今年から、選手権の決勝は成人の日に開催されることになった。
来年も、再来年も、ず〜っと成人の日に決勝戦がある。
よって……
「お〜い、こっちだ、こっち!」
ケンジの良く通る声が、決勝戦を見ようと入場口に向かう人波を超えて届いてくる。
「相変わらずだな」
「うん」
馬堀とトシは顔を合わせると、思わず小さく吹き出した。
懐かしい声。
いつも自分達の一番後ろで、ゴールを守ってくれた守護神。
「ケンジの声聞くと、帰ってきたな〜って実感するんだ」
しみじみと言うトシに、馬堀はちょっとだけ片眉を上げた。
「オレじゃ、不足?」
「馬鹿。お前はそんなんじゃないだろ」
小声で『しょっちゅう電話してくるくせに』と続ける。
毎週末の馬堀からの国際電話が習慣になって久しい。メールにいたっては毎日だ。
めったに会えないのは寂しいけど、何時も側に存在を感じている。
少し頬に紅を掃いたトシに気付き、馬堀はさりげなく手をつないだ。
手のひらから暖かさが伝わって、胸の中までほんのり熱くなる。
直の触れ合いが嬉しいのに、なんだか恥ずかしい。
泳ぐように人垣を掻き分けると、羽織袴で決めたお祭り男が、左腕を大きく振り回していた。
右腕は去年生まれた愛娘を抱いている。
トシにとっては姪になる。
「ほら、手ふってやれよ、『おじちゃん』」
馬堀の突っ込みに一瞬だけ睨んで、繋いでいた手を離して手を振り返す。
「あ、ひどい」
離されてしまった手をトシの肩に置くと、トシは瞳に悪戯っぽい光を浮かべて笑った。
近づくと待ち合わせた入場口脇の側に、懐かしい顔が集まっている。
ケンジの隣に、カズヒロと一美が居る。
少し離れた場所では新田と佐々木が立ち話をしている。
羽織袴のケンジと振袖を着ている一美を除くと、全員がスーツ姿だ。
4年前には同じ場所にとジャージ姿で集まっていた事を思い出して、何だか可笑しくなった。
もっとも、自分達もスーツ姿なんだけど。
「オレ達、ここで浮いてない?」
回りを見回しても、盛装の一団なんて他に居ない。
トシの呟きに、馬堀は笑いながら首を横に振る。
「良いんだよ。ここ以上に俺達にふさわしい場所なんか無いだろう?」
「ははは、そりゃそうか」
トシは一瞬考えた後に、愉快そうな笑い声を上げる。
――成人式を、国立でやろう
誰が言い出したのかもう定かじゃない。
だけどお仕着せの出身地での会よりも、成人の自覚を誓う場として、ここほどふさわしい所は無いだろう。
ここは青春時代の、大切な夢の場所。
皆が、二人の到着に気付いて集まってくる。
再会の言葉と笑顔が飛び交う輪の中で、遠から自分たちのために吹かれたホイッスルを聞いたような気がした。
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2003/01/12(Sun) 00:44:17 |
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