要望書

平成15年4月21日

厚生労働省疾病対策課長

 藤井  充 殿

日本強直性脊椎炎研究会
理事長  七川歓次  
日本整形外科学会   
理事長  山本博司  
日本リウマチ学会   
理事長  越智隆弘  
日本強直性脊椎炎友の会
会 長  田中健治  



 拝啓 時下ますますご清祥の段慶賀至極に存じます。
 私どもは強直性脊椎炎患者の診療、生活指導、広報活動などに長年携わって まいりましたが、本疾患は国の難病指定に相応しい疾患であると考え、 以下のように要望書を提出致しますので、何卒ご勘案の上ご配慮を煩わしたく、 宜しくお願い申し上げます。

敬具


要望書

 強直性脊椎炎は慢性、炎症性骨・関節疾患であり、四肢関節の破壊、強直 のみならず脊椎の破壊、強直をおこし、重症化する可能性が高く、身体障害者 を作るという点で、古くから、関節リウマチとともに、リウマチ性疾患の中の 2大慢性炎症性疾患とされてきました。すなわち、発症原因不明で、適確な 治療法もなく、常に痛みを伴ない、炎症症状が生涯にわたって消長するという 点で、関節リウマチと並び称されているものです。難病としては他のものと くらべ、勝るとも劣らないものであるにもかかわらず、不当に社会的関心が うすく、不遇の難病といわざるを得ません。この病気は専ら男性に見られる ものとされていましたが、女性の罹患者も多く認められるようになり(女:男 =1:3)、また10代〜20代の若年者に発症し、慢性進行性に経過して、脊椎 および四肢関節の破壊、変形をきたして、重大な機能障害者になり、著しく 労働力が損われ、家族の心理的、経済的負担を重くします。この病気は遺伝的 傾向が強いこと(HLA−B27 陽性者が60−90%)も特徴で、脊椎の症状 が進行すると頸椎から仙腸関節に至るまで強直し、一本の棒のようになります (竹様脊椎 bamboospine)。次第に日常動作が困難になるばかりでなく、 変形が強いと前を向いて歩行できなくなり、外出が危険になります。約60%の 患者は、脊椎罹患の上に四肢関節が障害され、殊に股関節の破壊、強直が併発 すると高度の機能制限が発生し、寝たきり、あるいはそれに近い状態になる 患者が少なくありません。

 幸いにもわが国ではHLA−B27陽性患者が一般人口で低率で、欧米の 10−15%、中国、韓国の6−10%に対して、約1%であり、そのため、日本 AS(強直性脊椎炎)研究会(福田眞輔ら)が行った全国調査でも、推定有病 率は3.8/100,000となっています。しかしながら、他方では強直性脊椎炎類似 疾患も多く、現在ではこれらを総称して脊椎・関節症(spondyloarthropathy) と診断され、その診断には、Amorの診断基準とヨーロッパの診断基準が よく使用されます。つまり、脊椎と関節の両方の慢性炎症性症状を示す疾患 としてとらえられていて、脊椎・関節症としてはその有用率は関節リウマチ に匹敵するという最近のヨーロッパの住民調査成績もあります。わが国の 強直性脊椎炎の患者の約30%は自立生活不可能であり、約2%は歩行不能 となります。脊椎の手術を余儀なくされるものは約7%、人工関節手術は 約12%の患者が受けていて、このうち90%は股関節の全置換術です。

 合併症として虹彩炎が25%に見られ、早期に正しく治療しないと癒着が 起こります。心罹患の合併があり、大動脈罹患が約10−20%、伝導障害は 約45%に見られます。肺腺維症が1−15%にあり、脊髄症や馬尾神経症候群 のような神経罹患もあり、その他Buerger病の併発、アミロイド症などがあって、 合併症は多彩です。

 強直性脊椎炎患者の寿命は一般人口よりも短かく、死亡率については一般 人口の1.5倍との報告があります。生存率は診断後10年で一般人口とかわらない が、20年でP<0.001、40年でP<0.0063という報告もあります。死亡率上昇 の原因は約半数が直接強直性脊椎炎にかかわるもので、二次性アミロイド症、 心血管合併症が早期の死亡原因になっています。

 現在、強直性脊椎炎患者の会が世界25ヶ国に存在し、その国際連合 (Ankylosing Spondylitis International Federation)がダブリンにあります。 わが国にも平成3年に設立され、現在約300人の会員を擁しています。また平成 元年には日本強直性脊椎炎研究会が発足し、強直性脊椎炎ならびに類縁疾患を 含めて、基礎的、臨床的、疫学的研究発表の場として、本疾患の原因の追求、 予防、治療の改善に努めてきました。また広報活動として平成6年には、米国 脊椎炎協会(旧称 強直性脊椎炎協会)編のStraight Talk on Spondylitis (率直な脊椎炎の話)第2版を翻訳し、一万部を全国に配布しています。 しかしながら、この疾患に対する社会的認識がわが国では極めて貧弱であり、 または欠如している感さえあり、したがって、この難病患者に対する社会的 支援が極めて不十分である現状に鑑み、この疾患に対する福祉活動をいっそう 推進するために、本疾患を国の指定難病疾患として認知して戴きたく、ここに 日本強直性脊椎炎研究会、強直性脊椎炎友の会並びに日本整形外科学会、 日本リウマチ学会から申請申し上げる次第です。



(編集部注:文中の我が国のAS患者の独立生活不可能者や歩行不能者、 さらには手術症例の割合は、日本AS友の会会員に対するアンケート調査を 基にしたもので、友の会には比較的重症患者が多く、まだ埋もれている多く の軽症のAS患者も入れれば、この割合はずっと低くなります)



戻る

トップページへ戻る