夢の中で、久保に会った。
相変わらずボールを夢中で蹴っていて、なのに声を掛ける前にオレに気付いた。
『神谷』
笑顔付きの、優しい声。 誘われるように近付くと、あの日のまま変らない姿が、幼く見えることに気が付いた。
あの夏。
誕生日を迎える前に死んだ.
久保はまだ16才だった。
『お前、変らないな……』 『変らないよ』
久保は苦笑いをして、足元に泊めていたボールを足の甲で掬い上げ蹴り上げた。
ボールは綺麗な曲線を描いて、オレの足元に落とされる。 反射的に久保へと蹴り返す。 返ってきたボールを、再び久保は蹴り返してきた。 自然と、リフティングが始まる。
懐かしいリズム 正確なコントロール
見合わせた先の表情は楽しげで、時々わざとボールを難しい位置に落とすときだけ悪戯っぽい笑みが浮かんだ。
『神谷も、変らないな』 『オレは、変ったよ』 『老けた?』
『……殴るぞ』 『ははは』 『殴る!』 ボールを返すと同時にダッシュして、体当たりを喰らわせる。 だけど寸前でかわされて、勢い余って転びそうになってしまった。 何とか踏みとどまって振り向くと、すぐ目の前に久保の笑顔があった。 『ほら、変ってないじゃないか』
『……』
何も言い返せない。
『大好きだよ。昔も、今も、ずっと』
笑いを含んだ声が空気に溶けるように、久保の姿も透けて行く。 『!』 慌てて手を伸しても、手は久保の身体を擦り抜けてしまう。 それに気付いた久保は、寂しげに笑うと、感触のないキスをオレにして、完全に消えた。
『久保!』
慌てて呼びかけると、遠くでボールを蹴る音が聞こえた。 音を探して見回すと、いつの間にかオレは応援スタンドに立っていた。 見下ろすピッチに、赤と白の懐かしいユニフォームが見える。
試合のようだ。
10番の背番号を付けた久保が、7番を付けた高校生のオレとパスを繋げながら相手陣内に切り込んでいく。
久保から送られる、ドンピシャのラストパス。
思い切り振り抜いて、高校生のオレがシュートする。
鳴り響くホイッスルの音が、なぜか遠い。
ゴールを決めた過去のオレを抱き締めながら、久保は一瞬スタンドのオレを見て、とても優しく微笑んだ。
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2002/01/28(Mon) 05:15:12 |
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