性格まがってるぞ、信乃

 さて、八犬士の中で最初に登場し、その後も主役級の活躍を見せるのが、犬塚信乃である。しかし、性格悪いのではないか、と思える箇所がたくさんある。

 ここまで信乃の性格を曲げさせたのは、子供のとき女装をされていたことがあるのではないか。村の子供に馬鹿にされながら暮した孤独な日々。それと番作の自殺を目の当りにしたことも、少年の人格形成に大きな影響を与えただろう。十六歳にして不具者となった父番作。身の不遇をのろいながら手習いで口を糊し、姉夫婦とのトラブルは絶えない。手束は三度までも子供を死なせ、三十を過ぎてから生まれた信乃をひたすら可愛がる。読みようによってはひどい家庭環境である。
 小谷野敦著・「八犬伝綺想」では、信乃をハムレットに見立てて、女性恐怖や望みと現実とのギャップに苦しむ姿といった部分の類似性を説いている。八犬伝の読み方が大きく変わる名著だから、一度読んでみてはいかかだろうか。


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