予選で勝って、馴染みのない町を歩いて帰る途中。
ふと花屋の店先で足が止まった。
赤・白・黄・紫etc.葉の緑に縁取られて、とりどりの色が競って咲いている。
その中のカーネーション。
真っ赤な色から目が離せない。
「なんだ?母の日には早いんじゃないか?」
オレの視線の先を捕らえた神谷が、呆れて笑う。
神谷の言葉に、一緒に歩いていた大塚や赤堀達が、オレと花を見比べた。矢野に至っては思いっきりにやにやしてる。
「いいじゃないか、綺麗なんだし」
ちょっとムッとして言葉を投げると、
「似合いすぎて、笑えるな」
矢野が返してくる。
「似合う?」
聞き返すと、最上級のからかい顔を付き寄せて来た。
「花も北原さんも、綺麗でお前に似合ってるよ〜んv」
…ああ、そうか。またからかわれてるのか、オレは。
ならば、受けて立つまでだ。
皆の視線を集めたまま、花屋に入る。
花かごを作っている店員に声を掛け、カーネーションの花を1本買った。
セロファンで包まれ、細いピンクと紫の2本のリボンを結ばれて、真っ赤な花は瑞々しい姿でオレの手に収まった。
「ホントに買ったのかよ」
神谷がますます呆れて言う。
「母の日も試合だから…忘れたら母さんに悪い」
花に目線を落としながら答える。
「気が早すぎだ」
「まぁ当日は高くなるから、今の内に買っておいた方が利口かもね」
「よっ!女殺し!!」
神谷と赤堀の反応はともかく…、矢野…おまえ、相変わらずお調子者め。
「お前の気の早さは知ってたけどなぁ」
がははと大塚が笑う。
それにつられて、皆が笑い出す。
オレは困った振りをするしかなかった。
家に帰って花を母さんに渡すと、母さんは本当に嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとうね」
そして一番気に入っているガラスの一輪挿しに、赤い花を生けてくれた。
窓から差し込む太陽の光に、花と、花瓶と、花瓶の中の水が揺らめいて輝く。
「綺麗ね…」
優しい囁き。
母さんは言わないけれど、オレが約束を破って試合に出ている事を知っている。
それでも笑ってくれる母さんに、花一本しか返せない。
それが辛くて情けなくて…哀しい。
ごめんなさい。
あなたを悲しませることになると解っているのに、オレは求める心を止められない。
サッカーを、仲間を、…そして大事なあいつのことを。
赤い花。
母への感謝と愛を込めた赤い花。
―オレにとっては贖罪と哀しみの、血色の花。
終わり 2001.5.19.
…本当は母の日にUPしようと思っていたんですが…またまたコケちゃった(苦笑)