんですが、売れちゃいました」

「うーん。気に入った物がない。悪いな…」

「しかた有りませんね」

 内心冷や汗をかきながらの受け答えだった。しかし、とんでもない物が売られているものだ。本物かどうかは判らないが。
 次に、市場に行った。…見事なものであった。天井まで積み上げられた自動小銃の箱やら、平置きにされたロケット弾など。

「どうです、旦那。このAK。新品の純正品ですぜ。1000丁に弾を100万発つけて、たったの2000万ゴールドですぜ。国が一つ落とせますぜ。こんなの他にないですぜ。いや、これが気に入らないのなら、AK74も有りますぜ。それとも、MP5A5の方がイイですか?RPG7だったら、20発おまけしておきまずぜ」

「次にするよ。それより、カールって人を知らないか?」

「カ、カールって云ったら…。い、いや、知らねぇ〜」

「そうかい」

 なるほど。カールってヤツはとんでもなく危ない人物のようだ。

 私は、もっとヤバそうな店に進んだ。黒眼鏡黒スーツの如何にも悪そうなヤツが二人、通る人間を値踏みしている。

「ちょっと聞きたいんだが。カールってヤツに逢いたい」

「ほう?あんた誰?カールって知ってんの?どんな用?」

「彼に買って欲しい物が有るんだが」

「何?」

「本当は、本人に観て欲しいのだが、これだ」

「ほう。どれどれ」

「オイ、これは…」

「そうだな。良いブツだ。所で、あんた、これが何だか知っているんだろうな」

「勿論。プルトニウムだ」

「ふむ。で、どの位売るんだ?」

「それは、カール本人に会わない事には云えないな」

「なるほど。判った。暫くそこで待っててくれ」

 間もなく、一人の小男が出てきた。脂ぎった禿頭の人物だ。如何にもずるそうな目で、こちらを見ている。

「さて、客人。私がカール商会のCEO、カールです。客人はどなたですか?」

「私は代理人だ。或る人物から、このブツの取引を頼まれたのだ」

「取り敢えず、こちらにどうぞ」

 わたしはカールに案内され、店の奥に進んだ。黒塗りの分厚いドアの向こうにこぢんまりとした部屋があった。そこで改めてカプセルを見せた。

「なるほど。これがそのブツですか。ほう、なかなか良い品物のようだ。良いでしょう。取り引きしましょう。所で、どの位の量をお持ちですかな」

「20キログラム」

「結構です。で、支払いはキャッシュで宜しいですか?」

「OKだ。但し前金で」

「良いでしょう。いつ手に入りますか?」

「今夜中に用意しよう。場所はそちらの指定で良い」

「判りました。では、明朝2時に市場ウラの12番倉庫の中で」

「判った…」

「値段は8000万ゴールドで宜しいか?」

「いいだろう」

「じゃあ、商談成立と云う事で」

 カールは早速金額を書いた紙を部下に渡し、キャッシュを用意するようだ。

 私は云った。
「所で、一つ聞きたい事がある」

「何でしょう」

「この国よりももっと悪い国って何処だ?」

「ほう。妙な質問ですな。まァイイでしょう。聖人の国ですね」

「聖人の国? それって良い国の間違いじゃないのか?」

「行ってみれば判りますよ」

「そうか…」

 そして、続けて

「エントルゥザンク、召喚!」

「な、何ですか、それは?」

 カールは驚くが、もう遅い。

 その途端、地面が激しく揺れ、そこかしこに地割れが出来た。すると、その地割れから異様な臭気と熱気が溢れ、ついには溶岩が濁流のように流れ出した。建物も人も、兵器も溶岩に焼き尽くされていった。

 わたしは地割れに落ち込む前に列車に引き戻された。




第 8話 「七番目の国 聖人(せいじん)の国」

「お帰りなさい」

「いやあ、恐ろしい国だった」

「そうですか。ところで、次の国は何処ですか?」

「それが聖人の国…だそうです」

「聖人の国ですか」

「ちょっと変だと思うんですが」

「どこが…ですか?」

「だって、それが悪い国なんですか?」

「推薦者が居る限り、それは悪い国ですね。これはルールです」

「それにしても妙なのは、嘘つきの国で聞いた2つの国のもう一つでもあるんですよね」

「そうでしたね」

「2度も出てきたと云う事はやっぱり悪い国なのかなと」

「悪い国の定義にヒントが有るのかも知れませんね」

「つまり、善人は悪人にとって悪人…って事ですか?」

「さァ、どうでしょう? では、私は準備がありますので」

 ガイドは、謎だけを残して去って行った。

 いかにも悪い国なら、最強呪文で滅ぼすのも、さほど抵抗はない。しかし、良いと思える国を滅ぼす事なんて出来ようか。それがルールであろうと。たとえ任務であろうと、自分の良心に逆らってまで行う必要があるのか? 無いんじゃないのか? もし、任務の失敗で仕事人の仕事を失おうと、自分が守るべき物は守ったと云う自尊心で生きて行けるのではないだろうか。そんな結論が出たら、何か気が楽になった。
 ソファーの上で、眠りに落ちた。

 目が覚めたら、昼の日差しだった。

 ガイドが起こしに来たのだ。

「まもなく聖人の国に着きます。これが新しい封書です」

 封書には

「聖人の国 ドロス」

 と書かれていた。

「今度も何か持って行くのですか」

「いえ。今回は有りません」

「そうですか…」

 ホームに降り立った。古くて小さな駅舎で、随分と年代物のような感じであった。

 駅前に出た。とてもみすぼらしい小屋が軒を連ねて並んでいた。

 小屋は全て開け放たれており、中をチラと観ると、坊さんが座禅を組んで座っている。或いは地面に身を投げ出して何か念仏を云っている。または、何かの像の様な物を必死に拝んでいる。

 なるほど、坊さんの国か…。そうなると、ありがた過ぎて、滅ぼすことは出来そうもないな。小屋の列をずっとながめては通りの奥に進んだ。小屋も一段と荒れ果てており、中の坊さんも既に亡くなって、仏さんになっている者もある。或いは風化して、形さえ崩れているものさえ。

「うーん、ちょっとやりすぎと云う気がするな」

 通りを更に奥に進む。すると、急にパァと開けて、きらびやかな寺院が目に入った。正面の門が開け放たれていたので、そこから入った。

「どなたじゃ」

 オクターブの高い声が問い質した。振り返ると、朱の絹織物に金糸の刺繍をした坊さんが立っていた。思わす有り難くなったので、腰を低くして答えた。

「失礼いたしました。わたしは諸国を旅する者です」

「それは遠方よりご苦労な事ですな。客人をもてなすのは仏の心。どうぞ、こちらにお入り下さい」

「恐れ入ります」

 案内された応接室は、やはり朱を基調とし、金と黒をあしらった内装であった。厳かな中にも煌びやかさが光り、落ち着いた香も漂って、この世の極楽と云った雰囲気であった。黒檀のテーブルと同じ材料の背の高い椅子が用意されており、座ると、召使いの美女が、お茶を運んできた。模様を抑えた青磁の器と黄金色に輝く茶は未だかつて観た事のない高貴な雰囲気を醸し出していた。

「まずはどうぞ」

 案内した坊さんが云った。有り難く頂戴した。

「所で、この古寺にどんな御用かな」

「人を捜しています。ドロスと云うのですが」

「ドロス…。知らぬな。ここには居らぬ」

「そうですか」

「もし彼に会ったら、何を頼む積もりだったのかな」

「ちょっと質問がありました」

「左様か。もし、その者がここに来たなら、尋ね人が居たことを伝えておこうぞ」

「宜しくお願いします。それはそうと、ちょっとお伺いして宜しいですか?」

「何なりと」

「駅前で見掛けた小屋と、この立派な寺院の差が大きすぎてビックリしたのですが、どうしてそんな差を付けているんでしょうか?」

「ははは。それは明らかなこと。小屋は修行僧が自らを鍛えている場所。贅沢は無用じゃ。そして、ここは他国の僧や旅の人々も利用する場所じゃ。粗末では客人に失礼であろう」

「なるほど。そうですよね。意味も知らず、大変失礼しました。良く判りました」

「そうか」

「失礼とは存じますが、もう一点だけ宜しいですか」

「何なりと」

「これだけの立派なお寺を維持するためには膨大なお金が必要と思われますが、それはどうしているのですか?」

「ははは、これもまた明らかなこと。この寺も、駅前の小屋も全ては信心深い国民の浄財や、外国からの僧たちの寄付によって成り立っている。まことに有り難いことではないか」

「なるほど、素晴らしいですね。どうも有り難うございました」

 寺を出て、再びドロスを捜しに、市街地に向かった。しかし、何処まで行っても、華やかな町並みは見当たらない。駅前の小屋と似たり寄ったりの状態である。
 店に行った。魚屋と思われる。しかし、肝心の魚が殆ど無い。フナやどじょう、巻き貝の仲間がちょっと置いてあるだけである。しかも、値段がとんでもない。1000ゴールドの単位である。つまり、庶民は魚が食えない。

「ちょっと、伺いたいのだが…」

「何でしょう?」

 店員も坊さんである。

「魚が少ないし、値段も高い。これはどうした事か?」

「ははは。これは明らかなことです。貴方は外国の方ですか。我が国は偉大なる上人様の統べる国です。上人様とは聖人の中の聖人。天上に最も近いお方です。その教えが我が国を極楽浄土に最も近い国へと導いているのです。そして、上人様は殺生を禁じております。仏の教えでは当然です。しかし、上人様はおっしゃられました。それでは民が飢え死にしてしまう。仏には法と慈悲がある。法を守るのは当然だが、慈悲も大事である。よって、採りすぎにならないよう、限られた者に漁をすることをお許しになりました。私たちは、それで魚を食する事が出来るのです。なんと云う広い慈悲でしょう。値段が高いのは止むを得ない事です。慈悲に値段を付けることは出来ません」

「はぁ、なるほど。しかし、少なすぎる魚は、国民に飢えを強いると思うのだが」

「国民は飢えては居りません。彼らは上人様の教えを十分に理解し、その教えに従って日々満足して生活しているのです」

「そうですか。いや、失礼した」

 とても、そうは思えないと云っても埒があくわけではないので止めた。八百屋も同様であり、肉屋に至っては、小鳥の胸肉しか置いていなかった。殺生の禁止、宗教上の理由で、鯨、牛、馬、豚、猿、犬、猫はもとより、ウサギ、鶏すら禁止されていた。
 端的に云うと、食べる物がない。全て禁止されていて、有っても食べてはいけない。たとえ食べて良い物が有ったとしても、慈悲に値段は付けられないと云う事で、法外な値段が付いている。しかも、食料の生産から流通まで牛耳っているのは坊さんたちである。
 食料だけではなく、衣料品、雑貨なども同じであった。一般人は、着る物も、住む場所もなく、いつも飢えているのは明らかだ。
 霞を喰って生きて行ける仙人ならいざ知らず、一般の人間にとって、この戒律は余りにも過酷であった。

 繁華街と思われる通りの一本裏道を通った。ボロ布に身を包み、骨と皮にやせ衰えた人々が、目だけぎらぎらさせながら、怯えた様子でこちらを観た。ふと、彼らの足元を見ると、骨が散らばっている。その大きさと形は明らかに人間の物である。

 なんてこった。飢えの余り、死体を喰っているのか…。

 目をそらして、大通りに戻った。大通りを歩く人々は、一様に肥え、生きた仏の様な清々しい雰囲気であった。大半が坊さんであったが、軍服をまとった者、ドレスのような煌びやかな服装をした者も居て、先ほどの光景とは別世界であった。

 これが、これが聖人の国の真実か…。しかし、なぜ国民はこんなひどい状態を放置しているのだ。

 先ほどの裏通りの方で、悲鳴が聞こえた。駆け足で、そちらに向かった。すると、赤い法衣を着た坊さんの一団が、通せんぼをしている。

「どうしたんですか?」

 一団のリーダーと思われる坊さんが進み出た。赤い法衣に黒の線が何本か入っている。彼は爽やかに答えた。

「問題有りません。上人様の教えに背いた者が居りましたので、捕らえて指導しようとしている所です」

「そうですか」

 すると、鈍い衝撃音と男の断末魔が聞こえた。

「どうしたんですか」

「問題有りません。これから寺に連れて行くところです。ご心配をお掛けしました。さァ、通行して構いませんよ」

 チラと走らせた、私の視線の先には、力を無くした肉体が、無造作にトラックの荷台に投げ込まれているシーンがあった。或る確信が生まれた。

「それはそうと、ドロスさんに逢いたいのですが…」

「ドロスは誰にも会いません」

 ほら。やっぱり居るんだ。

「では、伝言だけでもお願いできませんか」

「どんなでしょう」

「質問ですが、この国よりも悪い国は何処か」

「ははは。これは明らかなことです。我が国は天上に最も近い国なのです。我が国より悪い国は、つまり全部と云う事ではないですか」

「ま、そこの所を、ドロスさんに聞いて頂きたいのですが」

「そういう事でしたら、一緒においで下さい。ひょっとすると、ドロスは逢うかも知れません」

「それは有り難い」

 私は、坊さんの一団と共に、専用の赤いハーフトラックに乗せられた。この国でこんな車両を使っているのはやはり坊さんだけであった。市街地を出た。行く先はと云うと、先ほどの立派なお寺である。

「やっぱり、ここに居たか」

 私は心の中でうめいた。

「暫くここでお待ち下さい」

 坊さんのリーダーが応接室に案内してくれた。そこは何と云う偶然か。先ほどの応接室だった。


「…つまり、私が、貴方の探していた人物だったわけですよ」

 突然、オクターブの高い声が背後から入ってきた。先ほどの坊さんだ。

「え。貴方がドロスさんですか」

「その通り。私はこの国の闇の部分を支配する組織の頭です。まァ、ここまで喋ったという事は貴方は生きてこの国を出られないと云う事ですがね」

「な、なぜですか」

「ははは。これは明らかなことです。我が国の知られたくない部分を知ってしまったからですよ」

「そ、それは…」

「この国には明部と暗部がある。仏の教えを忠実に実行することにより、天上に最も近いと自他共に認める部分。それと、仏の教えを忠実に実行すると、国としてはやっていけない。だから、その辻褄合わせをする部分。これです」

「やはり、飢餓が問題だったんですね」

「その通り。飯を食わずにどうやって生きて行けと云うのか。人間は生き物だ。喰う、寝る、ひり出す。これが生き物。所が、殺生はするな。しても良いが僅かにしろ。木は切るな。切っても良いが僅かにしろ。水は汚すな、空気は汚すな、蟲は殺すな、草は切るな。これでは人間が生きて行けないではないか。しかし、天上に最も近い国と云う大義名分を下ろすわけには行かない。だったら、どうする。国民には飢えを強要し、旅行者は略奪、しかして最後は喰ってしまう。そして、全ての資源は寺と僧の極上の生活のために使う。私はそれを実行する組織の最高責任者ってワケです」

「なんと云う愚かな…」

「批判することは簡単ですよ。問題は、その教義と国家運営が両立しないと云う絶対矛盾なワケです。さて、私の説教を聞くのも苦痛でしょうから、そろそろ浄化して差し上げましょう」

「その前に、先ほどの質問の答えを聞きたい」

「ほう? ああ。ここよりもっと悪い国ですか。そんなの有るワケ無いじゃないですか、ここが最低なんだから」

「見識のある貴方だったら、一つくらい挙げる事が出来るでしょう」

「ふむ。まァ、ゴミの国ですか」

「エントルゥザンク、召喚!」

「え?」

 途端に、国中の空気が無くなった。生き物は血を吐いて死に、やがて、周辺からなだれ込んできた大量の空気の超音速の衝撃で、建物や地面、かつて生きていたもの、全てが粉みじんに潰された。圧縮の衝撃は今度は熱の塊となって膨張し、国中を光芒の中に叩き込んだ。

 私は、真空よりも早く、列車に戻された。




第 9話 「八番目の国 ゴミの国」

「お帰りなさい」

「いやぁ、危機一髪だった。もうちょっと間が開いたら、やられていたかも知れない」

「そうなんですか?」

「ひどい坊さんでしたよ、全く」

「それはそうと、次の国は何処ですか」

「ゴミの国」

「ゴミの国ですね、判りました」

 ガイドは私の苦労談には関心が無いようで、さっさと戻ってしまった。

 私は腹が空いたので、食堂車に行って、ガイドから食事をもらった。今日の食事は魚料理だった…。
 先ほどの記憶が甦り食欲は無くなっていたが、それでも「食べるときに食べないと後がない」と云う格言から、とにかく食べた。
 ソファに戻り、日記を書いた。こんなにハードな日々が続くと、前の出来事は印象が薄くなってしまう。日記を付ける事で、流されて行く自分を少しでも客観的に眺められれば良いなと思っての事である。
 しかし、何を書こうかと思っている内に眠くなってしまい、ついに眠ってしまった。
 夢を見た。誰かが私に銃を向けている。思わず、呪文を唱えた。しかし、何も起きず、私は撃たれた。痛い。ガバッと起きた。

「いやぁ、縁起の悪い夢だなぁ〜」

 日記とペンを片付けて、改めてしっかり寝ることにした。

「それにしても、寝言で呪文を云ったら、発動するのかな?」

「いや、確か前に本で読んだことが有ったな。気の集中が或るレベルを超えないと発動しないとか。本当かどうか知らないが」

 ぶつぶつ云いながら、結局寝てしまった。

 まだ薄暗い内に、次の国に着いた。ガイドが封書を渡した。

 そこには、

「ゴミの国 マーフィー」

 と書いてあった。

 ゴミの国か…。国中ゴミだらけで凄く臭い国なんだろうか。まァ、それだったら滅ぼすのにもそれほど抵抗はないだろう

「この国では、この服を着て頂きます」

「服ですか」

 ガイドが持ってきた服は、上等の羊毛で織られた、仕立ても上等なスーツであった。早速着てみると、ぴったりを合い、その姿は気品が漂うほどであった。

「お似合いですよ」

「うむ。何か貴族にでもなったような気分です」

「では、いってらっしゃい」

 ホームに降り立った。

 人はそれほど多くはなかったが、何か、制服姿の人間がやたらと目に付いた。警官のたぐいか。軍人ではないようだ。更に、私服の人間でも目つきの鋭いのが多かった。

「なんか、イヤな雰囲気だな」

 それでも、そう云った連中は私の姿を見ると、一瞬値踏みしてから何も無かったように他の人間に視線を移したので、どうやら、この服は効果が大きいようだ。私は自信を持って、胸を張りながら駅を出た。

 町並みは特ににぎやかと云ったものではなかった。人通りはやはり少ない。遠くから廃品回収の声が聞こえてきた。

「まいどお馴染みの廃品回収でございます…」

 ほう。のどかだな。

「…不要になりました年寄りや病人が居ましたら、多少に関わらず、現金と交換いたします」

 げぇ。なんだそりゃ

 思わず、通りに立ちつくした。その時、みすぼらしい男が周囲を気にしながら、声を掛けた。

「旦那。どうしたんで? そうかい。外国人ですね。驚くでしょう。この国は…」

「ああ。どうなってるんだ」

「旦那。ちょっと飯をおごっていただけませんか。代わりに、この国の事情ってヤツをお教えしますから」

「そうだな」

 汚くてうさんくさいヤツではあるが、ウソは無さそうだ。
 近くの飯屋に入った。上等でも場末でも無い、中ぐらいを狙った。流石に、この不釣り合いなコンビは目立ちすぎるので、入る場所を選ぶ必要がある。シチュエーションは召使いと飯を食うと云う風だ。

「旦那、こんな立派な所で一緒に食事をして良いんですか?」

「大丈夫だ。日頃のお前の働きぶりへの褒美だ」

 周囲に聞こえるように大声で喋りながら、飯を食べ始めた。店員や客は特にけげんな様子も見せずに、自分たちの食事に集中していた。

 男は、注文したラーメン定食を美味そうに喰っていた。私は主人と云う役回りなので、ハンバーガー定食を食べた。勿論、ホットコーヒーを付けて。

「…で、事情とやらを教えてくれるんだったな」

「へい。この国は人を人とも思わない、ひどい国でさぁ。何しろ、歳を取ったり病気になったりすると、いたわるどころか、足手まといと云う事で回収して施設に送ってしまうんでさぁ」

「施設?」

「施設って云うと、聞こえは良いが、要は収容所。年寄り病人だけじゃなく、犯罪者や素行の悪いもの、反政府分子なんかもぶち込んでいるようです」

「…最後は殺すのか?」

「まァ、とどのつまりはそう云うことになりやすね。若い連中には再処理、或いは再資源化と云って、洗脳をしているって話ですぜ。で、使えるだけ仕事に使う。年寄り病人は、ちょっと訓練して、山奥の廃棄物処理場送りだそうです」

「廃棄物処理場?」

「これも聞こえは良いが、要は危険な廃棄物を野積みにしているだけ。付近に居るだけでヤバイ物も扱っているって話ですよ」

「そんなもの、どっから持って来るんだ」

「外国ですよ。外国。外国の連中は有毒物質やら放射性廃棄物やら、自分の国では扱いたくない物を、金を出して、この国に輸出しているんですぜ」

「なるほど。で、この国では、そのゴミを受け入れる代わりに受け取る金で喰っていると云うワケだ」

「そうです。で、さっきの年寄り達の話ですけど、そんなヤバイ物を素手で扱っているものだから、すぐに病気になって死んでしまうそうですぜ。再資源化された若い連中は、トラックなどで廃棄物の輸送をしているんですが、連中も遅かれ早かれ同じ運命」

「ひでぇ。ひでぇ話だな。なんでそんな状態をほったらかしにしているんだ、この国は」

「なんでも、昔は堅気な国だったそうですよ。あっしの生まれる前の話です。でも、当時の政治家や役人が汚職で私腹を肥やしてばかりいたので、ばかばかしくなったまともな人々は外国に逃げてしまったらしいです。観光も工業も崩壊。借金だけが山ほど残り、ついでに事情で外国に逃げられなかった人達が残った。外国に売る物が何もなくなった政府は、世界のゴミを扱う事にしたそうです。で、金にも人にも余裕が無くなったので、旦那が呆れたように、歳だ病気だと理由を付けては足手まといとなる人間の回収をして死ぬまで強制労働させているワケです」

「まるでゴミの様な国だな…」

「ま、大きな声じゃ云えないが、ゴミの影響で、この辺の水も段々汚れてきているそうなので、あっしもそろそろ逃げ出したいんですが、先立つものが無くて、こうやって生きているわけです」

「そうか…」

「ちょっと伺いたいのだが…」

 突然、背後から声がした。振り返ると、警官の服装をした者達が5人ばかり、私たちを取り囲むように立っている。私は平静を装って、

「何かね?」

 と聞いたが、男の方は、蛇ににらまれたカエルのように、呆然としている。

「貴殿と、この薄汚い男との関係は?」

「ああ。たまたま道で会っただけだ。私は旅行者なので、道を聞こうと思ったのでね」

「そうですか。では、他人の関係ですね」

「その通りだ」

 冷たい台詞に、男はすっかりうなだれていた。

「この男は無宿者なので、施設に移送します。では、失礼しました」

「うむ」

 男は、情けない顔をしながら、連行されていった。通りの向こうに、黒塗りのマイクロバスが有り、男は格子のはまった窓の有る扉の中にぶち込まれて、運ばれていった。

「ところで…」

 警官のリーダーと思われる男が、再び私に話しかけた。

「貴殿はどちらから来られて、どちらに行かれるのですか?」

「私は、マーフィーと云う者に会うよう云われてきたのだが、知っているかね」

「マーフィー…ですか! 貴方にどんな事情が有るか知りませんが、その仕事は止めにした方が良いですよ。これはあくまで助言ですが」

「どうしてかね? マーフィーってのは誰なんだ」

「彼は、反政府分子のボスで、我々が探している一番のヤツなのです」

「え? そうなのか。それは困った。しかし、貴方の助言のおかげで、大変な事にならずに済んだ。有り難う」

「いやいや、旅行者の方にトラブルが有っては、我々の責任になってしまいますので。ではお気をつけて。良い旅を」

 警官が振り返った瞬間、ズンと重い音がして、飯屋のガラスが鳴った。

「なんだ!」

「爆発か?」

 ピィと警官の無線が鳴り、警官は外に走りながら、連絡を始めた。私も付いていった。マーフィーが反政府の人間であるからには、まともな接触は困難だ。ここは治安関係者に付いていった方が逢える確率は高い。

「なに。第3施設をマーフィー達が爆破、収容者達を逃がしただと。了解。すぐにこの地域に阻止線を引く。おい!第25小隊集合。全員集合だ!テロリストが第3施設の収容者を逃がした。ここに阻止線を引く。全員、急げ!」

 警官達はバラバラと走り、警備車を道路に並べ、その前にはバリケードを設置。更に警備車の窓から重機関銃を突き出し、サーチライトも車上に設置した。ムダの無い手際の良さである。

 警備車のスピーカーが叫びだした。

「こちらは治安警察です。付近の皆さんに連絡いたします。犯罪者多数が付近に接近している模様です。皆さんは速やかに帰宅し、厳重に戸締まりして下さい。速やかにお願い致します。こちらは治安警察です」

 私も元の飯屋に戻り、窓から事態の推移を見守った。店の主人や客は、治安警察を信頼しているためか、それほど深刻そうな顔もせず、飯の続きをしている。

 遠くで、パンパンと銃声が聞こえた。どうやら発見されたようだ。すると、すぐ近くでも銃声が聞こえ始めた。

「なんだ!」

「近くだぞ。大丈夫か?」

 治安警察の動きが激しくなった。いつの間にか薄暗くなった町並みを舐めるようにサーチライトが照らす。
背後から、ヘッドライトがやってきた。かなりの増援のようだ。

「第160中隊、到着しました」

「そうか。助かった。これだけでは守りきれないからな」

 指揮官同士の打合せが始まり、増援部隊は、周辺の通りやビルに展開していった。

「応援、ご苦労様です」

「何の。この辺は重要な防衛ラインだからな。ついでと云ってはナンだが、新兵器の実験もしたいと思ってな」

「新兵器…ですか」

「うむ。こっちの車に来てくれ」

 指揮官二人は、大型装甲車に向かった。装甲板を開けると、中に大型の機関銃が見えた。

「どうだ、これは」

「ガトリング銃ですね」

「普通の物ではない。この前、大砲の国で購入してきた物の一つだ」

「銃身が長いですね。それに口径が小さい」

「そうだ。対人殺傷用の特別製だ。口径5.56mm。銃身長1m。バレル数6。発射速度は毎分3600発。ものの1分も有れば、死体の山を築けると云う話だ」

「うーむ。これは凄いですね」

「だろう。こいつの威力を試したくてな。今日は絶好のチャンスだ」

 その時、銃声が辺り一面に広がり始めた。

「どうしたんだ。随分と多いぞ」

「陽動だろう」

 サーチライトが一斉に大通りの先に向かった。

 大勢の人達がぞろぞろとやってくる。みすぼらしい格好。老若男女。まともに歩けない年寄りも、抱きかかえられながら進んでいる。手には自動小銃や鉄棒、バットなど武器になりそうなものは何でも持ってきていると云う感じ。

「脱走者だ…」

「こんなに居るぞ」

「1000人、いや、2000人は居る」

 警備車が怒鳴った。

「そこの脱走者に告ぐ。無駄な抵抗は止め、大人しく降伏せよ。さもなくば皆殺しにする」

 ガトリング銃のモーターが回り始めた。

「やればいい!」

 脱走者のハンドマイクも負けてはいない。

「どうせオレ達は皆殺しになる運命さ。最後の死に花を見事に咲かせてやる。この腐った国の連中に、自分たちの未来の姿を見せつけてな! さァ、行くぞぉ!」

「あいつだ、あのハンドマイクがマーフィーだ」

 そんな声が聞こえた。

 そうか、彼か。

 わぁと云う喚声と共に、地響きを立てながら、群衆がこちらに向かってくる。

「やばい、やばいぞ!」

「店の奥に隠れるんだ!」

「脱走者。抵抗するならば、射殺する!」

 スピーカーが怒鳴った。

「撃て!」

 警官達の自動小銃が火を吹いた。同時に、新兵器のガトリング銃もブーンと云う、胃袋に響く低くてでかい音と破裂音が混じった音を立て始めた。
 怒濤の群衆の先頭集団が血しぶきにまみれて、一瞬で崩れ落ちた。後ろの集団は勢い余って、その死体の山にぶつかり、転がり、這い上がり、再び血しぶきに染まった。

「ははは。こりゃ凄いぞ」

「物凄い威力ですな」

「その調子だ。撃って撃って撃ちまくれ。撃てば当たるぞ!」

 死体の山を築きながらも、群衆は迫ってきた。自動小銃の乱射、火炎瓶の炎、鉄片やらコンクリートブロックやら投石がバラバラと降ってきた。

「えーい、手ぬるい。RPGは無いのか? 構わん。吹っ飛ばせ」

 大音響と共に群衆の先頭集団が吹っ飛び、ガトリング銃の弾の嵐が、とどめを刺す。それでも、迫ってくる群衆だが、既に大半は死に絶えている。

 土壇場でガトリング銃は弾が切れたようだ。既に沈黙している。

 射撃音と共に、立っている脱走者達は倒れ、今や、残っているのは数人。そして、全部倒れた。第160中隊の隊長が先頭に立って向かう。

「隊長、まだ危険です」

「何を云うか。こんな時に先頭に立つのは当たり前だ」

 何人かの隊員が自動小銃を構えながら、隊長について行く。隊長は腰の自動ピストルを抜いて、うめいている脱走者を次々と射殺する。…と、転がっている一人の前で止まった。

「おい、マーフィー。なんてざまだ。流石のお前もここで終わりだ」

「ちょっと待ってくれ!」

 云いながら、私はマーフィーに近づいた。

「誰だ、お前は!」

 第160中隊の隊長が驚きながらも怒鳴った。

「ちょっと、あんた。困るよ。こんな所で!」

 第25小隊の隊長が、止めに入った。

「知っているのか?」

「何でも、頼まれて、マーフィーに会いに来たらしいですが」

「あんたら、上流階級が出る場所じゃないよ」

「済まない。一言、マーフィーに質問したいのだ」

「どうします」

「まぁ、偉い人が云うんじゃ、仕方ないか。但し、一言だけだ」

「判っている。感謝する。マーフィー、一言聞きたいのだが」

「…誰だ、あんた」

「頼まれたんだ。質問に答えてくれ。ここよりももっと悪い国はどこだ?」

「なんて質問をするんだ」

 第25小隊の隊長が、困った顔をした。

「まァ、ちょっと面白そうじゃないか」

 第160中隊の隊長が云った。

「ここよりもっと悪い国…。無いよ、そんな所。ここが最低だ」

「いや、もっと悪い国があるだろう」

「そうだな、例えば、暗殺の国だな」

「暗殺の国…」

「よし。質問はもう良いだろう」

パン!

 マーフィーは射殺された。

「さァ、用事は済んだろう。帰った、帰った」

「エントルゥザンク、召喚!」

 その直後、地面が物凄いスピードで滑り始めた。付いて行けない人や家や車は転がりながら、盛大な絶叫を上げつつガリガリと削られ、あっと云う間に黒いしぶきになってしまった。

 わたしは、その寸前に列車に戻された。




第10話 「九番目の国 暗殺の国」

「お帰りなさい」

「いやぁ、ここもひどい国だった」

「そうですか。所で次の国は何処ですか」

「暗殺の国」

「判りました」

「暗殺の国って聞いたこと、有ります?」

「ええ、一応は。そっち系では有名な国ですから」

「どんな国ですか?」

「結構楽しい国らしいですよ。じゃあ、私はこれで…」

 詳しく聞きたい所だが、ガイドはつれなくも教えてくれない。

 さて、へとへとだ。風呂にでも入って、寝るとするか。

 13の国の内、既に8国を滅ぼした。次の国も滅ぼすのにふさわしい国のようだ。で、その次は何処だろう。そして、最後の国はどこだろう。それが終わったら、どうなるんだろう。あの謎の人物はどう云う反応を示すのだろうか。良くやった、ご苦労さん…と云う結末は無さそうだ。ご苦労さん、バキューンって感じかな。油断できそうも無い。ここからがいよいよ仕事人の本領発揮と云う事になりそうだ。
 浴槽に浸かりながら、そんな事を考えていた。ソファに横になっても同じ事を考え続けていた。夢の中に、また呪文を云うシーンが出てきた。今度は呪文を唱えている途中で撃たれた。有りかよ、そんな掟破り。
 冷や汗をびっしょりかきながら、目が覚めた。

「暗殺の国に着きました」

 ガイドが起こしてくれたのだった。

「これが封書です」

 開封すると、

「暗殺の国 エレーナ」

 と書いてあった。

 女?

 名前の雰囲気からすると、その様に思える。

「この国では、命を狙われますので、強力な防御呪文を二つ掛けます。如何なる物理的攻撃や化学的攻撃に対しても有効です。ただ、問題が有りまして、苦痛はそのまま感じると云う事です」

「ええっ。それってつまり、撃たれたら痛いし、殴られたら痛いって事じゃないですか?」

「その通りです。しかし、撃たれようが、切られようが、一切傷を負うことはありません」

「いや、そりゃ良いんだけど、痛いのは何とかして下さいよ」

「わかりました。じゃあ、苦痛を和らげる呪文も掛けておきます」

「助かります」

 呪文を3つも掛けてもらったが、特にどうと云う変化は無かった。さて、これで本当に効き目が有るのだろうか。

 ガイドが続けた。

「…たぶん、エレーナは貴方の質問に答えないでしょう。その時には、こう云って下さい。ソフィーナが云っていた。お前の恋人はもらったと」

「どう云う意味ですか?」

「その時が来れば判ります。その台詞の後に質問するのです。では、出かけて下さい」

「判りました」

 ホームに降り立った。正面にデカイ看板が掛かっている。

「忍者の国へようこそ アトラクション満載 無料ガイドをご利用下さい」

 ほう。結構楽しそうじゃない。なるほど、暗殺をアトラクションと言い訳しているのか。

 早速、ガイドセンターに向かった。総ガラス張りの明るい雰囲気のそこには、黒装束の女性ガイドがずらりと待ちかまえていた。一斉にご挨拶。

「いらっしゃいませ!」

 早速、リーダー格の女性が近付いてきた。

「お客様。忍者の国へようこそ。ガイドをご所望ですか?」

「ええ。まァ。…と云うより、人を捜しているんですが」

「人…ですか。どなたですか?」

「エレーナと云うんですが」

「エレーナ…。はい。存じております。当ガイドセンターのセンター長です。今は不在です。あと3時間ほどで戻ると思いますが」

「そうですか」

「どうでしょう。その間、ただ待っていると云うのももったいないですので、折角この国に来られた記念に、アトラクションを楽しんでいかれたら?」

「うん。まァ、それしか無いでしょうね」

 暗殺されても防御呪文で大丈夫だろうし、そうするか。

「かしこまりました。では、アザミちゃん、3時間コースでよろしくね」

 アザミと呼ばれた、新人っぽい娘がやってきた。

「アザミです。宜しくお願いします」

「はいはい。じゃあ、案内をお願いしますよ」

「では、こちらへどうぞ。先ずは、この貴重品預かり所に貴重品を預けて下さい。結構激しいアトラクションも有りますので、貴重品を落としたりするお客さんも多かったので、この様なシステムにしています」

「なるほど」

「それと、アトラクションでは結構汚れたりしますので、この特別製忍者衣装に着替えていただきます」

「そうかそうか」

 私は、現金などを預け、着替えた。やけに分厚い素材だ。

「忍者屋敷」と書かれた看板の方に向かって歩き出した。

「先ず、忍者のアトラクションを観ていただきます。ここでは忍者屋敷、忍者の道具などを使っていただき、忍者になった気分を味わっていただきます」

「最初は、この斜め屋敷です。中に入ると、あーら不思議。身体がなぜかしら壁に向かって勝手に落ちていくのです」

10分後。

「次は、このカラクリ屋敷。隠し扉に落とし穴、天井は吊り天井になっています。こちらに来て頂いて、このスイッチを押しますと、あーら不思議、天井が徐々に下がってきます。昔の忍者は、敵をこの部屋に閉じこめ、天井を落として殺してしまったそうです。恐ろしいですね。で、自分たちが逃げ出す時には、壁に仕込んである隠し扉から脱出と云う事ですね」

10分後。

「次は忍者の使った道具を観ていただきます。手裏剣、クナイ、まきビシ、水蜘蛛なんて云うのは有名ですね。刀は接近戦に都合の良い様に、短くなっています。それと、この黒装束の裏側は、サムライの着物になっているんですね。あーら不思議。着替える事で、姿を消した様に見せ掛けたんですね」

10分後。

「はい。では、最後に、忍者の食事を試食して頂きます。と云っても、仁丹みたいなヤツとかじゃ面白くないので、今日は特別に忍者ナベと云うのを作ってみました」

「忍者ナベ?」

「はい。栄養満点、特別の食材をふんだんに使った、他では絶対に食べられない料理ですよ。ここの限定品です」

「ほう。そりゃ面白そうだ。どれどれ」

 屋外に設けられた食事小屋の中に入った。木のテーブルが置いてあり、その上の携帯コンロにはグズグズと美味しそうな鍋が煮えている。
 エプロン姿の黒装束ガイドさんが2人、笑顔で迎えてくれた。

「いらっしゃいませ!」

「はい。このお椀によそって、お箸で召し上がって下さい」

 私は云われるままに食事に掛かった。

「なるほど、これをこうしてと。確かに、ちょっと見慣れない物が入っていたり。これって何ですか?」

「まァ食べてのお楽しみです」

「ふーん、何か魚の様だが…。グ、グフッ」

「どうしました、お客さん」

「は、腹が急に激痛が痛い…」

「まァ、大変。ちょっと、ここに休んで下さい」

「はぁはぁ、何とか収まった…」

「え゛? そ、そんなバカな…」

 びっくりするエプロンの黒装束であった。

「次は、この真っ赤な肉みたいな…、これはカエルか…」

「とっても美味しいそうですよ」

「ふーん、食用蛙とは違うね。ブ、ブフォオ」

「どうしました…?」

「な、何か意識が…ああ、大丈夫か」

「ぎ、ぎぇえ」

 更に驚く、エプロンの黒装束。それに対して私は平静を装って、

「え?どうかしましたか?」

「い、いえ」

「…ん? これは何かウナギか蛇の輪切りみたいだが…」

「似たようなものです。美味しいですよ」

「そうかい。グゥ… な、何か全身がしびれるような…ああ、治った」

「そ、そんなぁ〜」

「さて、次はこの葉っぱみたいなヤツを… ゲ、ゲフッ…」

「こ、今度はさすがに…」

 期待したエプロンの黒装束だったが、

「ぜぇ、ぜぇ。何とか収まったし…」

 驚愕するエプロン姿の黒装束二人とアザミ。驚愕と云うより、恐怖で顔がひきつっている。小声で話し合っている。

「ええぇ〜!、絶対有り得な〜い! トラフグの肝臓と卵巣をふんだんに使ったナベなのに…」

「ハブやイチゴヤドクガエルを丸ごと食ったしぃ〜」

「ベニテングダケや、バイケイソウ、トリカブト、スズランも一杯入っているよ」

「しかも、箸は夾竹桃を使っているしぃ」

「先輩の話だと、このナベ一つで1万人殺せるって云ってたけど、ウソかも…」

 その間、私は食べても食べても腹が焼けるような激痛しかこないので、食べるのを諦めた。

「ウプぅ。もう食欲も無くなったし、食事はもう結構」

「…そ、そうですか。大した事無くて良かったですね」

 蒼白になったアザミは無線で連絡をした。

「B班、次はそちらの番だ。準備よろしく」

 アザミはにこやかに云った。

「忍者のアトラクションも、これで終了です。お疲れさまでした」

 更に続ける。

「次は、有名な映画のアトラクションです。今日はゴッドファーターだそうです」

「あれって、ドンパチが多い作品だよね。実際に撃つの」

「アトラクションは安全です。本物そっくりですけど。じゃあ、早速、この自動車に乗って下さい。料金所に付くと、前と後ろの車にサンドイッチされますが、ここでアトラクションの始まり、始まりです」

 私は自動車に乗って、料金所に向かった。その時、映画のセットの裏側では、B班のメンバーが打合せ中であった。

「さァ、行くよ」

「一気に行くよ。AKに特別製の50発マガジンを付けたから、撃ちまくるんだよ」

「あの…、このガトリング砲も使うんですか?」

「決まってるだろ。20mmだからベンツのエンジンも一瞬で瓦礫になるよ」

「ちょっとやりすぎじゃないの?」

「相手は毒薬の効かない、呪文が掛かっているヤツだ。銃弾だって効くものか。こうなりゃ物量で潰すまで」

「でも、あんた。また携帯を使うんだろ」

「これが好きなんだよ。好きなタイミングで好きな場所を吹っ飛ばせるからね」

 その頃、私の自動車は料金所に着いた。早速、サンドイッチになった。しかも、前の車は10トントラック、後ろの車は大型トレーラーで、ブレーキも掛けずに突っ込んできたものだから、私の自動車はサンドイッチどころか、スクラップになってしまった。そこへ銃撃がやってきた。

「ぎゃぁ〜! 痛てぇ〜! いて、いて、いて!」

 更に、耳をつんざく20mmガトリング砲の乱射が始まった。

「あちちち、いでででで…。死ぬ、絶対死ぬ!」

 その時、B班では、

「どうだ、ミンチになったか?」

「全然ダメだ。物凄い強力な防御呪文だ」

「やっぱりダメか」

「やるか?やるか?」

「そう喜ぶなよ。やってよし!」

「短縮番号2!」

 ゴォーンと大音響と共に、C4爆薬10キログラムが私の足元で爆発した。

「ぎゃあああ〜!! いてぇよ〜!」

 20mの高さまで飛ばされて、自由落下。思いっきり頭から着地した。ぐしゃぁ!

「う、う。うわぁ〜、いてぇ!」

 痛いので走り出した。それでも劣化ウラン製20mm弾は諦めず、バラバラと打ちつけ、衝撃で私は数メートル先まで吹っ飛ばされた。

「あぢぢぢぢぢ、いてえよ〜」

「短縮番号5!」

 再び足元で爆発が起きた。跳躍、そして再び自由落下。ぐしゃと着地した途端にその場も爆発。へろへろになりながらも、やっと出口にたどり着いた。

「ご苦労様でした」

 アザミが笑顔で迎えた。私の格好と云えば、殆ど何も着ていない状態。忍者衣装もボロボロである。

「あら、ケプラー40枚重ねの防弾スーツも役に立ちませんわね」

 私は答えた。

「そ、そりゃぁ、ケプラーどころか、厚さ1メートルの鉄板でも、形が残っていないと思うよ。こんな事されりゃあ」

 アザミの笑顔は変わらない。

「そうですわね」

 私は切り込んだ。

「さて、あんた達のお遊戯に付き合うのもここまでだ。この国の本当の所を話してもらえるかな」

 アザミの営業スマイルは変わらない。

「そうですわね。A班、B班のみんな、出てらっしゃい」

 途端に、ぞろっとスタッフ達が現れた。総勢20名ばかり。黒装束やつなぎ、私服など様々である。

 アザミが話を始めた。

「私たちは、このセンターで暗殺技術の習得と実習をしている実習生なのよ。そもそも、この国は暗殺者を養成して、外国に輸出する事で食べている。私たちはこの国を経済的に支えている事になるの。特に、この国立研修センターに入れると云うのはいわばエリートと云う事なの」

「で、観光客を相手に実習なる物をやっているワケだ」

「その通り。観光客から金品、衣服、全てを頂いて、しかも彼らを実験台に暗殺技術を磨けるなんて正に一石二鳥と云う事ね」

「でも、私を殺すことは出来なかった」

「ホント、完敗ね。薬物のプロ、これは私とあのエプロンの二人だけど、これでも薬殺六段と云う、この国でも十八人しか免許を持っていない凄腕だったのよ」

 B班の私服が云った。

「私は爆殺五段。携帯電話を使ったリモコン爆殺が得意なんだけど、相手が死なない人間じゃあ、どうしようも無いわね」

 やはり、B班のつなぎの連中が云った。

「私たちはチームだけど、全員銃殺7段と云う、この国で一番のチームなのよ。それにしても、20mmガトリング砲で無傷なんて有り得ないわ」

 アザミが続けた。

「私たちの弱点はただ一つ。物理的、化学的な攻撃に力を掛けすぎて、魔法による攻撃をおろそかにしてしまった。このメンバーの中には法殺、つまり魔法で殺す事だけど、五段までしか居なかった。所が、貴方の防御呪文は九段より上で無ければ無効化できないほどの強力なもの。叶うワケ無かったのよ」

 アザミは、向き直って云った。

「でも、私たちの国には法殺十段の人が居るのよ。世界の5本の指に入る人が。それが…」

 アザミは私の後ろに視線を飛ばして、云った。その言葉を受けて、背後の人物が続けた。

「そう、待たせたわね。わたしがエレーナ。法殺十段。全てを話したのは貴方を確実に殺せると云う自信有ってのことよ」

 振り返ると、背の高い、細面の女が立っていた。切れ長の目は鋭く、口元は笑みを絶やしていないが、それは営業スマイルに他ならない。

「あなたがエレーナさんか」

「で、私に何の用?」

「質問がある。この国より悪い国は何処だ?」

「…ちょっと待って。最近、妙な噂を聞いているの。国ごと滅ぼしているヤツが居ると」

「私も聞いた」

「そんな事出来るの?」

「最強呪文を使えばね」

 エレーナが総括した。

「その、国滅ぼしの最強呪文、つまり、エントルゥザンクを使いまくっているヤツが居ると云う噂よ。エントルゥザンクの使用条件に場所の推薦が有るんだけど、貴方の質問はそれに該当すると考えて良いのよね?」

「ええ!、すると、この国を滅ぼすと云うの、この人が!」

「全ての事実はそれを示しているわ。どうなの。まァ、仕事を引き受けた仕事人がその秘密を喋るはずないけどね」

 私は沈黙するしかなかった。

「とにかく、その質問に答える事は出来ないわ。この国の終わり、そして、次の何処かの国の終わりでもあるわけだから」

「先輩、どうします。こいつ」

「殺しましょう。防御呪文だって、先輩の力が有れば解けますよね」

 エレーナが答えた。

「その件よ。法殺十段でしか解けない防御呪文をしかも3つも掛けるなんて、一体誰なの?私の知っている限り、この世界には居ないわ」

 私はやっと口を開いた。

「じゃあ、たぶん、あの世の人なんでしょうね。或いは、呪文を掛ける力は優れているが、解くことは出来ないとか」

「貴方もその正体を知らないと云うワケね。だったら、話は簡単だわ。これ以上、聞く必要はない。私が防御呪文を解除するから、みんなでやってしまいなさい」

「はい!先輩」

 やばい。やば過ぎる。防御呪文が無かったら、この国では10秒と命が持たない。こうなったら、ガイドから教わった台詞を使うしかない。

「そういえば、ソフィーナが云っていた。お前の恋人はもらったと」

 その瞬間、エレーナの人相が変わった。知性的な目がつり上がり、不吉な憎悪に満ちた目になった。

「な、何ですってぇ〜」

「せ、先輩、どうしたんですか?」

「ソフィーナのヤツ。ぶっ殺してやる!」

 冷静さを失った今だ! 私は質問した。

「この国より悪い国は何処ですか?」

「そんなの、不幸の国に決まっているでしょう!」

「せ、先輩!」

 私は待ちに待った台詞を発動した。

「エントルゥザンク、召喚!」

 途端に、地面が白熱し始めた。建物も人も、ロウのように溶けて行く。

「みんな、飛べ!」

 エレーナ達は高い場所を求めて飛び上がったが、安全な場所など有り得ない。結局は白熱する地面に叩きつけられ、溶けて行くだけであった。

 私は地面が白熱する前に列車に戻された。




第11話 「十番目の国 不幸の国」

「お帰りなさい」

「いやぁ、今回はマジにヤバかった。ガイドさんから教えてもらった、あの台詞がなければ、多分殺されていたと思います」

「やっぱり…。役に立って良かったですね」

「ところで、あの台詞の内容ですが、エレーナとソフィーナの関係って、何なんですか?」

 ガイドは営業スマイルを崩して、ニヤリと云う表情をした。

「あらゆる面でのライバルって事ですね。魔法の力も、恋の方も…」

「はぁ、そうですか。エレーナの怒り方がただごとじゃなかったので、正直、ビックリしました。因に、ソフィーナって人は、何処の人なんですか?」

「それはちょっとした秘密です。それより、次の国は何処ですか?」

「不幸の国です」

「判りました。5時間ほど掛かると思いますので、入浴や食事をしていて下さい。怪我はないにしても、全身汚れまくっていますよ。それに殆ど服が無くなってますし」

「防御呪文のおかげで、この程度で済みました。助かりました。それはそうと、私があの国で預けた貴重品とか衣類とかはどうなったんでしょう」

「残念ですが、回収は無理です」

「やっぱり…。まァ大した物は無かったんですが…。それよりも、聞いておきたい事が有るんです」

「何でしょう?」

「エレーナの話によると、私たちの行動がかなり有名になっています。それで私の正体がバレそうになったんです。対策が必要と思いますが」

「そうですね。これだけ派手な行動をしているのですから、噂に上るのも当たり前。仕事の邪魔にならないように作戦を考えます。では」

 ガイドは考えると云っていたが、命が掛かっているこの重要な問題は他人任せには出来ない。自分なりに考えてみた。

 理由はともかく、自分の国を滅ぼそうとする人間がいる。それを知ったら、彼らがすることは防衛だ。外国人に気をつけろ。そう考えるに違いない。更に、魔法の力の強い連中には独自の情報ネットワークが有るようだ。どうやら魔法省の上とも繋がっている。質問に答えなければ、私が呪文を発動することはないと云う情報も流れている。やりにくい。非常にやりにくい。不幸の国を含めて、あと4つ。どうやったらしのげるか。

「やっぱ、自白呪文でも教えてもらおうかな…」

 自分なりの結論は、そんな所に落ち着いた。

 早朝に列車は「不幸の国」に着いた。ガイドがやってきた。

「新しい封書はこれです」

 中には

「不幸の国 ゲオルグ」

 と書いてあった。

「ところで、ガイドさん。私の質問が拒否された時の対策として、自白呪文を教えてもらいたいんですが」

「はい。例の件ですね。承知しました。自白呪文の他に、キャッシュを持っていった方が良いと思いますので、両方用意しましょう」

「ありがとうございます」

 自白呪文は、最強の物を教えてもらった。何しろ、ガイドさんが大変な魔法使いだと云う事は暗殺の国で判明したので、迷わず、最強を選んだ。勿論、魔法省の使用許可済みである。キャッシュの方は、5000万ゴールドを用意してもらった。

「では、いってらっしゃい」

 私はホームに降り立った。

 すると、わらわらと人が集まってきた。老婆が多い。

「おお、遠来のお方。どうぞ、この不幸な老婆の話を聞いて下され」

「なんですか?」

「私ほど不幸な者は居りますまい。物心ついた時には既に両親はなく、残酷な親戚の間をたらい回しにされ、12歳の時から労働者として、毎日深夜まで働かされました。手に入れた僅かな金は親戚に奪われ、そんな生活が10年も続いたのです。この境遇を救ってくれる白馬の騎士を待っていたのですが、ついに私を救ってくれる人が現れたのです。私は結婚しましたが、その男の正体はただの遊び人。いままでよりも、もっときつい仕事をあてがわれ、ついには身体を壊してしまいました。すると男は私を捨て、他の女と高飛びしてしまいました。それから50年の時が過ぎましたが、私一人生きて行くのが精一杯。どうぞ、旅のお方。哀れと思うなら、私を救って下され。残り少ない命を貴方に捧げましょうぞ」

「うーん。確かに不幸と云えば不幸だけど、よく有る話って感じですね」

「おお、なんと云う情けない言葉。老婆は最早死ぬしか有りません」

「どきな!」

 別な老婆が、先の老婆を押し倒して、私の前にやってきた。顔中をくしゃくしゃにして、目は既に泣きはらしている。

「旅のお方。世界に私ほど不幸な者がありますでしょうか。昨日の事でございます。雨の中、私は傘もなく、ずぶぬれで歩いていました。すると、目の前に100ゴールド玉が落ちていたのございます。有り難い。天の思し召しじゃ。これであと1日長らえることができる。早速拾いました。しかし、よく見てみたら、それは100ゴールド玉ではなく、1ゴールド玉だったのです。なんと云う不幸!天は私を見放したのか!泣きました。降りしきる雨の中、一晩ずっと泣きました。旅のお方。私は2日間、何も食べていないのです。どうぞ、哀れと思って、思し召しをお願いします」

「はぁ。泣いているヒマがあったら、もう一度歩いて100ゴールド玉を探した方がイイと思いますけど」

「どきな!」

 別の老婆が現れた。

「遠来の旅のお方。この世に私ほど不幸な女は居りません。昨日のことです。私は主人と食事をしていたのです。食事といっても、目刺しに沢庵と云う、ごく粗末なものです。その時です。恐ろしいことが起きたのです。私がちょっと目を離したスキに、主人は私の目刺しを半分奪ったのです。しかも、あろう事か、それを平然と私の前で喰ってしまったのです。なんと恐ろしいこと。私は主人に悪魔が乗り移ったと考えました。それからです。私の悪魔払いが始まり、気が付くと、主人は頭を打ち砕かれて死んでいました。一体誰がこんなひどい事をやったのでしょうか。悪魔です!悪魔が主人を殺したのです。私は警察に駆け込み、事件の顛末を話しました。すると、どうでしょう。警察は私を逮捕すると云うのです。罪もない私がなんでそんな目に遭わなければならないのでしょう。そうです。警察も悪魔が乗り移ったのです。私はそう確信して、必死で逃げました。おお、遠来の旅のお方。私を不幸から解き放って下さい」

「うーん。やっぱ警察に行った方が良いと思いますけど」

「どきな!」

 別の老婆が前に出た。

「旅のお方。どうか、この老婆の話を聞いて、その不幸に同情して下され。1ヶ月も前の事になりますが、私は或る遠国の企業の株式を大量に買ったのです。その時で2000万ゴールドもの大金です。証券会社の人は、絶対に儲かる。損をしたなどと云う話は聞いたことがない、と云っていたので、すっかり信用してしまいました。それからまもなく、証券会社の担当者から電話が有ったのです。株価が下がっているので、このままでは大損をしてしまう。今買い支えれば、すぐに株価は上がるので、2倍儲かると云うのです。大損はいやなので、私は買い支えを決意しました。すぐに、家と土地を担保にして、2000万ゴールドを借り、買い支えに使ったのです。しかし、なんと恐ろしい事になったのでしょう。遠国の企業は潰れ、証券会社の担当者は逃亡してしまったのです。私が出資した計4000万ゴールドは跡形もなくなりました。証券会社に文句を言ったのですが、それは契約の範囲内であり、証券会社は責任を負わないとの答えでした。ああ、何という不幸。この世が終わるような不幸です。旅のお方、1500万ゴールドでいいんです。更に買い支えをすれば、前の金は戻るそうです。この哀れな老婆を助けてくだされ」

「はぁ。あんた、早く株から手を引いたら? 個人株主なんて結局吸い取られてポイですよ。法人ならウラで損失補てんしてくれますけどね」

「どきな!」

 別の女性が現れた。

「旅の方、この世に私ほど不幸な者は居りますまい。両親は私たち子供を置き去りにしてどこかに行ってしまいました。幼い弟や妹を抱えて、一家を支えるため、私はスポーツ選手を目指し練習に明け暮れました。しかし、選手選考会当日に階段から転げ落ちて骨折し、選手になることは出来なくなりました。それどころか、後遺症で歩くのもやっとの状態になってしまったのです。スポーツバカからスポーツを取ったらバカしか残りません。しかし、私はやり遂げたのです。スポーツへの情熱を勉強に振り向け、ついにこの国一番の大学を受験することになりました。しかし、何という事か。ヤマが外れて、受験失敗。それからです。不幸に弾みが付いたのは。弟は暴走族の仲間が出来て、万引きや恐喝の常習者となり、少年院を出たり入ったりの生活。妹は悪い男に騙されて、水商売に入り、そこでケンカに巻き込まれて刺され、半身不随になってしまいました。その上、ひき逃げされて、全身複雑骨折で寝たきりになってしまいました。ああ、何と云う不幸なのでしょう。ついには私も生活が荒れて、毎日宝くじとパチンコ三昧。家に帰れば帰ったで、弟と金を巡っての殴り合いの日々。おお、余りにも悲惨な生活。神よ、一体私が何をしたと云うのでしょう。何の罪もない私たち兄弟に降りかかるこの不幸の雨。どうぞ旅のお方。私たちを哀れんで、どうぞお力を貸して下さい」

「うーむ。他に比べて、確かにこれが一番の不幸みたいですね。所でこの国の社会保障制度はどうなっているんですか」

「おお。この国は貧乏で、国民の生活を支える力が無いのです。ですから、私たちはこうやって、人々の慈悲を頼りに生きているのです」

「そうですか。所で、私は人を捜しているのですが、教えてくれたら10万ゴールド差し上げましょう」

 群衆の目の色が変わった。

「え!? ホントかい!」

「ああ、本当だとも。おっと、その前に、ルールを説明しないとね。みんな一斉に答えを云ってしまったら、誰に褒美を出して良いか判らないから。では、一列に並んで、ここで私が質問を耳打ちするから、あなた達も私に答えを耳打ちしてくれ」

 早速始めた。

「ゲオルグって誰で、何処にいるのか」

「ああ、ゲオルグっては、この国の総理大臣さ」

 他の3人にも聞いたが、同じ答えだった。私は4人に褒美を渡し、自分の不幸を話したがる人々を後に駅前に出た。

「総理大臣か。先ずはその居場所に行かなくては」

 タクシーが待っていたので、乗り込んだ。

「どちらまで?」

「総理のゲオルグの居る場所だ。総理官邸か?」

「へい。その通りで。じゃあ、行きます」

 タクシーは走り始めた。

 運転手は話し始めた。

「お客さん。外国からの人ですね。聞いてやってくださいよ。私ほど不幸な男はこの世にいませんよ。何しろ、競輪競馬をやっても負けっ放しで、家計は火の車。家内は愛想を尽かして家出してしまうし、子供にも穀潰しとバカにされて、毎日殴られたり蹴られたり。やっと始めたタクシー運転手ですが、毎日どこかにぶつけては、社長に弁償しろとか、給料から差し引くとかの罵詈雑言。私は一生懸命やっているのに、なんでこんなひどい仕打ちを受けなければならないんでしょう?私のような不幸な人間が、この国では沢山いるのです。でも、他の人は助けてくれない、面倒をみてくれない。全くの無関心。不幸な人を助けることもしないなんて、何と云う非人情。人間じゃありませんよ。多分、政府が悪いんです。罪のない国民が云われない不幸に晒されていると云うのに、何もやってくれない腐った政府なんです。みんなで政府を倒し、人々を不幸にしている根源を滅ぼしましょう。その為には先ず金が必要です。お客さん、私たちを哀れと思い、資金をカンパして下さいよ」

「…所で、総理官邸って、この先に見えるところか?」

「へい。そうです。じゃあ、ここで降りますか? はい、3060ゴールドになります。まいどあり」

 タクシーを見送って、ため息をついた。

「全く、不幸自慢をして何になるってんだ」

 総理官邸に入り、受付で面会を申し込んだ。

 受付の女性は、肩を落として、顔を蒼白にし、うつむいて、今にも泣きそうな感じだった。

 ヤバい。ここでも不幸自慢を聞かされそうだ。訴えかける様な彼女の視線を外して、2000万ゴールドを総理に渡すよう云って、何とか総理大臣に会うことに成功した。

 総理大臣の執務室に入った。

「ようこそ、私がこの国の総理大臣、ゲオルグです」

「初めまして。私は各地を旅する者で、ハインデルと申します」

「さて、今日はどんな御用でしょう」

「実は、総理に質問がございます」

「ほう?」

「この国よりももっと悪い国は何処ですか?」

「何と。妙な質問ですね。この国よりもっと不幸な国は世界広しといえども、有りますまい…」

 やっぱ、国を挙げての不幸自慢か…。げんなりしながら興味深そうなフリをして聞いていた。

「国は狭い、人口は少ない、資源はない、気候は悪い。国民は頭が悪い、性格も悪い、口も悪い。事業を興そうと思っても税金が少なくて、何もできません。国民に重税を課せば反乱が起きるし、何もしないと無能と罵られ、政権の首が危なくなる。一体、私に何をせよと国民は云うのですか?何も出来やしない。誰がやっても同じ結果ですよ。それを私一人の無能だと云うのですか? 何と云う不幸。何と云う云われ無き暴言。世界に私ほどの不幸な総理大臣が居るでしょうか?いやしませんよ!
 外国も外国だ。私が頭を下げて、金をくれ、いや、貸してくれと云っても、昔貸した金が返ってこないからダメだとか、何とか理由を付けて、結局金を貸してくれない。何と云う謀略。我が国を不安定にして、私を失脚させ、最後は我が国を併呑しようと云う謀略です。その様なあからさまな謀略を天が許すと思うのですか。許すわけがない!
 私は正しい道を歩んでいるのです。それが判らない、または判ろうとしない連中はバカです。そのバカがこの国にはびこっている。私は許しませんよ。その様な利敵行為をする国民など、国民ではない。だから、私はそいつらを逮捕して、自白するまで拷問を掛けているのです。それの何処が悪いのですか?我が国の治安を保つのは私の義務だ。それをやっていけないとでも云うのですか?我が国の安全は我が国が自分の力で確保すべき物。他国に相談したり、許可を得たりする必要など、微塵もありませんよ。しかし、国民の一部や外国は、それを非難している。何と云う内政干渉でしょう。この様な傲慢さが許されるはず無いんです。私は世界で一番不幸な総理だ!
 しかし、決して負けはしませんよ。税金を重くしても軍隊を強くし、我が国を狙う外国を滅ぼし、必ずや我が国の独立を守り抜くでしょう。国民にどんなに悪く云われようと、どんなに不幸な境遇であろうと、私は必ず成し遂げますよ!」

 総理は天を仰ぎながら、絶叫を繰り返し、目は天に釘付けになったまま。演説が一通り終わると、荒い呼吸をしながら、紅潮した顔をこちらに向けた。目は血走って、恐怖と狂気に満ちていた。

「…お話は良く判りました。所で、先ほどのご質問の答えをお願いしたいのですが」

「先ほどの質問? 何でしたっけ?」

「この国よりもっと悪い国は何処か?」

「ああ、何と云う不幸。ついに我が国にも最後の時が来たのか!」

「と云いますと?」

「お前だ。お前はこの国を滅ぼす邪悪な者だ。聞いているぞ。悪魔の化身が国を滅ぼしに来ると云う事を。彼は云うのだ。ここよりもっと悪い国は? それに答えると、国は亡び、次の国も滅ぶ。ああ、恐ろしい。お前は不幸そのものだ!」

「はいはい。良く判りましたよ。じゃあ、自白呪文に行っちゃいますよ」

 私はガイドに教えてもらった自白呪文を使った。

「はい。大きく息を吸って。で、吐く。さァ、答えを…」

「き、恐怖の国」

「エントルゥザンク、召喚!」

 突如、太陽の光が無数の透明な槍(やり)と化した。それは、建物であれ、木々であれ、人であれ、全てを一瞬で貫き、貫かれた物は砕け散った。

 私は槍が地上に届く前に、列車に戻された。




第12話 「十一番目の国 恐怖の国」

「お帰りなさい」

「ガイドさんから教わった自白呪文が役に立ちましたよ」

「そうですか。それはそうと、次の国は何処ですか?」

「恐怖の国」

「ああ。とうとうこの国の番になったんですね」

「どうしました。ガイドさんにしては珍しい」

「この国はちょっとやっかいです。と云いますのは、世界で5本の指に入る魔法使いが3人も居るのです。彼らは用心棒として王を守っているのです」

「と云う事は、例の防御呪文が破られてしまうと云う事ですね」

「そうです。そうなると、物理的な攻撃が有効になるので、貴方の命は風前の灯火となるでしょう」

「そりゃ、思いっきりまずいですね。何とかなりませんか?」

「こう云った状況は想定内です。対策は考えてあります」

「どんな手ですか?」

「この3人を取り除けば、残りは数を恃みの低級魔法使い、つまり烏合の衆です。3人を互いに戦わせ、自滅させようと云う作戦です」

「そんなうまい作戦が有るんですか?」

「もちろんです。3人を仮にA、B、Cと名付けましょう。
3人の関係はじゃんけんと同じで、一方に強く、もう一方に弱いと云う関係の連鎖です。もし、この連鎖の中に貴方が入れたらどうでしょう」

「それは…相手の弱点を突いて、互いに離反させ、戦わせることが可能ですね」

「その通り。ですから、貴方は、その3人の魔法使いに化ける事が出来れば良いのです」

「それはそうですが、具体的にどうすれば良いんですか?」

「わたしが変身魔法を掛けてあげましょう。貴方は呪文を使う事で、3人のどれかに化ける事が出来ます」

「でも、ニセモノ作戦の場合、本人しか知らない細かいことを質問されてバレるってのがお約束なんですよね」

「その通りです。それと、本物とバッタリ出逢ってバレるってもパターンですね」

「じゃあ、ダメじゃないですか」

「大丈夫。スキは有りませんよ。私の使う変身魔法は、化けた相手の記憶をコピーすると云う画期的な能力を持っているのです。ですから、化けている間は、質問でバレると云う事は物理的に有り得ません」

「それは結構。でも、本人とバッタリ…ってのはどうすれば良いんでしょう」

「これは貴方の運の強さに頼ることになるでしょう。それと立ち回りの旨さですね」

「やっぱりそうですか…」

 恐怖の国までは10時間ほど掛かると云うので、食事をしたり、風呂に入ったり、物思いに耽ったり、となかなか忙しく過ごした。

 最後は寝るだけだ。

 恐怖の国。一体どんな国だろう。きっと恐ろしい連中が至るところに居るのだろう。そんな事を想像しながら、ついには眠りに入った。
 夢を見た。ニセモノがばれてしまった夢だった。恐ろしい姿をした巨人に私は取り囲まれ、今、正に叩き潰されようとしていた。ドッと汗を吹き出しながら、目が覚めた。

「正に、恐怖の国って感じだったな…」

 窓の外を見ると、丘が連なっていた。その丘の上には、何故か大勢の人達が居て、こちらを見ているようだった。その人達の中に、時々キラキラ光る物が見えた。更に、妙にがさばった物が丘の上に置いてある。

「何だろう。何をやっているんだろう」

 駅に近付いたので、ガイドがやって来た。

「間もなく恐怖の国に到着します。新しい封書はこれです」

 封書には

「恐怖の国 ブルフォン」

 と書いてあった。

「誰だろう」

「いずれ判りますが、3人の魔法使いのリーダー格の人物です」

「知っているんですか?」

「ええ。みんな知っています。なぜかって? 世界の5本指の魔法使い達は、みんな同じ歳なんですよ。いわゆる、同期の桜ってヤツです」

「同期の桜…ですか。古過ぎませんか?」

「それは置いておいて、五行説と云うのを聞いた事は有りませんか?」

「ごぎょうせつ…ですか。知りません」

「古代中国の思想ですが、万物は5つの元素から成り立っている。5つの元素とは『木土水火金』です。昨日説明したように、これらにはじゃんけんの様に各々得手不得手があるんです。5人の魔法使いも同じです。暗殺の国で倒したエレーナは『火』の性格でした。恐怖の国の3人は『金木土』です」

「では、『水』は誰なんですか」

「それはいずれ判る時が来るでしょう。それより、恐怖の国の3人です。『金』はタレントのようにカッコイイ男です。『木』は華やかな女性です。『土』は地味ながらどっしりしている女性です。力関係から云うと、エレーナは『金』を支配していたんですが、『火』の性格が災いして自滅しました。すると、支配される事が無くなった『金』は『木』や『土』にちょっかいを出すことでしょう。そこに付け込んで、貴方が3人を誘導すれば、彼らは自滅することになるでしょう」

「なるほど。では、先ずは『金』つまり、ブルフォンに変身ですね」

「その通りです」

「じゃあ、念のため防御呪文をお願いします。それと、変身呪文が使えるように」

「判りました」

 私はガイドに呪文を掛けてもらった。

「では、ブルフォンに変身してみて下さい」

 私は変身呪文を唱えた。

「メイクアッ〜プ! ブルフォン」

 私は、長身の美形に変身した。ガイドは私の姿を見て、ほぉっとため息をついた。

「では、いってらっしゃい」

 私はホームに降り立った。

 ホームは凄いことになっていた。ホームに面した駅の建物の周りには土嚢が山のように積み上げられ、その隙間から、戦車砲やら、ガトリング砲やら、自動小銃やらが針の山の様に突き出していた。列車を狙っている。土嚢を積み上げた内側では、多くの兵隊が、右往左往しているのが見えた。

「ここは戦場かい」

 ブルフォンの心の中をサーチした。エレーナへの想いと悲しみが占めている。他の二人の女性への特別な感情は無いようだ。…もう一人いる。暗い影のようなイメージの女性が。それは誰だか判らない。ソフィーナ?
 更に、この国よりもっと悪い国をサーチしたが、答えはなかった。

「おい!そこの!止まれ!」

 突然、兵隊に呼び止められた。

「ボクのことか?」

「そうだ…って、貴方はブルフォン卿ではないですか」

「そうだが」

「これは失礼しました。何しろ、我が国を滅ぼそうとする強力で凶悪で凶暴な魔法使いがこの駅から入ってくると云う情報が有りましたので」

「なんだ、その事か。君たち、遅すぎるよ」

「え?」

「その魔法使いは既に我が国に侵入したとの情報を得た」

「な、なんですって!そりゃ大変だ! どこですか?そやつはどこに?」

「国王の宮殿に決まってるさ。他に何処を狙おうと云うんだい」

「ま、まさに。失礼しました。おい!全員に命令だ。ここを撤収して、直ちに王宮に戻るぞ!」

 罵声と怒号が入り乱れ、兵隊達は荷造りもそこそこに、武器を背負って王宮に向かい始めた。

「さて、私は別なヤツに化けるとするか」

「アラ! ブルフォンじゃないの!」

 明るく高い声が、私を呼び止めた。

「ああ。セレンじゃないか。どうしたんだ」

「この国を滅ぼしに、強い魔法使いがやってくると云うので、手ぐすね引いて待っていたのよ」

「お気の毒さま。既にヤツはこの国に入ったよ。キミも王宮に向かった方が良いんじゃないか?」

「大丈夫よ。王宮にはジョゼフィーヌが居るから。それより、この素敵な列車でも見て回りましょうよ」

「ははは。相変わらずだな、セレンは」

「だって、この列車の豪華なこと。凄いと思わない? まァ、ブルフォンって、いつも仕事仕事って云って、全然付き合ってくれないからね」

「いやいや、キミのことを忘れたりはしていない。だが、近頃は例の国滅ぼしの呪文を使いたい放題にしている魔法使いがいるので、この国も危険なんだよ」

「でも、ボクたちはこの国に雇われているだけだし、そんなに義理堅くしなくても良いんじゃないの?」

「君たちはそうでも、僕はプロの意地ってものが有るからね」

「そうかな? プロの意地よりも、エレーナの弔い合戦って気持ちじゃないかな?」

「おいおい」

「ま、ブルフォンはエレーナに首っ丈だったから、それをどうのこうの云う気は無いけど。でも、寂しそうなブルフォンを観ていると、ボクも寂しいな…」

「ははは、セレンの僕に対する気持ちは痛いほど分かるよ」

「え〜!ウソばっかり!全然わかってくれてないよ」

「まァ、冗談はともかく、エレーナの面影ってのが抜け切れてないんだよ、悪いけど」

「しかたないよね。つまんないの」

「済まないね。そうだ、今日の夕食は、ごちそうしてあげよう」

「え?ホントなの?いいの?」

「ああ。じゃあ、時間が出来次第、連絡ハトを飛ばすから」

「判った。じゃあ、期待しないで待ってるよ」

 セレンを見送った。

「さて、次はセレンに変身と」

 建物の陰に隠れて、

「メイクアッ〜プ! セレン」

「さて、心の中をサーチすると…。やれやれ、そんなにブルフォンが良いかね?ジョゼフィーヌに対しては、それほどライバル意識は無い…と」

 私は王宮に向かった。駅だけではなく、道路もひどい状態だった。国が亡びると云う恐怖心から、家財道具をまとめて国外に脱出しようとする人々が溢れかえっていた。しかし、兵隊は逃亡を食い止めようと、銃を使って、人々を押し返していた。銃で撃たれても、後ろの人間が更に進み、ついには兵隊達の阻止線を突破して、銃撃の中、多くの人々が脱出に成功していった。
 失政が続いたこの国は、国民の不満を表面化させまいとして、警察と軍を強化し、国民の統制に励んだ。とどめは、世界最強の魔法使いを3人も雇い、国王の警護を行っている事であろう。彼らは強大な権力を与えられ、不穏分子の摘発や捜索を行い、国民の不満にフタをする役目を負っていた。押さえつけられた熱い沈黙が、この国を覆っていたのである。そこに降って沸いた様な大事件発生。最強呪文で国が滅ぼされると云う情報は、そのフタを蹴飛ばすほどの威力があった。国民は生き延びるために、命賭けで国外脱出をするしか道はなかったのである。つまり、「恐怖はより大きな恐怖によって克服される」と云う教訓である。

「既に終わっている…何と云う哀れな状況だ」

 時々不規則に飛んでくる流れ弾を避けながら、王宮に入った。防御呪文が掛かっているので、例え弾に当たっても傷にはならないが、痛いのには変わりない。暗殺の国での痛みを思い出してしまう。

「セレン殿!」

 士官らしき兵隊がやってきた。

「どうした?」

「敵が既に我が国に潜入した模様です。我々はこれから、敵の捜索の為、街でローラー作戦を実施します。セレン殿にも一緒に来ていただきたいのですが」

「判った。すぐに行こう」

 私と士官は王宮前の広場に向かい、数百名の兵隊と共に、駅前一帯の捜索に取りかかった。まァ、捜索の目標である当人の私としては腹を抱えて笑える位の滑稽な話なのだが、真面目な顔をして、各家々の強制捜索に付き合った。士官によると、敵の探知を魔法使いの私に期待しているそうだ。それにしても、悲惨なのは一般市民。強制的に道路に連れ出され、人相書き(どこでどうやって手に入れたのか)に似ていないかチェックされた。不運にも似ている者は、私の前に引きずり出され、私の魔力で、魔法使いかどうかを調べた。当然ながら、全員無罪である。

「ここには居ない様だね」

「そうですね。やはり偽情報だったのか…」

「ボクは取り敢えず王宮に戻っているから」

「有り難うございました」

 やっと、王宮に到着した。

「ジョゼフィーヌの部屋はこっちか」

「ジョゼフィーヌ。どう、様子は?」

 王宮の中心部。敵魔法使いの捜索司令部である。仕切っているのは、ジョゼフィーヌである。兵隊からの情報と、自らの探知能力で捜索を進めていた。

「セレン、随分と時間が掛かったじゃないの?」

「ちょっと兵隊の家宅捜索の手伝いをしていたんだ。それより、敵の反応は有ったの?」

「全然」

「ふーん、あんたの探知能力でもダメか。ひょっとして、敵はまだ来ていないとか?」

「それはないわ。複数の情報源から、間違いなく、駅に降り立ったと考えて良いわ」

「そうなの。それはそうと、さっきブルフォンに遭ったよ」

「え?ブルフォンに?」

「そう。何か悩んでいたみたいなんだけど」

「悩み?」

「うん。聞いてみたら、ホラ、彼ってエレーナを失って、かなり落ち込んでいたんだよ」

「え…ええ」

「でも、悩みってのは、そうじゃなくて、エレーナを失ったばっかりなのに、ジョゼフィーヌの事が気になってしまう自分が許せない…そう云っているんだよ」

「ええ!まさか!」

「ホントだってば。つまり、彼はあんたに気があるって事さ。それをボクの前で云う位、あんたにホの字みたいだよ。云っておくけど、ボクは、彼は好みじゃないからね」

「どうしましょう。エレーナに悪いわ」

「取り敢えず伝えたよ。じゃあ。ボクは敵を探してくるよ」

 そそくさと退出する私であった。

「ふむ、ふむ、掴みはオッケーだな。最後の仕上げは、夕方のお楽しみって事だな」

 ブルフォンに変身し、連絡ハトを飛ばした。デートの場所は、王宮の裏側の繁華街の通りに設定した。ジョゼフィーヌがにらみを利かせている場所である。デートのシーンをジョゼフィーヌに見せて、精神的なショックを与え、スキを作ろうという作戦である。

 さて、既にデートの真っ最中である。

「ブルフォンがこんな所で食事を奢ってくれるなんて、嬉しい〜」

「実のところ、僕はエレーナに支配されていたんだね。その呪縛が解けた今、僕はキミの魅力にやっと気がついたと云うワケさ。まァ、ワインをもっとどうぞ」

「うーい。そうそう。エレーナなんてさ、美人を鼻に掛けて、みんなをパシリ扱いして、ホントいやなヤツだったよね。うん。今夜は飲み明かそうよ、ブルフォン」

 レストランの外を警護隊が巡回していた。ジョゼフィーヌは責任感から率先して警護隊を率いていたが、おかげで、とんでもない光景を目にしてしまった。憧れのブルフォンと、ブルフォンには興味が無いと云っていたセレンのデートである。

「うそ…」

「ん?隊長、どうしました」

 副隊長が聞いた。

「い、いえ。何でも有りません」

 内心はささくれ立っていた。セレンの裏切り?ウソなの?あんな楽しそうにして。この国が危機に瀕しているというのに、二人して何を考えているの?悲しさと怒りが交互に去来した。

 と、後ろから、ブルフォンが走ってきた。ジョゼフィーヌは思わずきつい目で睨んだ。

「ちょっと待ってくれ、ジョゼフィーヌ。話が有るんだ」

「…今さら何よ?」

「敵を発見したんだ」

「え?」

「さっきのレストランで、僕と酒を呑んでいたセレンが居たろう」

「ええ。楽しそうだったわ、とってもね…」

「あれが実は敵の化けた姿だったんだ」

「…な、なんですって!」

「うさん臭かったので、呑みながら、色々聞いてみたのさ。そうしたら、でたらめな事を云っているのさ。間違いないよ。あいつはニセモノだ」

「直ちに拘束ましょう、隊長」

「とんでもない。そんな事をしたら、仕返しの呪文でこの国の半分くらい吹っ飛ばされてしまうよ。ここは不意打ちを食らわせるに限るよ」

 と、ブルフォンは提案した。

「でも、もし間違いだったら…」

 ジョゼフィーヌは流石に慎重である。

「間違いないよ。ぐずぐすしていたら、勘づかれちゃうよ。…判った判った。僕が先に行って合図するから、法撃(魔法で攻撃すること)宜しくね」

「それだったら、出来ると思うわ」

「宜しくね」

 ブルフォンはレストランに向かって走っていった。警備隊が近付くと、二人の座っているテーブルでチカチカする光が見えた。

「隊長、合図です」

 ブルフォンが席から立った。

「いまだ」

「法撃!」

 警備隊の法撃手達が、一斉に攻撃魔法を加えた。セレンは電撃に撃たれたように飛び上がり、煙を上げながら、床に倒れた。

「やったぞ。それ、踏み込め!」

 警備隊はレストランに突入し、セレンの身柄を確保した。

「隊長、気を失っていますが、捕らえました」

「よし、良くやったわ。…ところで、変身魔法が解けないけど…」

「確かにヘンですね。あ、こ、これは本物のセレン様。し、しかも、死んでいる!」

「な、何ですって! 法撃で死んだと云うの! …確かに、死んでいるわ。しかも、セレン本人に違いない。完全に無防備だったんだ。そうだわ、ブルフォンはどこに行ったの?」

「見当たりません」

「なんですって! しまったぁ、計られた…。やつこそがニセモノだったんだわ!」

「そうか。我々をハメたんだ。我々はなんて事をやってしまったんだ!」

「ぐずぐず出来ないわ。偽のブルフォンがどこかに隠れているはず。探し出しなさい!今度こそ正体を暴いてやるわ!王が危ない。私は王宮に向かいます」

 その頃、私が化けたブルフォンは王宮にあった。

「国王よ。一大事です。敵が我が国に潜入し、ジョゼフィーヌに化け、セレンを殺しました」

「な、なんだと」

「まもなく、偽のジョゼフィーヌがここにやってくると思われます。国王陛下は、敵にスキを与えず、即座に法撃で殺すことをお命じ下さい」

「うむ。お前に任す…」

「では、親衛隊。偽のジョゼフィーヌが現れたら、私の命令一下、直ちに法撃で殺せ!」

 待つこと、少々。予想通りと云うか、義理堅く慎重な彼女に取っては当然の行動だが、ジョゼフィーヌは王宮に現れた。

「国王にお目に掛かりたい。敵が潜入している可能性が有りますので、警備を強化致します」

 侍従長が答えた。

「…そうか。大儀である。陛下はこちらだ」

 ジョゼフィーヌは王の前に跪き、頭を垂れた。その瞬間に王の間の石柱の影から、法撃が飛んだ。ジョゼフィーヌは声を上げる間もなく、絶命した。

 その頃、本物のブルフォンは駅経由で王宮に向かっていた。

「ブルフォン!」

「セレンじゃないか。どうしたんだ」

「大変よ! ジョゼフィーヌが王宮で敵に殺されたの!」

「なんだって! 王宮にまで入っていたのか。急がねば」

「ボクも行くよ」

「ああ。セレンが一緒だと心強い」

 二人は走りながら、喋っていた。

「それにしても、あのジョゼフィーヌが簡単にやられるとは信じられない」

「ボクもそう思うよ。ところで、ブルフォンはここよりもっと悪い国があると思う?」

「それほど悪い国とは思ってないけど、なんでそんな事を聞くんだい」

「いや。ちょっと前にエレーナと話したことが有ったの。ブルフォンだったら、どう云うだろうかって?」

 下手な理由を作れば怪しまれる。しかし、エレーナと云うキーワードは、理性や警戒心を無効化するほどの力がある。

「そうだなぁ」

 二人の前には王宮の門が見えてきた。死んだはずのセレンが通過すれば、正体がバレる。答えは未だか?

「例えば、真実の国かな。真実ほど残酷なものは無いからね」

「エントルゥザンク、召喚!」

「え?」

 地面が消えた。正確に云えば、人や建物が有る場所の地面がフッと消え、底なしの穴がぽっかりと開いた。穴の上に有ったものは驚愕の悲鳴を残して、奈落の底に墜ちていった。

 私は落下前に列車に連れ戻された。





第13話 「十二番目の国 真実の国」

「お帰りなさい」

「いやぁ、上手くいきましたよ。3人の魔法使いは全滅。彼らはその魔法を使う前に終わりました。敵が実力を発揮する前に片付ける。所謂、電撃戦ですね」

「そうですか。良かったですね。ところで、次の国は何処ですか?」

「真実の国です」

「そうですか。いよいよクライマックス間近ですね」

「そうなんですか?まァ、確かに13国の内、既に11国を滅ぼしたわけですからそうですが」

「ここからは今までのパターンとは異なります。貴方は、真実の国の或る人物から、文字通り真実を聞くでしょう。それは貴方にとって、ショックな事かも知れません。貴方は続いて別の国に行くことになるでしょう。この列車に戻される事無く。そこでの行動で、世界の未来は変わってくるのです」

「うーん。具体的に何を云っているのか全然判りませんが」

「いずれ判ります。少なくとも、この列車での晩餐は最後となるでしょう」

「え?そうなんですか?」

「はい。たぶん。ですので、ゆっくり食べて下さい。お風呂の方も、ゆっくりと入って下さい」

 飯を食べながら、或いは、風呂に入りながら、ガイドの云ったことを反芻していた。でも、やっぱり判らない。抽象的すぎてピンと来ない。

「まァ、少なくとも、私の仕事がもうすぐ終わる事は確かだ」

 そう思い至ると、急に眠気が来て、ソファで寝てしまった。

「真実の国に着きましたよ」

 ガイドが起こしに来た。

「封書はこれです」

 中には

「真実の国 アレン」

 と書いてあった。

「この人に会って、真実を聞くのが目的なんですね」

「その通りです。ですから、彼に、次の国の名前を聞く必要はありません。貴方は勝手にその国に移動しますので」

「では、出発します」

「いよいよお別れですね。では、ご無事で」

 ガイドに別れを告げ、私はホームに降り立った。

 広いホームには人っ子一人居なかった。ふと、振り返ると、列車は既に無かった。私はそれを予見していたように、驚くこともなく、駅の出口に向かった。街にも人影はなかった。

「アレンって何処にいるのだろう」

 再び、それを予見していたように、私は振り返った。すると、一人の男が、やや離れた所をこちらに向かって歩いていた。頬がこけた、顔色の悪い男であった。

「アレンさんですね」

「はい。そうですが。ああ。貴方がハインデルさんですね」

「真実の国の貴方に、真実を聞くため、ここにやって来ました」

「伺っております。では、私の店にどうぞ」

 通りの角を折れた所に、その店は有ったが、余りにも埃にまみれ、古ぼけていたので、最初は店には見えなかった。

 狭い店の中、やはり埃に埋もれかけた椅子に座って、私はアレンと対峙した。

「早速ですが、私の周りの真実を全て教えて下さい」

「どの真実がお望みですか?」

「どの真実?真実は幾つもあるのですか?」

「その通りです。例えば、自分に都合の良い真実、或いは、相手に不利な真実、知らなければ良かった真実、きれい事の真実、更に、本当の真実も有ります。大抵の客は自分に都合の良い真実を望みますが、貴方はどうでしょう?」

「私は本当の真実が知りたいのです。謎の依頼人、ガイド、13の悪い国、最強呪文、そして、その依頼のウラにあるであろう陰謀の全容を…」

「素晴らしい。いや、実に素晴らしい。貴方ほどストレートに真実を求めようとする方は久しぶりだ。そう確か、あの魔法使い以来だ」

「で、本当の真実はどうなんですか?」

「先ず、この世界の中で起きている大きな動きから始めましょう。それが判らないと、個々の事件の意味も分からずじまいですから」

 そう云って、アレンは続けた。

「一人の魔法使いの、ちっぽけな野心が全ての始まりだったのです。ソフィーナ。そう、ソフィーナです。世界で5本の指に入る魔法使いたちの一人です。五行説をご存じですか?」

「ええ、知っています。この前、ガイドに聞きました」

「そうでしょうとも。5人の力関係はこのようになっています。

(上の方が強い。金の下は木となる循環)

『木』セレン
『土』ジョゼフィーヌ
『水』ソフィーナ
『火』エレーナ
『金』ブルフォン

 ソフィーナは『水』です。彼女は、他の3人の女魔法使い同様、ブルフォンに惚れていました。彼ら5人は同期だったのです。五行説の力関係から、ブルフォンはエレーナに支配されていました。ソフィーナに入り込む余地は有りませんでした。ソフィーナの心には、黒い物が生まれました。エレーナを殺すと云う事です。五行説の力関係から、ソフィーナがエレーナを挑発することは簡単です。しかし、この時、エレーナは既に暗殺の国の要人になっていたのです。手を汚さずに、エレーナを葬ることは難しそうでした。
 その頃、ソフィーナの棲む国の王にも野心が芽生えていました。この世界を支配すると云う野望が。ソフィーナは、王の野心に気づき、それを利用して、自分の野心を実現しようと考えたのです。
 王が世界を支配するには巨大な力が必要です。そう、最強呪文です。国一つを滅ぼすことの出来る最強呪文、エントルゥザンクです。しかし、この世界のルールで、呪文を使うときは、魔法省に事前申請しなければならないのです。かつ、厳重な審査をパスしなければならない。使用目的、使用回数、使用する者の名前と個人情報、保証人も必要です。もし、この巨大な力を自由自在に使うことが出来れば…。そう考えた王とソフィーナは、或る方法を思いつきました。それは、最強呪文の推薦者を召喚すると云う方法です」

「推薦者を召喚?」

「そうです。最強呪文を使用する場所は予め推薦されていなければなりません。例えば、公開処刑の国で、ハンスは次の場所に強盗の国を推薦しました。その後、公開処刑の国は最強呪文で亡び、ハンスは死にました。これで、呪文のルール上、ハンスは最強呪文とペアの関係になったのです。とすれば、ハンスを召喚する事で、最強呪文と同じ力を召喚することが出来るのではないか。そうです、出来るのです」

「…なるほど」

「この手口は何度でも使えます。死んだ推薦者を召喚すれば最強呪文の効果が得られるのです。魔法省の許可も推薦者も不要で、最強呪文、エントルゥザンクは使いたい放題となるのです。これが王とソフィーナの編み出した恐るべき召喚魔法です」

「…すると、私が各国を回って、やった事は、最強呪文のカードを作ることだったんだな」

「その通りです。見事な推察です。王は既に十分な数のカードを手に入れました。一方、ソフィーナはエレーナを殺す事で、ブルフォンの気持ちを自分に向ける事が出来ると考えていました。しかし、ブルフォンの心には、ソフィーナの入る余地は全くなかったのです。そうそう。貴方がブルフォンに変身した時、心の中をサーチしても、ソフィーナは影でしかなかったですよね。あれをソフィーナも知ったのです。で、彼女は方針を変更した。ブルフォンごと、恐怖の国を滅ぼすことにしたのです。で、それは実施されました。もし、ソフィーナがブルフォンの気持ちを掴むことが出来たなら、展開は違っていました」

「なるほど。所で、ガイドが届けてくれる封書には推薦人の名前が記されていますが、あれはどうやって決まるのですか?」

「推薦人を決めるのは魔法省です。決定の根拠は、その国の特徴の要となる人物を原則としています」

「つまり、恐怖の国だったら、恐怖政治の中核である治安部隊の3人の内の1人と云う事ですね」

「その通りです」

「今までの事はよく判りました。で、これからどうなるのですか?」

「先ず、彼らは貴方を消します」

「う…」

「当然ですよね。直接的実行者は証拠隠滅のために殺される。これは陰謀の常識です。その為に用意されたのが、次の国、そう、最後の国、心の国なのです」

「心の国?」

「そうです。実体はありませんが、魔法の力で、そう云った舞台を作ることが可能です。貴方の心の中が舞台です。そこが13番目の国となるのです。最強呪文をそこで使うとどうなるのか。貴方は死にます。何しろ、貴方の心の中で最強呪文を使うのですから」

「使わないとしたら?」

「その場合は、彼らが、死んだ推薦者を召喚するでしょう。すると、最強呪文と同じ事が貴方の心の中で実行されると云うワケです。貴方に逃げ道はありません」

「でも、彼らも逃げられないでしょう」

「逃げられます。貴方が最強呪文を使ったとき、列車に戻されたでしょう。あの仕掛けを彼らは使います。ですから、彼らは安全です」

「例えば、この真実の国で最強呪文を使わなければどうなりますか?心の国に行かなくて済むとか…」

「最強呪文の使用は必然です。避けて通ることは出来ません。例え、貴方が使用しないとしても、自動的に発動し、この国は亡び、貴方は心の国に転送されます」

「教えて下さい。心の国で、どうすれば、彼らを倒す事が出来るのかを」

「その前に、ガイドの正体を云っておきましょう。彼女はソフィーナです」

「…やはり、そうでしたか。薄々は感じていました。そして、確信したのは、防御呪文。法殺10段でしか解けない程の魔法を使える人物は、ソフィーナしか残っていなかった」

「ソフィーナ達は狡猾です。関係者が多くなると秘密も漏れやすくなります。それを防ぐために、自らがガイドになったり、依頼人になったりしたのです。危険ではありますが、秘密を守るためには重要な事でした」

「ソフィーナは優れた魔法使いですが、王の方はどうなんですか?」

「多少は使えます。法殺5段と云うレベルです。まァ、一般人よりははるかに使えると云う状態です」

「で、ソフィーナは今や世界最強の魔法使い…」

「そうです。5人の内、4人は死にましたから」

「こりゃ、どう考えても出口が無い勝負ですね」

「諦めるのは早いでしょう。ソフィーナを倒せば活路は開けます」

「ソフィーナを? どうやって?」

「彼女はブルフォンに対して精神的な弱点を持っています。よって、そこを突けば、スキが出来ます」

「いっその事、ブルフォンに化けますか?」

「はい。私もそれを考えていました。死んだはずのブルフォンに遭えば、必ずソフィーナは反応することでしょう。動揺し、スキが出来るはずです。そこを突くのです」

「具体的には、どうすれば最も効果的でしょうか?」

「彼女の心を揺さぶるには、ブルフォンが、実はソフィーナを好いていたと云う演出が必要でしょう。そうすれば、後悔と出口のない想いに満たされた彼女の心は、嵐の海のように揺れるでしょう。その動揺を目の当たりにした王は、どう動くと思いますか?」

「裏切り…と判断するか、それとも、いつかはソフィーナを葬ろうとしていたので、これ幸いと射殺するか」

「お見事です。王は、基本的に人間を信じない独裁者です。彼はソフィーナを道具としか観ていない。まァ、表面は重用しますが、内心は恐ろしいヤツ、用が済んだら殺すと考えています。よって、ソフィーナの情けない態度を見せれば、王はソフィーナを不要と判断して殺しに掛かるでしょう」

「ソフィーナは殺されますか?」

「彼女の動揺の度合いにもよりますが、完全に動揺して防御がおろそかになったら、王の法撃でも殺すことが可能でしょう」

「では、王を倒すには、どうすれば良いでしょう」

「ソフィーナには悪い癖が有ります。それは忘れっぽくて、貴方に掛けた魔法の幾つかを、そのまま放置していると云うことです」

「確かに…」

「変身魔法、防御魔法、そして相手よりも先に撃つピストルを召喚する魔法も。これを使って、貴方は王を射殺する事が出来るでしょう」

「でも、王も防御魔法を使っていたら?」

「貴方の最後です…」

「くっ。何とかならないものか! …そうだ。相手が推薦者を召喚するのと同時に、私も最強呪文を唱えるとか」

「なるほど。呪文同士をぶつけて、プラスマイナス ゼロ って事ですね」

「そうそう」

「タイミングが難しそうですが、うまく行く可能性はありますね」

「でしょ、でしょ。ところで、相手が推薦者を召喚する時の呪文って、どんなですか?」

「使用例が無いので確度はちょっと落ちますが、多分、ハンス 召喚!…とか云うと思います」

「その呪文を無効化する呪文とか、無いんでしょうか。或いは、最強呪文のオプション指定とか。つまり、最強呪文を唱えると、その国が亡びてしまうので、その国にいる唱えた人もやられてしまう。だから、きっと、よその国から遠隔でその国を滅ぼす手だてがあると思うんです」

「なるほど、云われてみれば、そうですね。でも、そんな話は聞いたことがありませんが」

「だったら、これが世界初かも知れません。因に、王の国の名前は何と云うのですか?」

「力の国です」

「ふ。素性丸見えじゃないか。じゃあ、ちょっと実験してみます」

「ちょ、ちょっと待って下さい。うまく行かなかった時は、この国が亡びますので、私が脱出するまで待ってくれませんか?」

「そりゃ良いですけど。そう云えば、他の人達はどうしているんでしょう。なんか、人っ子一人居ないようなんですが」

「ここは真実の国です。情報は正確で早いのが売り物。国滅ぼしの魔法使いがやってくると云うので、みんなとっくに国外に逃げていますよ」

「ああ、そうですよね。では貴方はどうして逃げなかったんですか?」

「私には、貴方に真実を伝えると云う役目があるので逃げなかったんです。ちゃんと封書に私の名前が書いてあったでしょう」

「確かに。すると、その為に危険を冒して最後まで留まって頂けたと云う事なんですね」

「まァ、恩着せがましくなりますが、そういう事ですね、ぶっちゃけ」

「有り難うございます。では、貴方も脱出して下さい」

「判りました。隣国に入るには1時間も有れば十分ですので、今から1時間後に最強呪文を発動して下さい。因に、自動発動は今から2時間後ですので」

「判りました」

「では、ご武運をお祈りしております。あの王の野心を止めることが出来るのは、貴方だけなんです。では…」

 アレンは店を去った。

 私は一人残り、そう、この国でたった一人残り、次の最終ステージへの心の準備に余念がなかった。イメージトレーニングである。

「ブルフォンに変身して、油断させて、ピストルで射殺…」

「推薦者召喚と同時に最強呪文」

「先制攻撃。王の国を潰す」

 アレンの情報から編み出したこの技で、世界征服という王の野望を砕く事が出来るのか。いや、出来なければならない。

 ふと、気配を感じた。窓の隅から駅の方角を覗くと、2人の人物が歩いてくる。私には判った。王とソフィーナだ。危険に感づいたのか?時計を観る。指定の1時間まであと10分ある。今、呪文を唱えることは出来ない。いや、土壇場になったらやってしまうかも知れないが、今は逃げて時間稼ぎをしなければならない。私は、店の裏口から抜け出し、路地伝いに市街地の奥へ奥へと進んだ。
 そろそろ1時間だ。では、いよいよ先制攻撃の呪文を。 …と、路地の蔭から一人やってきた。反対側からもやってきた。

 やってやる!やってやるさ!王の野望、その足元から打ち砕いてやる! 

「エントルゥザンク 力の国、召喚!」

 突然、ザァーと大粒の雨が降ってきた。

「どうだっ。この国か? それと王の国か?」

 視界が流れ、光の川となった。




第14話 「十三番目の国 心の国」

「お帰りなさい」

 ガイドの声が聞こえた。何も変わらない日常の様に。しかし、列車に乗っていた日々の状況とは明らかに変わっている。

「ハインデル。再び会えて嬉しいよ」

 声の主は、例の依頼人。世界征服を狙う王だ。

 視界が復旧した。

 王の顔が間近に見えた。そのうしろにガイドの姿が。いや、黒い法衣をまとったソフィーナだ。私は冷たいコンクリート製の床に座っている。壁は遠く暗くて見えない。王の声の響きから、かなり大きな空間のようだ。上からスポットライトが私に当てられている。王は金と赤を基調とした派手な服装をしている。世界の王としてふさわしい格好を意図したものだろうが、単にケバいだけと云う事も出来る。荘厳と滑稽の差はほんの一歩だとはよく言ったものだ。

「さて、ハインデル。ついにキミの最後の仕事の時間だ。早速、この悪い国を滅ぼしてくれ。そうすれば、キミとの契約は終了だ」

「ここは何処ですか?」

「心の国だ」

「なぜ、この国が悪いのですか?」

「…ハインデル。茶番劇は止めようではないか。時間の無駄だ。私はキミが全てを知っていると云う事を知っているのだ。なぜかって? 真実の国のアレンに聞いたからだよ。と云っても彼はもう死んだがね」

「殺したのか?」

「真実を知りたかったからだ。言い忘れたが、キミに掛かっていた全ての魔法は解除した。つまり、ブルフォンに変身したり、攻撃から身を守ったり、ピストルを出したりすることは出来ない。キミにできることはただ一つ。自分の心の中で最強呪文を唱える事だけだ。そして、キミは死ぬ。証拠は消える。我々は世界の王として、最強呪文を自在に使い、君臨する」

「力の国は滅んだんだぞ」

 その言葉に、一瞬顔を曇らせたが、王は憤然と云った。

「ふん。国の一つや二つ、どうって事は無い。何しろ、これから全ての国を手に入れるのだからな」

 私は内心、にやりとした。そうか、うまくいったんだ。やっぱり、最強呪文のオプション指定は有効なんだ。ここ以外の場所を遠隔で破壊することが可能なのだ。

「私は最強呪文を唱えたりしない」

「そうか。だったら、我々が推薦者を召喚するところを眺めているんだな。云っておくが、お前も同じ事をやって、力を中和しようと考えているのなら、それはムダだ」

「…どうして?」

「推薦者召喚は限りなく使えるのだ。そう、100回でも200回でも。この呪文を完全に中和する為には、召喚のタイミングが完全に一致しなければならない。お前は、無限に続く召喚のタイミングを全て完全に一致させる自信が有るか?出来るはずがない。幾ら合わせても微妙にずれるのは当然だ。タイミングが合わないとどうなるか。呪文エナジーの一部が解放されて、お前の心を痛めつける。お前は、その痛みに耐えかね、次の召喚のタイミングを更にずらしてしまうだろう。すると、呪文エナジーは一段とお前を痛めつける。それが限りなく続く。最後はどうなると思う。お前の死だよ」

「そ、そんな事、やってみなけりゃ判らないだろう。それに、呪文エナジーを浴びるのはお前たちも同じだろう」

「その通りだが、我々は最高レベルの防御呪文で保護されている。だが、お前にそれは無い。結局、お前の負けだ。さぁ、どうする?」

 どうする。確かに中和作戦は最後は私の負けになるだろう。彼らにはダメージを与えるには、彼らの心の中で最強呪文を唱えるくらいの事をしなければ…。そうだ、そうだよ。そして、その標的は、先ずは魔法力の強いソフィーナだ。次に王。

 私は床に両手を突き、頭を垂れ、すっかり力を無くした様子を演じた。

「王よ。私の負けだ…」

「ほう。思ったよりも賢いようだな。では、大人しく、ここで最強呪文を唱えるんだな」

「判った。ただその前に、冥土のみやげとして聞いておきたい」

「何だ。助命以外は大抵のことは叶えてやろう」

「王の名前を聞いておきたい。新しい世界の王の名を」

「はははは。ちょっとお前を見直したぞ」

「王、油断してはなりません。何やら作戦が有るかも知れません」

 ソフィーナがさすがに気づいて、助言した。

「なんの。こやつもついに抵抗のムダを知っただけさ。媚びて命を助けてもらおうとでも考えているのさ」

「い、いや、そんな、助命など…。わ、わたしは考えていません」

「わはは。正直で結構なことだ。我が名はジェームズ王だ。冥土のみやげになったかな?」

「エントルゥザンク ソフィーナ、召喚!」

 キャァと云う声を残して、ソフィーナは倒れた。

 突然の事に、倒れたソフィーナに釘付けになった王。

「ハンス ジェームズ、召喚!」

 バキと云う音と共に、王は倒れた。頭から煙が立ち上っている。

「や、やったか?」

「お、おのれ…よく…も」

 まだだ。

「ルドルフ ジェームズ、召喚!」

「オットー ジェームズ、召喚!」

「エーリッヒ ジェームズ、召喚!」

「ジョー ジェームズ、召喚!」

「カール ジェームズ、召喚!」

「ドロス ジェームズ、召喚!」

「マーフィー ジェームズ、召喚!」

「エレーナ ジェームズ、召喚!」

「ゲオルグ ジェームズ、召喚!」

「ブルフォン ジェームズ、召喚!」

 ひざがガクガクした。恐怖の余り、推薦者召喚を使いまくった。

 気が付くと、頭が無くなり血の海に浸ったジェームズ王の姿が目の前にあった。

「やったか…。ついにやったか」

 荒い息をしながら、ソフィーナの方をみた。彼女は倒れたままだった。しかし、世界最強の魔法使いなのだ。油断は出来ない。とどめを刺すには、最後の最後まで手を抜いてはいけないとの諺を思い出した。形が無くなるまで召喚してやる!

「ハンス ソフィーナ、召喚!」

「ルドルフ ソフィーナ、召喚!」

「オットー ソフィーナ、召喚!」

「エーリッヒ ソフィーナ、召喚!」

「ジョー ソフィーナ、召喚!」

「カール ソフィーナ、召喚!」

「ドロス ソフィーナ、召喚!」

「マーフィー ソフィーナ、召喚!」

「エレーナ ソフィーナ、召喚!」

「ゲオルグ ソフィーナ、召喚!」

「ブルフォン ソフィーナ、召喚!」

 はぁはぁと息が切れるまで、召喚し続けた。しかし、ソフィーナの姿は変わらない。ヤバい。全く効いていないのかも知れない。恐る恐る、ソフィーナに近付いてみた。まるで眠っているように穏やかな顔である。頭部の変形や異状は見当たらない。ヤバい。こりゃ、ホントにヤバい。私の使える呪文は既に使い切っている。これが効かなければどうすりゃいいんだ。

 ソフィーナの目が突然開いた。

「ブルフォン、召喚!」

 わたしはとっさに、

「ジョー、召喚!」

どうだ!名前が短いから、遅れてもタイミングは一致するはず。

バシッととてつもなく強烈な痛みが頭に走った。くそ、少しズレたか。私は気を失ってしまった。



★付録

推薦人一覧

「公開処刑の国 ハンス」
「強盗の国 ルドルフ」
「嘘つきの国 オットー」
「探偵の国 エーリッヒ」
「無法の国 ジョー」
「大砲の国 カール」
「聖人の国 ドロス」
「ゴミの国 マーフィー」
「暗殺の国 エレーナ」
「不幸の国 ゲオルグ」
「恐怖の国 ブルフォン」
「真実の国 アレン」(次の国を推薦していないので無効)





第15話(最終話) 「そして最終的解決」

「お帰りなさい」

 澄んだ、男性の声が聞こえた。意識が戻った。闘いの緊張が甦り、ガバッと身構えて、起きあがった。

「既に闘いは終わりましたよ、ハインデルさん」

「え? 終わった? いや、まだだ」

 周りを見回した。5人ほどの黒い法衣を着た魔法使いが、私を囲むように座っていた。その魔法使い達は老若男女入り交じっていたが、一様に穏やかな笑みを私に向けていた。ちょっと安心した。気が付くと、私はいつの間にか、質素なベッドの上に寝かされていた。

「ここは何処だ?」

「真実の国のアレンさんの家の中です」

「ああ、アレンさんは殺されたのだ」

「…はい。残念ですが、その通りです」

「あんたたちは誰だ?」

「魔法省より使わされた捜査官5名です」

「ジェームズ王と、ソフィーナは何処だ?」

「ジェームズ王は死にました。心の中で推薦者召喚を受けたようですね」

「そうだ。私が推薦者召喚のオプション指定で、彼を指定したのだ…」

「見事でした。その様な手段が有るとは、いままで誰も気が付きませんでした」

「ソフィーナは?」

「逃げました。しかし、相当の深手を負っているようです。あれほどの魔法使いが瀕死の重傷のようです。貴方が推薦者召喚を繰り返したおかげです」

「今どこに居るかは判らないのか…」

「魔法省の総力を挙げて、捜索中です」

「ソフィーナはまだ、推薦者召喚を使うかも知れないんだな」

「いや。それは有りません。その機能は停止させました。それと同時に、例の最強呪文自体の使用を無期限に停止しました。これで、誰であろうと、この世界を脅かす事は出来なくなりました。更にソフィーナの魔法も停止させました」

「ふぅ、それは良かった。やっと肩の荷が下りた気がします。と云うか、あんな恐ろしい呪文が今まで存在した事自体が不思議です」

「遙かな昔に作られた物なので、関係者でさえ、その存在を忘れていたのです」

 そうだろうか?あの最強呪文の使用許可を申請したときの係官は、その威力を十分に知っていた。こいつら、ちょっと妖しいぞ。ソフィーナの一味か、トラップか?

「…ずさんですね」

「申し開きの余地もありません…。つきましては、今回の事件の顛末に関して、お聞きしたい事が多々有ります。もし、ハインデルさんの体調が良ければ、捜査本部からの事情聴取を受けて頂きたいのですが…。何しろ、12の国が亡び、あわや世界が独裁者によって征服されるかどうかと云う大事件ですから」

「判りました。何処に行けば良いでしょうか?」

「魔法省の近くに宿舎を確保しましたので、そちらに宿泊していただければ宜しいかと」

「それは助かります」

「では、早速ですが、出発いたしましょう」

 私と魔法省の一団は、駅へと向かった。途中の道には、国に戻ってきた人々が溢れ、我々を指さしては何やら喋っている。皆明るい顔で、しかも手を振っている人もいるので、どうやら歓迎してくれているようだ。

「あれが…ジェームズ王を…ソフィーナ…倒した…」

 なんて言葉が途切れ途切れに聞こえてくるので、話は既にみんなに伝わっているとみえる。

 駅には列車が待っていた。…ところが、あろう事か、ジェームズ王の専用列車である。私は、魔法省の捜査官に云った。

「この列車は、ジェームズ王の物ですよね」

「はい。その通りです。この辺で列車を探したんですが、これしか無かったんですよ。ハインデルさんには不快かと思いますが、何とか辛抱していただけますか?」

「まァ、別にジェームズ王が乗っているわけじゃないんだから、構いませんが…」

「有り難うございます」

 列車は出発した。

「我々は前後の車両に乗っておりますので、ご用があれば、お知らせ下さい」

「判りました」

 何とも妙な気分である。敵と判ったジェームズ王の列車に、帰りも乗るなんて。まァ、戦利品と云えばそうだが。それにしても、事件証人の扱いがずさんではないか。殺されたら大変だろう。同じ車内で付きっきりと云うのがベストではないか。これでは、もし車内に敵が居たら、まるで殺してくれと云わんばかりではないか。
 …実はそうなのか?やつらは全て敵?と云う事は、云っていることは全てデタラメ。最強呪文はまだ生きている?
 闘いは未だ終わっていないと云う事か。ならば、なぜ攻撃してこない。ソフィーナの力が有れば、心の国で私が気を失っていたときに、もう一度推薦者召喚をやれば、私は確実に死んでいたはず。そのとどめがさせなかったのは、つまりは、ソフィーナが本当に瀕死の重傷で、強力な呪文を使えるほどの集中力が無かったためか。
 推薦者召喚のために、心の国から、元の、真実の国に転送されてしまった。ソフィーナはここで再び私を襲う積もりなのか?
 では、どうやって殺すつもりなのか。衰えた集中力を相手に集中させるには?つまり、相手に接近すること。いわゆる『死のキス』を使うのに違いない。
 ここまでは読み切ったが、実際の所は、その時になってみないと判らない事が多い。

「この列車が敵の列車だったとはな。これでガイドが出てきたりしたら、お笑いぐさだな」

「笑って結構です…」

 げぇ!その声は!

 私はソファーから飛び起き、身構えた。確かに、目の前にいるのは、ガイドその人である。

「ソフィーナ!」

「お久しぶりです。そうそう、魔法省の人たちを呼ぼうとしてもムダですわ。この車両には結界を張りましたから…」

 結界?やっぱり、まだ魔法が使えるのか。

「わ、私を殺しに来たのか?」

「いえ。私を雇って欲しいんです」

「なんだって?」

「私、もう世界征服ごっこは止めましたの。元はといえば、ブルフォンの気持ちを手に入れたいと云うことで、ジェームズ王の野望の共犯者になりましたが、ブルフォンは死に、ジェームズ王も同じく死にました。と云う事は、手だてとしての世界征服には、未練はなくなったと云うことですの。そうなれば、もっと自由に生きても良いはず。貴方を監視する為のガイドと云う商売、しばらくやってみたら、結構面白そうなので、このまま続けようかと思っているんです」

「だが、お前の犯した大罪を放っておけるワケ無いだろう」

「そうなんです。魔法省に捕まれば、軽くて懲役2万4千年。重ければ、永劫に地獄の苦しみを味わされる刑罰が待っているでしょう」

「お前は、死んだフリをして、私に推薦者召喚を食らわせた。殺すつもりだったんだろう」

「信じてもらえないかも知れないけど、あの時、私は推薦者召喚を連続で食らって、瀕死の状態だったのよ。このままでは殺されると云う事で、タイミングを見計らって、最後の力を振り絞っての推薦者召喚だったの。その位は多めにみて欲しいのだけど…」

「たとえ私が許したとしても、他の人たちは許しはしないだろう」

「そのために、貴方に頼んでいるんじゃないですか。私をガイドとして雇えば、この世界のルールにより私の身元は保証され、容疑者リストから外されます。私は自由になれる。そして、私は、その代わりに貴方に世界征服と云う夢を叶えて差し上げても良いんですよ」

「ふん。ジェームズ王にも同じ事云って誘い込んだんだろう。私は世界征服など興味はない」

「あら。殿方であれば、世界征服の野望を抱くのは当然の事ですわ。別に恥ずべき事でも、卑屈になる事でも有りませんわ。堂々と胸を張って主張すべき物。しかし、それを叶えるのはとても難しいことなのです。でも、私は世界最強の魔法使いです。貴方の望む、どんな事でも叶えて差し上げることが出来るのです。どうです?決して悪い話じゃないと思いますけど。まァ、貴方が腰抜けで、腑抜けの、度胸のない、卑怯者で、女の腐ったような、イカレた***の、イン*****の、テーノー野郎だと云うのなら、特にお勧めはしませんけど」

「なんと云う事を云うか!私にも野心はある。世界征服の一つや二つ考えないで、男と云えようか!」

「そうでしょうとも。では、私と契約を!」

「判った」

「では、契約のキスを」

 そして、私の耳元で云った。

「エントルゥザ…」

 それより一瞬早く、私はソフィーナの耳元でささやいた。

「ブルフォン ソフィーナ、召喚!」

 強い硬直と共に、ソフィーナの目がカッと見開いた…。

                             完(2005.05.04)




FAQ

Q.1 題名の由来は何ですか?
A.1 エントルゥザンクとは、ドイツ語で「最終的解決」の意味です。この言葉はナチス時代にユダヤ人対策との関係で、ユダヤ人の殲滅を意味する言葉となりました。本作品では、そう云った歴史的な意味合いも考慮して、皆殺しと云う意味で使っています。つまり、意訳すれば「皆殺しの鉄道」と云うことになると思います。

Q.2 国の名前はどうやって決めたのですか?
A.2 真実の国より前の国は結構適当です。「真実の国」と「心の国」は、ストーリー上動かせない国なので、これは最初から決まっていました。

Q.3 国のモデルとなった現実の国ってのは有るのでしょうか?
A.3 有ります。身の回りの良く見聞きする国たちとでも云っておきましょうか。作品の国との対比はマニアな方にお任せします。

Q.4 キャラクターのモデルになった人ってのは居るのでしょうか?
A.4 特定の俳優は意図していませんが、特性は意識して作ってあります。例えば、カッコイイキャラとか、重苦しいキャラとか、和やかなキャラとか。

Q.5 最強呪文によって発生する破壊は、どうやって決めたのでしょうか?
A.5 基本的に天変地異、つまり地震とか火山とか、津波をイメージしたものですが、それ以外の、現実には有り得ないものも使っています。

Q.6 最強呪文によって発生する破壊にルールは有るのでしょうか?
A.6 特にルールは有りません。時と場所と状況によって、その度に変わるものです。例えば、同じ国で2回使ったとしても、同じ破壊が生ずることはないでしょう。

Q.7 ソフィーナは悪党ですか?
A.7 ソフィーナを浄化させて、ハインデルと結婚させると云う案も有りましたが、仕事人の誇りを前面に出すことにしました。彼女は惜しいですが、悪党です。最後まで、ハインデルを殺そうとしていました。

Q.8 ラストで、ソフィーナは死んだのですか?
A.8 あの状況でどうなったかは、想像に任せます。

Q.9 ハインデルはどうして最後に、世界征服を選ばなかったんですか?
A.9 彼は仕事人なのです。自分に与えられたミッションの完遂を最優先とするプロなのです。

Q.10 最強呪文のオプション指定ってどう云うものなんでしょうか?
A.10 呪文の後ろに付ける言葉によって、別な機能を付加することが出来ます。
     例えば、
(1)エントルゥザンク 召喚! → この場所で「最終的解決」を実行する。
(2)エントルゥザンク 力の国 召喚! → 力の国で「最終的解決」を実行する。
(3)エントルゥザンク ソフィーナ 召喚! → ソフィーナの心の中で「最終的解決」を実行する。
(4)ハンス 召喚! → 「最終的解決」とペアになった推薦者ハンスをこの場所に召喚する。事実上、この場所で「最終的解決」を実行する。
(5)ハンス 力の国 召喚! → 「最終的解決」とペアになった推薦者ハンスを力の国に召喚する。事実上、力の国で「最終的解決」を実行する。
(6)ハンス ソフィーナ 召喚! → 「最終的解決」とペアになった推薦者ハンスをソフィーナの心の中に召喚する。事実上、ソフィーナの心の中で「最終的解決」を実行する。

Q.11 ラストで、ソフィーナが「エントルゥザンク、召喚!」と言いかけていましたが、使えたのでしょうか?
A.11 二つの考え方が有ると思います。魔法省にコネが有り、最強呪文の使用を許可されていた。よって、最強呪文を使って、ハインデルを殺そうとしたと言う考え方。もう一つは、使えなかったが、使えるフリをしてハインデルに自分を殺させようとしたと言う考え方。重罪により、逃れる術のない自分。せめて、愛するハインデルによってとどめを刺して欲しいと言う最後の願いだったと言う説です。

Q.12 魔法の国の通貨である「ゴールド」は、どの位の価値なのでしょうか?
A.12 基本的に「円」と同じと考えて下さい。

Q.13 ラストで、ソフィーナが、ハインデルを煽る為に、悪口雑言を言っていますが、伏せ字になっている文字は一体何なんでしょうか?
A.13 いわゆる放送禁止語と言うか、聞くに耐えない言葉だと理解して下さい。

Q.14 ラストに出てくる、魔法省の捜査官5人は、本当にソフィーナの関係者なんでしょうか?
A.14 違います。彼らはやり方が杜撰(ずさん)なだけの役人です。ハインデルはちょっと被害妄想になっていた為に警戒しましたが、結果的にはそれが良かったかも知れません。

Q.15 暗殺の国で、ハインデルが毒物を食べてすぐに苦しむのですが、全て即効性が有る毒物なのでしょうか?
A.15 これは演出です。実際には即効性の無い毒物も多く含まれています。

Q.16 ガトリング砲とガトリング銃が出てきますが、この違いは何でしょうか?
A.16 口径です。口径20ミリ以上を「砲」と言っています。

Q.17 出てくる列車の運転手は誰ですか?
A.17 幾つかの考え方が有ると思います。もっとも笑えるのは、ジェームズ王自らが運転士をやっていると言うものです。因に、他の全ての業務はソフィーナがこなしていると言う説もあります。

Q.18 ソフィーナってとても良い女性に思えるのですが?
A.18 二つの説があります。とても良い女性と言う説と、そう見せ掛けている、本当は極悪女と言う説です。真実は謎です。

Q.19 集団で喋っているとき、誰の台詞か判らないのですが。
A.19 主要なキャラ、例えばハインデルやソフィーナの場合は、判るように努力していますが、主要でないキャラの台詞は不明でも問題ない場合、発言者不明のままになっています。

Q.20 「仕事人」ってどんな仕事ですか?
A.20 「依頼された、困難な仕事を必ず成し遂げるプロ」と言う様な定義です。暗殺者と言う意味ではありません。


 この作品はフィクションであり、登場する人物、団体、地名、年号などは全て架空です。

nausicaa@msa.biglobe.ne.jp、佐藤

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