讃美歌 第2編187番 「聖徒よ、よろこびもて」

楽譜の右上段に示されていますように、しばしばこの歌は1844年出版のシェイプ・ノート歌集である『セイクレッド・ハープ』(The Sacred Harp)が出典とされてきました。しかし、確かにこの歌集には122番として “All Is Well” (J.T. White ; 歌詞は “What's this that steals upon my frame?”) が収録されているのですが、この版はむしろ別の曲としたほうがよいくらいの大きな違いのある旋律で、そこから由来しているとは考えられません。

『讃美歌第二編』版はモルモンの聖歌集(Hymns of The Church of Jesus Christ of Latter-day Saints, 1985)にある旋律と同じで、そこでは作詞者はウィリアム・クレイトン(William Clayton)、曲の出典は(『セイクレッド・ハープ』ではなく)English folk song とされています。クレイトンは、すでにいくつかの歌集(たとえば1841年の William B. Bradbury and Charles W. Sanders, The Young Choir)に取り入れられていた曲(曲名は同じく“All Is Well” で、歌詞は “What's this that steals upon my frame?”)を利用して1846年に新しい歌詞("Come, come, ye saints”)を書き、1851年に出版しました(歌の終わりに繰り返される “All Is Well” という歌詞は共通しています)。『セイクレッド・ハープ』版はこの先行曲を大きく改作したもので、『讃美歌第二編』版の直接の出典ではないと思われます。なお、曲の系譜はさらにイギリスの "Begone Dull Care" という世俗曲(「民謡」というよりは「大衆歌謡」です)に遡ることができます(かなりの違いがありますが、旋律の一部が似ています)。

■作詞者William Clayton1814-1879)は、末日聖徒イエス・キリスト教会(The Church of Jesus Christ of Latter-day Saints 通称:モルモン教)の創設者の一人であります。

モルモン教は,ニューヨークに住むJoseph Smith1820年、14歳のときに神の啓示を受けたことからスタートし、1830年に「モルモンの書」を翻訳、新しい教会を作る過程で当時のキリスト教社会からの迫害を受けて、西部への移動を始め,Smith自身はイリノイ州で亡くなりましたが、後継者(Brigham Young)が1846-1848年ユタ州にソルトレイクを建設、末日聖徒イエス・キリスト教会が組織化されました。

Clayton,英国で生まれましたが,1840年にアメリカに移住、モルモン教徒が西部への移動の途上、イリノイ州がアイオワ州と接するNauvooという土地に定着した一時期に、既にSmithの秘書の役割を担っていました。1846年にNauvooを後にし、ソルトレイクに向いました。この歌は、1846年作とありますが、Nauvooから更に西部に新天地を求めて困難な道のりを開拓して進んでいたある日に,Nauvooに残して来た夫人が長男を出産したとの知らせを受け、その喜びと旅路の希望を歌にしたものといわれます。

■末日聖徒イエス・キリスト教会について

カトリック系の団体(Glenmary Research Center in Nashville)が2000年に行った米国の宗教、宗派に関する調査では、末日聖徒イエス・キリスト教会が、過去10年間で信者の数が一番伸びているとの事である。人数では422万人で、最大の宗派はカトリックが6200万人、プロテスタントでは,Southern Baptest Conventionが約2000万人となっている。

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