ヴェルターヴォ弦楽四重奏団
2001年4月1日 武蔵野市民文化会館
小ホール
グリーグ:弦楽四重奏曲第2番(未完)
ニールセン:弦楽四重奏曲第1番
シベリウス:弦楽四重奏曲《親愛なる声》
ヴェルターヴォ弦楽四重奏団は、メンバー全員がノルウェー人女性。1984年に結成された、まだ若手といっていいカルテットである。1994年にヴィオラ、1995年には第2ヴァイオリンが交代したが、その後第2ヴァイオリンはふたたび元のメンバーに戻った。SIMAXレーベルからリリースされているCDは、いずれも好評。とりわけニールセンの弦楽四重奏曲を収録したデビュー・アルバムは、ノルウェー・グラミー賞を獲得。北欧音楽ファンのあいだで、話題を呼んだ。今回は、その彼女たちの初来日公演である。3月28日のトッパンホール公演ではモーツァルト、ヴォルフ、ピアソラ、グリーグが演奏されたそうだが、この日はオール北欧プログラム。曲目に惹かれ、私はこちらの公演を選んだ。
まずはグリーグ。グリーグの弦楽四重奏曲といえば、ふつう1877年から翌年にかけて作曲された第1番ト短調作品27を思い浮かべる。完全な形で残されている彼の弦楽四重奏曲は、実はこれだけ。1891年の作品、第2番ヘ長調のほうは第2楽章までしか残されていない。ユリウス・レヘントンによって補筆された4楽章版のCDもリリースされているが(チリンギリアン弦楽四重奏団によるHyperion盤)、この日の演奏は第2楽章まで。お国ものだけあって、のっけから実にすばらしい演奏を聴かせてくれた。まず音色が、限りなく魅力的であった。北欧的な渋さを基調としながらも、メンバーが全員女性ということも影響しているとみえ、ときに華やかさや、はんなりとした色気を感じさせてくれることも。そしてなにより驚いたのは、そのアグレッシヴな音楽づくり。強弱や緩急の対比を大きくとり、いっぽうで親密さや繊細さの限りを尽くしながら、ここぞというところでは疾走、高揚、飛翔。音楽は激烈をきわめるのだ。第2楽章におけるノルウェー風舞曲のリズム感は、まさに水を得た魚といった感。その微妙な間のとりかた、テンポの揺らしかたは、奔放にして自在。それでいて緊密なアンサンブルが揺らぐことは、いっさいない。彼女たちの演奏を聴いてしまうと、たとえばNAXOSからリリースされているオスロ弦楽四重奏団の演奏あたりは、優等生的で面白味のないものに感じられてくる。ぜひとも、ヴェルターヴォ弦楽四重奏団による同曲のCDリリースを実現させてほしいものだ。
次はニールセン。これは前述したように、彼女たちがデビュー・アルバムの曲目として選んだもの。十八番といって、いいだろう。CDの演奏も、たいへん表情豊かなものであり、文句なしの名演といっていいものである。が、どうも彼女たちは、実演でこそ真価を発揮するタイプの演奏家のようだ。とにかく、その集中力と気迫が半端ではない。この曲においても、CDとは比べものにならないくらい奔放かつ白熱した演奏が繰り広げられることになった。強弱や緩急の対比は、とことん大きく。音楽の表情も、優しいところは限りなく優しく。険しいところは限りなく険しく。たとえば第1楽章第2主題のチェロが奏でる旋律の、なんと優しいことか。その親密感。そして華やぎ。聴いていて、幸せいっぱいの気分にひたることができる。逆に第3楽章のスケルツォなどは、これ以上ありえないくらいに過激。強烈なアクセントで、音楽を一気に沸騰させる。ただここは気負いすぎたせいか、アンサンブルががっちり噛み合っていなかった。残念。第1ヴァイオリンのオイヴォール・ヴォッレ氏が風邪気味だったようで、そのことも影響していたのかもしれないが。ちなみに彼女、ヴォッレ氏は、エーテボリ交響楽団のコンサートマスターとしてもおなじみ。そうした小さな瑕疵に目をつむれば、全体的には極めつきの名演であったといってよかろう。親密な対話から、丁々発止としたやりとりまで。彼女たちが心から楽しみながら演奏している様子が、手にとるように伝わってくるのだ。完全に手中に収めた曲だけに、テンポの微妙な変動など、即興的なやりとりも目立った。まさに室内楽の醍醐味、ここに極まれりといった感。
休憩後はシベリウス。ここでも彼女たちの行きかたは変わらない。親密さと過激さを同居させた音楽づくりだ。第1楽章冒頭のヴァイオリンとチェロのやりとりは、タイトルそのまま「親愛なる声」に満ち満ちている。が、第2楽章の付点音符主題で早くも音楽は沸騰。かと思えば同じ第2楽章の終盤は限りなく優しく、繊細に。第3楽章は長大な緩徐楽章。ここでは彼女たちの音楽が、ただ単に親密さと過激さばかりからなるものではないということを証明。一音一音に意を尽くし、緊張感の高い、そしてたいへん深い内容をもった音楽をつくりあげることに成功していたと思う。ヴァイオリンとチェロがやりとりする場面におけるクレッシェンドが、ずいぶん派手であったことも印象に残った。続く第4楽章アレグレットから第5楽章アレグロにかけて、音楽はしだいに白熱の度合を増してゆく。やがて堰を切った奔流のごとく、音楽が爆発的に勢いづく。ここではとくに、チェロのビョルグ・ヴァーネス氏の活躍がめだった。激しく足踏みをしながら、ばりばり弾きまくる、その気迫には圧倒されずにはいられなかった。大きく大きく盛りあがって、終止符。
アンコールは1曲。北欧もので来るかと思っていたら、なんと意表を突いて「おてもやん」。幸松肇氏が編曲した版による演奏だと思われる。ひょうきんな顔をしながら、少し照れくさそうにチェロを奏でていたビョルグ・ヴァーネス氏の表情が印象的。演奏も、すばらしかった。
以上、大満足のコンサートであった。他のレパートリーはいざ知らず、こと北欧ものに関しては、このヴェルターヴォ弦楽四重奏団、他の追随を許さない域にまで到達しているように思う。今秋には、バルトークの弦楽四重奏曲全集のCDがリリースされる予定だという。これも、期待して聴いてみるつもり。それにしてもこの日は新国立劇場「ラインの黄金」、ヴェルターヴォ弦楽四重奏団と、どちらも大当たり。まことに充実した一日を過ごすことができた。
2001.5.2記
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