こどもの日




あいつの一周忌に、アルバムを見せてもらった。


全部で20冊ほど。
そこに記録されていたのは、産まれたばかりの素っ裸から、
オレも良く知っている去年の試合中までの姿だ。
そのほとんどがサッカーにまつわるものばかりなのがあいつらしくて笑えるし、
サッカーをしている姿だととても写りが良いのも流石だ。


頁をめくるたびに、笑顔が続く。


一枚毎に、生きている輝きが見える。


写真を解説してくれるあいつのご両親と一緒に、
微笑み、笑い、そして泣いた。
泣いちゃいけないと思っていたのに泣いた。
あまりに眩しすぎて、涙が止らなかった。

そして思い知ってしまった。
あいつの想い出は過去のものになってしまったことを。




あいつの姿、表情、声、体温まで
全てが容易に思い出せるのに
それはもう過去のこと
もう現実には存在しない。




帰り道、ぼんやりと歩いていた所に、不意にボールが飛んできた。
反射的にトラップして、蹴り上げて手でキャッチする。
すると横の公園から少年の感嘆の声が響いてきた。
「すごい、うまい!」
目を大きく見開いて、キラキラと輝かせた様は、
どことなく先ほど見せてもらった久保の少年時代と似ている。
「気を付けろよ」とボールを蹴り返してやると、
「ありがとう、お兄ちゃん」
しっかりと両手で受け取り、ペコリと頭を下げた。
素直な態度に、笑顔が浮かんでしまう。
「おまえ、サッカー好きか?」
思わず掛けてしまった質問に、
「うん、大好き!」
少年は迷いもなく答えを返してきた。




仲間の元に駆け戻る後ろ姿を目で追う。
現実に生きている少年の姿に、アルバムで見たばかりの久保が重なって見える。

きっと、あいつもこんな感じだったんだろう。

天才だ、伝説だと語り継がれる事になるなんて考えたこともなく、
ただサッカーが好きで、ひたすらボールを追っていた。




お前の本当の姿は、たぶんあの少年に近い。
サッカーを愛し、楽しみたい『純真な子供』




今はもういない、永遠の子供。




オレの中に一生共に生き続けるだろう、大切な子供。








★作ってしまった背景に合わせて、何となく書き下ろしてみました。
久保の命日って、たぶん5月下旬〜6月始めですよね……。