今日は秋分の日。暦の上では秋になった。
そのせいなのか、ついこの前までの暑さが嘘のように涼しい。
夜になって、寒いぐらいだ。
「日本って、寒かったんだな」
一緒に歩いていた久保が、少し震えてのんきに笑う。
こいつがヤマハに来たのは、今月の始めの事だ。
ドイツ名門クラブに所属していたというだけあって、久保の実力が飛び抜けて上手いと(悔しいけど)認めている。
確かにこいつのサッカーは凄い。
それなのにぜんぜん偉ぶっていないし、見栄えも人当たりも良いときちゃあたまらない。はっきり言って、こいつとお近づきになりたいやつなんてそこら中にゴロゴロ転がってる。
なのになぜか、よりにもよってオレに懐いて来た。
今日もオレの自主居残り練習に混ざって来て、結果こうして一緒に帰っている。
「なあ」
歩きながら呼びかける。
「なに?」
「なんで、オレと一緒にいるんだ?」
この半月の間に何度も聞きたかった謎。
なぜオレといる?
協調性は無い、言葉は足り無い、おまけに愛想も無い、無い無い尽くしのオレといたって何のメリットもないだろうに。
本心から不思議だった。だから答えが欲しかった。
足を止めて答えを待つと、やはり足を止めた久保はポカンと間抜け面をしてオレを見つめ返してくる。
「なんで……って、サッカーがしたいから」
「オレは、仲良しこよしのサッカーなんかできねぇぞ」
「?……神谷」
本当に解らないという風に、久保は首を小さく横に振ると、やがてにっこりと微笑んだ。
「オレは神谷のサッカーが好きだよ」
その言葉に嘘がないのが、なぜだかすんなり信じられた。
言葉と笑顔が、オレの中に沁みて行く。
オレは呆然とし―――
やがて身体から力が抜けた。情けないことにその場にしゃがみこみたくなった。……なんとか根性でこらえたけど。
「神谷?」
固まってしまったオレに近づいて、心配そうに覗き込んでくる。
「お前、変わってるな」
思わずこぼれてしまった言葉に、久保の表情は心配そうなものから膨れっ面に変わる。
「……なんだよ、神谷が変なこと聞いてくるからだろ」
さらに顔をオレに近づけてきて、すぐ鼻先でニパッと笑った。
その笑顔に、胸が苦しくなる。
ああ本当に、もうオレは一人でサッカーをしなくていいんだ。
嬉しくて泣きたくなった。
だけど涙なんて見せられない。男なんだ、そんなもん見せられるか!
「お互い変わり者同士じゃ仕様がねえな」
精一杯に強がって、何とか不適に見えるだろう笑顔を返してやる。
再び並んで夜道を歩く。
そんなに遅い時間じゃないのに、殆んど人と行き会わない。
ふと見上げた南の空に、楕円形の月が煌々と輝いていた。
月の光には熱がない。
それでもそれは、冷たい空気をほのかに暖めてくれているような気がした。
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2002/09/24(Tue) 00:06:56 |
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