讃美歌488番 「はるかにあおぎ見る かがやきのみくにに、」

■1941年のアカデミー賞を受賞作品ゲーリー・クーパー主演の「ヨーク軍曹」で、主人公のアルヴィン・ヨークが自分を裏切った友人を殺す為に嵐の中、銃を持って馬に乗って出向いている時、雷に打たれ落馬した。手にしていた銃に落雷したのである。意識を取り戻したとき、銃身は雷で押し曲げられていた。その時に教会から聞こえてきたのが、この讃美歌である。この歌に引き寄せられるようにヨークは教会の中に入り、会衆と共に讃美歌を歌い神を讃美している自分を見出した。ヨークの回心であるが、パウロの回心を思い出させる場面である。この後、ヨークは熱心なキリスト者となり、聖書に忠実に生き、良心的兵役拒否者となる。この映画の時代は丁度、第1次世界大戦に米国が参戦しようとしていた時期であるが、この映画の製作は第2次世界大戦の始まった頃であり、映画制作の目的は戦意高揚ではなかったかと思われる。良心的兵役拒否者のヨークも、“自由”の名の下に徴兵され、味方の苦境の中で大きな功績をあげて英雄となった。

■この讃美歌は天国を歌ったものである。

1節の「・・・父のそなえましし たのしきすみかあり。」はヨハネによる福音書14章2節「行ってあなたがたのために場所を用意したら、戻って来て、あなたがたをわたしのもとに迎える。こうして、わたしのいる所に、あなたがたもいることになる。」を引用したものと思われ、2節の「かがやくみくににて、うきもなやみもなく、・・・」と3節「・・・豊かなるめぐみを、とこしなえにたたえん。」はイザヤ書35章10節「主に贖われた人々は帰って来る。とこしえの喜びを先頭に立てて、喜び歌いつつシオンに帰り着く。喜びと楽しみが彼らを迎え、嘆きと悲しみは逃げ去る。」を参照したものと思われる。

■作曲者ジョーゼフ・P・ウエブスター(Joseph Philbrick Webster 1819-1874)は、ロウエル・メイスンのもとで音楽を学び、ニューヨーク他東海岸で活躍の後、最後にウイスコンシン州のエルク・ホーンに定住した。ここで、作詞者のサンフォード・F・ベネット(Sanford Fillmore Bennett 1836-1898)と一緒に讃美歌の作詞、作曲に励み、その中で、一時アメリカの子供達や楽隊で流行したのがこの讃美歌である。

■ウエブスターは、音楽家にありがちな繊細で、神経質で一種の躁鬱であったらしい。作詞者ベネットによれば「ある時、ウエブスターが自分の部屋にやってきて、無言でストーブに背を向けた。私が“どうかしたのか”と尋ねると、彼は段々良くなるよ!It will be all right by and by.と答えたので、とっさに“やがて楽になる The Sweet By and By!  これでよい讃美歌が作れるのではないか”と彼に言い、机に向かい筆を走らせた。出来上がった歌詞を彼に見せると、たちまち彼の目は輝きを見せ作曲に取り掛かった。そして、メロデイ―を作った後、コーラスの楽譜を記して2人で合唱を始めた。この間三十分も経っていなかった。」と記している。ベネットは南北戦争に従軍の後、エルク・ホーンに戻り、医学部を卒業して20年以上医師として働いた。

 

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