第2編 156番  「めさめよ、わがたま」

 
原詩は英国バプテスト派の牧師であったサミュエル・メドレー(Samuel Medley, 1738-99)の "Awake, my soul, in joyful lays" ("... to joyful lays" に変えた版もある)である。メドレーは英国海軍の水兵であったが、負傷して療養しているときにワッツ(Isaac Watts)の説教を聞いて回心をした。この詩は、J. H. Meyer 編の Collection of Hymns for Lady Huntingdon's Chapel (London: 1782) に収められた。原詩は8節まであり、第1節は以下である(4行目は "His loving kindness is so free." という版もある)。これまでさまざまな曲(Loving-Kindness, Hebron, O Heilige Dreifaltigkeit, Lebanon など)と組み合わされてきたが、Ayrshire の曲で歌われるのは日本だけかもしれない。
 
   Awake, my soul! in joyful lays,
   And sing thy great Redeemer's praise;
   He justly claims a song from me,
   His loving kindness, O how free!
 
明治版『讃美歌』で「こころの緒琴(おごと)よ、たのしきしらべに」として同じく AYRSHIRE の曲で収録されたが、昭和6年版『讃美歌』では CANTATE DOMINO の曲(Joseph Barnby 作曲)に変更された。『讃美歌第二編』では明治版の曲に戻して、新たな訳詞を付けた。
 
この曲は、スコットランドの国民的詩人ロバート・バーンズ(Robert Burns)が書いた「美しきドゥーンの川岸」(タイトルは "The Banks o' Doon," "Ye Banks and Braes" または "Bonnie Doon")として現在でも広く歌われている。曲は1788年にミラー(James Miller)とクラーク(Stephen Clarke)が共同して作曲した。これを著名なフィドル奏者のニール・ガウ(Niel Gow)が『ストラススペイ・リールズ』(Strathspey Reels, 1788)に "Caledonian Hunt's Delight" として載せた。バーンズの詩には3つの版があり、"Caledonian Hunt's Delight" に合わせた第3版がジェイムズ・ジョンソン編の民謡集『スコットランド音楽博物館(The Scots Musical Museum)』(1792, no. 374)に掲載された。先行する関連曲が1765年ころのマニュスクリプトに "Favourite Irish Air" として記録されている。19世紀のアメリカでは多くの楽譜が出版されて、さまざまな替え歌にも使われた。CANDLER という曲名で賛美歌になり、The Christian Lyre (1830); The Hesperian Harp (1848) などに載り、現行版の The United Methodist Hymnal (1989, no. 386) に引き継がれている。イギリスの Hymns for Today's Church (1982, no. 220) では YE BANKS AND BRAES という曲名を採用している。AYRSHIRE(エアシャー) はスコットランド南西部の旧州であり、「この曲の起源がその地域であるかもしれない」(『讃美歌第二編略解』)との推測があるが、そうではなくて、この地がバーンズの出身地であることにちなんだものと考えられる。なお、英米でAYRSHIRE という曲名は Kenneth George Finlay 作曲の別の曲を指すことが一般的で、この曲の呼び名としては稀である。
 
日本では明治15年(1882)に出版された『讃美歌并(ならびに)楽譜』で「よろこびうたひて」の曲(曲名はAYRSHIRE)として収録された。この楽譜には「スコッチ・スナップ」というリズムがあって、おそらくは Songs for the Sanctuary (1865; 1872, p. 89) の AYRSHIRE (歌詞は "When, marshaled on the nightly plain") から採られたと思われる(3声部の編曲も同一であるので)。また、『小学唱歌集 初編』(1881)の「思いいづれば」の曲(ただし、3拍子で「スコッチ・スナップ」はない)にも採用された。

背景のmidiは新たに作成しました。