山笑ふ      F30号    2004.7 個人蔵
  降り注いだ山桜の花吹雪が終わり、色とりどりの新緑が自己を主張するように芽吹き始める。春は一説には草木の芽が「張る」ことから来ているという。まさに春本番を告げる新緑であり、「山笑ふ」季節である。ここ中国地方はかってわが国最大のアカマツ林を擁してきたが、すでにクヌギやコナラなどの落葉二次林に遷移し、松を覆い隠し、林床に人や牛が入り込む余地がないほどである。光り輝くつややかな新緑もいいが、穀雨のあとの落ち着いた白緑色、もえぎ色、黄緑、深緑の彩りも風情がある。初夏の暖かく湿り気のある中山間の放牧地の一角で、静かにかぐわかしく芽吹く草木と樹冠を吹き抜ける微風の中をヒヨドリが飛ぶ。