「あー、なんだよコレ!?」
着替え中の久保を見た矢野が、突然声を上げた。
「え、何が?」
中途半端にシャツを羽織った状態で、久保はとりあえず自分の周囲を見回してみる。
が、何のことを言われているのかわからない。
久保がそうこうするうちに、赤堀がその『何か』見つけたらしい。
「あ、…これって…」
「うん…」
赤堀に続いて、服部も相槌を打つ。
そして前振り充分、二人が飲み込んだ言葉を開口一番大音響で叫ぶのは、大塚の
役目だった。
「これ、キスマークじゃないか??!!」
「あーほんとだ」
大塚の指摘に、小笠原までソレを確認したらしい。
「……そんなはず…」
しかし、久保にはそんな心当たりは全くない。
指摘は当然認められないものなのだが……、
しかし、―――久保の制服のシャツ―――、そこには、かすかではあるが
女性のリップ跡とおぼしきものがついていた。
「おいおい久保〜、すみにおけないぞー」
「あれ〜どこで付いたんだろう」
まじまじとシャツのリップ跡をみながら、首を傾げる久保だったが、ふいに顔を
あげた時だった、こちらを見ている神谷の視線にぶつかった。
しかし、神谷は久保と視線が合ったと知るとふいっと目をそらす。
素っ気無くそらされたソレは、どことなく剣があったような……(汗)
(あーぁ〜、これは完璧、臍曲げてるよね)
久保は心の中で大きなため息をついた。
しかし、久保が心配してたような、神谷の低気圧吹き荒れることもなく練習は終わり、
神谷と二人きりになった部室で、久保は恐る恐る切り出した。
「あのさ、神谷怒ってるでしょょ?」
「いや?なんでだ?」
「俺がさ、『キスマーク』……」
「ああ、ソレね…。怒ってねーよ。って言うより俺はちょっと感心してる」
「は?」
神谷の真意がつかめなくって、久保はぽかんとした顔になった。
「俺も大人になったんだなー、っていうか汚れちまったというか…」
「神谷、一体……」
「誰かさんのお陰で、もうキスマークって言われても、口紅の跡とは思わなくな
ったもんなー」
「……////////!」
それは、当たり前…と言い切れば簡単なことのようで、
目からウロコの発言というか、
なんというか、
その、つまり、神谷の口から飛び出したとは思えないような
あからさまな発言で……、
久保は二重三重の戸惑いの中で返事が出来ないでいた。
「『付けてない!』とは思っても、あんな時だから俺も自信ねーし…、絶対して
ないともかぎらねーだろ?まして、昨日の今日だしな…」
そう、昨日神谷は久保の家に泊まったのだった。
「というわけで、怒ってない。納得したか」
「………うん」
「なんだ、その力のない返事は、まだ疑ってんのか?」
「いや、そうじゃなくって、神谷がそういうこと口にするの珍しいからさー」
「そ、もうスレちまったの、俺も。はー全く誰のせいだよ」
「俺のせいだったら、嬉しいなvっていうか、神谷は汚れてなんかないよ、綺麗、
すっごく綺麗!」
「バーカ、なに真顔で言ってんだよ、帰るぞッ!」
そう言って、久保に背を向けた神谷の顔はちょっと赤くなってて、やっぱり変わって
いない自分の好きな人の腕に、久保は自分の腕を絡めたのだった。