讃美歌 第二編 157 「この世のなみかぜさわぎ」

■アイルランド民謡“Londonderry”の旋律に松平惟太郎氏の作詞を配した曲である。

■旋律はLondonderry Air(ロンドンデリーの歌、或は調べ)と呼ばれ、19世紀半ばに、古くから伝わるアイルランド民謡の一つとして歌集(the Ancient Music of Ireland1855年)に発表されて、アイルランド、スコットランド地方に広まった。この旋律のために100以上の歌詞が創作されたが、20世紀の初めに“ダニーボーイ Danny Boy”の歌詞が配されて以来欧米を始め世界中に広まった。この歌詞は出征するわが子を送る親の愛の歌といわれ、第一次世界大戦の前年で、世界中が戦争の予感におびえていた頃であったことも急速に普及した理由の一つといわれる。第二次世界大戦中にビング・クロスビーにより、そして戦後はハリー・ベラフォンテ等により歌われてますますポピュラーになった。

■Danny Boyの作詞者はFrederic Edward Weatherly(1848−1929)というイギリス人で職業は弁護士であったが、作詞に熱心で多くの作品を残している。Danny Boyは1910年の作品であるが、1912年にアメリカにいた義理の妹から“Londonderry Air”の旋律が送られてきて、彼はDanny Boyに相応しい旋律であると考え多少歌詞を変更して1913年に発表した。アメリカの義理の妹は、アイルランドからの移住者がよく口ずさんでいたこの旋律を書き記し兄に送ったものである。19世紀中頃、アイルランドで起こった大飢饉の時に多くのアイルランド人がアメリカ大陸に移住してきたが、彼らと共にこの旋律もアメリカに渡ってきたものと思われる。

■この民謡の発掘にまつわる物語;

(1)ロンドンデリーは、北アイルランド(英国)第二の都市であるが(州都はベルファスト市)、アイルランド固有の伝統文化が強く残されている地域である。19世紀の半ば、この近くに住みアイルランドの古い民謡に関心を持っていたJane Ross(1810−1866年 女性)がある時、流しのフィドラー(盲目のJimmy McCurry 1830−1879年)のこの美しい調べに魅了され、彼を家に呼びいれ、彼女が旋律を書き留めるまで幾度となく弾いてもらった。彼女は、この旋律を音楽の収集家George Petrie(1789−1866年)に贈り,Petrieはこれを1855年発行の“the Ancient Music of the Ireland”で発表した。Miss Janeはこの旋律の曲名を知らず,Petrieには、ただ非常に古い民謡だと説明し,Petrieが、地名にちなんで“Londonderry Air”と命名したと言う。

(2)その後の調査により、この旋律はこれ以前にEdward Bunting(173−1843年)が1796年に最初に発行した“The General Collection of the Ancient Music of Ireland”に“Aislean an Oigfear(ゲール語 英語ではthe young man's dream)”として既に収められていることが分かった。Buntingはこの旋律を1792年、Belfast Harp Festivalにおいて,Harp奏者のDenis Hempson( 1697−1807年 3歳の時、天然痘にかかり盲目となる)から聴き、コレクションに加えた。尚,HempsonはJane Rossの近くに住んでいた。当時、アイルランド、スコットランドでは、フィドルやハープ或はバグパイプなどを抱えて歌を奏でながら村から村へと回り歩く流しの芸人が多かったようです。

(3)“the young man's dream”は、又、“O'Cahan Lament オカハンの哀歌”として17世紀頃からアイルランドやスコットランドで親しまれた旋律と言われる。O'Cahanはロンドンデリーに土着の一族でしたが、17世紀の初め、エリザベス一世の後を継いだジェームス一世がアイルランドを実質支配するためにイングランドとスコットランドからの移住を奨励し、土着のアイルランド人の多くは土地を没収されました。O'Cahan一族も同様でしたが、一族の長であったRory Dall  O'Cahanという盲目でハープを得意とする人物が、ある晩、お酒に酔って家路に帰るときよろめいて倒れ、気を失いました。気を失っている時に妖精達がハープで奏でている大変魅力的なメロデイ―を聴き、目覚めて家に帰りすぐさま、そのメロデイーを書き取ったと言うことです。

 

背景のmidiは新たに作成しました。

 

尚、二木 紘三の下記サイトで“ダニー・ボーイ”の美しい曲を聴くことができます。

http://homepage2.nifty.com/duarbo/versoj/v-gaikokuminyo/dannyboy.htm

 

注記:

参考までに,Danny BoyLondonderry Airの他の代表作の一編の英語と和訳を紹介します。

 

Danny Boy

 

Oh, Danny boy, the pipes, the pipes are calling,

From glen to glen and down the mountain side;

Summer's gone, and all the flow'rs are dying;

'Tis you, 'tis you must go, and I must bide.

          おぉ、ダニーボーイよ、と笛が、笛が呼んでいる

          谷間から谷間へ、山腹を駆け下りて

          夏は去り、全ての花が死んでしまう

          ああ貴方は去らねばならない。そして私は留まらねばならない。

 

But come you back when summer's in the meadow,

Or when the valley's hushed and white with snow;

'Til I'll be there in sunshine or in shadow;

Danny boy, Oh Danny boy, I love you so.

          でも貴方は、夏が草地にある時に戻って来て。

          或いは谷間が静かに雪に覆われた時に戻って来て。

          私は日が照っていようとかげっていようとそこに居ますから

          ダニーボーイ、おぉダニーボーイ、私は貴方を愛します

 

But come ye back when all the world is dying,

If I am dead, as dead I well may be.

You'll come and see the place where I am lying,

And say an "Ave" there for me.

          でも、あなたが全ての世界が死んでいる時に戻ってきて、

          私も死んでいたら、(私もいつかは死ぬだろうから)

          貴方が見るのは私が横たわっている姿でしょう

          その時は私に冥福を祈る言葉を告げてください

 

And I shall hear, 'though soft you tread around me,

And all my dreams will warm and sweeter be,

If you will only tell me you love me,

Then I'll sleep in peace, until you waken me.

          その時はどんなにそっと歩いても、私は貴方の声を聞くでしょう

          そして私の見る夢は暖かく甘くなるでしょう

          貴方が私を愛していると言ってくれたら

          私は貴方が起こしてくれるまで平和に眠っているでしょう。

 

  Londonderry's Air ロンドンデリーの歌

 

My son I reared as might the brooding partridge

Rear up an eaglet fall'n from stormstruck nest;

My son, ah no! one captained for high conflict,

My chieftain husband's heir and his bequest!

      息子よ、私はあなたを鳥が卵を抱くように大事に育てて来ました

      嵐にあって巣から落ちた子鷲のように育てて来ました

      息子よ、ああ嫌! 貴方は高潔な戦いの先頭に立つのですね

      族長であった私の夫の血筋であり忘れ形見なのですものね

 

No mother's part in him did my heart treasure,

And he would go, and I could stand alone;

Ah! so I thought, but now my heart strings measure

The love, the loss my son, my little son thou'rt gone!

      彼の中に母に似た所などないことがむしろ私の宝でしょう

      そして彼は行くでしょう、私は一人でも大丈夫だから

      ああ! そうは思うけど、私の心の糸が測ってしまうのです

      息子への愛と喪失感を。私の愛しい息子よ、貴方は行ってしまった。

 

I see the grey road winding, winding from me,

And thou upon them exiled, and away;

I turn unto the empty house that's by me

Ah, dark this day as on Wolfe Tone's death' day!

      私は遙かに曲がりくねって続いていく道を眺めています

      貴方はこの道を通って遠くへ行ってしまった

      私はきびすを返して空っぽの家の中に入る

      ああなんて暗いんでしょう。ウルフェ・トーンが死んだ日のよう!

 

But no, no, no! Up from the sod beside me,

Up, up, with glorius singing speeds the lark;

'Tis Wolfe Tone's spirit, his, reconcile me,

And in a swordflash, gone the loneliness the dark!

      でも違う違う! 私のそばの草原の中から

      栄誉ある歌を歌うひがりが飛び立つ

      それは亡きウルフェ・トーンの魂で、私をなだめてくれる

      そして剣の光の中に、孤独と闇は消え去る!

 

 

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