WALK WITH













 俺がついて来いって言ったんだから気にすんな、と斜め前を歩いていた神谷が振り返って呆れたように笑った。

 だって、そんな事言ったって本当にいいんですか、だなんて。
 思わないわけないでしょう。
 別に死んでしまった人に気が引けてるとかそういう訳じゃないけど。


「まぁ、それはそうなんですけどー…」


 今から行く所が神谷にとっては特別な場所である事は確かなのだ。
 そもそも昨日、馬堀のケイタイにかかってきた電話で言っていた『ちょっとついてきて貰いたい用事』がここに来ることだなんて。
 馬堀にしてみれば思いがけないことだった。


 死んでしまった、神谷の親友兼恋人。
 掛川キャプテン久保嘉晴。


 その人の、墓参りなどと。



 想像していたわけがない。




 神谷にとって特別な意味を持つその人の墓は、馬堀にとっても勿論大きな意味を持っている。
 一度はその壁の前に、挫けそうになりもした。
 けれど、その時神谷がくれた言葉を十字架のように掲げて。
 やっとここまで辿り付いた。
 神谷の隣。

 だから、今はもうコンプレックスなどありはしないが。



 ただ、戸惑いが拭い去れないだけで。



「いいから、黙ってついて来いよ」

「……わかりましたー」


 まだ考え込んだ様子の馬堀を見て、神谷が素っ気無く言う。
 色々とわからない事はあるけれど、とりあえずはついて行こうと、少し歩調を速めて神谷の隣に並んで歩いていった。



























































 久保の墓は、非常に綺麗なものだった。
 おそらくは生前のファン達が訪れたり、久保の両親がこまめに手入れをしているからだろう。
 隣の墓と比べて、その綺麗さは際立っている。

 その墓に持って来た花を置いて、神谷がしゃがみ込んだ。
 それにならって、馬堀も同じようにしゃがむ。
 少しだけ、ほんの少しだけ斜め後ろ。


「よぉ久保、久しぶりだな」


 斜め後ろからでもわかった。
 生きている人間に話し掛ける時のように、もしかしたらそれ以上に優しく微笑んで。
 墓に話し掛ける声も、柔らかく響いた。


「今日はさ、ちょっと報告に来たんだ」


 何の報告だろう、と思っていると少しの間をおいて神谷が口を開いた。
 柔らかな、けれども固い決意を示す声。

 強い、声だ。


「俺は、大学サッカーをやろうと思う」



 少し前に、聞かされた決意。
 聞いた時は驚いたけれど。
 その結論に達するまでの経緯を聞いて。
 それが神谷の出した結論ならば、何も言わずに応援しようと思った。
 できる事は、それぐらいしか思いつかなかった。

 久保の墓に、馬堀に対して語ったものと同じ事が語られていく。


 そうしてもう一度、決意を翻すつもりはないのだというように、もう一度。
 先程と同じ口調で、神谷が言った。


「だから、俺は、大学サッカーに行く」


 その声を聞きながら、一年後自分はどんな結論を出しているのか。
 そんな事を考えながら、斜め後ろから見える神谷の顔を見つめていると。

  神谷がいきなり、振り返ってきた。


「おい」

「な、何ですか?」

「もうちょっと前に来いって。ほら、こっち」

「え、あ、はいっ」


 ぐいっと腕を引っ張られて、神谷の隣に移動させられた。
 すぐ近くにある久保の墓。
 隣にいる、神谷。


「で、俺はこれから、こいつと歩いていくつもりだ」

「………え」


 いきなりの言葉に、思考回路が一瞬ストップした。

 何を言ったのか理解できずに、思わず聞き返してしまう。


「いいから、お前は黙って聞いてろよ。………こいつは、お前に似てるけど、お前じゃないんだ。そういうの、全部わかった上で言っ
てるんだから、反対すんなよ?俺は今、こいつの事が好きだけど。お前の事を忘れたわけじゃない。お前に対する気持ちとは、
また何か違うかんじがする……よくわかんねぇけどな」


 ごく自然な口調で語られる言葉に、何だか胸が熱くなる。
 あぁ、この事を告げるためなんだ、と思った。

 わざわざ、きちんと報告するために。
 連れて来てくれたんだ、と。


「神谷さん……」

「何だよ」


 この嬉しさは、どう伝えるものなのだろう。
 うまく伝えられる手段が思いつかない。
 ただ胸はいっぱいだ。



「………久保さん、俺。あなたよりも、神谷さんのこと、幸せにします。絶対、一人にはしません。……一緒に、歩いていきますから」


 神谷をおいて、一人で死ぬのは、どれほど悔しかっただろう。
 愛した相手を、たった一人で残して。
 共に目指した夢も、途中で。

 でも。
 これからは。


「あなたの分まで神谷さんを幸せに、なんてことは言わないけど。でも、俺は、これから、神谷さんと歩いていきます」


 神谷の、隣を。
 きっと歩いていく。


「馬堀……」

「へへ、何か宣戦布告みたいですけどね」

「……バーカ」


 隣の神谷に微笑みかけて、立ち上がった。
 少しだけ目を細めて馬堀を見上げ、神谷も同じように立ち上がる。
 もう一度、 墓の方を真っ直に見つめて。


「……じゃあな。また来るから」

「行きましょう」

「……あぁ」


 差し出した手を、神谷が笑って取ってくれた。



 そうして二人、手をつないで歩き出した。
















































 優しい風が、背を押して吹き抜けた。









・えっと、本当に長らくお待たせしてしまいました(滝汗)
かなり今更、といったカンジですね…(涙)
一応、600hitキリリクSSをお届けします。
何だかかなりぐちゃぐちゃなんですけども(爆)こんなヘボでよろしければ、まりこさんに捧げます。
本当に申し訳ありませんでした!!(逃亡)
    とても静かで優しい光景をありがとうございましたv
    この神谷…凄くカッコイイのですが!
    馬堀と一緒に、嬉し泣き気分ですv