クナアの出来事

 クナアにやってきた。 
 ここは、どうやらレイナの故郷らしい。 
 
『リナちゃん、無事だったんだね』 
『お帰りリナちゃん、ソロンが待ってるよ、早くおうちに帰っておやり』 
 
 記憶喪失のレイナは、『リナ』と呼ばれてもいまいちピンとこないようだ。 
 だが、村人達の親しい者に向ける笑顔に、ついつい否定できず、笑顔を返し、『ただいま』と答える。 
 
「なあ? お前のことリナって呼んだほうが良いのか?」 
「……んー…」 
 ルースの問いに、レイナは口元に指先を当てて考え込んだ。 
「ううん、レイナで良い。もしかすると、リナって人は私のそっくりさんなだけかもしれないし」 
「お前、記憶喪失だろうが……本人本人じゃないってわかるのかよ」 
「ほらルース、世界には自分を除いて三人そっくりさんがいるって言うじゃない?」 
 ぴ、と人差し指をルースの顔前に突き出す。 
「いや、でもさ。その自分で付けた『レイナ』って名も、似てるじゃねぇか、『リナ』に」 
「まあ、どっちでも良いじゃん? いずれわかるよ、きっと。 
 とりあえずさ、あたしは風呂に入りたいね」 
 二人の言い合いを、ヤシャが止めた。 
「ん…じゃあ、宿取ろうか?」 
「レイナ、寝ぼけてる?」 
 レイナの言葉に、ヤシャは肩をすくめ、ため息をつく。 
「ここはあんたの故郷なんだろ? 家があるでしょーが」 
 ヤシャは、レイナのおでこを軽く指先で弾いた。 
「いたい~……自分の家、って言っても~……場所とかわかんないもん」 
 自分の家を他人に聞くのなんておかしいし、とレイナは唇を尖らせる。 
「それに、何か騙しているみたいで……」 
 そこに、大きな声がかかると同時に、レイナに何かが体当たりした。 
「帰ってきたんだね、姉ちゃん!」 
 レイナの腰くらいしかない背丈の少年は、レイナを『姉ちゃん』と呼んだ。 
 
 彼は『ソロン』と名乗った。 
「姉ちゃん知らない間に彼氏作っちゃったんだな」 
「ルースは彼氏じゃないよー……」 
「じゃあ、彼女持ち? 姉ちゃん、いつのまにそんな趣味が~」 
「はったおしたろうか、このガキっ」 
 家に向かって歩いている4人。 
 道すがら、レイナはルースとヤシャを紹介した。 
 で、自分も記憶喪失だと伝えようとしたが……、タイミングが合わなかったようだ。 
 もっとも、『あのね、私はね…(レ)』『おーっと手が滑ったぁ!(ヤ)』『もごごごご~っ(レ)』なんて状態では、タイミング云々以前の問題だったりするが。 
 辺りは、すっかり夕闇に包まれている。 
 家に入り、それぞれがくつろぎだすと、ソロンはレイナに向き直った。 
「今日は家にいるんだろ? 姉ちゃん」 
「う、うん……」 
「じゃあ、飯作ってくれよ! 姉ちゃんの料理、久しぶりだからさっ!」 
 しばしの沈黙。 
「…………え? 私が?」 
 レイナは自分を指差しながら確認する。 
「もちろん。あ、姉ちゃんの作る料理、すっげー美味いんだぜ!」 
 ソロンはレイナに頷き、ルースとヤシャに向かって無邪気に笑いかけた。 
「そうかそうか。な、『リナ』。作ってみろよ」 
「『リナ』の手料理が食べられるなんて、嬉しいねぇ~」 
 ルースとヤシャはにこにことレイナを見る。 
(この二人~っ、絶対楽しんでるっ) 
 レイナは思わず二人を睨み付けるが、ソロンの視線に負けて、一人台所に向かっていった。 
 
「なあ……ヤシャよぉ」 
「何だよ、ルース」 
「お前……、レイナが料理作ってるのみたことあるか?」 
「無い」 
「……あいつ、記憶喪失だったよなぁ。料理の作り方なんて覚えているのか?」 
「さあ。でも、ソロンは料理上手だって言ってたじゃないか」 
「そうだけど」 
「それより、なんか変な匂いしないか?」 
「……」 
「……」 
 
 小一時間後。 
 食卓に並んだ料理を見て、三人は絶句していた。 
 真っ黒くろすけな魚。 
 食べられる葉っぱがあるのか不明なサラダ。 
 外はカリカリ、中は粉っぽいパン。 
 変な色のスープ。煙が紫。 
 ベリーベリーレアな焼肉。 
「これ……食えるのか?」 
 見た瞬間に、ルースの口からそんな台詞が出る。 
「多分、食べられるよ! ……見てくれ悪いけど……味見もしてないけど……」 
 レイナも微妙に視線を料理からそらしながら言う。最後のほうは尻つぼみ気味だ。 
「ふぅん、どれどれ?」 
 怖いもの知らずなのか、ヤシャは目の前のスープをかき混ぜ、自分の器によそる。 
「食べるんかいっ!?」 
「腹減ってるんだよ。それに、食べられるものかもしれないじゃん?」 
 ヤシャはルースに言い返し、スプーンでスープをすくって口に入れた。 
 とたん、動きが止まる。 
「……」 
「ヤシャ? どうしたの?」 
「う…………」 
「だ、大丈夫かよ?」 
「マズイっ!!」 
 一言叫ぶと、ヤシャは洗面所に飛んでいった。 
「キョーレツだな……」 
 ルースはどうしたものだか、ウロウロしている。料理を口にするわけにも行かないし、かといって……。 
「姉ちゃんどうしちゃったんだよー!」 
 ソロンは泣いている。どうやら禁忌の食事風景に、限界を覚えてしまったようだ。 
「…………」 
 レイナはその様子を見て落ち込んでいる。 
(私……料理の才能無いの?) 
 隅っこで落ち込むレイナ。 
 困るルース。 
 泣きじゃくるソロン。 
 洗面所に行ったきり帰ってこないヤシャ。 
 クナアの夜は、ゆっくりとふけていくようだ……。 
 
 
 
<後日談:○年後の某家族> 
「たまには、私がお食事作りましょうか?」 
「い、いや、私が作る。シオンはイリアの世話をしていてくれ」 
「でも……あなたにばかり作らせていて」 
「良いんだ。君はゆっくり休んでいなさい」 
 
 記憶云々の問題ではなかったようだ(笑)。 
 
 
 
 
 
※プレイしたのはかなり昔な為、台詞やらパーティやら全然覚えていないデス(遠く) 
だいぶ違うかもですが~、広いお心でお許し下さいませ~……。 
うう、やり直してみるか~。 

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