「クラリスの部屋」


by 佐藤クラリス (PC-VAN宮崎駿ネットワーカーFC)

 2000年10月05日アップデート → メールアドレス変更
 このページは、PC-VAN宮崎駿ネットワーカーFCの佐藤クラリスさんが、そこで掲載した作品  クラリスの部屋  の全文を掲載しています。なお、無断転載等は厳禁です。(編集者)

 さて、「ルパン三世・カリオストロの城」は公開(1979.12.15)から既に14年の歳月が過ぎようとしていますが、カリ城を巡る話題、クラリス様を巡る想いは未だ衰えていません。

 この理由はカリ城と云う映画の持つ魅力、つまり、クラリス様の清純さと気高さ、芯の強さ。これこそが、その命なのです。
 わたしは登場人物にその魅力を語らせようと思います。そして、語り手のクラリス様に対する思い入れ、あるいは愛情を告白させようと思います。

では、クラリスの部屋へごあんな〜い(^_^)


クラリスの部屋:第一回「カリオストロ伯爵の悩み」

 インタビュアー
「伯爵は常に自信に満ち溢れていらっしゃいますが、今までに人生でお悩みになった事は御座いませんか?」

 カリオストロ伯爵
「勿論有るとも。それは古きゴートの血だ。400年の長き年月、カリオストロ家は二つに分かれていた。我が伯爵家は代々大公家の影として謀略と暗殺を司り国を支えてきたのだ。私は自分が伯爵家に生まれた事を呪ったものだ。生まれながらにして、両手は血まみれなのだ。大公家のクラリスは同じゴートの血を引きながら、その様な苦労も知らず、天使の様に美しく育っていた。妬ましかった。羨ましかったのだ。生まれた場所が違うだけで、なぜ、光と影に分かれなければならないのかと。だから、私は大公家を滅ぼしたのだ。クラリスを悲しみに突き落とし、そして我が妻として奪ったのだ。光と影に分かれていた2つのカリオストロ家が今一つになろうとしているのだ。我が家に伝わる金の山羊と大公家の銀の山羊の指輪が一つに重なる時こそ、それは実現されるのだ。秘められた先祖の財宝等問題ではない」

(カリ城公開直前のインタビューから抜粋)


 カリオストロ伯爵の主治医によると、「女たらし」で有名なカリオストロ伯爵の行動パターンには特有のものが見られたそうだ。つまり、若くて魅力的な女性に惚れるのだが、すぐに飽きてしまうのだ。客観的にみて完全無欠と思われる様な美女でも結果は同じであったそうだ。

 その理由は謎だったが、映画「ルパン三世・カリオストロの城」を観た主治医は、それがカリオストロ伯爵のクラリスに対する「屈折した愛情」であったと断言した。カリオストロ伯爵はその思春期(彼の場合は20才を過ぎていた)にクラリスに「インプリント」された。両親の愛情に飢えていた彼は少女クラリスに秘められた超常の魅力のイメージを脳裏に焼き込まれ、クラリス以外の如何なる女性をも受け付けなくなったのだ。
 彼は常にクラリスの姿を求め彼女を独占しようとした。「女たらし」の浮き名を流したのは満たされない心をクラリス以外の女性で代用しようとした、彼の虚しい努力であったのだ。

 それが無理である事が分かった時、彼は決心をしたのだ。

クラリスを手に入れる。

 全ての自由、全ての財産、全ての時間をそれに掛けようと。大公家を滅ぼしたのは実はそこにこそ根源的な理由があったのだ。
 しかし、クラリスは自分の方を向いてはくれない。それどころか、ルパンとか云うネズミに心を惹かれる有り様。彼の愛情は100倍の憎悪となり、ついに彼女を殺す寸前まで行ったのだった。

 だが、万一、クラリスを殺し彼があのまま生きていたとしても、彼の精神はクラリスを失い、狂乱のまま人生を終わったであろう。つまり、カリオストロ伯爵にとってクラリスはその全てであったと云う事だ。


カリオストロ伯爵の主治医の手記が残っている。

 「わたしは、カリオストロ伯爵の死後、多くの青少年がカリオストロ伯爵と同様の症状に悩んでいる事に気付いた。つまり、クラリス以外の女性に魅力を感じない人々である。その数は年を追って殖え続けている。わたしはこれにクラリス・コンプレックスと命名した。勿論、それはエディップス・コンプレックスやエレクトラ・コンプレックスと同列に扱われる程重要な問題となっている。このままでは世界は滅びてしまうのではないか?1795年に死んだとされるジョゼフ・バルサモ・カリオストロの呪いは未だに生き続けているのだ」

(資料提供:クラリス親衛隊日本支部)



クラリスの部屋:第二回「大公家の園丁の秘密」

 インタビュアー
「おじいさんはクラリス様がお小さい時から大公家で働いていたそうですが、その頃のクラリス様はどうでしたか?」

 園丁
「随分昔の話じゃ。ワシが大公家に雇われた時はクラリス様が、そう、6才位の時じゃった。当時から、飛び抜けて賢く、そして可愛い方じゃった。大公家の誰からも可愛がられておったのじゃ…。 ……もう話しても良かろう。実はな、ワシは園丁と云う事で雇われておったが、実はクラリス様をお守りする役を仰せつかっておったのだ」

 インタビュアー
「ええっ!!本当ですかっ!一体誰が狙っていたんですっ!」

 園丁
「それは云うまでもあるまい。あの伯爵じゃよ。そう、ワシもあの影たちの一人だったのだ…」

 インタビュアー
「ま、まさか…。でも、確かにがっしりした身体つきですね」

 園丁
「うむ、ここカリオストロ公国で産業と云えるのは、観光と切手位な物でな。若者は大抵よその国へ出て行ってしまう。だから伯爵家の影になるのは大変な名誉なのだ。で、ワシは喜んで影になったのだ。そして、人より何倍もバリバリ働いた。しかし…、段々分からなくなって行ったんじゃ。自分が何なんだと云う事がな。人を殺して、それで何が変わり何が救われると云うんじゃろうとな。ワシは悩んでおった。
 その時、伯爵からクラリス様を誘拐せよとの命令を受けたのだ。命令は絶対だ。ワシはやむを得ず、クラリス様をさらおうとした。しかし、クラリス様を見て、そして、その仕草、態度を見て、ワシは自分の愚かさをつくづくと悟ったのじゃ。この方は生まれながらのお姫様じゃと。そこには近寄り難い気品と落ちつきが有り、しかも勇敢だ。ワシは負けたと思った。そして、この方をお守りしたいと決めたのじゃ。ワシは大公殿下の前にひざまずき、事の次第を正直に話し、許しを乞うた。大公殿下は寛大なお方じゃった。ワシを許し、クラリス様を守る様に命じて下さったのだ。ワシはそれ以来、それこそ命を賭けてクラリス様をお守りしたのじゃ。伯爵はつむぎ車に仕掛けた毒針、毒りんご、偽手紙等ありとあらゆる手段を使ってクラリス様を奪おうとした。しかし、それは全て失敗したのじゃ。
 クラリス様はワシを慕ってくれてのう…。犬のカールも良くなついてくれた。ワシは生き甲斐と云う物をやっと見つけた様な気がしたのじゃ。ワシは幸せじゃった。
 所が、7年前の事だ。ワシがクラリス様を連れてちょっと遠出をした隙に、伯爵は大公様の館に火を放ち、大公殿下、妃殿下を殺めたのじゃ。全く、何と云う恐ろしい事じゃったろう…。伯爵はカリオストロ公国の実権を握り、摂政となり、クラリス様は修道院にお入りになる事になった。それから先の事は、あんたらの方が良く知っておるじゃろう。
  それにしても、あのルパンさん達が居なかったら、クラリス様もどんなひどい目に遭っていなさったか…。本当に感謝の言葉も無い」

(事件より8ヶ月後のインタビューより)



クラリスの部屋:第三回「ジョドーの罪」

 インターポール捜査官
「貴方はカリオストロ伯爵家の執事と云う事になっていますが、それに間違い無いですか?」

 ジョドー
「ハイ、左様でございます」

 インターポール捜査官
「しかし、それは表向きの事。実際はカリオストロ公国の暗部を握る首領だったと云う事は既に分かっています。どうです?既に伯爵は亡く、彼に義理立てする必要も無い。今こそ、全てを明らかにしてみては?それが出来るのは貴方しか居ないと思いますが…」

 ジョドー
「たとえ亡くなったとは云え、伯爵は私の主人です。その名誉に関する事を話す訳には行かないのです」

 インターポール捜査官
「フム。それも一理有ります。しかし、考えて欲しいのです。現在カリオストロ公国は極度の混乱状態にあります。最大の問題は王家に恐るべきスキャンダルが隠されていると云う疑いなのです。それを明らかにし、取るべき責任は取ると云う事が、貴方の主人であった伯爵の支配した国に対する礼儀ではないかと思います。事実が貴方に不利な場合、それを明らかにしない権利は貴方に有ります。しかし、現在最も必要なのは、真実なのだと云う事もお分かりでしょう。カリオストロ公国大公息女クラリスさんはカリオストロ公国を継ぐ者として奮闘されています。新しいカリオストロ公国を助けてあげようでは有りませんか!」

 ジョドー
「…分かりました。確かに古い世界は終わりを告げたのです。亡くなった伯爵にいつまでも忠誠を誓うのは私のわがままに過ぎないでしょう。…ええ、私は確かにカリオストロ公国の闇の部分の首領です。カリオストロ公国は中世末期に建国された時から、闇の騎士団を持っていました。それを司るのが伯爵家なのです。私はその騎士団の首領です。我々は400年の永きに渡って営々と伝統を守り、公国を守ってきたのです。しかし、伯爵は今までの先祖とは違っていました。影の存在では飽きたらず、先祖伝来の財宝を自分の物とし、更に公国そのものを支配しようとしたのです。
 その結果、大公殿下、妃殿下は非業の死を遂げられ、残されたクラリス様をも自分の物としようとしたのです。伯爵はあの様な悲惨な最後を遂げられましたが、あるいは天罰かも知れません」

 インターポール捜査官
「なるほど。良く話して下さいました。大体納得出来ました。しかし、疑問が有ります。貴方がたは公国を守るのが役目のはず。それなのに、公国に害を及ぼす伯爵の野心を支え、その先兵となったのは一体何故なのですか?」

 ジョドー
「弁解の余地は有りません。我々は昔から伯爵家の家来なので伯爵の云う事に逆らう事は出来ません。参謀、執事と云ってもそう云う立場なのです」

 インターポール捜査官
「なるほど。では、クラリスさんを拉致した事についてはどの様に考えていますか?」

 ジョドー
「伯爵の暴君ぶりは我々も困っていたのです。で、私は伯爵に進言したのです。クラリス様を妃に迎えてはと。私の考えではあの様に美しく、しかも心優しき方が伯爵の妃になられたら、伯爵の心も和むのではと…」

 インターポール捜査官
「ふーむ、これは重大な事を聞きました。つまり、挑発したのは貴方なんですね。クラリスさんを奪えと」

 ジョドー
「いや、あの様な結果になるとは想像もしませんでした。ルパン達さえやってこなければ…」

 インターポール捜査官
「そして、彼らはやってきた。クラリスさんは救われた。もし、彼らがやってこなければ、クラリスさんはどんな目に遭っていたでしょうねぇ〜?伯爵の犠牲になっていたんではないですか?そんな事が許されると思いますか?たとえ、神に慈悲の心が有ったとしてもそんな事は絶対に許さないでしょうねぇ〜。カリオストロ公国の自然や遺跡の様に美しく気高き神聖不可触のクラリス様を危険に陥れた。それだけで十分死に値するのですっ!しかも、伯爵に誘拐をそそのかし、自らは誘拐実行部隊の長、強制結婚の指揮官であった…。もはや如何なる言い逃れも情状も役には立ちませんね。…さて、もうこれ以上聞く必要は無いですね。貴方は無条件で死刑になるでしょう。それは貴方のやった事にふさわしい報酬です。おいっ!こいつを連れて行けっ!!」



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著者: 佐藤クラリス/ nausicaa@msa.biglobe.ne.jp
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