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| Happy…? | ||
ナンダカンダと理由を付けては、強行開催される掛高サッカー部の飲み会は、 本日も和気藹々とした雰囲気で乾杯の音頭が響き、親睦会と称して宴の幕が開いた。 それから数時間。 既に盛り上がりもピークに達し、酔いつぶれて眠る者、愚痴り始めた挙句涙をこぼす者など、殆どが正体不明に陥っている。 特に一年生部員はかなりの量を飲まされてしまい、理性を保っている者は見当たらない。 ……ただ一人の例外を除いて。 そして、その例外―――田仲俊彦は宴席には不似合いな難しい顔をして何やら考え込んでいた。 その原因となったのは、これまた酔いとは無関係な涼しい顔をしている久保嘉晴の…とある行動。 それは、目撃した田仲を混乱の極地に追い込んで余りあるものだった。 田仲は今日の飲み会を、憧れの先輩である久保と、色々な話しが出来る良い機会だと楽しみにしていたが、 他の上級生が何かと構ってくる中で久保だけは様子が違うことに気が付いた。 付き合い程度に酒は飲むものの大騒ぎすることもなく、只にこにことしながら盛り上がっている一団に視線を向けている。 それが気になった田仲は、進められる酒もそこそこに久保を眺めつづけた。 しばらくすると、久保が見ているのは集団ではなく個人―――神谷だけだと気付いた。 その視線が意味するものが判らずにいると、久保が神谷に近寄って行って声をかけ、 2、3言葉を交わして後、連れだって元の席に戻るのが見えた。 突然何かあったのかと気になった田仲は、さりげなく声が聞こえる位置まで移動することにした。 途中、素っ裸で転がっている白石を踏んでしまったが、本人に意識がないので気にしないことにして、2人の会話に集中する。 「神谷、悪酔いするから、酒ばっかりじゃダメだよ。ほら、ピザ食べなよ。」 …なんだ?それだけ?!気にした自分が馬鹿みたいだなぁ(笑) 「――だからって、そんなに急いで食べるなって。口の周りにソースついてるぞ。」 …えっ?!ちょっと待った!ソースを拭い取った指を舐めた?! 「あ〜あ。だから言ったのに、もう飲まない方がいいよ。顔赤い。」 …神谷さんの頬をぷにぷに突ついて幸せそうに笑ってるよぉ……。 「ホントにもうダメ!ほら、後でちゃんと送ってくから、少し寝てな?」 …膝枕させてるんですけど。 っていうか、神谷さんの髪を撫でなでてるよぉ〜。 なんかもう、あそこだけ別世界になってないか?! ………男の友情って、ああいうものだっけ? アレは母親が幼い我が子に接するような―――― …いや、むしろ………………………。 はっ。 今、俺は何かとてつもなく恐ろしい想像をしかけたような気がするぞ…? なに馬鹿な事考えてるんだか。 あの2人は親友なんだから…うん。 第一、先輩達だって別に普段と変わらないじゃないか。 ごくごく見慣れたものだというような感じで、誰も気にしている感じじゃないし。 気のせい、気のせい。 あれが普通なんだ…普通………ふつう、なのかなぁ………? 決定的に疑念を払う事ができずに悶々と考えていた田仲の肩を、後ろから赤堀が突ついた。 「田仲、さっきから全然飲んでないみたいだけど、どうかしたの?具合悪い?」 「え?!なんでもないです!大丈夫です!!」 心配そうに尋ねられ、田仲は慌てて答える。 「ならいいけど」と赤堀がひとの良さそうな顔で言って、また自分の席に帰ろうとするのを呼び止めた。 「あ、あのっ。赤堀先輩。久保さんと神谷さんって…友達……なんですよね……?」 「…………当たり前じゃないか。どうしたんだい?」 にっこり…と赤堀は笑っている…ように見える。 だた、その笑顔に妙な迫力がある気がするのは考え過ぎだろうか。 益々思考が混乱して行くのを感じている田仲に、赤堀が「酔ってるみたいだね」と笑って言う。 ………そうか、やっぱり少し酔ってるんだ。 そりゃ、そうだよな。変な事考えちゃったな。 田仲俊彦15歳。 憧れの先輩の下で思う存分サッカーが楽しめる彼は間違いなく幸せ者なのだろう。 たとえ、未知の世界を垣間見てしまったとしても。 …………本人が気付いていないのだから。 合掌。 |
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