想い出の旅路  F10号  2017年    
 北海道に暮らしていた頃,幼い長女と長男を車に乗せて道内を巡った。観光地のほかによく立ち寄ったのは牧歌的な酪農風景がみられる地域である。当時5歳の長女の背景にある牧場は,渡島半島の日本海側のせたな町にあり,海岸沿いの国道から分岐した,そぎ落とされたような急傾斜を縫う側道沿いの台地にあった。牧場の背景は日本海の海岸線が空と溶け合い,周辺のなだらかな波のようにうねる小高い丘陵には酪農家が点在している。つなぎ牛舎の中折れ屋根やランドマークのサイロが夏の強い陽光を受けて,時折,光の破片を散らしたように輝いてみえた。