昔々あるところに、とても美しいお姫様がおりました。
お姫様は気だても良く、国の人達はみんなお姫様が大好きでした。
しかしある日、悪い魔王が現れて、お姫様をさらっていってしまいます。
王様は嘆き悲しみ、国におふれを出しました。
魔王を倒し、お姫様を救い出したものには褒美を与える、と。
大勢の者が魔王討伐に向かいますが、誰一人として帰ってきた人はいませんでした。
しかし、ある一人の剣士が、見事お姫様を救ってきます。
お姫様も喜び、王様も喜びました。
王様は、剣士に、お姫様の婿になって欲しいと言います。
剣士も、お姫様が好きだったので、二人は結婚しました。
そして、剣士はやがて王様になり、平和に国を治めたそうです。
<めでたしめでたし>
「ブレイズ。何読んでるの……」
溜息混じりの声に、銀髪頭の少年、ブレイズは顔を上げた。
「何って。この国の伝説だよ?」
「……お伽話の間違いでしょ」
声をかけた、黒髪の少女は、呆れたように呟く。
「違うよ、レイク。だって、ここの初代の王様って、元傭兵だろ?
ほーら。間違ってない」
威張るブレイズに、少女……レイクはまた溜息をつく。
「そりゃそうだけど。でも多少の、いや大分の脚色がついているもんだと思うんだけど」
「あー、オレもお姫様救ってみてーv」
すっかり夢見る状態になっているブレイズには、レイクの声は届いていない。
「ふむ。じゃあそれが本当としてみる。
いきなり領地を与えられ、国王様になってみ。それがどれだけ大変かわかる?
内政の問題に限らず、外交問題に領地の問題、何処の国が戦争を起こしそうだとか、内乱が起きそうだとか。
全っっっっっっっ部、やらなきゃなんだよ?
それも、何の経験もない、一般の者が」
「うっ」
「初代国王は、この土地を任され、まあかなりの苦労はしただろうね。
それは伝説に功績を残す行為だと思う。
だって、王族の家系でなく、一介の傭兵が、見事ここまで平和な国を作り上げたんだから」
「……」
「その功績をたたえ、この伝説が作られたのだと、私は思うんだけど。
お姫様とその傭兵の馴れ初めを脚色してね。
どーかなー、ブレイズ」
ぺらぺらとしゃべり倒し、すっきりした表情で、レイクはブレイズをみた。
…………恨みがましい目で見上げられている。
「何もヒトの夢をぶちこわすことないじゃないかーっ!」
「あらま。私は夢見るだけじゃしょうがない、ということを言いたかっただけだよ?
伝説に功績を残すには、それはそれはもー、多大な努力が必要って事だ。
……頑張れブレイズ。私は端っこの方で生暖かく慎ましげに他人のフリして見守ってあげるよ」
「何でそういう励まし方なんだよ!」
「んーまあ、私は……適当にその日暮らしを望んでいるからさ」
笑ってレイクは答えた。
「夢がないっ!」
レイクを指さしてブレイズは言う。
「何かやってみたいこととかないのか?」
「とりあえずは通常のヒトの暮らしが出来れば問題ない」
レイクの答えはドライなものだ。
「うう。超現実的な妹もって、お兄ちゃんは悲しいよ」
「はいはい。こんな時だけ兄貴面しない」
さらに冷めた表情で、レイクはブレイズの肩を叩く。
この二人の両親は、それぞれの子供を連れて再婚した夫婦である。つまり、二人は血のつながりのない兄妹だ。
両親が不慮の事故で亡くなり、早三年になるところだ。
レイクとブレイズは、二人で暮らしている。
両親の建てた家に住み、両親の遺産を使って生活している。
だが、実際に大してお金は使っていない。
町民が、良くしてくれているためだ。
あまり大きくない町であるためか、レイクとブレイズに限らず、孤児になってしまった子供には、町民は親身になってくれている。
特にこの二人の場合、冒険者である両親に、助けられたりした者は多かったのだ。
――だが。
二人とも、それに甘えるつもりはなかった。レイクもブレイズも、子供ながら、色々働いている。
お互いの親に鍛えられたせいか、その戦闘力を利用することもしばしばある。
例えば、モンスターを狩ってその牙などを売る、とか。
たくましいものである。
「さ、馬鹿言ってないで。学校行こうよ」
身支度を整え、レイクが言う。
「ああ」
ブレイズは慌てて本を片付けると、レイクの側まで行った。
二人の家は、一階建ての家。居間&キッチンと寝室、風呂と洗面所、こじんまりとしながら機能的な家である。
レイクは寝室のロフト部分、ブレイズはその下で寝ている。
二人は外に出た。
そよ風が心地良い。小春日和である。
「ふー、いい天気だね」
風に髪をなびかせっぱなしで、レイクは気持ちよさそうに伸びをした。
彼女の黒髪は、肩でそろっているのだが、一房だけ、腰まで届く程長い。
それを、一つに結わえて後ろに流している。それが今、風で軽やかに踊っていた。
そして爽やかな顔のまま言う。
「やっぱこういう日は、さぼって山にピクニックにでも…」
「こら」
皆まで言わせず、ブレイズは怒った。
「何でそーいう発想になる」
「なるよ。だって勉強ダルイもん」
「いやそれはわかるけど、学校には行かなきゃ駄目だ」
「んー……、毎日行ってるんだからさ、たまにはさぼっても良いじゃない」
「駄ー目。」
いつもの兄妹喧嘩をしつつ、学校までの道を歩く。
道行く人々が、暖かい視線をかけてくるのは何故か。
(仲良い兄妹だね、とか思ってるんだろうなぁ)
レイクはこっそりと苦笑した。仲が良いのは否定しない。だが喧嘩している状況くらい察しろ。そう言う気分だ。
適当に聞き流していたレイクは、ふと視線を固定させた。
「おい、聞いてるのかよ!」
無視されたと思ったブレイズが怒鳴ると、レイクは振り向いて睨み付ける。
「黙ってろ。何か、怪しい」
レイクは、のほほんとした今までの口調とは全く逆な、厳しい口調と声で返した。
「っ……何があったんだ?」
「私にもわからぬ。知りたいのならついてこい」
ただごとじゃない雰囲気を察したブレイズに、レイクは呟くように言うと、地を蹴って走り出した。
「わっ……待てよ、レイクっ!」
急に走り出したレイクを追って、ブレイズも走り出す。
レイクより、少し遅れてブレイズが到着した。
「何があった!」
レイクは、道に倒れている男の胸ぐら掴んで問いかけている。
「貴様はビリュの所の護衛だろう!
あいつに何かあったのか?」
びしびしびしびしびしびしびし。
細かく男の頬を往復ビンタしながら問いかける。
「お、おい……それ、答えられないと思うんだが」
苦笑しながらブレイズが近寄ると、レイクはブレイズを見上げた。いや、睨み付けた。
「ちょっと貸してみ。よっと……」
男の肩に手を当て、身を起こさせると、背に膝を当てて気付けをする。
「く……」
男が目を開けた。無事なようだ。両頬は腫れ上がっているようだが。
「何があった?」
レイクは訊ねる。
「ビリュに何かあったのか? 先程、怪しげな連中に囲まれていたようだが」
その言葉に、男は跳ね起きた。
「び、ビリュ様が、さらわれてしまったのです!」
レイクとブレイズは顔を見合わせる。
ビリュというのは、レイクとブレイズのクラスメイトである少年だ。
護衛、等という者がついているということからわかるだろうが、大商人の息子である。
いつも威張り散らし、子分をはべらせ、自分は偉いんだぞ、と豪語している、いわゆるドラ息子だ。
……もっとも。ブレイズやレイクには全く相手にされてなかったのだが。
そのビリュが、通学途中で、護衛ごと襲われた。
護衛の説明だと、5,6人の、覆面の男性に襲われたらしい。
だが奇妙なことに、護衛はどうやら知らない間に気絶していたようだ。
「そんな……馬鹿な。護衛だろ?」
首を捻るブレイズに、レイクは真面目に突っ込んだ。
「つまり、魔術の使い手でもいるんだろう。気づかれずに眠らせる手段が、それ程多いわけではないが」
そう言ってから、レイクは顎に手を当てて考える。
「計画的だな。……多分人質にして身代金の要求をすると見た」
「ええ、私もそう思います」
護衛の男はコクコク頷く。
「どっかから来た馬鹿なよそ者か、それとも山賊が降りてきたか。
……どちらにせよ、こっち側に隠れ家などがあると思う」
そう言って顎から手を離し、立ち上がると、男に背を向けた。
「とゆーわけで行くぞブレイズ」
「って、何処へ?」
嫌な予感を感じつつ、ブレイズは恐る恐る訊ねる。
「当然、ビリュをはっ倒し……いや、ビリュを助けに、だ」
(はっ倒し……というのが本音だな)
そう思いつつも突っ込まざるを得ない、悲しいブレイズ。
「あのさ、何処にいるかもわからないんだぜ?」
レイクは、ブレイズの声を無視しているかのようにすたすた歩き出す。
「それに、今からって、学校はどうするんだよ?」
すたすたすた。
「レイク〜。頼むから兄ちゃんと一緒にごふぁっ!?」
瞬時に戻ってきたレイクに思いっきりラリアットを喰らい、ブレイズは息を詰まらせた。
「兄ちゃん言うな愚か者。半年しか私より生きてないだろう。
それに、貴様が行かないと言うのなら私が一人で行く」
咳き込むブレイズに、仁王立ちで宣言する。
「ちょ、ちょっと待った。何でそんなにビリュにこだわるんだよ。
まさかお前あいつのこ……あ、ごめんなさい言いません言いませんっ!」
ブレイズは途中でレイクの殺気を感じ、慌てて撤回した。
「決まっているだろう。あいつを助ければ、それなりの礼がもらえる。
そして、あのドラ息子も、懲りるだろう。
まさに一石二鳥」
ナイスアイデア、とばかりに笑うレイクを、ブレイズは不気味なものを見るような瞳で見つめる。
時々、ブレイズはレイクのことがわからなくなる。
レイクは、いわゆる二重人格、という奴だ。
危機が迫ったときとか、戦いになったときとか、怒りを覚えたときとか、とにかくそういうときにこんな性格になる。
普段は何処かずれただけの娘なのだが、この状態になると、冷静沈着なクセして傲慢で激情家でプライドが高く、我が侭で自分勝手といった感じになる。
ブレイズのことを平気で『愚か者』と罵るし、顎で使うし反論すると殴るし。
だが、戦いにおいては、この冷静な性格が、とてつもなく頼りになることも確か。
だからいつも黙ってついていくのだが……。
「でさ。ビリュの場所、わかるの?」
ブレイズは、先程無視された質問を繰り返す。
「隠れ家としてありえるのは町外れにある廃屋……かな。あそこなら、ヒトの通りもほとんど無いし」
あっさりと答えが返ってきた。落ち着いたのか、性格が戻ってる。
「そこにいなかったら?」
「一旦ビリュの屋敷に行く。
身代金を要求するつもりなら、何かメッセンジャーが必要なはずだよ。
魔術師がいるのなら、そのメッセンジャーを召喚魔法で呼び出すことが可能だから。
つまり…」
「ははぁ。その魔力を感知して、居所を突き止めるってーわけか」
納得してブレイズが言うと、レイクは満足そうに頷く。
「というわけで行っくよ〜!」
何処か、レイクの声は楽しそうだった。
廃屋まで来た。
「ブレイズ……ストップ」
無造作に廃屋に近づこうとするブレイズの裾を、レイクは引っ張る。
「ん?」
「見張りがいるね。やっぱ、可能性は高いな」
物陰から様子を見ながら、レイクは溜息をついた。
「じゃあ、ここにビリュが?」
「多分」
慎重に頷くレイク。
「どうすっか……」
「1,2,3…4…5,6……かな?
ん。裏に回ってみるか」
レイクがいきなり数を数え、提案してくる。
「なに、数えてんだよ?」
「人数。あそこに、大体5,6人位の人間がいるよ。
ビリュも含まれるとなると、4,5人が敵って事になる」
「お前気配読めるのか!?」
ブレイズが驚くと、レイクは鼻を鳴らす。当然という表情だ。
「で。ブレイズには援護してもらいたいんだよね。魔法の使い手だから」
にやりと笑うレイクに、あまり良い印象がなかったのは、ブレイズの気のせいではないだろう。
『こう上手く行くとは思わなかったよ』
聞こえた声に、レイクの眉がひそめられる。
見張りがいた場所から、全くの裏側になるのだが、廃屋の壁に貼り付いて、レイクとブレイズは中の様子をうかがっていた。
『ウチのオヤジもケチだからさ。なかなか小遣い出してくれなくて。
はは、こうやってさらわれたフリをしておけば、小遣いも稼げるし』
「…………………………」
「…………………………」
この声は、ビリュのものだ。そして内容を聞く限り……
「もしかして」
「……ああ。狂言だったわけだ。
道理で、護衛が倒されるわけだ…………」
ふるふると、レイクは震えている。
(あああ。また性格がアッチになってるよ……)
レイクの怒りは相当なものだ、とブレイズは思うが、ブレイズ自身だってかなりの怒りを覚えている。
「どうする?」
「少し予定を変更する」
軽くブレイズに耳打ちしてから、レイクは壁から離れた。
「オーケイ。じゃ、行くぜ!」
ブレイズは両手をつきだし、呪を紡いだ。
「行けっ! 《フォース・ウォール》!!」
どがぁっ!
見えない力がぶつかり、壁に大穴が開く。
『!?』
中のものが動揺する中、二人は廃屋に飛び込んだ。
「悪ぃけど、話は全部聞いたぜ」
意地悪く笑うブレイズ。何も言わず、レイクは何処に持ってたのか、短剣を構えている。
「っ……う、動くな! こいつの命は無いぞ!」
中にいた男の一人が、ビリュ……当然といえば当然だが、縛られてもいなかった……を羽交い締めにし、剣を突きつける。
「全部聞いたって言ったろ? そいつの命が無くなって困るのはあんたらだ。
雇われたんだろ? 誘拐して、身代金を要求する、狂言のために」
無造作に近づきながらブレイズが言う。
「く、来るなっ!」
ぐいっとビリュの喉に刃を食い込ませて男が叫んだ。
訝しげにブレイズは眉をひそめるが、足は止まらない。
ビリュはというと、
「な、何だよ!? 殺す気かよ!?」
苦しげな青い顔をして、羽交い締めにする男に怒鳴っている。
「待て、ブレイズ……様子が変だ」
それを見てレイクはブレイズに制止をかける。
「……確かに」
ブレイズは足を止めた。
「へっ……どうせ、身代金をもらったら、こいつは殺す気でいたんだ」
男は剣をビリュに突きつけたまま、口元を歪める。
ビリュは、真っ青な顔のまま、絶句していた。
「あんたらも、見られちまった以上は、生かしてはおけねぇ」
「悪いが。おとなしくやられる我々ではない」
遮るようにレイクが言い放つ。
「その余裕が何処まで持つのかな? やっちまえっ!」
男の一言で、他の者たちがレイクとブレイズに襲いかかってきた。
レイクとブレイズが一瞬だけ視線を合わせる。
(ビリュの救出を優先。良いな!)
(ラジャ)
二人は背を向け、離れた。
「オレ接近戦苦手なんだよな〜」
苦笑しながらブレイズは、事も無げに、手にした杖で相手の攻撃を受け流す。
レイクは、一直線にビリュの元に走っていた。
気づいた男が、レイクに突っ込むが、レイクは短剣で受け流し、
「はァっ!」
鳩尾の部分に思いっきり膝蹴りを喰らわせる。
身体を折った相手の首筋に肘鉄を入れ、踏み越えて走った。
「くっ!」
ビリュを捕まえている男は、ビリュの首筋に剣を食い込ませたまま、後ろに下がる。
レイクは無造作にその男の元に歩いていき、ブレイズはレイクに走り寄って背をつけるようにして彼女を護る。
「く……近寄るんじゃ……」
「まあ、別に私たちはこいつがどーなろうと知った事ではないのだが」
ビリュを捕まえている男に、レイクは小さく苦笑を浮かべて言った。
「な、なにぃ?」
男は色めき立ち、ビリュは怯えて目を瞑り、そしてブレイズは…、
「レイク、言っていい事と悪い事があるぞ!」
……何故かレイクを説教しつつ。杖を構えて精神集中をしている。
「何だよ仲間割れか?」
「生憎、私とブレイズは、仲間割れするような浅い仲ではない」
レイクは男の嘲笑を受け流した。が、
「浅い仲って、お前それじゃオレたちが恋人みたいな言い方じゃないかっ」
ブレイズは思わず突っ込みをいれてたりする。精神集中は解いていないが。
「へぇ、そんなに仲が良いんなら、仲良く地獄に落ちろ!!」
レイクが立ち止まった為、結局レイク達にビリュを見殺しに出来ないと思った男は、ビリュを抱えたまま、レイク達に剣を振りかざす。
「……まったく……≪アース・ランス≫!!」
それまで突っ込み等入れつつ精神集中をしていたブレイズがいきなり呪を紡いだ。
ドムッ!!
床下から土が盛り上がり、突き立つ。それは丁度ビリュとそれを抱える男の間だった。
「!?」
驚いた男の手からビリュが離れ……否、落ちて。それをレイクが受け止める。
「おお、ここまで上手く良くとはなぁ。さすがオレ♪」
自画自賛するブレイズ。
「良し。後は好きにやれる」
に、とレイクが笑みを浮かべ、恐怖の為か抱きつこうとするビリュを引き剥がしてブレイズに渡した。
後は簡単だった。
逃げようとする犯人たちをレイクが気絶させ、ブレイズはビリュを襲おうとする犯人たちを術で迎撃。
あっという間に片がついた。
「さーて」
街の自警団に犯人たちを渡した後、レイクとブレイズは、その張本人、ビリュに向き直った。
「一応自警団のおっさん達には、誘拐された、とは話したが。
ホントは狂言だったってのは、オレたちは知ってる」
「っ…」
ブレイズが怒りの収まらない表情で言うと、ビリュが、少し罰の悪そうな顔をする。
「まあ、途中から痛い目見てもらったことだし。言うのはやめてもいーんじゃないかなぁ、ってね」
一段落ついたため、レイクの口調がいつもに戻っていた。
「私達はあなたのお父様v から報酬がいただければおっけーだもん」
にっこり笑いながら、軽い口調でエグイ事を言い放つ。
「現金な奴……」
ブレイスが小さく呟いた。
「もちろん。黙っててあげる代わりに、約束して」
レイクは構わず続ける。
「二度とこんな事はしない事。あと、威張り散らしてイジメをしない事。これが破られたら、私達は話しちゃうよ?」
ビリュはこくこくと頷いた。何故か、顔が赤い。
「よし、じゃあビリュの家に行って、報酬貰ってこよー! ブレイズ、今夜はご馳走よ!!」
心底嬉しそうにレイクが片手を上げた。
そして。
ビリュと共にブレイズとレイクは屋敷に行き、お礼のお金を貰って帰ってきた。
その日はご馳走だったが……。
後日。
学校に行ったブレイズとレイクは、驚愕の事実を知る。
放課後の裏庭に、レイクだけが、ビリュに呼び出された。
(一体何の話? こないだの事、かなぁ)
とか思いつつレイクが裏庭に行くと。
「れ、レイクさん……」
ビリュが真っ赤な顔をして立っていた。
「どうしたの? 何か、顔赤いけど?」
こく? と首を傾げつつレイクが近づくと、ビリュはいきなりレイクの両手をつかんだ。
「!?」
「レイクさん、前に僕を助けてくれたとき、運命を感じたんだ!
僕と、結婚してくれ!!」
「……………はぁ?」
レイクはあまりにとっぴ過ぎるその発言にきょとんとした。慌てて手を振り払う。
「いきなり結婚、なんて言われても……」
「そうか、なら付き合ってくれ! 友達からってのも良い!」
「あ、あのねぇ〜……」
そして自分勝手なその発言に、ちょっとキレかかっていた。
「ふざけてるんじゃないよ……第一私はあなたの事がキライなんだけど?」
「そんな、僕はこんなに君の事を愛しているのに!」
「あーーーーーーー。勘弁してよ。結婚する気も付き合う気もないし。友達だってゴメンだね。んじゃ」
レイクは勝手に盛り上がるビリュをよそに、その場を立ち去ろうとする。
が。
がしっ
ビリュに背後から抱きしめられた。突然の事にレイクは全く無防備に抱きしめられてしまう。
「なっ……離し……」
「離しはしないさ」
「…………」
「さあ……素直になって、僕と付き合ってくれ……」
「ふざけるなと言っている!!」
いい加減ぶち切れたレイクは、ビリュに背負い投げを喰らわせた。
「金輪際私の目の前に姿をあらわすな。いいな!」
殺気のこもった目でビリュを見下し、その場を走り去る。
「……あらま。一部始終見ちゃったよ〜、レイクv」
と、そこにブレイズが現れた。
「何だと」
「怒らない怒らない。もうちょっとビリュがしつこかったら、オレが助けに行こうと思ってたからさ」
「必要ない」
「んな事言うな。これでも、兄貴だからな」
「私は……、お前の事を兄だと思った事は……」
「じゃ、言い直す。オレはお前の家族だから」
「……」
一緒に並んで走りながら、レイクは顔を伏せる。
「家族、か……」
「な?」
「そう、だね……」
レイクは小さく笑う。
「そーいうこと。さ、帰ろうぜ!」
「うん」
そしてさらに後日。
「レイクさぁぁぁん!」
「あーもお、いい加減にしてよー」
「ビリュ、お前も諦めろよ……ったく」
結局こりなかったのか、レイクは、ビリュに追いまわされているという。
<おしまい>