通いなれた道から外れて、不意に久保が横道に入った。
「おい、どこ行くんだよ?」
呼びかけると、振り向きざまに悪戯めいた笑顔が戻ってきた。
「ん、たまには違う道にしようかな〜って。ダメ?」
思わず溜息が出た。駄目と言っても絶対にやめないに決まっている。
「……別に良いけどな」
諦めて、俺を待つ久保へと歩み寄る。
肩を並べて、通いなれない道を歩く。
静かな住宅街は、いつも音で溢れている商店街とは違って穏やかな静けさが流れている。
なぜかオレ達は、言葉少なかった。
陽光の下、こそばゆいくらいに気分が落ち着いている。
通りがかった家の庭先に繋がれている茶色い犬が、一言だけワンと吠えた後、思いっきり尻尾を振りながら見送ってくれた。
やがて、いつもの通学路に合流する地点が見えてきた。
「なんか、面白かったな」
久保が笑う。
「たまには、違う道も良いな」
同意したオレに、久保はさらに付け足した。
「神谷と一緒だったしね」
……
次の瞬間、なぜか身体が熱くなるのを感じた。
反射的にパンチを繰り出してしまう。
だけどそのパンチは、満面の笑顔を浮かべた久保に両手でキャッチされてしまう。
包み込まれた手の中は、とても温かかった。
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2003/02/06(Thu) 08:26:00 |
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