ゴールが決まったり試合に勝ったり。
 抱き合うのなんて慣れっこの筈なのに、今夜は息も出来ないぐらい苦しい。
密着した裸の胸が、互いの鼓動の激しさを伝えている。

触れ合うたびに、二人の関係が変っていく。
キスして抱き締めて、荒い息を分け合って。

頭の中に響くのは断末魔の音。
ジジジ・・・ジジジという無機質な音楽(white song)
意味をなさない、命の最期の言葉だった。







 9月に入ってずいぶん経つというのに、気温はまだ夏のように高い。
 学校の向かいの掛川城公園に茂った木々からは、セミの声が大音量で響いてくる。
 だけど陽射しだけは一時の圧迫感を薄めて、やがて訪れてくる秋を教えていた。

 そんな土曜日の午後の道を、神谷は一人、両手にレジ袋をさげて学校へと向かっていた。
「う〜、重いじゃねえか」
 袋の中身は13人分のジュース類。持ち始めこそ大した重さじゃないと高をくくっていたけれど、一歩歩くたびに手のひらに食い込むようだ。
 全員が一年生の掛川に於いて、ほとんどの雑用は公平なる当番制だ。例外が買い出しで、その場の雰囲気で、ジャンケンとか練習中にドジった罰とかで当番を決める。
 今日はチョキを出して神谷が負けた。
「くそ〜、うるせーセミだ!」
 悔しさとしんどさを紛らわすように、降り注ぐ蝉時雨(せみしぐれ)に文句を言う。

 と、その時

―クスッv
 柔らかな笑い声。

 慌てて振り向くと、久保の彼女・北原美奈子が口元に右手を当てて、優しく微笑んでいた。
 学校からそのまま来たのだろう。学生鞄に付けているマスコットも、笑うように揺れている。
 その様子が余りにも女の子らしかったので、思わず見とれてしまう。
 うん、確かに可愛らしい。あのサッカー以外に興味を持たなかった久保が惚れただけはある。
「手伝うわ」
 言って白く細い腕が、神谷の持つ片方の袋に掛けられた。
「いい!」
 差し伸べられた腕を慌てて振り払う。女の子に力仕事を手伝って貰うなんて、男が廃(すた)ると言うものだ。
 神谷の乱暴にも見える態度に、美奈子は一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐにまた微笑んだ。神谷の人付き合いに関する不器用さは知っている。
「そう?」
「こんなの全然重くねーから」
 ゴモゴモと、神谷が返事をする。驚かせてしまった事への罪悪感で、少し目を逸らす。
「皆の分なんでしょ?大変ね」
「来年は新入りにやらせるさ」
「あんまりいじめちゃダメよ」
「これがいじめって言うなら、オレ、いじめられてるように見えるか?」
「ふふ、そうね」
「いじめっていうのは、もっと別モンさ」
 中学時代の苦い思い出が頭を過ぎる。あんな思いは、するのもされるのもたくさんだ!
 過去のことを知らない美奈子は、すぐ隣を歩きながらクスクスと笑う。
「なんか、想像できちゃう。神谷くん、良い先輩になりそうね」
「『怖い先輩』の間違いじゃないか?」
「なぜ?」
「目つきの悪さにゃ自信がある」
「あら、悪くないと思うけど」
「え?」
「神谷くんって、優しいもの」

 何だかとても、もの凄いことを言われた気がする。
 生まれてからこの方、無愛想と口下手で、他人様からの評判はてんで悪いのに。
 そういえば美奈子は、初めて言葉を交わした日から、一度も自分にビビッていない。
 そして思い至った。
―この子って、久保ん家とノリが一緒なんだ。
 よくよく見れば、顔も久保の母親と似ているような…。

 笑い出したくなったが、我慢して黙り込む。
 でも美奈子は、神谷のポーカーフェイスが僅かに赤くなった事に、気が付いていた。




 校門をくぐりグラウンドが見えてくると、神谷は足を止める。
「北原さん」
「?」
 持っていた片方の袋を地面に置き、中からペプシの缶を取り出す。
「これ久保の。あんたが渡した方が喜ぶから」
 冷たい水滴を纏った缶が、神谷の手から美奈子に渡った。
「ありがと」
 輝くような笑顔が返ってくる。やっぱり好きな相手を思っての表情は格別だ。

 置いていた袋を取り上げて何気なく泳がせた視線の先に、久保の姿が映った。
 どうやら向こうも気付いたらしく、ボールを足で押さえてこちらに手を振ってくる。
「あいつ、目聡いな。ほら、先行けよ」
「ええ」
 笑顔の輝きを更に増して、美奈子が走り出す。
 少し短い制服のスカートの裾が翻って、膝の後の窪みが見えた。
「お、目の保養」
 与えられたささやかな褒美に、神谷はにんまりと笑った。







 先程から神谷の戻りが遅いような気がして、それとなく気にしていた。
 自分も何度も買い出しをしているから全員分を持つのは重いことを重々承知しているのに、一人で行かせてしまった。
 やっぱり一緒に行けば良かった。
 そう思っていた矢先に神谷は戻ってきた。
 それも美奈子連れで。

 思わずドリブルしていた足が止る。

 なんの話をしているのだろう。
 立ち止まった神谷が缶を美奈子に渡している。
 後ろを向いている美奈子の表情は見えないけど、神谷の方は機嫌良さそうだ。

 途端に襲いかかる違和感。
 なぜだろう、見ているのが辛い。

 目を逸らそうとした時、神谷と視線が合ってしまった。思わず反射的に手を振ってしまう。
 それを合図にしたように、美奈子が最高の笑顔を浮かべて走って来た。
 この笑顔が好きだ。
―なのに・・・
 美奈子の背中を見送る神谷の表情ばかりが気になっている。
 少し不敵な、楽しげな笑い。
「久保くん!」
 美奈子に呼びかけられなかったら、そのまま視線が外せなかっただろう。

 最近の自分は変だ。
 美奈子と付き合いだしてもうすぐ三ヶ月。第一印象通りに可愛くて優しくて、一緒にいてとても楽しい。重ねるデートが、サッカー漬けの生活の中で心地よい刺激になっている。
 だけど美奈子と一緒にいる時間だけ、神谷と離れてしまう。
…その事が、辛い。
 なぜ?美奈子のことが好きなのに。



 無意識に押さえ込んでいた感情が溢れ出そうとしていることに、久保はまだ気付いていなかった。







歌の主は知っている。
あの時のセミだ。
6年間を地下で過ごし、
夏の一週間だけ大空を飛ぶ自由と恋を許された小さな生き物。
腹を揺らし鳴き声を上げ、夢中で運命の相手を求め合う。

そんなセミのように、二人も鳴いていた。
快感に下腹を震わせて、互いの名を呼ぶ。

喘ぎはやがて一定のリズムとなって行く






 練習後、まだボールが蹴り足りなくて居残ったグラウンドで、神谷は自分の影が長くなっている事に気が付いた。
 西の空を見ると、住宅街の家並みの向こうに、ゆっくりと陽が沈もうとしている。
 いつの間にこんなに早い時間に日没が来るようになったのだろう。夏休み中はもっと遅くまで太陽が出ていたのに。
「もう夏も終わりか・・・」
 この夏は色々なことがあった。
 一大出来事だった藤田東戦勝利から始まって、練習や夏合宿。久保には彼女が出来たし、おかげでグループ交際まで経験してしまった。―まあ後者の方は実を結ばなかったけど。
 久保と出会ってから約1年。
 以前だったら想像も付かなかったほど、毎日が楽しい。
「そういやあいつら、うまくやってるかな?」
 久保と美奈子は、今頃何をしているのだろう。
 羨ましくって、ちょっぴり寂しい。
 以前の久保だったら、率先して一緒に居残っただろう。
「しようがないけどさ、付き合い悪ぃぞ」
 独り言は、もうすぐ夜だというのに鳴き続けているセミの声に打ち消される。
 孤独感に、一つ溜息を吐く。
「そろそろ帰るか・・・」
 ボールを取り上げて部屋に戻ろうとした時―

 カサリ

 背後に乾いた音がした。
 驚いて振り向くと、地面にセミが落ちていた。
 腹を上に向け、透明な羽を小刻みに震わせて、地面の上を不規則な背泳ぎのように蠢いている。
 近付いて、軽い体を捕まえる。
 挟んだ指を、セミは羽でブブブと打ち据えた。
 グラウンドの隅、フェンス傍に置いてやる。
 石一つ無く整備されたグラウンドよりも、ここの方が木も草もあって、セミの最期にはふさわしいだろう。

 季節の移り変わりの実感を新たにして、神谷はその場を後にした。







 結局デートをいつもの喫茶店で話し込んで終わらせてしまい、久保と美奈子は駅へ向かうべく学校に面した道を並んで歩いていた。

 サッカーグラウンドのフェンスに差し掛かる。
 居残っていた神谷の姿を探すが、どうやらもう帰ったらしい。辺りにまったく人影にはない。
 ちょっとガッカリしたその時、
「キャッ!」
 美奈子が急に悲鳴を上げた。
「どうした?」
「ダメ、あれって苦手なの」
 指が示す先、木の根本に黒いざわめきが起きている。
 その正体を見極めて、久保の瞳が陰った・
「ああ・・・」
 目に入ったのは残酷な光景。
 そこでは銀の粉を吹いたような節だらけの腹を上にくけたセミに、無数のアリが群がっていた。
 片方の羽は、すでに千切れて無い。
 それでもまだ何とか生きていたセミは、時折六本の脚を弱々しげに動かしていた。
―だけどそんな抵抗はアリには通じず、ずるずると巣穴に牽かれていく。

 夏の終わりの光景。
 そういえばここ数日、やけにセミの死骸を見たっけ・・・。

 一つの生が終わり、別の命を紡いでいく。セミはアリたちの餌となり、彼らはそれをエネルギーとして地下の帝国を繁栄させていく。
 地下から来たものが、地下に還る。
 理性では納得しているのだけど・・・

 そんな思いを感じ取ったのだろうか、
 ジジジジ・・・
 切れてしまったゼンマイを無理に捲いているような、セミの断末魔の鳴き声が上がった。
「怖い」
 怯えた美奈子が身体を久保に擦り寄せる。
「大丈夫。別に襲ってきやしないさ」
「でも・・・嫌だわ」
 宥める為に肩に手を回してやる。
 美奈子は久保の顔を見上げて、安心したように微笑んだ。
 笑顔に誘われるように、そっとキスをする。







 誰も見ていないと思ってキスをする二人を、部室から出ようとした神谷が偶然見てしまった。
 慌ててドアを閉め、その影に身を隠す。
 見てはいけないものを見てしまったような気がして、息を噛み殺した。






一度だけの逢瀬。
二度と結ばれることのない睦み合い。
だからこそ深く、
一生忘れることが出来ないように、相手の全てを知りたい。

出会えた喜び。

離れたく無い。
離したく無い。

だけど願いは、無機質な音に打ち消される。

まるで運命に逆らうことを、嘲(あざけ)るように。






 夜になると、外から微かな秋の虫の鳴き声が聞こえてくる。
 窓を開けると、気持ちの良い風が吹いていた。
 風呂上がりの火照った身体を、窓枠に腰掛けて涼ませる。
 ラジカセから小さく流れるお気に入りの歌に合わせて指先でリズムを取る。合わせて口ずさむと、ようやく気分が落ち着いた。

―先ほど見てしまった光景が、頭から離れない。
 テレビや映画で見るよりも、ずっと自然な姿。

 交際期間からいって、キス位は当然だろう。それ以上だっておかしくない。世間が思っているほど、自分たちは子供じゃ無いのだから。
 それでもショックだったのは、知らない奴みたいだったからだ。
 見たことのない、大人の男の表情。
 あんな久保は知らなかった。
 この一年間、一番近くに居たというのに・・・。

「まぁ仕方ないか」
 友情と愛情は別物。寂しく思うのはただの錯覚。
 出会ってからずっとサッカー以外でも連(つる)んで来たから、離れることに慣れていないだけだ。
 いつかは自分にも恋人が出来るだろう。そうしたらこんな思いは笑い話になる。

 オレに恋人?

 自分で考えておきながら、ちょっと苦笑する。何だかあまりイメージできない。
 そう言えば最後に恋を下のはいつだったろう?
 毎日が楽しくて、恋をする暇がなかった。
 周りにいる好みのタイプの女の子達を思い浮かべてみてもピンと来ない。
 昼間の美奈子の笑顔を思い浮かべても、可愛いと思ってもトキメキがしない。
 サッカーしているときの方がドキドキする。
 所詮は恋人がサッカーと言うことか。

 サッカーと考えて、イコールでプレイ中の久保を思い浮かべる。
 途端にドキッとした。
 同時に理解する。
 あいつがあまりにも鮮やか過ぎて―サッカーをしていなくても一緒にいるのが楽しすぎて、他のことにはあまり興味を持てなくなっているのだ・・・!
「おい〜、マジかぁ!?」
 初めて得た親友に、夢中になっている。
 恋をするのを忘れるぐらいに・・・。






身体の中から直接伝わる、愛しい人の鼓動。
奥から突き上げてくる熱さが、全身を駆け抜けて炎を上げる。
それは、初めてで最期の夏を送る篝火。
夢の後、微かな音を立てて消えるのだろう。

再び廻っては来ない季節。
後悔は決して無い。

こんな熱さを初めて知った。
気持ちよさに、気が狂いそうだ。






―神谷に見られた。

 キスの後で再び歩き出し、数歩いったところでセミが気になって振り向いた時―フェンスの向こう、部室の曇りガラス越しに人影が動くのが見えた。
 それだけで解ってしまった。

 その後ずっと、気分が塞いでいる。
 美奈子を送ってから家に戻ると、ご飯は食べてきたと嘘を言って、自室に閉じこもってしまった。
 誰とも顔を合わせたくない。
 きっと今の自分は変な顔をしている。

 たかがキス。好きな相手にするのは当たり前。
 誰に見られたって恥ずかしくなんか無いはずなのに・・・ドイツにいた頃には、恋人達のキスシーンなんて見慣れたものだった。
 なのに、神谷にだけは見られたくなかった。

 なぜ?
 なんでこんなに苦しい?

 電気を消して、毛布を頭から被ってベッドに横になる。
 眠って忘れてしまおうという試みに反して、瞼の裏の闇に浮かぶのは神谷との思い出ばかりだった。
 ヤマハの練習場で出会ったときの不機嫌そうな表情が、付き合いを深める毎に柔らかく親しげに変っていったっけ。
 笑顔を初めて向けられた時、嬉しくて叫び出したくなったものだ。

 神谷のサッカーが好きだ。
 束縛されるのを良しとしない自由で独創的な展開に、いつもワクワクしてしまう。
 そして神谷自身が好きだ。
 視線を交わすだけで、彼の内面の強さと優しさと純真を感じ取れる。
 きっと世界中の誰よりも、神谷のことを理解できるのは自分だ。
 自惚れじゃない。だって―

「オレは神谷が好きなんだ」
 言葉に出して、表現に不足があることに気が付いた。
 改めて言い直す。
「一番、好きだ」
 今度は心にしっくり来る。
 なんて事だろう!そう、好きなのだ。
 親友や同志とかでは言い表せない。
 恋人(美奈子)よりも愛おしくて・・・。

 思い至ったら、会いたくてたまらなくなった。
 いや、今すぐ会わなくては!

 布団から飛び起き電気を点ける。
 暗闇に慣れてしまった目が痛んだ。
 きっと羽化のために地上に出たセミの幼虫が生まれて初めて陽の光を見たときの気分って、こんな感じなんだろう。
 大急ぎで身支度を整えると、久保は神谷に会うべく駆け出した。






欲望を堪えて歪む表情が、解放を求めている。
重なった身体の間、
昂まった互いのモノが、早く一つになることを望んで涙を流している。
欲しい。ただ一人、この相手だけが欲しい。
サッカー以外で唯一心の全てで欲する存在。

我儘だって解っている。
でも求める思いは止められない。

浅ましく乱れた呼吸の合間に押し殺した嬌声を零しながら、欲望をミめ合う。
もっと欲しくて・・・たまらない。






 神谷の家まで来たけれど、流石に夜遅い時間を考えて、玄関から訪問するのは躊躇われた。
 少しの間考えて、裏から回り、神谷の部屋の窓を叩いて呼出そうと思いつく。
 裏に回ると、眠っているのだろうか、神谷の家のどこからも灯りは洩れていなかった。
 周りの家も同様で、一帯が静まりかえっている。
 聞こえるのは足元の虫たちの声だけ。
 それも久保が街灯と月の薄明るい光を頼りに歩くと、一瞬で黙り込んだ。

 神谷の部屋の前あたりで立ち止まる。
 あとはこの生け垣を越えるだけ。
 足場を探して立木に手を掛けると、枝にとまって夜を明かしていたのだろう、振動に驚いたセミがジジジと小さく叫んで闇の中に飛んで行った。
 驚いて、久保の身体が固まった。

 その音に驚いたのは久保だけでは無かった。
「誰か居るのか?」
 訝しげな小さな問いかけ。その声は間違えようもない神谷のものだ。
「オレだ」
「久保!?」
 大きな音を立てないように気を付けて、生け垣を越える。
 月明かりに照らされた小さな庭の先。
 開け放した窓枠に腰掛けた神谷が、久保の姿を認めて目を丸くしていた。
「どうしたんだよ、こんな時間に」
「うん。伝えたいことがあったんだ」
「電話じゃダメなのか?」
「会って話したかったんだ」
「そんなに重要なことなのかよ」
「ああ」
 植えられた花を踏まないように気を付けて、窓辺に近付く。
 窓枠に腰掛けたままの神谷を見上げて、久保が微笑む。
 その表情は月の光を受けて、息を飲むぐらい神秘的な輝きを放っている。
 初めて見る久保の表情に、神谷が言葉を失う。
 久保はその機会を見逃さずに、神谷の頭を引き寄せて唇を近付ける。
 掠めるように奪ったキスは、最期の確認。

「神谷が一番・・・好きだ」

 告白は全然気負ったものでは無く、その事が却って真剣さを伝えている。
 だけど言葉なんてもうJ必要なかったのだ。

 先ほどの表情の中、瞳に宿る光だけで、神谷は久保の想いに気が付いた。
 送られたキスは、神谷に取っては最後の一押しとなった。
 気付かされてしまったのだ。
 久保と居る事が恋を忘れるほどに楽しかったのは・・・それが恋だったからだと。






最初は慎重に、
やがて求めるまま性急に一つになっていく。
痛みも甘さも溶け合って、どこまでが自分の身体なのか解らない。
心臓の鼓動が苦しいほどに跳ね上がる。
夥しい汗を流し、乱れた呼吸の合間にキスを交わす。

深奥で結ばれて一際強う衝撃に大きく跳ね上がった身体が弛緩していく様は、
命を終え地に落ちていくセミと何処か似ていた。













終わり  1998年10月10日脱稿                



サークル・azure blue 発行 コピー本「White song」(絶版)








秋に聖地参りをしたときに、秋だというのにセミが耳を聾するばかりに鳴いていたので
思いついた話です。
セミにびびる美奈子は、自分がモデルです(爆)
セミ…大嫌い。
あの死ぬ間際に突然落ちてきて、粉を吹いたような節くれ立った腹を見せながら
もがく様を見るに付け…恐怖心でいっぱいになります。
一番最初に「生物の死」を意識したのは、セミの死に様を見てからだからかも…。
私にとってのセミは「死」の象徴です。




                                                 




white song