約 集
  1.放牧育成牛群の音声とその機能
要約:
放牧家畜の音声伝達様式を明らかにするために,公共育成牧場のホルスタイン種育成牛についての発声状況を調査し,行動学的にその機能を検討した.一般に放牧牛の発声は少なかったが,@開終牧日及び放牧初期,A放牧未経験あるいは未馴致の個体,B群外縁または群外の個体,C群内の個体でも相互に視覚的確認ができない,場合により高頻度の発声を観察した.また,発声個体とその発声を受容する個体あるいは群れとの間の相互関係は以下の二つに集約された.すなわち,発声対象(受け手)の存在が不明確である発声頻度が比較的高いこと(観察全発生数の23%),及び発声対象が反応を示さないかあるいは反応が不明確な発声頻度が極めて高いこと(同92%)であった.このことから,預託農家から集められた公共牧場の放牧牛の音声は,他個体あるいは群に何らかの影響を及ぼさない自己完結的な発声が主体をなすものと推察された.

2.経歴の異なるウシの同一群内における個体間距離と行動の同時性 
要約:互いに認知しないいくつかのグループからなる群における個体間関係を行動の同時性,個体間距離という両側面から明らかにしそれにかかわる要因を統計的に確認した.供試牛群は経歴の異なる3つのグループ,すなわち黒毛和種雌成牛6頭(J-Aグループ),ホルスタイン種雌育成牛4頭(H-B),同2頭(H-C)からなり,2haの牧区に11日間一緒に放牧した.調査はうち4日間,日中5分間隔で,牧区内の個体の位置および行動を記録した.行動の同時性および個体間距離を測定し,クラスター分析によりそれぞれのデンドログラムを作成した.その結果,同経歴グループの個体間は,行動の同時性を示す一致係数が平均68.7%,個体間距離が平均28.4m,一方異経歴グループの個体間ではそれぞれ60%,41.8mであり,各個体は他のグループより同経歴グループの個体,特にその中の年齢の近い個体と密接なきずなを持つ傾向にあった.H-Cグループが同品種のH-BグループよりJ-Aグループときずなが強かったこと,さらにJ-Aグループの最若齢個体がH-Cグループと密接なきずなをもったことが明らかにされた.以上から,品種,経歴,年齢,所属するグループの大きさといった諸要因が複雑に絡みあって,個体間関係に影響を及ぼしているものと推察された. 

3.公共牧場のホルスタイン種育成牛群における集団形成と個体間関係の季節的変化
要約:
放牧牛の生態は種々の条件によって変化するが,公共牧場の牛群は互いに認知していない個体間同士で構成されている場合が多いために,その群生態は社会的条件が大きく関与してくるものと考えられる.そこで,栃木県塩原町八郎ヶ原牧場のホル種育成・未経産牛群50-90頭を対象に,群生態および個体間関係について5月中旬から10月中旬までの放牧期間中随時,14日間にわたり調査した.その結果,放牧前期(5月中旬から7月中旬)に,牛群はいくつかのサブグループにわかれて散在した.個体間関係では,同一農家からの仲間牛同士,さらに前年度放牧経験牛同士が集結して行動する傾向にあった.中期(7月中旬から8月中旬)に,個体は一群に収束し,体格の大きい未経産牛が群の中心部に位置した.この時期はアカウシアブ(Tabanuschrysurus)などの大型アブの活動時期と一致し,群外縁部にその寄生が認められたことから一群集結は大型アブに対する防衛反応と考えられ,群の中心部はアブの攻撃の少ない好適な場と推定された.後期(8月下旬から10月中旬)に,牛群は広範囲に散開し,仲間牛同士集結する個体間関係が不明確になった.

4.夏と冬における混合飼料給与による高泌乳牛(泌乳前期)の乾物・養分摂取量とみかけの消化率
要 約
 ホクレン畜産実験研修牧場で飼養している泌乳前期の高泌乳牛を用い, 夏('86/8/8-14)と冬('87/1/21-27)に各6頭の乾物摂取量(DMI),養分摂取量,消化率を検討した.飼料はDM中TDN含量73−74%の混合飼料(TMR)を自由採食させた.1)舎内温度は夏が24.5℃,冬が5.9℃であり,夏は暑熱負荷によって,DMIの低下を認めた.2)体重は夏で減少傾向,冬で増加傾向を示した.3)採食TMR中の成分は,夏のCPが16.3%と冬にくらべ2.7%単位高く,粗繊維が17.6%と3.7%単位低かった.4)DMIは夏で21.6 kg,冬で25.2 kgであった.これは,1978年版米国NRC飼養標準の可食限界量の指針に対し,夏でほぼ充足し,冬で16%上回った.5)TDN摂取量の充足率は, 1987年版日本飼養標準の養分要求量(体重増減量に対する養分要求量で補正)に対し,夏で96%,冬で108%であった.CP摂取量およびDCP摂取量は,両季とも107−114%の範囲で充足した.6)4%FCM1kgの生産に要する養分摂取量(体重増減量に対する養分摂取量で補正)は,TDN,CP,DCPについてそれぞれ夏で312,85,56g,冬で366,83,53gであった.7)有機物消化率は両季でほとんど差を認めなかったが,CP,粗繊維の消化率は,それぞれ夏が67,50%,冬が62,64%を示した.以上から,TDN含量73−74%のTMRにおいて,夏の暑熱負荷の影響がなければ,DMIは’78年版NRC標準の可食限界量を上回るとみられた.さらに冬の体重の増加傾向から,過食の可能性も示唆された.夏のCPの消化率の上昇と繊維成分の消化率の低下は,両季の採食した飼料成分の違いや暑熱負荷などによる,第一胃内の発酵の変化に由来するのではないかと推察した.

5.混合飼料給与による泌乳前期のホルスタイン種乳牛の乾物摂取量
要約:
民間研修牧場(北海道訓子府町)で飼養している泌乳牛21頭に,乾物あたりTDN73〜74%,CP15〜16%,粗飼料率55%の混合飼料を1日3〜7回にわけて自由採食させ,分娩後約100日間の舎内温湿度,乾物摂取量(DMI),乳量,体重,乳脂率を測定し,次の結果を得た.1)平均で体重685kg,4%乳脂補正乳量(FCM)32.6kgに対し,そのDMIは23.8kg,体重比3.5%,最大DMIは32.1kg,同体重比4.7%であった.またNRC標準の可食限界量を平均で14%上回った.2)舎内温度4〜18℃の環境条件下での14頭については,体重(x;kg)とFCM(xFCM;kg)を説明変数とする,次のようなDMI(y;kg)の1%水準で有意な回帰式を得た.
   y=13.1684+0.0068x +0.2213xFCM
重相関係数は0.77(寄与率0.59),体重とFCMの相対重要度はそれぞれ21%,79%であった.さらにyの標準誤差をもとめ,体重とFCMとの組み合わせ水準別のDMI(y)と信頼率95%の区間推定値を示した.1978年版米国NRC飼養標準の可食限界量の指針値は,本報告のDMIと比較して,体重比で0.2〜0.8%単位低く,およそ信頼下限値を示した.

6.夏と冬における混合飼料給与時の泌乳牛の採食・反芻行動
要約:
舎内気温の違いによる採食・反芻行動の変化を検討するために,夏と冬の
各5日間,北海道東部の生産的実験牧場において泌乳前期の牛6頭の行動を肉眼観察した.乾物あたり可消化養分総量を73〜74%,粗蛋白質を14〜16%,粗飼料率を55%に調製した混合飼料をおよそ1日4〜5回にわけて個別給飼し,以下の結果を得た.1)舎内気温と同相対湿度は,夏が25.0℃,83%,冬は6.3℃,75%であった.2)乾物摂取量は,夏が22.5kg,冬が24.8kgであった.3)日採食時間は夏が262分,冬が343分であり,夏は給飼刺激にもとづく採食時間が日採食時間の79%を占めたのに対し,冬は53%であった.4)日反芻時間は夏が476分,冬が485分であった.以上から夏の採食時間の減少ならびに給飼したときの集中的な採食行動を高温環境よるものと仮定し,高温時における代謝産物の生成の変化,体熱産生量の抑制反応,および飼槽内飼料の経時的な劣化にその違いの根拠を求めた.

8.北海道における舎内気温の上昇に対する泌乳牛の行動反応
要約:
舎内けい養の泌乳牛4頭について,高温に対する行動反応をみるために,適温期(1988/6/29-7/5)と高温期(1988/7/30-8/5)に5分間隔で行動を記録した.給飼量は個体ごとに各期ともほぼ同量に制限給与した.飼料を混合し1日3回にわけて給飼した結果,以下の成績を得た.1)舎内平均気温は適温期が18.4℃,高温期が24.2℃であった.供試牛の直腸温と呼吸数は,適温期の38.5℃,35回/分に対し,高温期38.7℃,50回/分と高くなった.2)採食時間と反芻時間は各個体とも適温期よりも高温期で短くなり,1日の総そしゃく時間は平均108分短縮した.特に横臥しながらの反芻時間は高温期で140分短くなった.3)高温期における1日の佇立時間は(採食時間を含む)は810分と平均80分長くなり,横臥時間はその分短くなり630分であった.4)高温期間中において,舎内気温と佇立時間との間に正の,横臥時間との間に負の有意な相関(P>0.01)を認めた.これらの高温時の行動反応について放熱の促進や産熱の抑制という体温調節に関連づけて考察した.

9.混合飼料給与量が泌乳牛の採食に及ぼす影響
要約:
泌乳牛の採食量(DMI),採食・反芻行動および残飼の成分パターンに及ぼす給飼量の影響を検討するために,つなぎ飼いの泌乳前期のホルスタイン種乳牛4頭を供試した.試験は時期と牛個体をブロックとし,給飼量を4水準とする4型ラテン方格法によって実施した.グラスサイレージ主体の粗飼料を用い,可消化養分総量(TDN)72%,粗蛋白質17%の混合飼料(TMR)を1日に2回にわけて等量ずつ給与した.1)25.1kg/日の乾物給飼量に対してDMIは24.7kg/日,28.1kg/日の給飼に対しては26.6kg/日,31.1kg/日および34.1kg/日の給飼に対して27.1kg/日となり,給飼量が増加するにつれてDMIは増加傾向を示した.各水準をとおして1987年版日本飼養標準のTDN要求量に対する摂取量の充足率は92〜102%であった.2)給飼量により乳量(41.0〜41.5kg),乳成分(乳脂率3.3〜3.5%,無脂乳固形分8.5〜8.6%)は影響されなかった.3)給飼量が増加するにつれて体重は増加傾向を示した.4)給飼量が増加するにつれて,給飼後の最初の採食期時間が減少し,給飼した時以外の自発的,間欠的な採食期時間が多くなり,採食速度が低下した.5)給飼量により,反芻時間,単位DMIあたりの反芻時間および総そしゃく時間は有意な差は認められなかった.6)給飼量が増加するにつれて,残飼量が増加し,その飼料成分は,給与したTMRの飼料成分により近似した.以上から,残飼量が少ない場合,あるいは給与した飼料と残飼料とに質的な大きな違いが認められる場合は,給飼量を増やさなければ,乳牛の自由採食量は家畜側の生理的規制よりも給飼量によって規制されると考察した.また,給飼量によって規制されないためには,給飼量が採食量の10〜15%増必要と考察した.

11.制限給飼下における舎内けい養泌乳牛の排せつ行動
要約:
泌乳牛の排せつ行動に影響を与える,乾物摂取量(DMI)が20kg以上の条件(試験1)と高温の条件(試験2)で,いずれも給飼量を制限して,排ふん量(排尿量は測定せず),排せつ回数,排せつ時の行動を調査した.(1)試験1ではDMIが15.9kgの対照牛1頭(LI)と平均23.8kgの5頭(HI)の7日間を比較した結果,高採食量およびそれによる消化率の低下によって,LIよりもHIの1日の排ふん量が多く,1日の排糞回数や1回排ふん量も多かった.(2)試験2では,4頭について適温期(平均18.4℃)と高温期(同24.2℃)の各7日間をほぼ同じDMIで比較した結果,高温期に排ふん量が減少し,1日廃ふん回数や1回の排ふん量の減少も認められた.高温期の消化率の上昇が認められたことから,飼料の消化管内滞留時間の増加によるものと推察された.(3)試験1,2を通して,排ふん尿の頻度は佇立中と起立後に高く,採食後,採食中,横臥中,横臥前の順に低くなった.1回排ふん量は,横臥中に多く,起立後,採食中,採食後,佇立中,横臥前の順に少なかった.(4)横臥中の排ふん行動は個体差があったが,横臥行動パターンとの関連が認められた.すなわち,横臥中の排ふん回数の多い個体は,少ない個体にくらべ,1横臥期時間が長く,横臥期数が少ない傾向が認められた.横臥から起立するのは,排ふん,および体の同じ部位が長時間圧迫されるのを防止することが主な動因と考察した.

12.ストールにけい養した泌乳前期のホルスタイン種乳牛の横臥位とその反側性に係わる因子
要 約
 舎内けい養された泌乳前期のホルスタイン種乳牛22頭について,横臥位の選択性,次回の横臥時に反側した割合(反側率)を調査し,それらに及ぼす三つの因子を考察した.けい養ストールはゴムマット床で仕切柵が設けられ,牛体後方に不良乾草を敷いた.観察は22頭の各牛について7〜20日間(平均11.7日間)観察する方法で調査した.結果は以下のとおりである.1)けい養ストールの両側に牛がいた12頭は,全体では左側横臥率が1日の横臥時間の56%(P<0.05),総横臥回数の56%(P<0.01)であった.だが総横臥回数の左側横臥率は個体によって差異(個体差)が認められた(P<0.01).1回の横臥時間に差はみられなかった.起立後,次回の横臥時に反側する平均割合(反側率)は69%であった.各個体のDMIと左側横臥率との相関係数は+0.44であった(P>0.05).2)右側が通路で左側のみ牛がいた2頭は,全体で左側横臥が多かったが(P<0.05),個体差が認められ(P<0.01),左側有意が1頭,特定の優位性がみられないのが1頭であった.反側率は52%であった. 3)左側が通路で右側のみ牛がいた4頭は,全体で右側横臥が多かったが(P<0.01),個体差が認められ(P<0.01),右側有意が2頭,左側有意が1頭,特定の有意性がみられないのが1頭であった.反側率は60%であった.4)けい養ストールの両側に牛がいて後肢が弱いと認められた4頭は,どちらか一方の横臥位を極端に好む傾向が認められ(P<0.01),反側率は0〜40%であった.5)両側に牛がいた場合の左側横臥率は,給飼後の最初の横臥時が62%,給飼前の最後の横臥時が51%,その他の横臥時が56%であった(P<0.10).一方,片側のみに牛がいた場合にはそれぞれの左側横臥率に差は認められなかった.以上から,牛の横臥位とその反側性に係わる因子として,@体軸左側の第一胃の内容物量(充満度),A後肢に障害がある時,Bけい養ストール隣の牛の存否,を考察した.

13.泌乳牛の第一胃液性状,みかけの消化率および総そしゃく時間におよぼす暑熱の影響
要約:
第一胃フィステルを装着した泌乳前中期のホルスタイン種乳牛3頭をもちい,北海道における適温期(6月),気温上昇期(7月),高温期(8月)の消化率,第一胃液性状および総そしゃく時間を,各月とも同じ飼料構成からなる混合飼料(TMR)を給与した条件で検討した.1)平均舎内気温は6月の19℃(16〜23℃)に対し,7月が22℃(19〜26℃),8月が24℃(21〜29℃)と上昇した.8月には直腸温(17:00測定)が40.2℃,呼吸数が83回/分に達した.2)乾物摂取量(DMI)は6月が26.3kg,7月が25.4kg,8月が21.7kgであった.水分摂取量(飲水量+飼料水分量)は6月が128kg,7月が122kg,8月が113kgであった.3)第一胃液性状は7,8月にプロピオン酸モル比が上昇(P<0.05)し,酢酸:プロピオン酸比(A:P比)が低下傾向(P>0.05)を示した.日内変動をみると,各月とも給飼後の採食期に酢酸モル比の低下,プロピオン酸モル比の上昇が認められた.pH,NH−N,VFA総量等に有意な変動を認めなかった.4)1日および単位DMIあたりの総そしゃく時間は,7,8月に短くなる傾向を示した(P>0.05).5)みかけの消化率は,各成分とも7,8月に上昇する傾向(P>0.05)を認めた.以上の結果から,7,8月における第一胃液性状プロピオン酸モル比の上昇や消化率の上昇傾向,総そしゃく時間の低下傾向を,主に暑熱による消化管運動の低下,第一胃液希釈率の低下から説明した.

14.混合飼料給与時における泌乳牛の採食行動に及ぼす暑熱の影響
要約:
暑熱時の泌乳牛に混合飼料(TMR)を給与したときの採食行動の特徴を実験的に確認するために,北海道農業試験場にけい養されているホルスタイン種泌乳牛3頭を供試し,北海道の適温期にあたる6月20〜22日(6月),気温上昇期にあたる7月20〜28日(7月),高温期にあたる8月3〜5日(8月)に,ビデオカメラによる行動調査を行った.乾物あたりの計算TDN72%,粗蛋白17%に調製されたTMRを1日2回にわけて給飼し,自由採食させた.1日の採食時間を,給飼後に認められる最初の採食時間(給飼採食時間)とそれ以外の採食時間(給飼外採食時間)とにわけて検討した.その結果,1)平均舎内気温は,6月に対し7,8月が上昇し,呼吸数や直腸温にもその影響が認められた.乾物摂取量と乳量は8月に低下傾向が認められた.2)1日の採食時間は8月に短縮(P<0.10)した.また給飼外採食時間も8月に短く(P<0.10),1日の採食時間に占める給飼採食時間の比率が上昇する(P<0.10)傾向を示した.3)気温上昇期にあたる7月の9日間の採食行動を調べた結果,直腸温が上昇した7月24,25両日は給飼外採食時間が短縮し,1日の採食時間に占める給飼採食時間の比率が上昇する傾向を示した.以上から,暑熱時のTMR給与では,採食量が減少し1日の採食時間が短縮するが,主に給飼外採食時間の短縮が認められた.給飼外採食時間の短縮の原因として,@給飼後の時間経過にともない暑熱によって飼槽中飼料が変質し嗜好性が低下したこと,A採食にともなう熱増加を抑制する反応として,補食的傾向のある給飼外採食が,採食欲の高い給飼採食よりも先に抑えられたこと,が推察された.

15.ホルスタイン種泌乳牛のエネルギー代謝
要約:
近年の高泌乳化に対応した飼料エネルギーの利用・損失や乳生産への利用効率について検討するために,日乳量15〜52kgの泌乳牛19頭を用い53例のエネルギー出納試験を行った.給与飼料は,乾物あたり粗飼料率39〜70%,実測可消化養分総量(TDN)63〜77%,粗蛋白質含量11〜19%,細胞壁有機物31〜54%の範囲にある混合飼料(TMR)12種類である.代謝試験期は7日間とし,その間,フード法による呼吸試験を行った.その結果,(1)泌乳期をとおして摂取飼料の総エネルギー(GE)は平均371MJであった.GEのうち糞のエネルギーは35%,熱発生量(HP)は34%,乳のエネルギー(LE)は25%,メタンのエネルギーは7%,尿のエネルギーは2%であった.(2)エネルギーの消化率と代謝率は65%,56%であり,GE,可消化エネルギー(DE),代謝エネルギー(ME)各摂取量のLEへの利用効率は,それぞれ25%,39%,45%であった.(3)MEのLEへの利用効率(k)は64.0%,MEの体蓄積エネルギー(RE)利用効率は80.5%,REのLEへの利用効率は73.9%,維持に要するMEは585kJ/kg0.75,維持に要する正味エネルギーは374kJ/kg0.75と推定された.(4)乳脂率4%の乳量は1kg(2.927MJ)生産に要するMEは4.573MJ,同TDNは320gと推定された.以上から,従来の低乳量の成績にくらべ,GE摂取量の増加,GE,DE,ME各摂取量のLEへの効率改善が認められたが,kが改善された証拠は認められないと考察した.

16.完全混合飼料給与におけるホルスタイン種泌乳牛の乾物摂取量と養分要求量に関する研究
要約:本研究は,飼養環境の変化にともなう近年の高泌乳化に対応して,泌乳牛の栄養管理技術の基礎となる泌乳前期のDMIおよびそれに係わるいくつかの影響因子を検討し,さらにエネルギーおよび窒素(蛋白質)出入試験を行い,特に高泌乳時の産乳に要するそれらの要求量などについて検討したものである.得られた結果の概要は以下のとおりである.
 1.泌乳牛21頭に,DMあたりTDN73〜74%,CP15〜16%,粗飼料率55%(粗飼料はトウモロコシサイレージ主体)の混合飼料を,分娩後約100日間,1日3〜7回にわけて自由採食させた結果,平均で体重685kg,4%FCM32.6kgに対し,そのDMIは23.8kg,体重比3.5%,最大DMIは32.1kg,同体重比4.7%であった.舎内温度4〜18゚Cの環境条件下での14頭については,TDN充足は分娩後25日ないしは30日で達成され,その分娩後週数(xwk)に対するDMI(yDM;kg)の次のような回帰式を得た;yDM=18.76+1.3857×xwk−0.0663×xwk (R=0.93)・・・(U.1) 同じく体重(x;kg),FCM(xFCM;kg)に対する次のようなDMI(yDM;kg)の回帰式を得た;yDM=13.1684+0.0068×x+0.2213×xFCM(R=0.59)・・・(U.8)
 2.泌乳前期の乳牛9頭にDMあたりTDN72%,CP15%,粗飼料率53%(粗飼料はグラスサイレージ主体)のTMRを自由採食させた結果,体重630kg,4%FCM32.9kgに対し,14日間のDMI26.0kg,体重比4.2%となり,(U.1),(U.8)式で求めた推定値をやや上回るものの近似した値を示した.
 3.泌乳前期の乳牛にDMあたりTDN含量73〜74%のTMRを自由採食させ,夏と冬に各6頭の7日間のDMI,養分摂取量,消化率を検討した.その結果,DMIは夏で21.6kg,冬で25.2kgであった.TDN摂取量の充足率は,'87年版日本飼養標準の要求量に対し,夏で84%,冬で108%であった.4%FCM1kgの生産に要する養分量(体重増減量に対する養分要求量で補正)は,TDN,CP,DCPについてそれぞれ夏で312,85,56g,冬で366,83,53gであった.
 4.TMRの2回給与と4回給与が泌乳前期の乳牛のDMIと乳生産量,および採食行動に及ぼす影響を検討した結果,両給与区のDMI,飲水量,乳生産量,体重は統計的に有意な差は認められなかった.
 5..泌乳前期の乳牛のDMI,採食・反芻行動および残飼の成分パターンに及ぼす給飼量の影響を検討した結果,給飼量が増加するにつれて,DMIは増加傾向を示し,給飼後の最初の採食期時間(Aタイプとする)が減少し,給飼外の自発的,間欠的な採食期時間(Bタイプとする)が多くなり,採食速度が低下した.給飼量が増加するにつれて,残飼量が増加し,その飼料成分は,給与したTMRの飼料成分により近似した.給飼量によって規制されないためには給飼量が採食量の10〜15%増必要と考察した.
 6.暑熱時の泌乳牛にTMRを給与したときのDMI,乳量,採食行動の特徴を検討するために,北海道の適温期にあたる6月,気温上昇期にあたる7月,高温期にあたる8月に行動調査を行った.その結果,平均舎内気温は,6月に対し7,8月が上昇し,呼吸数や直腸温にもその影響が認められた.DMIと乳量は8月に低下傾向が認められた.1日の採食時間は8月に短縮した.またBタイプの採食も8月に短く,1日の採食時間に占めるAタイプの比率が上昇する傾向を示した.
 7..高泌乳化に対応した飼料エネルギーの利用・損失や乳生産への利用効率について検討するために,日乳量15〜52kgの泌乳牛19頭を用い53例のエネルギ−出入試験を行った結果,泌乳期を通してGEは平均371MJであった.GEのうち糞のエネルギ−は35%,HPは34%,LEは25%,メタンのエネルギ−は7%,尿のエネルギ−は2%であった.エネルギーの消化率と代謝率は65%,56%であり,GE,DE,ME各摂取量のLEへの利用効率は,それぞれ25%,39%,45%であった.kは64.0%,MEのREへの利用効率は80.5%,REのLEへの利用効率は73.9%,維持に要するMEは585kJ/kg0.75,維持に要する正味エネルギーは374kJ/kg0.75と推定された.乳脂率4%の乳量1kg(2.927MJ)生産に要するMEは4.573MJ,同TDNは320gと推定された.
 8.高泌乳化に対応した飼料N摂取量の利用・損失や産乳あたりのCP要求量などについて検討するために,日乳量15〜52kgの泌乳牛19頭を用い53例のN出入試験(7日間)を行った結果,泌乳期を通しての1日平均摂取N量は488gであり,53例中52例が正のNバランスを示した.摂取N量に対する糞尿への損失N率は55%,同じく乳・体蓄積への利用N率は45%であった.可消化N量から可消化維持N量を引いた値に対する乳N量の平均利用効率は65%,摂取N量から維持N量を引いた値に対しては41%であった.摂取N量/kg0.75の増加に伴い,摂取N量あたりの糞N率は低下傾向,同尿N率は増加傾向,同糞尿総N率は低下傾向,体蓄積N率は増加傾向,乳・体蓄積総N率は増加傾向を示した.摂取N量あたりの乳N率が最大となる摂取N量は3.64g/kg0.75,飼料CP含量は14.5%と推定した.乳N量の増加に伴う乳N量あたりの糞N,尿N,糞尿総Nの各排泄量の割合は低下する傾向を示した.乳CP(LP,g)が500〜1450gにおけるLPに要するDCP(LDCP,g)およびCP(LCP,g)の回帰式を次のように得た;LDCP=0.02160×LP1.6170(R=0.6905)・・・(W.19)およびLCP=0.3696×LP1.2682(R=0.7587)・・・(W.20)
 以上の結果に基づき,泌乳前期において分娩後およそ1ヵ月までにTDN要求量を充足させるようなDM摂取を可能にする飼料給与条件を考察した.また,日乳量20kg前後の過去の成績と比較して,GE,DE,ME各摂取量のLEへの利用効率やkが上昇したことを示した.(W.19),(W.20)式より,乳蛋白質量とそのCPおよびDCP要求量は非線形関係にあり,高乳量牛は低乳量牛よりも乳生産に対する蛋白質をより高く要求する傾向があると考察した. 

17.対頭二列式フリーストール飼養における日中の泌乳牛のストール利用性
要約:対頭二列式フリーストール牛舎において,ホルスタイン種泌乳牛11〜15頭が16ストールの横臥利用をどのように行っているかを統計的に検討するために,ウシにとって熱的中性域から暑熱温域にあたる6〜8月の随時日中1〜2回,各ストールでの横臥を計78回調査し,474の観察数を得た.横臥観察数について分散共分散行列による主成分分析を行った結果,第一主成分(寄与率27%)は南列と北列,第二主成分は列央域と列端(同23%),第三主成分(同18%)は南東域と北西域の各ストール区分別に選択する傾向が認められ,固有ベクトルの絶対値の大きさから,その横臥利用が南列>北列,列央域>列端,南東域>北西域,と検出された.ウシの属性とストール横臥との関係では,列央域ストールに高乳量個体が,南東域ストールに先住期間の長い個体が横臥する傾向にあった(P<0.05).以上から,熱的中性域から暑熱温域における日中の泌乳牛は,給飼柵とファン側に近い南列あるいは南東域や,列央域のストールでの横臥が多く,飼料へのアクセス,送風,落ち着きが得られるなどの周囲環境に好適なストールを選択する傾向があり,さらにウシの属性が関与する可能性が示唆された. 

18.フリーストール飼養の泌乳牛の行動に及ぼすストール床材と個体属性の影響
要約:対頭二列式16床のフリーストール施設に飼養するホルスタイン種泌乳牛15頭を用い,床材や個体属性の違いが行動に及ぼす影響を検討した.床材として土間期(S期)と成形ゴムチップマット期(R期)における各3日間連続のビデオカメラによる観察記録を解析した.その結果,R期はS期に比べ,1日のストールでの横臥時間,総利用時間(P<0.05)および横臥期数(P<0.05)などが増加傾向を示す一方,通路での佇立・移動時間(P<0.01),混合飼料(TMR)採食期数(P<0.01),佇立・移動期数(P<0.01),歩行距離(P<0.05)が減少する傾向を示した.また両期をとおしてストールでの横臥などの利用時間が長い個体ほど,通路での佇立・移動時間やTMR採食時間が低下する傾向が認められた.各行動に影響する個体の属性として月齢,体重が関係し,高体重・高月齢の個体はTMR採食時間や歩行距離などの活動性が低下する傾向を示した.

19.対頭二列式フリーストール牛舎における泌乳牛によるストール選択特性とそれに関わる個体属性因子
要約:
熱的中性圏におけるホルスタイン種泌乳牛15頭のフリーストール(FS)の横臥による利用性を調査し,主成分分析による選択特性とそれに関わる個体属性因子を検討した.調査施設は床面積222m2で対頭二列式の16のFSを設備し,南側に給飼槽が設置されている.1分間隔でビデオカメラによる計6日間記録し,各個体の横臥したストール位置を集計した.各牛各ストール別の平均日横臥時間を分散共分散行列による主成分分析を行った結果,第一主成分は列央域と列端のストールに分けられる総合特性値を示し,27%の寄与率を占めた.第二主成分は牛舎中央付近の西側と端付近の東側のストールに区分される総合特性値を示し,23%の寄与率を占めた.第三,第四主成分は特性としての意味づけはできなかった.個体の第一,第二主成分スコアと個体の属性値との単相関から,列央域ストールは列端ストールに比べ,特に高齢(P<.05),体重の重い(P<.01)個体が横臥し,牛舎の端に近い東側ストールは,牛舎中央付近の西側ストールに比べ,特に社会的順位が高い(P<.01)個体が横臥する傾向が認められた.

20.暑熱時の泌乳牛の行動に及ぼすフリーストール局所送風の影響
要約:
フリーストール(FS)飼養の乳牛における暑熱時の採食量や乳生産量の低下を軽減し,牛床の利用性を高めるために,8床のFSペンに飼養するホルスタイン種泌乳牛7頭を用い,牛床に局所送風を行う管を設置し,24時間連続の局所送風が暑熱時の乳牛の行動などに及ぼす影響を検討した。局所送風は,牛床のネックレール上に設置した塩化ビニール管(床上110cm)の吹き出し口を通して,横臥時の牛体に対して配風される機構(特許出願中,特願2001-23661)を特徴とする。調査期間は梅雨明け(7月23日)を挟み7月14日〜8月3日とし,3期各3日間の観察を行った。第一期は梅雨の局所送風期(平均気温22.6℃),第二期は梅雨明け後の局所送風期(同26.3℃),第三期は梅雨明け後の無送風期(同26.8℃)とした。第二期は第一期に比べ,呼吸数,直腸温が有意に(P<.05)上昇したが,ウシの採食量,乳量,体重に差は認められなかった。第二期と第三期との間には,気温,直腸温に差はなかったが,第三期では,呼吸数が有意に(P<.05)上昇し,乳量,体重が有意に(P<.05)低下した。牛床での横臥時間,同総利用時間は,送風期でも第二期のように高温になると有意に低下し,無送風期の第3期はさらに有意に(P<.05)低下した。また無送風期は採食時間が低下傾向を示す一方,通路の佇立・移動時間が有意に(P<.05)増加した。

21.サイレージ混合飼料と個体別配合飼料給与時におけるフリーストール飼養泌乳牛の採食量と採食特性
要約:
対頭二列式16床のフリーストール(FS)施設に飼養するホルスタイン種泌乳牛15頭からなる一群管理牛群を用い,15の飼槽へのサイレージ混合飼料(SM)不断給与(給飼量に対する残飼量のDM比14%)と,個体識別式制限給飼装置(CFS)による配合飼料給与条件下で、各個体の採食量と採食行動を調査した。10月(平均気温14.1℃)にビデオカメラによる2期各3日間の観察で、各牛1日の採食時間、SM飼槽とCFSへのbout(訪問)、meal(SM採食期)を測定した。最小meal間隔は10分とした。また15のSM給飼飼槽のうち2基の秤量計付き飼槽を用い、ウシによるドアフィーダ開閉時刻と飼料重量から、2基の飼槽でSMの日採食量と採食時間を求め、各牛の採食速度を算定した。各牛SMの自由乾物摂取量/日は、その採食速度に全採食時間/日を乗じることにより推定した。FS飼養では、SM平均採食時間が221分/日で、つなぎよりも短く、採食速度も速いと推察された。ウシは、1日平均8回のmealを持ち、49回飼槽を訪問し、1mealあたり平均6回飼槽間を移動した。高月齢個体は、優位度(DV)が高く、一日の歩行距離が短く、SM・CFSのbout数が少なかった。また、1boutあたりの採食量が多く、1bout時間が長い傾向を示した。体重の重い個体は採食時間が短く、採食速度が速い傾向にあった。乳生産量とDVは、乳生産量がSMとCFSの各採食量と正の相関を認めた以外、採食行動との関連が明確でなかった。各個体のTDN充足率は86〜126%(平均103%)と変動した。高産乳牛、低月齢牛、boutサイズが小さい牛ほど、充足率が低下する傾向を示した。

 

22.無施肥のシバ優占草地放牧の黒毛和種繁殖成雌牛における放牧密度別の生産性と栄養管理
要約:近年の中山間地域における肉用繁殖経営者の高齢化に対応し,低コスト,省力を重視したシバ草地放牧により肉用繁殖牛の栄養管理法を確立するために,退牧や補給の指針となる放牧密度(以下密度)・放牧期別の雌牛の養分摂取量を推定し,500kg標準体重のウシ栄養期別養分過不足量,密度別の飼養可能なウシ栄養期,雌牛と子牛の血液性状,及びシバ草地の生産性と牧養力,補給時のウシの行動などを明らかにした.無施肥条件下のシバ優占草地4.4haに黒毛和種肉用繁殖雌牛を'01〜'03年の各年4月から放牧試験を行い,0.5(2頭)頭/haで12月16日,1.0(4頭)頭/haで12月1日,1.5(6頭)頭/haで10月1日まで連続放牧した.雌牛は,放牧地で自然分娩させ,子付き放牧とし,毎週の体重計測値から入牧時体重よりも低下した場合,自家配合飼料の補給を行った.結果と考察は次のとおりである.(1)日本飼養標準のTDN要求量から,体重増減量に相当するTDN量と補給飼料によるTDN量で補正して,シバ草地からのTDN摂取量を求め,一部補正,上限設定後,これをもとにCP,Ca,Pの各摂取量を算出した.密度,放牧期別の養分摂取量とウシ栄養期別過不足量のクロス表を作成した.その結果,TDNとPは,CPとCaにくらべ不足量が大きかった.また放牧前中期に養分充足し放牧後期に養分不足量が多かったことから,中国四国地方における補給不要の省力的な放牧期間を検討した結果,0.5頭/haは,維持・妊娠末期牛が11月まで,授乳牛が10月まで可能と判定した.1.0頭/haは,維持牛が11月まで,妊娠末期牛が10月まで,授乳牛が9月まで可能と判定した.1.5頭/haは,維持牛が9月まで,妊娠末期牛が8月まで,授乳牛が6月まで可能と判定した.(2)他の地方でのTDN不足や退牧の汎用指標としては放牧圧を示すシバ草高(生育状態での最高平均)が有効で,およそ5cmが不足の目安であり,退牧の目安は維持牛が3cm,妊娠末期牛が4cm,授乳牛が5cmと推定した.(3)無施肥シバ草地連続放牧の適正放牧密度(圧)は,草地の維持と家畜生産性から0.5〜1.5頭/haと考察し,ほぼ妊娠末期水準(TDN要求量4.9kg/日)のウシの養分供給が可能と総合判定した.他の養分では,CPとCaが授乳期水準,Pが維持期水準,密度別では0.5〜1.0頭/haが授乳期水準,1.0〜1.5頭区が妊娠末期水準のウシの養分供給が可能と判定した.(4)補給飼料はTDNとP含量の高い構成が有効であった.補給時間は平均19分/日で,補給量が増加する放牧後期で,補給場付近に集結し音響誘導が不要となった.(5)雌牛の血清中アルブミンとCaの濃度は正常値であったが,同無機Pは正常値より低かった.(6)シバ草地の牧養力は,1.5頭/haの放牧期間4〜11月で283CD/ha,同4〜9月で257CD/haと算出した.10aあたりのTDN摂取量(kg/日)が最大になる密度は,放牧期によって異なり,1.0〜2.0頭/haであった.連続放牧時の10aあたりの摂取量は,1.5頭/haで最大値に達し,放牧期間4〜11月で239kgDM,119kgTDN,同4〜9月で215kgDM,108kgTDNであった.(7)シバの10aあたりの生産量は,放牧期間4〜11月で372kgDM,185kgTDNと推定され,摂取利用率(摂取量/生産量×100)は最大で64%であった.(8)@0.5頭〜1.5頭/haの密度で無施肥,無補給で連続放牧し,養分過不足量やシバ草高をモニタリングして,放牧後期に生じる養分不足に伴う補給量が多くなる前に退牧させる,A季節繁殖を意識し,放牧地での繁殖作業が不要な妊娠期の授乳牛を子付きで放牧させる方式,が低コスト,省力,低投入を目指した当面の栄養管理法として最も効果的であると考察した.

23.連動スタンチョンの繋(けい)留時間の違いが黒毛和種繁殖雌牛の採食と行動に及ぼす影響
要約:ソルガムサイレージ及びイタリアンライグラス細断乾草の給飼下における熱的中性圏の黒毛和種繁殖雌牛に対する自動繋留式連動スタンチョンの繋留時間を0〜5時間とした時の採食,飲水,敵対回数,横臥,動線距離に及ぼす影響を検討し,以下の結果を得た.
 1.ウシの1日の採食量,飲水量,横臥時間は0〜5時間繋留処理間で差はなかった.
 2.繋留時間の増加は,個体間敵対回数や動線距離の低下,社会的順位が下位のウシの採食時間増による平均採食時間の増加などのプラス面が確認された.
 3.繋留時間の増加は.繋留中の飲水や横臥の欲求が制限強化され,その間の採食量にも影響を及ぼし,ウシへのストレスの増加というマイナス面も推察された.
 4.これらの繋留による得失面を踏まえ,0〜5時間繋留の処理間の採食増加割合が低下する変化から,サイレージ給飼は4時間以内,乾草給飼は2時間以内が望ましい繋留時間と考察した.

24.ウシのこすり付け行動における硬質ダクトホースの利用性
 要約:硬質エアダクトホース(DH)を用い,黒毛和種牛のこすり付け行動の調査を,群飼時,つなぎ飼い時,単飼時の3つの条件下で行った.群飼の成雌牛群6〜25頭における10日間のDHの利用は,計124回で,1日1頭あたりの利用は1.1回であった.124回のうち98%が頭部,2%が頸部のこすり付け行動で,垂直鋼管でのこすり付けが94%,水平鋼管でのそれが6%を占めた.つなぎ飼いの育成牛1頭における1日のDHへのこすり付け行動は,装着日が31回と非装着日の3回に比べ有意(P<0.05)に多かった.頭部のこすり付けが86%,頸部のそれが14%で,頭部の前面,側面,下面のこすり付けが比較的多かった.ペン飼養の種雄牛1頭における1日あたりのDH利用頻度は,DH装着日が38回と非装着日の20回に比べ有意(P<0.05)に多く,頭部のこすり付けが52%,頸部のそれが48%の利用であった.以上の結果から,DHの蛇腹構造は,こすり付けに適した形状であり,安価で,単飼にも利用できることから,カウコンフォート,家畜福祉面からその導入設置が期待される.
25.北海道ホルスタイン検定牛群の泌乳曲線形状の実態とその泌乳・繁殖特性、及び除籍理由

 表型の泌乳曲線形状の年次変化の特徴と原因及び泌乳曲線形状の違いによる特性を解析し、泌乳持続性(LP)の遺伝的改良に対する飼養管理面からの考察等を行うために、泌乳曲線形状の実態及び他の産乳、繁殖各指標との関係等を調査した。(社)北海道酪農検定検査協会に集積された北海道ホルスタイン種の牛群検定記録を用い、@19752009年分娩(誕生)牛の産次ごとの305日乳量と泌乳曲線形状の年次変化、A20052009分娩牛の産次ごとの305日乳量・LP水準、飼養規模及び地域別の泌乳曲線、産乳、繁殖各指標、B20092011年の飼養規模と地域別の除籍理由−を解析し、次の結果を得た。
 1.泌乳曲線の分娩年次変化は、LP値(=分娩後240日乳量-60日乳量+100)が1975年以降低下するが、1985からピーク乳量日(ピーク乳量となる分娩後日数)の遅れとともに低下が緩やかになった。1995から305日乳量とピーク乳量の上昇が穏やかになるとLP値は上昇傾向を示し、泌乳曲線の平準化を認め、産次別では初産>2産>3産であった。
 2.305日乳量と泌乳曲線形状との相関は、ピーク乳量(r=0.860.88)>初期増加乳量=分娩後35日乳量−同10日乳量)r=0.290.35)>ピーク乳量日(r=0.230.31)>LP値(r=-0.280.05)であった。 3.泌乳曲線平準化牛は、高いLP値とともに初期増加乳量とピーク乳量が低い傾向があり、非平準化牛に比べ、長い空胎日数と高いLP、長い搾乳日数と分娩間隔及び短い乾乳日数により総乳量が多い特性があった。
 4.経産牛飼養頭数の多い大規模酪農場ほど、搾乳・乾乳日数、分娩間隔、分娩月齢が短く、305日・総乳量が高い傾向を示した。また200頭以上層は、それ未満の規模階層に比べ、初産牛で最も泌乳曲線が平準化し、2、3産牛で最も高ピーク低持続型泌乳曲線を示した。
 5.地域別の305日・総乳量は、畑作酪農中核地域(十勝、網走)が、草地酪農中核地域(根室、釧路)よりも多い傾向を示した。またフリーストール(FS)牛舎導入率が高い地域ほど、分娩間隔が短く、305日・総乳量が高く、ピーク乳量日が有意(p<0.05)に遅れた。初産牛はさらにLP値が有意(p<0.01)に高く、泌乳曲線が平準化傾向を示した。
 6.大規模酪農場ほど、平均・除籍産次が短く、計画除籍率が高かった。また不慮の除籍理由では、肢蹄障害、消化器病が増える傾向、乳器障害が少ない傾向を示した。
 以上の結果から、1990年代からの泌乳曲線平準化傾向及び表型の泌乳曲線平準化に影響する要因として、@省力群飼養に適した遺伝的な泌乳曲線平準化牛の在群漸増の可能性、A完全混合飼料(TMR)と省力群飼養の普及による濃厚飼料の多給化、B高泌乳化等に伴う分娩間隔延伸をもたらす繁殖性低下、C北海道の猛暑年や高温暑熱期間の延伸あるいはそれによる繁殖性低下、D乾乳日数短縮効果、E多回搾乳効果−を論考した。

 泌乳曲線平準化牛はFS飼養、特に一乳期1群飼養牛に多く認める傾向と分娩後のボディコンディション(BCS)の回復が早い傾向を考察し、一乳期を泌乳前期水準のエネルギー含量での飼養や分娩間隔の延伸傾向から、過肥のリスクが比較的高く、LPの高い種雄牛の計画交配は泌乳末期の過肥の軽減に資すると考察した。

 泌乳曲線平準化はA〜Eの飼養・自然環境要因、すなわち受胎の遅れ、暑熱、濃厚飼料多給などの影響で表型化し、その場合必ずしもBCSが平準化していない。BCS平準化特性を間接選抜するLPの遺伝的改良に対応して、生産現場でも雌牛群はLPと総乳量と同時にBCSを選抜指標として考慮すべきと論考した。

 泌乳曲線形状は、飼養規模別や地域別の解析から、多様化した飼養形態や飼料給与法といった飼養法の反映が推察された。飼養法と乳検データとを統合した比較解析で、より効率的な飼養技術に関する課題の摘出や克服、飼養法別遺伝改良情報の解析などに資すると考察した。