日本政府代表団プレスブリーフィング

「京都メカニズムと遵守制度の関係について」への反論

2001年11月9日(COP7:マラケシュ)

地球環境と大気汚染を考える全国市民会議(CASA)

 日本政府は11月8日、報道機関に対し、「京都メカニズムと遵守制度の関係について」のプレスブリーフィングを行った。その内容は、京都メカニズムの参加資格に関して、「法的拘束力のある結果(帰結)の受け入れを条件とすることによって、法的拘束力の導入を目指す旨の主張が行われている」とし、こうした主張は、京都議定書やボン合意をリオープン(再交渉)するものであるというものである。

 このブリーフィングの内容は、以下のとおりその前提や根拠が明らかに間違っている。この京都メカニズムへの参加資格の問題は、現在続けられている最終盤の閣僚級の交渉で、日本政府がもっともこだわっている部分と思われ、以下にその問題点を指摘する。

1. 「法的拘束力のある結果の受け入れを条件とすることによって、法的拘束力の導入を目指す旨の主張が行われている」としているが、少なくとも交渉グループでの議論のなかでこうした主張をしている国やグループはない。ボン合意が成立の経緯やCOP7での議論の経緯からしてもこうした主張をする国やグループがあるとは考えられない。

2.1の主張によれば、「改正が発効した後は法的拘束力ある結果を有する遵守制度の受け入れのみを京都メカニズムの参加条件とする」ことになるとしているが、国際法の理解として明らかに誤りである。

遵守手続を受け入れることをメカニズムの参加資格とすることは、法的拘束力ある結果を伴う遵守制度を日本の意思に関係なく(同意なく)課すことにはならない。

 日本が法的拘束力ある帰結を伴う遵守制度にしたがうことになるのは、COP/MOP1が遵守手続きのもとでの帰結に法的拘束力があるかどうかを決定し、かつ、日本がその法的拘束力ある帰結を伴う遵守手続について改正の批准(受諾)を行った場合のみである。

3.「京都メカニズムのルールが議定書の改正の批准により制限されることは法的に問題がある」とし、遵守手続を受け入れることをメカニズムの参加資格とすることは、京都議定書のリオープンとなるかのような主張をしている。

 しかし、遵守手続を受け入れることをメカニズムの参加資格とすることは、京都議定書のリオープンにはならず、これも明らかに間違った主張である。

 京都議定書は、3つのメカニズムを設け、先進国が削減目標の達成のために利用できるとしているが、それは、全く何の条件もなしにメカニズムが利用できるというものではない。京都議定書が明確に定めているように、3つのメカニズムの利用の条件、方法についてはCOP/MOPが決定することとなっており、まさに現在行っているメカニズムの交渉がそれを合意し、決定するためのものである。メカニズムの条件を交渉で議論することが京都議定書に照らして問題であるといった議論は議定書の解釈としても、これまでの交渉の経緯に照らしても正しくない。

4.「遵守手続を受け入れることをメカニズムの参加資格とすることは、ボン合意のリオープンになる」としている。しかし、遵守手続を受け入れることをメカニズムの参加資格とすることは、ボン合意のリオープンにはならない。むしろ、日本のこれまでの提案がボン合意の規定を無視したものである。

 ボン合意の京都メカニズムのセクション、パラグラフ11は、明確に、遵守手続に関する合意を受け入れることをメカニズムの参加資格の一つとしている。このことをメカニズムの参加資格としないことは、明らかにボン合意に反する。日本がCOP7での交渉で行った、遵守手続の受け入れの規定を削除するといった提案や参加資格の審査に関するもののみを受け入れることを参加資格とするといった提案は、明確にボン合意の規定に反するものである。

5.遵守手続を受け入れることをメカニズムの参加資格とすることで、「京都メカニズムに参加可能となる時期が不透明である」と主張するが、遵守手続を受け入れることをメカニズムの参加資格とすることで、メカニズムに参加可能となる時期は不透明とはならず、これも明らかに間違っている。

 今回COP7が採択することに合意した遵守手続は、COP決定草案が勧告するようにCOP/MOP1が採択することで機能しはじめる。

 今回COP7が採択することに合意した遵守手続は、COP決定草案が勧告するように、また、日本政府の説明にもあるように、COP/MOP1が採択することで機能しはじめる。したがって、COP/MOP1がCOP7で採択することが合意されている遵守手続を採択すれば、その遵守手続にしたがうことでメカニズムへの参加資格を満たすことになる。

6.遵守手続を受け入れることをメカニズムの参加資格とすることにより「必要以上に厳格な制度や不条理な結果を課される」と主張するが、日本の同意なく「必要以上に厳格な制度や不条理な結果を課される」ことはない。

 日本政府がどの提案をもってこれらの問題を指摘しているかはこの文書からは明らかではないが、共同議長の覚え書き(FCCC/CP/2001/CRP.16)での提案は、COP7で採択することを合意した遵守手続にしたがうことを参加資格としている。

将来遵守手続にそれ以外の内容を盛り込むことがありうるかもしれないが、ボン合意とCOP7が採択することに合意したこの遵守手続の定める帰結ではない、法的拘束力を有する罰金などの導入するには改正が必要であり、前記のように、改正が日本を拘束するのは、日本がその改正に同意をする場合のみである。したがって、日本の同意なく、COP7で採択することに合意した遵守手続以外の帰結を課されることはない。