2003年1月26日


6:45。いつもどうりの時間に起床した僕は、すでに焦燥感の中にいた
カーテンにかすかに透ける朝日を見て 動悸が激しくなっていくのがわかった

「きた」

ここから出たくない 家から出たくない でも仕事には行かなくちゃいけない
仕事はやらなくちゃ だってみんなの目があるから
僕は

だめだ頓服を飲もうそしてシャワーを浴びよう気分が変るはず時間はもう7:00になる
こんなところでぐずぐずしてるわけにはいかないんだ

支度が済んで鏡を見る 
『ダイジョウブ ダイジョウブ』
呪文をかける
動悸が止まらない 涙がにじんできた くそう 嫌だ 嫌だ 嫌だ 何が嫌か?
そんなのわからねぇよ

Hさんにメールを送った なぜだかわからない
でも何かあって困るとなぜかまずHさんに連絡してしまう 
やめなきゃってこの頃気が付いていた

「だめですもうしぬしかない」

本気で死にたかったのかもよく判らない 自殺しようとは考えていなかった
むしろそんな事考えてる余裕がなかった
だけどこれが僕が送ったメッセージだった
Hさんからメールが返ってきた

『なにがだめなのか?しぬしかない。【しか】ってそれ以外ないってことでしょ。』
「家から出られないです電車が怖いんです会社の人が怖いんです」

『それと、しにたいはつながるのか?怖いこともあるでしょうが、そんな時は無理すんな。
怖いでいいじゃん。怖くないときもあるでしょ?なんでかね。』

「行かなきゃ行けないのに怖いもう死ぬしかない」
「仕事したいのに嫌何かしなきゃいけないのに駄目
クビニなるのは恐いけど自分が言うことを聞かない死ぬしか」

『メール打つの早いナァ。確かに会社に行かなきゃならないのは事実。でも怖いのも事実。
どちらかを乗り越えないとならないね。少なくとも、上の2つとしぬことはてんびんにかけられないし
、しぬことでは、解決しないんじゃないかな。それに、だから、無理すんなって。』

「編集がやりたいからずっと我慢してきたけどもう絶望僕はやらせてもらえない」
「編集がやりたかった。もうこれ以上の我慢はココロが暴走する朽ち果ててしまう」

『編集最近やってるじゃん。と、自分は思いますが。思い込みかな。
なんでやらせてもらえないと思うかなぁ。ただ、それと怖いのは別なんでしょ?』

「悲しい。頑張ってきた自分がむなしい。編集がしたかった。合成をもっと教わりたかった
でも無駄な努力が」
「空回りしてる気がするテイホしたあと居場所がなくてOさんのところで架け替えとかして
それは良いんだけど僕は自分で編集する機会がないからコンプレックスも溜まる
実習についても架け替えだけだから編集気に触ることもできないままピタゴラやることになって
それもOさんの監視付きでせまい息ができないピタゴラ以外はやらせてもらえないし居場所がない」
『ホント、メール打つの早いなぁ。』
「息が出来る場所がないテイホの文字が並んでるトーマスを見ると死にたくなる
僕の我慢は永遠に続いて一生」

『話の焦点をしぼった方が良さそう。周りが怖いことなのか、編集のことなのか。』

ここまでやり取りを続けた後、Hさんから直接電話がかかってきた。
僕はメールのやり取りの途中からパニック状態になっていて電話での会話はあまり良く覚えていない。出てくる言葉を出てきた順に話して 
涙が止まらなくなって 
Hさんの何かの言葉をきっかけに

関を切ったように大声で泣いた


何をどれくらい話したのか はっきり覚えていない

入社して5年の間の思い出をひとつひとつ思い出しては
あの時はこうだった、この時はああだったと話し
今まで本当にありがとうございましたと ただ泣いた

部屋中の薬をかき集めて一箇所に山積みにした
ひとつひとつパッケージから出して手に握り 一気に飲みくだしはじめた
何をどれくらい飲んだかなんて覚えていない
Hさんが僕の家まで来てくれて鍵を開け扉を開いたのはうっすら覚えている
僕が本当に望んでいたのは死ぬことだったんだろうか? 
それすら 

考えるヒマはなかった





目を開いた時 しらっちゃけた色が見えた
見知らぬ男が二人 僕を見下ろしていた
白衣を着ていた

Hさんもいた

緊急入院をしましょうと言われたのを覚えている
「嫌だ」と答えたと思う
何で嫌なのかと聞かれて
「お金ないし」って答えた気がする
Hさんが
「俺が出すから」
って言った

救急担当の医師に
「あなたは味方ですか?」と聞いたのを思い出した
医師がなんと僕に答えたのかは 思い出せなかった
後でHさんに聞いたら、
「彼は『あなたが何に重きを置いて僕を敵か味方か判断しようとしているのかが判らないので、
今すぐには答えられません。』と言った」
と 教えてくれた


車椅子に乗せられて入院病棟に運ばれた時の寒さが記憶に残っている
ベットに移し変えられた時の医師や看護婦達の声が耳に残っている


白い静かな部屋で


Hさんが座っていた
左腕に点滴が刺さっていた
右の手首にもテーピングがしてあって かすかに血がにじんでいた
ベットに入院日と僕の名前が書かれたプレートがぶら下がっていた
「味方か?」と僕が尋ねた医師の名前を知った


「明日、また来るから」

Hさんが言った

「14時にここにくるから」

Hさんは僕が最近買った「精神科に行こう」という本を持っていた
その本を僕に見せて、借りていってもいいかと聞いた

「よかったら どうぞ」


Hさんが帰った後、静かな病室を見回していた
4人部屋で はす向かいのベットに寝ていた老婆がじっと僕を見ていた


その夜は
一睡も出来なかった