邦題「宣戦布告」

原題「宣戦布告」

2002/10/13@新宿シネマミラノ


評者   

評価  

ひとこと

ほーく

 久々に出た、超弩級のアホ映画

<コメント>

 ネタバレ警報MAX&このコンテンツには残虐描写が含まれております。

 まず最初に確認しておくが、これはバカ映画ではない。わたしが愛してやまないバカ映画ではない。脱力を通り過ぎて、怒りさえ生まない、もちろん笑いなんて、とてもとても。失笑さえ、途中で飽きてしまう。つっこみどころなんてありすぎて数え切れない。それでいて、これをなかったことにするのは勿体ない、多くの人々にさらして差し上げるのが正規料金を払って鑑賞したものの務めであろう。ちなみに、わが生涯において、この作品に匹敵することができるのは、角川映画「天と地と」ぐらいではなかろうか。

 普段であれば、また外国映画であれば、「2」どまりの駄作であろうし、ネタバレ警報も発令していないであろう。この作品は、ここ近年の邦画界の状況を端的に表しているような気がする。それを具体的に例を挙げながら、確認していきたい。また、かなりの長文になることが予想されるので、今作品の売りである、政治的・軍事的サスペンスin現代日本(に似た架空国家)を楽しみたいのであれば、「機動警察パトレイバー2 theMOVIE」をお薦めしておくので、そちらをご覧いただくほうが無駄がなくてよいかと思う。参考URLは
http://www.sa.sakura.ne.jp/~straydog/k-ito/syoko.html

 さて、まずはこの映画の総評をしておこう。

「何もかにもが中途半端」

 もちろん、フィクションである限り、どんな設定であろうとも構わないと思う。現に、アメリカでは、冷戦まっただ中の時期、恐ろしいまでのタカ派映画が乱立していたものだ。最近でも、相手はテロリストだったり、某国であったり、実在の団体・国を登場させている。極端な話、面白けりゃいいという側面だってあるだろう。

ところが、今作品にはそれさえない。では、政治的なアジテーション(扇動)か?いや、それにしては高揚感がない。危機管理能力の欠落した政治風刺劇か?いや、ステレオタイプな描写で工夫がない。軍事的なリアル・シミュレーションか?いや、まったく緊迫感がない。迫力コンバットアクションか?いや、動きが鈍すぎる。虚々実々を楽しむ防諜サスペンスか?いや、これまたつっこみが甘い。困難な状況を全力で解決を図る、英雄劇か?いや、解決してないだろう。無能な上司に憤る、部下思いの青年たちの情熱を描いているのか?いや、ただ怒ってるだけだ。

もう一度言おう。どれもこれもが、細部を描けていないので、散漫なのだ。中途半端なのだ。だからこそ、つっこみしたくもなるのだが、数が多すぎて途中で投げ出したくなるのだ。

※ 具体例を列挙していきますが、無理に読まなくていいです。とりあえず、こちらにジャンプ。スタッフ一覧は、こちらへ

具体例を挙げながらの説明に移ろう。

☆政治的なアジテーションか?

公開当時(2002年10月前後)は、おりしも北朝鮮拉致問題のまっただ中であった。しかも、実に不幸な事実が公表され、北朝鮮に対して日本全体の感情が急激に露骨に悪化した時期である。この時期に、「北東人民共和国」の潜水艦が座礁、乗組員が上陸、地元住民を殺害、機動隊及び自衛隊と交戦、とは実に狙いすましたような設定である(※)周辺国家は、「韓国」、「中国」、「ロシア」、「アメリカ」と実在の国家名であるのに、何故に「北東」?まずはここで失笑である。オープニングに出てくる文字も明らかにハングル文字と思えるデザイン、話している言語の発音も、いかにもな響き。いさぎよく、「朝鮮民主主義人民共和国」と表記できんのか?下手に架空国家名のほうが印象悪いぞ。時期が時期だけに、防衛庁方面もかなり難色を示したらしいが、そんなに骨太な作品じゃないぞ。

さらに笑えるのだが、タカ派の著名人のなかには「こんなに自衛隊は弱くない」と憤慨している御仁がいるとか。まあ、どっちにせよ、この作品でナショナリズムの高揚は無理だろう。

参考URL:
http://channel.goo.ne.jp/news/fuji/geino/20020926/20020926-27.html

ちなみに、作品中、「北東人民共和国」は、すぐに「北(キタ)」と表現されるようになる。

☆危機管理能力の欠落したトップを風刺しているか?

弱腰外交、有事の自衛隊出動に立ちはだかる法律の壁、責任のなすりあいをする政治家及び杓子定規な官僚、大局よりも自分の政治生命を気にする代議士。あ〜、ありがち。

そして、それを打破すべく取った手段は、最高責任者(首相)の決断の追認。野党の姿なく、国会の迷走の描写なく、決断後は、まるで挙国一致独裁政権のような迅速な命令の実行。いやー、描くはファシズムの世界か。

☆軍事的なリアル・シミュレーション、迫力コンバットアクションか?

これについては、さほど軍事的知識がないので素人判断なのであるが、いくらなんでも、双方動きが雑ではないですか?例えば、発砲許可が下りていないのに、やみくもに敵を追撃するというのは大丈夫ですか?かなり派手に音を立てての行軍ですし。また、潜伏して結構時間が経っている割には、ブービートラップ(罠)とか少なすぎませんか?待ち伏せにしても退路を考えましょう。また、弾薬が少ないのに、そんなに無駄玉をばらまいていいんですか?遮蔽物の少ないところにむやみに突進しちゃいけませんて。数が少ない方がそんなに姿を見せていいの?

合成もろバレですよ、攻撃ヘリ。ロケットランチャーをどてっ腹に直撃受けてるのに、即死じゃないんですね、すごく頑丈です。あれだけ銃弾が当たっていなかったのに、手榴弾だと百発百中ですか、すごいコントロールですね。

廃屋に立てこもった敵に、さきほどの手榴弾を使わず、いきなり攻撃ヘリのバルカン砲を浴びせるとは豪快ですね。先ほどのランチャーあったら撃ち落とされますよ。また、そんな攻撃したら、木っ端みじんになって対象を確認できませんけど。もしかしたら、無事かもしれないですよ。

本物の戦闘が初めての自衛隊と警視庁特殊部隊SAT(すごい重装備)は仕方ないとしても、「北」最強の軍事組織である偵察局所属がこれではいただけない。

ま、もっと詳しい方々は、憤死するかもしれませんね。

☆虚々実々の防諜サスペンスか?

「北」のスパイが手にする情報の提供者は…。いやー、あんまり大した情報はないように思えますが。すごい暗号を駆使しているようですが、まさかチャットしていたとは驚きです。無様に逃げられる公安も公安ですが、あっさりしっぽを捕まれすぎですよ>夏木マリ。あと、ディスインフォメーションって用語でごまかしましたね〜。その偽情報がなんだったかは明かさずに。というか、あんな状況下で間に合いますかね、その偽情報。

☆英雄劇か、熱血か?

ここまできて言うのもなんだが、古谷一行はいい芝居をしている。夏八木勲も同様。佐藤慶、財津一郎、小野武彦と、なんとも豪華なメンバー達はステレオタイプなので演じやすかったのであろう、無難にこなす。よって、脚本さえしっかりしていれば、それなりに面白いものができていたのではないだろうか。しかし、哀しいかな、台詞は一本調子で内容希薄なものばかり。古谷演じる首相は、たしかに苦渋の選択を真剣にしたわけだが、最終的には何故ああいう結末になったのか自分では分かっていないので、英雄にはなれません。主席秘書官くん、嘘くさいほどの理想に燃える姿がさらに現実味、緊迫感を殺ぐ。夏八木勲演じる内閣情報調査室長、フットワーク軽いけど、「最後に決めるのはあなたです。わたしはついて行きます。」って、結局無責任。でもって、一か八かの偽情報、いやー、世界を救った英雄さんですね。

自衛隊実戦部隊の小隊長くん、部下をむざむざ死なせたのは、君の指揮のせいでもあるんだよ?発砲許可もすぐ出ない状況でああいう指揮はいかがなものか。それで、逆ギレしちゃあいかんやろ。

しまいにゃあ、連隊長までブチキレして、あーシビリアンコントロールの崩壊ですね。

あんな理不尽な状況は、古来山ほどありますがな。

 

とまあ、思いつくままに書き上げたのですが、途中で飽きたのでつっこむのも止めました。是非とも、レンタルになってから友人たちとつっこみ大会&がまん大会を開催してほしい。そして、こんな出来の悪い映画をいけしゃあしゃあと配給する、日本の大手映画会社をしっかりと記憶していただきたい。

最後になるが、原作の小説については、鑑賞後すぐさま購入したのだが、文庫本で上下2巻もあるので、まだ読み終えていない。もしかすると意外と面白いかもしれない。これについては、後日報告したい。
追記:小説は意外と面白かった。ということで、脚本がダメということ決定。2003/2/1

ヤマさん@「間借り人の映画日誌」の評は、こちらへ。(ただしネタバレ)

 


主演 古谷一行@首相
共演              杉本哲太@首相主席秘書官、夏木マリ@北の偵察局大佐、財津一郎@総務庁長官、多岐川裕美@首相夫人、佐藤慶@内閣官房長官、夏八木勲@内閣情報調査室長、小野武彦@福井県警・警備部長
監督 石侍露堂(せじ・ろどう)
脚本 石侍露堂、小松與志子
原作 「宣戦布告」(上・下) 麻生 幾著(講談社文庫)
美術 福澤勝広
撮影 阪本善尚
音楽プロデューサー 石川光
編集 川島章正
OST 未購入。
2001年作品 1時間46分
  東映公式サイト http://www.toei.co.jp/sensenfukoku/index.htm

ZAKZAK http://www.zakzak.co.jp/geino/n-2002_08/g2002081405.html

gooニュース http://channel.goo.ne.jp/news/fuji/geino/20020926/20020926-27.html


作品リストへ

※「実に狙いすましたような設定」について、拙掲示板でヤマさん@「間借り人の映画日誌」から次のようなご助言をいただきました。

それに対するやり取りを転載します。

『宣戦布告』拝読。 投稿者:ヤマ  投稿日:11月20日(水)21時54分57秒

(前略)あ、それと「狙いすましたような設定」のとこは、
作り始めたのはもっと前(三年前でしたかね)だとかいうちょっかいを
入れてくる人がいるかもしれないから、言及したうえでのことにしたほうが
いいかもしれませんよ。(後略)

やっとお返事その2 投稿者:ほーく  投稿日:11月26日(火)14時55分39秒

(前略)また、「狙い済ましたような設定」についてのご助言ありがとうございます。
たしかに、そのように誤解される方がいらっしゃるかもしれませんね。
この作品は、1998年3月に講談社から刊行された、
麻生 幾氏著『宣戦布告』を原作としており、公式サイトによると小松與志子氏との
共同脚本執筆に1年を費やした、とのことですから、公開時期と
世界情勢が重なったのは、製作段階としては、偶然ということになります。
(中略)
まあ、その後の公開時期や広報活動、映画製作に非協力的だったといわれる官公庁との
関連は、必ずしも偶然とは言いがたいとは思いますが(笑)
この当たりはなるべく早急に、評に反映させたいと思います。
ご助言、ありがとうございました<(_ _)>

<転載ここまで>

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