国賀(くにが)海岸  (隠岐島前・西ノ島)        2004年5月訪問
 国賀海岸は、荒波と潮風に浸食された断崖、奇岩、洞窟が続く隠岐島屈指の名勝地である。断崖の上は牛や馬が放牧されている公共牧野となっている。遊歩百選にも選ばれている摩天崖(まてんがい)から通天橋(つうてんきょう)までの2.3kmの牧歌的景観を堪能した。
 西ノ島の浦郷(うらごう)港から往復で10kmの行程であるが、雨のため摩天崖までタクシーで上がる。如才ない運転手に「お隠岐に」と礼をいって、標高257mの摩天崖の展望所に立つ。霧で一望千里とはいえず、そそくさとゲートを開けて(戸締まりを忘れずに)牧野に入る。写真は展望台から500mほど下ったところ。煙雨のなか寂然(せきぜん)としたシバ草地が広がる。
 遊歩1kmほどで振り返ると摩天崖の直立した側壁を遠望できる。霧が静かに流れ、数頭の馬が目の前に現れるが、私を認めると茂みに逃げ込んだ。

 行く手に黒牛が1頭、遠くからずーといぶかしげにこちらを窺っている。近づいていくと鳴きだした。私は牛の鳴き声の研究をしたことがあるので、牛語がわかる!?「ここは隠っ岐いだがー。隠岐に召しちゃろか?心隠岐なく楽しんじゃって。隠岐をつけちゃってね。とって隠岐の・・」矢継ぎ早の島根弁親父ギャグである。「お隠岐に」といって別れる。

 行程の終点である国賀浜が近くなると、奇岩群が視野に入る。それを借景に数頭の馬が草をはむ。先ほどの馬のグループにくらべ、警戒心がなく、その中の1頭の育成馬はしばし私の真後ろを追随してきた。馬は肉用で、遠く九州や沖縄から買い付けに来るそうである。牛は秋に山を下りて牛舎で過ごすが、馬は冬もここで生活する周年放牧である。
 国賀浜へ下る右手に、クライマックスであるアーチ状の通天橋を俯瞰(ふかん)する。全行程40分ほどで国賀浜につく。整備された東屋(あずまや)で一息入れると、しばらくしてイソヒヨドリのさえずりが耳をかすめる。

視て歩き考:この後、浦郷港まで徒歩で戻り、国賀海岸を巡る観光船に乗船した。加齢に伴い余程のことでないと感動しなくなる。がっかり名所というのもある。でも国賀海岸は、陸(おか)と海の両方とも、しばしば息を飲むほどの佳景をみせる本物の名所と思う。       詳細は西ノ島のHPへ          戻る                      参考データ:西ノ島の肉用繁殖牛は、H16年現在615頭で、45戸の農家で飼われている。