手 紙



アイコンタクトで伝わる気持ちもあるけど、それだけですまない時も確かにある。
もどかしいけどしようがない。
皆が神谷のように、黙っていても察してくれるわけではないんだから。



そんな時は、紙に書いてみる。
誰に出す出もない、自分への手紙のつもりで書いておく。

時間を置いて読み返すと恥ずかしくなってしまうばかりだけど、思いのままにつづった紙の上には、確かに書いたときの自分がいる。



だけれど自分に残された時間が少ないと解ってしまった時、初めて個人宛に出す手紙を書こうと決心した。



残しておきたい気持ちがたくさんある。

昨日、たくさんの便箋と封筒を買って来た。シンプルな無地で、淡い水色のものだ。
色の付いたものを選んだのは、白だとなんだか恥ずかしい気がしたからだ。
オレはちっとも白くないから。
心の内に良いものも悪いものもいっぱい抱えているからだ。
色が付いていれば、それも少しごまかせるかな?なんて考えてしまうあたり、やっぱりオレはズルイんだろう。



夜中に自分の部屋で、息を潜めながら手紙を書いている。
アイコンタクトだけでは伝わらないだろう思いを残すために、なるべく簡素な言葉を探しながら書いていく。



この手紙が開かれるとき、たぶんオレは死んでしまってるだろう。


遺書という言葉は使いたくない。
この手紙はただ、オレの生きている気持ちのカケラなんだ。
消えてしまわないように残しておく言葉のカケラだ。





2002/10/17(Thu) 00:07:52 
原作の「久保の手紙」事件の後に、凹みながら書いたものです。