讃美歌166番 「イエス君は いとうるわし、」
■オーデル川の両岸で今のポーランド、ドイツ、チェコの国境地域シュレジア地方の宗教民謡を源とする。歌詞は、
17世紀頃,ドイツのイエスズ会の修道士のものといわれるがはっきりしない。詩曲共に、まれに見る民謡的な美しさを持っている讃美歌である。尚、曲名として「十字軍の歌」”Crusader's Hymn”とあるのは、この旋律が十字軍の遠征の時代に遡ると誤って伝えられてきたためである。■日本語で「イエス君は いとうるわし」の歌詞名は、英語では”Fairest Lord Jesus”或いは”Beautiful Savio(u)r”の歌詞名で、何れもドイツ語の原歌詞名”Schönster Herr Jesu”をそのまま訳したものと言えよう。
■この曲は、ハインリッヒ・ホフマン・フォン・ファラースレーベン(Heinrich Hoffmann von Fallersleben、1798-1874)という人が、
1836年の夏、ドイツのシュレージェン地方を旅行したとき、乾草造りの農夫たちが歌っているのを聞いて記録したものであり、方々を旅行してみると、同地方では羊飼いの老人からいたずらっ子の幼児にいたるまで、年齢階級の差別なく歌われていたというのである。そこで、ホフマン・フォン・ファラースレーベンが1842年に『シュレージェン地方の民謡集 (讃美歌の作曲者欄にSchleische Volkslieder,Leipzig、1842を指す)』を出版して、この曲を発表したところ,たちまちドイツ人に愛唱されるようになって、聖歌集にも収められることとなった。その後、この曲は英米にも渡って、特に米国では、今日広く愛唱されている。■シュレジアの地名は、地図を見るとポーランドになっていますが、歴史的にはこの地方(
Silesia或いはSchlesien)は、現在のポーランドとドイツの国境線となっているオーデル川(上流がOder川で下流がNeisee川)を挟んで南北に広がりを持った地域です。又古くから、この地域では鉱工業、金属工業、工芸等が盛んでした。ちょうどゲルマンとスラブ民族が接するところでもあり、この地域が長い歴史の中で、ドイツ(プロシア)、ポーランド、チェコ(ボヘミア)、ハンガリー・オーストリア(ハプスブルグ王朝)などその時々の勢力圏に統治され非常に揺れ動いた歴史を持っています。■キリスト教は、南の方ボヘミア、モラヴィアを経由して10世紀頃までには定着したようです。数多くの修道院などが作られ、熱心な信者が多かったと思われ、ルッターの宗教改革より100年も前にボヘミアにJohn Husが現れ、聖書を唯一のよりどころとすべきと主張してローマ(カトリックト)に譲らず、1415年にプラハで火あぶりの刑を受けました。この地域では,カトリックとプロテスタントが長い間競い合ったようです。一般庶民の間で宗教的民謡が盛んであったことが理解できるようです。又、この曲名が“十字軍の歌 Crusader’s Hymn”となっているのも、そのような背景を考えると納得が出来ます。(実際は十字軍とは関係ないようです)■英語への翻訳は、1873年Joseph A. Seissで曲のアレンジは1850年Richard S. Willisとなっています。
背景のmidiは新たに作成しました。