の中の   

あるロックアックスの昼下がり。
 この日は天気も良く、目に映る新緑の鮮やかさがいつにもまして眩しかった。
 それを横目に赤騎士団長カミューは、親友であるマイクロトフがいるであろう青騎士団長の執務室へと足を進めた。
 執務中はほとんど顔をあわすことがないのでせめて食事の時くらいは一緒にと、カミューが時間になるとマイクロトフのところへ顔を出すのが日常だった。
 この日もカミューはマイクロトフを昼食に誘うために部屋へ向かっていた。

 コンコン。

 軽くノックをしていつものようにノブに手をかけるが、鍵がかかっているのか扉は開かない。
 普段部屋を使っている時であれば、少ないながらも出入りがあるこの部屋に鍵がかかっていることはない。
 ということは、今ここには人がいないということになる。
 仕事に真面目なマイクロトフが執務時間に部屋にいないことを不思議に思っていると、中からマイクロトフの声が聞こえた。
 「カミューか?!」
 「そうだけど。鍵なんかかけてどうしたんだ?」
 「…それが……ドアが開かないのだ…」
 「え?!」
 マイクロトフの言う通り、ノブを何度回しても体当たりをしても、扉はうんともすんともいわない。
 「内鍵が壊れたみたいで、何をやっても開かないのだ。」
 こういう時に限って人の出入りがないもので。途方にくれていたところにようやくカミューがやってきたのだ。
 しかし気付いてもらえても解決したわけではない。
 しばらく二人で内と外から扉と格闘していたが扉は一向に開かなかった。
 「…マイクロトフ。ちょっと待ってて。」
 カミューは全速力で鍵屋を連れてきて鍵を見させた。
 しかし団長の執務室という性質上、鍵が特殊な為にすぐには開けることができないとのこと。
 「どうしよう、カミュー…」
 「うーん…」
 扉越しから聞こえるマイクロトフの困った声色に、カミューは腕を組んで考えた。
 団長の執務室の扉は鍵同様、何かの時に備えてかなり頑丈に作られており、体当たりした程度ではビクともしない。紋章で吹き飛ばそうにも、扉を壊すほどの紋章をつかえば部屋の中にも影響がでてしまう。影響だけならまだしも、万が一マイクロトフに怪我でもさせてしまったら……そこまで考えてカミューは頭を振った。
 「…そうだ。」
 「カミュー?」
 「マイクロトフ、すぐに出してあげるから!」
 執務室からカミューの足音が遠ざかった。






 「マイクロトフー!」
 外からカミューの声が聞こえ、マイクロトフは窓を開けた。
 眼下ではカミューが手を振っている。
 「今すぐ部屋から出たい?」
 「当たり前だ!」
 昼食の時間はとっくに過ぎており、腹が減ってしょうがないマイクロトフは、不機嫌そうに言い放った。
 「じゃあ、おいで。」
 カミューはにこりと笑い、マイクロトフへ向かって両手を広げた。
 「な!?」
 扉から出られないのであれば窓から外に出てしまえばいいというのがカミューの考えだった。
 しかしマイクロトフの執務室は2階に位置しており、ある程度の高さがあるため飛び降りれば怪我をする可能性の方が高い。
 にも関わらず笑顔を浮かべ、カミューは両手を広げている。
 戸惑っているマイクロトフを安心させるため、カミューは笑顔のままで続けた。
 「大丈夫。絶対に怪我はさせないから。」

    だから、おいで。

 そのカミューの笑顔があまりに鮮やかで、マイクロトフの中から不安は微塵もなくなった。
 気が付けばマイクロトフは、考えるよりも早く、青の服をなびかせカミューの腕の中へ飛び込んだ。











 「…何が『絶対に怪我をさせない』だ。」
 「だって怪我しなかっただろう?」
 飄々とした態度のカミューに、マイクロトフのこめかみに青筋が浮く。
 「だからといってお前が怪我したら意味がないだろう!!!!」
 窓から飛び降りたマイクロトフはカミューに抱きとめられたが、やはりというか、その体格故にカミューはマイクロトフを支えきれず、カミューはマイクロトフのクッションになってしまったのだ。
 マイクロトフはそのお陰で無傷だったが、マイクロトフに押しつぶされたカミューは体のあちこちに軽いながらも擦り傷や打撲を負う結果となった。
 はしごや救助用のクッションでも事足りたのだが、その時のマイクロトフはカミューのあの鮮やかな笑顔と声に考える暇もなく誘われるように飛び降りてしまったのだ。今考えればなんて馬鹿な真似をしたのだろうとマイクロトフは羞恥と頭の痛い思いで一杯だった。
 「私はいいんだよ。マイクロトフさえ無事なら、ね。」
 優しい視線と共に投げかけられたその台詞にマイクロトフは思わず頬を染め、カミューから視線を逸らした。
 本来ならカミューはマイクロトフを受け止める自信があった。けれど、身に纏った青の長衣をなびかせて自分に飛び込んでくるマイクロトフに、時が止まったように見惚れてしまった。
 「ねぇマイクロトフ。お姫様を救出した王子様にご褒美はないの?」
 「誰がお姫様だ!」
 からかいを含んだカミューの台詞に、マイクロトフは赤い顔のままカミューを睨みつけた。当然、そんな顔で睨まれてもカミューには何の効果もない。ただ、嬉しそうにマイクロトフを見つめているだけだった。
 いつも何者にも縛られず自由な彼が、拘束されるのは耐えられない。鍵が壊れて部屋から出れない、そんなことでも。
 いつだって自由でいてほしい。
 そのためなら何でもできるであろう自分に、カミュー思わず苦笑した。

妄想雜技団の来原まこと様(HPひそかに日参しております、大ファンですv)のところの100,000ヒット企画「と」に応募していただいた作品。更新するのが破滅的に遅くなってすみません(><) 壁紙もなんだかあまり鳥に見えない気が……汗
なんとかようやく更新できる状況になりましたので載せさせていただきます。

すごくラブで素敵です〜Vv ありがとうございましたっっ(ぺこり)