おめでとう ありがとう



 今日は祝日・みどりの日。
 だけどオレ達サッカー部は、目前になったインハイ予選に向けて練習となった。

 部室で一人で着替えていると、後からトシが来た。
「おはよう、和広」
「おはよう」
 挨拶を交わした後、何気なくトシの動きをぼうっと見てしまった。
 トシとオレのロッカーは少しだけ離れている。
 入部した時間差を、この時だけ思い出す。
 なんでオレは、サッカーを諦めようとしていたんだろう。
 もしあのままだったら、どうなっていた?
 トシの横顔を見ながら、不思議な感慨に襲われる。

 大切な友、大切な夢、得難い仲間と共にサッカーが出来る幸せ。
 その一つ一つが、今のオレを創り上げている。
 空気を呼吸するよりも、当たり前の日常。

 思えば、オレが幸せを感じることのすぐ側には、いつもトシの姿があった。
 そしてもう一人の友の姿も。

 そんなことを考えていると、ちょうどタイミングを計ったように、ドアを開ける音と同時にケンジが飛び込んできた。
「よーっす!」
「おはよ、ケンジ」
「おはよう」
 これで部室にいるのは、ちょうどオレ達『掛西中トリオ』だけになった。

 三人で、いろんな経験をしてきた。
 嬉しかったこと楽しかったこと、苦しみも怒りも哀しみも、全て支え合って乗り越えてきた。
 出会えたことの喜びを、どう言い表したらいいのだろう。

 じんわりと感情を噛み締めていると……!
 不意にケンジの腕がオレの首に回った。
「! な、なんだよ」
 慌てて振り解こうとしたけど、ケンジは更にオレの身体を引き寄せてきた。
 耳元に、笑いを含んだ声が降りてくる。
「よ、おめっとさん、和広」
「!?」
「今日、誕生日だよな」
「あ……」
 覚えててくれた?
 自分の目が驚きと喜びで見開かれていくのが解る。
 それと同時に登志の声が響いた。
「あ〜っ! ケンジずるい! オレが先に言おうと思ってたのに」
 ケンジをオレから引き剥がしてくれる。
「ケンジ、トシ」
 交互に顔を見ると、二人共がにこにこと笑っていた。
「和広、誕生日おめでとう」
「一人で先に年取りやがって」
 一瞬、出会ったばかりの頃の、幼い表情が重なる。

 幸せだな、と思う。
 二人に出会えて良かった。

「ありがとう」

 オレの返事を聞くと、二人の笑顔が更に深くなる。
「はい、これプレゼント」
 トシから差し出されたのは、青い包装紙に包まれた小さな縦長の箱。形から言ったら、筆記具か時計といった感じ。
「プレゼントがわりに、帰りにケンタおごったるぜ。バイト賃出た後だしな」
 ケンジが二ヒヒと笑う。

 どんなプレゼントより、二人が居てくれることが一番嬉しいって言ったら、どんな顔をするんだろうな。

 そしてオレは心を込めてもう一度
「ありがとう」
 二人に向けて言葉と笑顔を返した。





2002/04/29(Mon) 21:25:15