第2部 医療相談会



【M女性部長】
 それでは引き続いて第2部 医療相談会に移りたいと思います。 本日はこの相談会のために順天堂膠原病・リウマチ内科の 多田久里守先生にお越しいただきました。 多田先生どうも有り難うございます。(拍手)

【井上医療部長】
 それではまずこの会場でお受けした質問から お答えしていきたいと思います。

(質問)
 AS患者は日本に何名ぐらい居るのでしょうか?

【井上医療部長】
 さっきも話に出ましたが、 2年前に実施したアンケート調査、古い論文などから 大まかな数字は出ております。 まだ正確なASの診断基準もない頃で、 お医者さんもASに馴染みがない1980年代に、 日本AS研究会で調査した結果では0.0065%、 つまり日本には7、8千人ぐらいしか居ない のではと言われたものでした。

 しっかりした診断基準も知れ渡っていない頃のことですし、 その後においても全般的総合的な調査というのは 行われていません。和歌山県のある地域で2千ぐらいの人を 調査したことはありますが、 AS患者はゼロという結果でした。 脊椎関節炎の方は2名ぐらい居たようですが…。

 それで手に入る情報や論文を寄せ集めて統計的に考えた結果、 これは私個人の推測に過ぎませんが、大体0.02から0.03%、 日本の人口が1億3千万として3万人強ぐらい ではないかと思っています。
 症状については様々で、 私のように重症化してしまう人も居れば、 一生分からないままに推移していくような方も居ます。 本当に症状はいろいろなのですが、 おおよそ3万人ぐらいだろうと思っています。


(質問)
 会員の名簿の更新は難しいでしょうか?

【井上医療部長】
 これは、会員の名簿を全会員に配付できないか というご質問だと思いますが、 ご存じのように個人情報保護法の絡みもあり、 現時点では名簿の配付は考えておりません。 お住まいの近くに同じ病気の会員さんが居るか どうかというお問い合わせであれば、 該当する会員さんにまず事務局からお尋ねをして、 開示を了承されたときに個人的に お教えするということになるかと思います。


(質問)
 ASの痛みが丁度盆と正月の頃に 歯の痛みとしてやってきます。 歯医者さんがお休みの時期です。 痛みはロキソニン® などでなんとかなりますが、 歯の痛みだけはどうにもなりません。 皆さんは歯が痛んだりとかありませんか?

【井上医療部長】
 ASそのものと歯の痛みとの関連はわかりませんが、 身体の中で痛みが続くと「中枢感作」といって、 痛みの痛覚刺激に対する感受性が敏感になってしまって、 広い範囲により強い痛みが出る ということは言われております。 直接的に歯の痛みとASが関連している ということはないと思います。


(質問)
 ASは経年的に必ず進行していく病気なのでしょうか?

【井上医療部長】
 難しい質問ですね。ASは人それぞれ、 いろいろな症状があります。 ほとんど進行もせず症状も軽くて、 これって本当のASかなあと思ったりする若い方もいます。 でもそれは稀で、 ほとんどの方でそれなりに病状は進んでいきます。 ただその進行の形も様々ならば、到達点もいろいろ、 ゴールは大きく異なります。

 私のように重篤な病状を示す人もいれば 年齢を重ねてもあまり進行しない、 進行が遅いままの方もいます。 体型的にも後弯、っまり前屈がひどくなる方もいれば、 曲がらずにまっすぐのまま固まっていく方もいれば、 ほとんど強直しない方もいます。 あまりにも千差万別で、一概には言えません。

 ただ年齢的に高齢になっていくとASでない方でも、 ごく普通に脊椎や関節は動かなくなっていきます。 脊椎は、60歳になれば動きは若い時の3割ぐらいになります。

 ただ炎症反応に関しては、40、50代になると、 私の診ている患者さんでは、60、70%以上の方々が 沈静化していくようです。 私の場合は45歳で見事に沈静化して、 その後15年間以上薬の服用は一切不要になりました。 痛みはあるけれどあえて薬を使うほどではないということです。 勿論これも一般的な話で、50、60代になっても 病状が燃えている方もいます。 目に見えない位のスピードでわずかに 進行していってる場合もあります。 進行のスピードが人により大きく異なるし 到達点も違ってくるのが、ASに特徴的なことです。


(質問)
 リウマチでは新薬の効果がとても高いと聞いていますが、 ASでは如何でしょうか?

【井上医療部長】
 これは後でも触れますが、レミケード®、 ヒュミラ®がでてきて、 ASにも効果がとても高いというか、日本での調査では、 リウマチよりもASに効果が高いのではないか という印象さえあります。


(質問)
 B型肝炎キャリアーにとって、レミケード®、 ヒュミラ®等の新薬(を使った場合)のリスクは 高いものなのでしょうか?

【多田医師】
 B型肝炎の患者さんの場合、 新薬を使うことによって稀ではありますが、 ウイルスの「再活性化」という問題があります。 せっかく沈静化していたものが、新薬使用により、 またモヤモヤと動き出してしまうという危険性です。 稀ではあるのですが、万が一にも「再活性化」した場合、 重篤な症状、劇症肝炎とかを引き起こす事がありうる ので最近問題化しているというのが実状です。

 ウイルスの遺伝子などを定期的にチェックして いくことで問題なく薬の投与ができている方もいますし、 もし何か問題が生じるようであれば、 それらのウイルスに対する薬もありますので、 それらを併用することにより投与は可能だと思います。

【井上医療部長】
 この前も事例がありましたが、 B型肝炎の患者さんだったので新薬は使えない と言うことだったんですが、 抗体や抗原の検査をいろいろしたら、 投与可能という結論になったケースがありました。 昔B型肝炎をやったから、絶対ヒュミラ®、 レミケード®は 使えないということではないということです。


(質問)
 井上先生が今度出席される厚労省の集まりとは どういうものですか?

【井上医療部長】
 実は今回初めて参加するので、 私自身もよくは分かっておらず、 全く見当もつきません。参 加してみてまたご報告いたします。


(質問)
 レミケード®などの薬の投与 により症状が軽快した場合、 身体障害者手帳の等級変更、 もしくは認定の取り消しとかはあるのでしょうか?

【井上医療部長】
 これは建前としてはあり得ます。 身体障害者手帳等には何年か後に再審査という項目、 記入欄があります。 症状が良くなることは確かにあります。 本来は手帳というのは、 指を切断して無くなってしまったとか、 現状復帰が難しい事態を想定しているわけで、 良くなると言うことはあり得なかったのですか、 医学、薬の進歩等もあり、現在では、 等級の変更ということもあるようになりました。


(質問)
 AS患者の麻酔についての質問がメールで寄せられました。 緊急手術時の麻酔について、何を教えれば良いのか…。

【井上医療部長】
 私の所にも時折問い合わせがあることがあります。 痔の手術をするけど気をつけることは等々…。 その度に手術担当の先生に、 AS患者の首は固まっているのでとか、 手術時の留意点について直接電話で話すこともあります。

 それから「らくちん」の17号に、 「主治医、看護師、麻酔医に見せて下さい」 という文章を書いています。 それを提示するようにしてください。 それだけでも主治医、麻酔医の方々が かなり安心されると思います。

 ただ緊急時にはその時間もありませんから、 皆さん携帯しておられると思いますが、 「ASカード」をなるべく目立つところに 持っているように心がけておくのがいいと思います。

 昔は私のように首が曲がり固まっていると、 全身麻酔の気管内挿管はかなり難しく、 私も手術を受ける時に気管切開を覚悟 して下さいと言われてましたが、 何とか工夫して結局挿管できたという経験があります。 今はいろいろな方法や器具が開発されて、 特に喉頭鏡が進歩して、 テレビモニターを見なから挿管できる時代で、 ほとんどのケースで問題なくできるようになりました。

 ただ注意しなければならないのは腰椎麻酔です。 これは靭帯骨化のために刺さらない人が多いです。

 私はまったく刺さりませんでした。 完全に強直しているとまず刺さりません。 どうしても刺さらないので、 お医者さんが不思議がって26回も刺された という方も居られるぐらいです。

 この麻酔についても留意点を「らくちん」 17号に書いてありますので、 そこをコピーして提示するようにしてください。 無理はしないこと、 でも1度はチャレンジしてもらうように書いてあります。 強直している患者さんで2、3回で うまく刺さったという方もいます。

 首が完全に固まっている人を横向きにしたり、 うつぶせにするのは本当に危ないです。 首は折れやすいので…。昔の話ですが、 側臥位で行う腎臓結石の手術で首を横に曲げられ、 手足の不全麻痺が起こってしまった事例もありました。

 とにかく恐いことですから、 患者自身がこのような状況、 危険性を主治医に正確に伝えること、 もしくは「らくちん」17号を提示すること、 そして「ASカード」を常に分かりやすいところに 携帯しておくことを心がけて欲しいと思います。 救急車内から私に問い合わせがあったこともありました。 自分自身を守る、 自己防衛の大切さを再認識したいと思います。


(質問)
 喉から麻酔の管が入らない場合は どうしたら良いでしょうか?

【井上医療部長】
 先ほど話した喉頭鏡を使えばまず入ります。 ただやはり設備の整った大きな病院ですることが 大事です。強直したAS患者は、 手術・麻酔にあたってはリスクが高いので、 いろいろな事態に直ぐに対応できることが重要、 人も設備も完備したところで 手術されることをお勧めします。


(質問)
 関節リウマチになってから、 主治医からはASを引きずった 関節リウマチと言われています。 やっぱりどこかASっぽいです。 ASと関節リウマチとの中間のような 症例はありますか? 多いですか? エンブレル®も プログラフ®も シムジア®も 効かなくなってしまいました。 どうしたら良いでしょうか?

【井上医療部長】
 リウマチとASは合併するかということですが、 非常に稀なのですがこの前の学会で1例発表がありました。 たまたまなのか、 もともとが似ている病気だから合併したのか。 私も昔そのような人から電話を受けたことがあります。 1例だけですが…。

 最近は早期発見、早期診断ということで、 リウマチやASの診断基準に適合するもの を大雑把に早くに拾い上げる傾向があります。 厳密な診断と言うことからすると、 甘くなってしまっています。 それで、リウマチもASもそのどちらの診断基準も 満たしてしまう、そういう傾向は今後も多くなる のではないかと思ったりしているところです。 ただASに特殊で、特異的な兆候に着目して診断すれば、 拾い上げられる数は、 少なく低くなっていくと思ってはいます。

 でもあり得ないことでもないのです。 実は私も今までそんなことは一度もなかったのですが、 60歳を過ぎてから何となく指先が痛い、 モヤモヤするので検査したらリウマチ反応が陽性でした。 それもけっこう高めの数値にです。 それで何となく指先がおかしかったのが 分かったように思いました。

 60歳を超えた一般の男性の5、6%は リウマチ反応が出てくるみたいなのです。 そういう意味では、リウマチとASでは同じような 気配が出てくるところがあるのかも知れません。 この前の脊椎関節炎学会でも1例発表がありました。 ASとリウマチの合併あるいは相互関係、 多田先生、如何でしょうか?

【多田医師】
 稀ですね、稀ですがASとリウマチが合併した方 という話はところどころで聞いたりはします。 いずれにせよ治療、対処法としては、 痛み止めとか生物学的製剤を使用したりとかで、 余り変わらないといえば変わらないのですが…。 私はASだからとか、私はリウマチだからとか あまり拘ることもないような気がいたします。

【井上医療部長】
 治療は大きくは変わらないということですね。 ただ脊椎炎が主体の人には、 リウマチ治療でよく使われる リウマトレックス® は効かないというのは、 世界の常識になりつつあります。 それを知らないお医者さんによって、 ASなのに長年リウマトレックス® を使われている方がいたりして、 それはまずいなぁと思っています。 レミケード®に対する抗体産生(効果減弱) のために使うということもあって、 それはそれで意義があるかもしれません。


 今日総会には来れなかった方から 出ている質問にお答えします。


(質問)
 首の変形を治す方法はないでしょうか?

【井上医療部長】
 無いです。 一旦固まった変形は、薬や運動では治りません。 ただですね、前より伸びるようになった、 前より動くようになったという方が時折います。 私のように骨と骨とが完全にくっついちゃった という方は治りません。 もう骨になってしまっているわけですから…。

 この動くようになったというのは どういうことかと言うと、 首が動かないというのには、 靭帯が骨になって関節(脊椎も関節の集まり) がくっついた部分と、ASの痛みで筋肉が 突っ張って動かない部分と両方があるわけです。

 そうすると、マッサージ、針灸、運動、 薬その他何でもいいのですが、 筋の突っ張りや痛みが消えると、 それが原因となっている部分は動くようになります。 勘違いして、骨がくっついたけど グルコサミンを飲んだら動くようになった と言ったりする人がいますが、 痛みで動かなかった部分は、痛みや炎症をとって やれば動くようになるというだけのことです。 この違いだけは、よく理解しておく必要があります。

 私のように骨が曲がって固まってしまった のを治すとすれば、手術しかありません。 これはなかなか大変です。固まってくっついて しまっているのを真っ直ぐにしようとするわけですから…。

 ヨーロッパではひどく首が曲がった状態でも 手術したりしますが、長年曲がっていると 脊髄が曲がった状態に慣れてる訳ですから、 それを急激に真っ直ぐにしようとしたりすると 麻痺がおきてしまう。曲がっていることに 慣れてしまっている脊髄が急激な変化により 麻痺を起こしてしまうわけです。 ですから昔は手術しようとする時には局所麻酔をして、 お医者さんが「どうだい、しびれてこないかい?」 などと尋ねながら手術したりしていたようです。 首の手術、まぁ非常に危険で凄まじく残酷な 手術だったりしたわけです。

 今は脊髄に電極を通してその電位の変化の ブレをみながら手術しますので、 かなり安全にはなりましたが、 それでもこわい手術であることには変わりありません。 胸腰椎を伸ばす手術は順天堂でも年に2、3例はありますが、 首を伸ばす手術は日本ではほとんどありません。

 前が見えにくいというのは難儀なことではありますが、 ここまで首が曲がってしまう、 固まってしまうまでには時間も掛かり、 患者自身もかなり高齢化していると思われますので、 大きなリスクを冒してまで手術する意味があるか どうかという話になってくるわけです。 むしろ車椅子に乗った方が前もよく見えて 楽かも知れません。私は美術館に行ったときに、 車椅子を利用してとても楽でした。

 若い方、30代前後でこれからという方で 大きく曲がって固まってしまった場合には、 体力もあるので、リスクを冒してでもやる 意味があるかも知れません。


(質問)
 朝起きた時、 腰は直立ですが痛くてたまりません。 夕方には曲がっている感じですが、 良くなる方法はありませんか?

【井上医療部長】
 難しいご質問ですね。 朝起きたときには真っ直ぐだけど 夕方になると曲がってしまうということは、 骨がまだくっついてはいないということです。 ですからご自身の出来る範囲で、 運動療法とか温熱療法、マッサージとか 痛み止めの薬を飲むとか、 場合により生物学的製剤の力を借りてでも、 痛みを和らげて、背骨が曲がらないよう 一生懸命動かす伸ばすということです。 痛みが和らいで楽になったから寝ているのでは 意味がない、薬を初めいろいろな治療は、 ASを治す、固まった骨を溶かすのではなく、 あくまでも体を動かすための対症療法と 割り切った方が良いかもしれません。

 ただ、レントゲンを撮ってもらって、 骨と骨とがくっついてしまったら もう無理しては駄目です。 その時はもう伸ばそうとはせず、 それはそれなりに生活していきましょう ということになります。

 ただ前屈がひどかったりして前が見えず 手術をしたいということになりますと、 腰椎、胸椎の手術だと首と違ってより安全ですので、 順天堂でも手術してとても良くなった、 楽になったというケースがあります。 とても喜ばれて、仕事の方も再就職された方もいます。 ただなかなか難しい手術であることには変わりないので、 患者さんが思っていたほど上手くいかないこともあります。

 今まで何十年もお付き合いし慣れ親しみ 固まった弯曲を変えるわけですから、 そのことにより新たに脊髄の症状 (しびれや麻痺など)が出てくるかもしれないし、 背骨の弯曲が変わることにより体の重心の位置も 変わってくるため別の痛みが出てくる可能性もあるし、 金属で固定した範囲の上下の骨に今までより 大きなカが加わるようになることもあって、 そこが新たに骨折を起こしてしまうといった 危険も生まれます。

 ですからただやみくもに伸ばせばいいと いうことには勿論ならないわけで、 なかなか一筋縄ではいかない難しい手術になります。

 機械と違う人間の身体のできあがった 弯曲を治そうというわけですから、 相当先のことまで見据えて、将来像まで 描きながら手術計画を立てる必要がありますので、 執刀医には相応の熟練が必要とされます。 経験を積んだ脊椎外科医に手術をしてもらう ことが勧められます。

 筋肉の緊張からきているような痛みは、 薬によってとってあげる、 運動によって軽減してあげることが大事です。 これは個人差が大きいです。 万人にあてはまるような方法はありません。 それぞれが自分の症状、痛みを勘案しながら、 自分にあったやりかたで身体を動かす、 伸ばしてやることが大切です。 試行錯誤しながら自分にあった運動を していくということですね。

 どこまで、どの位やったらいいかとよく 聞かれることがありますが、単純な目安は、 やる時は痛いんだけど一生懸命やってみて、 やった後楽になる、ホッとする、 というところが一番いい訳です。

 痛くない範囲で運動しても何の意味もありません。 リハビリは痛いものなんです。 でもやった後痛くて疼いて眠れない、 次の日まで痛むということだったら、 それはやり過ぎです。 これは同じ人でもその時の体調によって違う、 時期によっても、部位によっても違いますから、 それぞれが自分の主治医になって 判断していくことが大切です。 お医者さんはもうこれ以上はやるな ぐらいのことしか言えませんから…。


(質問)
 ASではありませんが、 腰椎が一箇所つぶれて痛むので前屈できません。 周りの筋肉を鍛える運動をしたいと思いますが、 どんな運動がよいのでしょうか?

【井上医療部長】
 これは難しい。 腰椎が損傷した理由にもよります。 潰れ方や骨粗鬆症の程度にもよります。 一概には言えませんので、担当医、 理学療法士、専門のトレーナーの方々に よくご相談されてやられるようにとしか、 ここでは申せません。ひとりひとりそれぞれ、 ケースバイケースですから。

 脊椎のカーブは、人によりまったく変わります。 首が曲がっている人もいるし、胸椎の上のほうが 出っ張ってグッと曲がっている人もいます。 下のほうが曲がっている人、 腰が曲がってしまった人も居ます。 逆に腰がまっすぐに固まった人もいて、 とにかく人によってまったく異なっていますので、 運動もそれぞれに応じて、 その人に合った形でと言うしかありません。 これがASの現状です。


(質問)
 10歳の孫がたまに足がピリピリすると言います。 足が痛むようです。直ぐに治るようですが…。 自分(AS患者)の初期の症状と似ているようで、 一人で心配しております。 嫁に余計な心配を掛けたくないのですが、 どのように言ったらよいでしょうか?

【井上医療部長】
 これも難しいご質問ですね。 医者としてだけでなく、 個人的な人生観も含んでお答えするとすれば、 「経過を見ているだけで良いでしょう」 ということになります。

 心配だからということで、 お父さん(AS)が息子さんを連れて来られて 「HLA-B27の検査をして調べたい」と言われます。 意味がありません。 お父さんが陽性であれば50%は陽性です。 でも陽性の方で発症する人は10%以下です。 B27陽性でも発症しない人が圧倒的に多いわけです。 その中で万が一発症したしたとしても、 私のように重症化するのは5分の1ぐらいです。

 さらにはB27が陽性でなくとも発症する人も 10〜15%います。つまりはB27が陽性か陰性かで あたふたするのは意味がないということになります。 そういうわけで、私は検査したことがありません。 まぁ私のところに来られる前にあちこちの病院で 調べられてから来られるということもあるのでしょうが、 私自身が自発的に調べたということは、 ほとんどありません。

 一般的なお医者さんの場合、 この検査をすれば診断の助けにはなるのでしょうが、 絶対的・決定的な検査ではないということです。

 M女性部長、ご意見如何ですか? お嫁さんに余計な心配をかけたくないという ことでのご質問ですが…。

【M女性部長】
 あんまり痛みを訴えるようであれば、 ちょっと良いお医者さんがいるから行ってみようか…、 というようなことで動いたらどうでしょうか。 あんまり最初からいろいろ言いすぎると、 そうではないか、そうではないかと思い詰めてしまって、 あーでもない、こうでもないと詮索してしんどいことになり、 難儀なことになってしまうようにも思います。 西会長、如何でしょうか。

【西会長】
 私には子どもが二人、娘と息子がいますし孫もおりますが、 今のところ問題があるような兆候はみられません。 もし今後何か兆候がありましたら、 やはり検査してみようかということになるような 気はいたします。

【井上医療部長】
 まぁ親の人生観とかいろいろな要素が 絡んでくるとは思いますが、 遺伝について少し話しますと、 これは「療養の手引き」にも書いてありますが、 お父さんがASだと子どもさんにAS出現の 可能性は6分の1ぐらい、 つまり10数%になると言われています。 親子で発症しても、お父さんが重篤な症状でも、 子どもの方はケロッとして動き回ってるとか、 その反対もまたあるわけです。 これが本当に難しいですね、 どういう形で発症してくるかが まったく予測がつきません。

 それと、これはあくまで私個人の印象ですが、 AS患者をたくさん診てくると、 今まで言われていた(思われていた)以上に、 遺伝的浸透性が強いのかなという感じが してきております。お父さんの体が硬ければ、 何となく子どもも体が硬いとかの遺伝的要 素は否定し難いものがあります。 ASでなくてもですが、 お父さんが体のあちこちを痛がると、 何となく子どもさんもあちこち痛がったりするとか、 何となく似てくるなぁというのはあります。

 多田先生、子どもが心配だというような 相談を受けることはありますか?

【多田医師】
 あります。腰が痛いとか関節が痛むとかの 症状の訴えがあればレントゲンは撮りますが、 それ程頻度は高くありません。リウマチとかも 遺伝性がまったくないわけではありませんが、 すごく高いということもありませんし、 リウマチ因子などもリウマチ患者でない方々にも たくさん出たりしますので、 症状も出ないうちにあまり、 リウマチ因子に着目しても意味がありません。 何らかの症状が出たら来て下さいという話は しております。


(質問)
 トラムセット® (非麻薬性(類麻薬)鎮痛剤) で痛みをこらえてきたのですが、 2月よりヒュミラ®を 使うようになりました。 結核の後遺症で歩行時手の震えや 足のふらつきがありますが、 ビスコチンを服用しながら ヒュミラ®を使っております。 痛みはだいぶ良くなりました。 7月より再発性多発軟骨炎の疑いで夜間はCPAP (睡眠時無呼吸症候群の方の呼吸を補助するもの) を使用しております。 肺の機能が弱っているみたいです。 ASとは関係があるのでしょうか?

【井上医療部長】
 実は今順天堂大学に入っていただいた 70代のASの患者さんが居られますが、 肺疾患でかなり重症な状態になっておられます。 呼吸器内科のお医者さんとASとの関連に ついて精査しているところですが、 ひとつは重症のASで且つ高齢の方に2次的に起きる 「肺線維症」になると、呼吸困難になります。 もうひとつ考えられることとして、 直接的な因果関係ははっきりとはしませんが、 胸郭(肋骨と胸骨・肋骨と脊髄の間) の動きが悪くなって呼吸運動、 ひいては肺機能に悪い影響が出ているのでは ないかと思っております。

 ですから皆さんには繰り返し、 「大きく深呼吸するようにしてください」 と言っているわけです。どうしてもASの影響で 胸郭が固まってきておりますので、 肺の隅々にまで空気が行き届かないのです。 それなのに更に煙草を吸う人がいます。 煙草を吸う人は慢性的に気管支炎になって いるわけですので、 AS患者に喫煙が良いわけがありません。

 東京都の難病の基準では、 大きく息を吸った時と吐いた時の胸囲の差が2.5 cm、 これ以上拡がらない人は病的な状態と言われています。 私などはこれが1.4 cmぐらいです。 これでは、肺炎になりやすくなるわけです。 だから日頃から深呼吸が大事というわけです。 そういうわけで、直接的な関係はないにしても、 肺機能の低下とASとの間にそれなりの関連は あるかと思います。あとバイオ(生物学的製剤) との関連はどうだったでしょうか?

【多田医師】
 生物学的製剤を使うと感染症になり易い ところがあります。一般的な肺炎とか結核 とか特殊なカビの感染症であるニューモチス 肺炎になることは稀にあります。それで、 生物学的製剤を使用する前には、 結核の罹患既往を調べるために ツベルクリン反応を調べるようにしています。


(質問)
 妊娠中の妻です。 主人がASで、井上先生と同じような体型です。 ASに罹患されてても、 見事に出産されてる方のお話も聞いていますが、 特に注意することとか、気をつけておきたいこと とか教えていただきたいのですが…?

【井上医療部長】
 今日は出席されてませんが、 重篤なAS患者さんで無事に出産され、 子育てしなから色々な社会生活にも 積極的に関与している方が居られます。 ASの患者さんで妊娠された方の受診も最近ありました。 1回目の妊娠でそのストレスからかも 知れませんが非常に病状が悪化、 ASが直接の原因ではありませんが、 結果流産となってしまいました。

 2回目についてのご質問でしたが、 何とも難しい質問です。 ただ2回目と言うことで本人も周りも 事前の準備ができるということがあり、 それなりの覚悟もできてるでしょうし、 妊娠中の痛みにはステロイドが安全で 良く効くとかも分かっていて準備ができます。 2回目にトライする意味はあるのでは…と話したら、 頑張りますと言っておられました。

 アメリカで以前から言われている統計では、 ASの患者さんが妊娠すると、50%は変化が無い、 25%は悪くなる、25%は良くなるということ が言われています。分娩後については、 50%は悪くなると言われています。 ただしそれは、一過性に悪くなるという意味です。 一過性ですから、 今後ずっと悪くなるということでは勿論ありません。 身体の中で大事件が起こるので、 一時的に変化するのでしょう。 私も脊椎の手術をした時に、 股関節が急に悪くなりました。

 1回目に流産したから2回目は止めよう というような病気ではないと思います。 リウマチなどは、産婦人科、内科、 外科の連携も深まり学術的にも発達してきて、 相当病状が進行していても安全に分娩できる ようになってきています。

 ただし服薬については十分な注意が必要です。 リウマトレックス® (メトトレキサート)は 服用中は勿論、中止後でも3カ月は妊娠はダメ、 男性でも子作りをしてはダメとされています。 催奇形性が高まりますし、 女性ではその上に流産の可能性も高まります。 ただ、ASに関しては、 リウマトレックス®は 基本的に効果のない薬とされており、 使われることがほとんどないので、 問題になることはないでしょう。 例外的に、レミケード® 投与中に体内に抗体が産生されて利き目が 悪くなるのを防ぐ、つまり免疫反応抑制の 意味で使われることはあるようです。

 それからスイスのオステンセンという人が 調べた統計では、AS患者が「帝王切開」になる比率は、 健常者と変わらない、子どもに奇形とかが 出現する確率も健常者と変わらないということで、 特段神経質になることではないと言えます。

 私の患者さんで二人、帝王切開になった方が いますが、一人は股関節罹患により分娩位 (開排位)がとれなかったため、 もう一人は腎機能障害があったためです。


(質問)
 グルコサミンの効能はどうなんでしょうか?

【井上医療部長】
 掲示板にも投稿がありましたが、 最近よく訊ねられる質問です。 グルコサミンはそれからできた軟骨の成分の ヒアルロンサンの元ですが、実際には口から 飲んでも胃で吸収され肝臓で分解され、 もうグルコサミンではなくなってしまい、 肝心の関節までは届かないだろうと言われています。 異論もありますが、 医学界では常識と言って良いかと思います。

 でも掲示板に投稿された方は、 「グルコサミンでとっても体調が良くなり、 ゴルフにも元気に出掛けられるようになった。」 と言っています。それでグルコサミンを 研究している人に訊ねてみました。 そしたら、「体調が良くなってもおかしくない。」 ということでした。何故かと言うと、 「グルコサミンは軟骨に良いとかどうとか とは別に、免疫調整や抗炎症作用があるから…」 ということでした。 レミケード®の強敵であるTNFα (炎症を起こす)を抑制する作用があるというわけです。 これで私も納得がいきました。

 ASの男性がグルコサミンでとっても元気になったのは、 関節軟骨に効いたからではなく、 抗炎症作用が働いたということのようです。 とは言っても全ての人に当てはまるものでもなく、 こういうサプリメントは、 規格とかデータとかがはっきり出ておりませんので、 何とも言えない。 それほどひどい害があるものでもありませんが、 あくまでもサプリメント、 つまり補足する補助的なものですから、 治療薬と考えて服用する、 それで治そうというのは違うということになります。

 サプリメントにも一応JISマークみたいなものがあり、 JHFAとかGMPとか書かれているようです。 ただし効能は書いてはいけないとか いろいろ制限もあるようです。

 沢山飲みすぎると身体に良くないとも言われますが、 あれは中に入っている添加物の問題の方が大きいようです。 サプリメントの中の50〜80%は添加物らしいのですが、 それが良くないようです。

 実は私もサプリとして総合ビタミン剤 の類は飲んでいますが、精神安定剤としてです。 不規則な暮らしで食べ物も偏っていますので、 おそらく栄養素は足りていないだろうと思って…。

【多田医師】
 効くかどうか証明されてないので、 飲みたいなら飲んでもいいですよという ぐらいのことしか言えませんが、 1番問題になるのは薬との飲み合わせが どうかということです。 それ以外は特に勧めはしませんが、 飲みたければどうぞというところでしょうか?

【井上医療部長】
 飲み合わせについても、 インターネットで色々な情報が飛び交っております。 お医者さんでも考えは様々ですし、 あくまでも自己責任でやっていくしかない ということだと思います。 あまり期待してはいけません。


(質問)
 レミケード®の治療を 始めてから3年になりました。 右の股関節は既に固まって3年目になります。 レミケード®を始めてから かなり痛みは楽になりました。 左も痛むので人工股関節手術を勧められていますが…?

【井上医療部長】
 股関節の手術をしようとする方が、 レミケード®を使うと、 痛みがとれて楽になることがあります。 特に若い方ですが…。 若い方の場合重篤な副作用 というのも少ないので、 先ずはやってみてはどうでしょうかと思います。

 人工股関節の寿命は 大体今20年から20数年ぐらいですから、 なるべく若い方には入れたくないところです。

 私は37歳の若さで、 周囲の反対を押し切って入れました。 そして24年経った一昨年入れ替えました。 とても快調ですけど、若い時に入れたら どうしても入れ替えは必要になります。

 55歳から60歳過ぎということになりますと、 人工股関節と寿命との競争になりますから、 まあ愉しい晩年のためには入れ替えても いいのではということです。 ただ何回も入れ替えはできませんので、 若い方の場合は出来るだけ手術は遅らせたい、 その意味でもまずはレミケード®、 ヒュミラ®に トライしてみる価値は十分にあるように思います。

【多田医師】
 私の患者さんではありませんが、 うちの教室でやはり股関節が 悪いという患者さんが、 レミケード®を使うことにより、 関節の隙間の所が少し拡がった ということがありました。 そこの軟骨が再生したとか いうことではないのでしょうが、 そういったことでも手術を 遅らせることができるのであれば、 チャレンジする価値はあると思います。


(質問)
 井上先生の診察日と調整ができず、 他の病院を受診しました。 MR上は典型的ではありませんでしたが、 症状からASが疑わしいとのことでした。 それで、今の先生にヒュミラ®、 レミケード®を 使用すると言われていますが、 どうしたら良いでしょうか?

【井上医療部長】
 疑わしいということで 使用する薬ではないと思います。 私はヒュミラ®も レミケード®も 治験のアドバイザーをしましたが、 使用するには適応が大事なのです。

 この薬を使っていい患者なのか、 効果が出る患者なのか、 副作用のリスクを勘案しても本当に有意義か ということをきちんと考えねばなりません。 その人の性格とか、 副作用のチェックに3カ月に1回来院できるかとか、 経済的にはどうなのかとか、 あらゆる要素を総合して 判断することが大事だと思います。

 後で多田先生にお話しいただきますが、 医学的な基準は勿論ありますが、 症状からASが疑わしいので使う などという薬では絶対ないと思います。

 実はレミケード®、 ヒュミラ®について 今年の4月に製薬会社に、今日本で どのくらい使われているか訊ねてみましたが、 ヒュミラ®が200例、 レミケード®が350例 ということでした。合わせても550例、 日本に3万人ぐらい居るとして、 本当に使わねばならない人は まだまだ少ないですね。

 ASは残念ながら薬の選択肢が少なく、 リウマチのように多くありません。 いわゆる痛み止め(ボルタレン®、 ロキソニン®、 セレコックス®等)の次は、 もう生物学的製剤ということになってしまいます。 お医者さんも痛みを何とかして あげたいということで、 やや安易に使い始める傾向を感じます。

 レミケード®を使っても必ず効く というものでもありません。 本当に効くのは5割から6割あたりでしょうか? それで効かなかった場合、 治療的さらには心理的にも、 フォローを確実にして欲しいのですが、 なかなかそこが難しいようです。 レミケード®が効かなくて ヒュミラ®に替えたら 効果が出たという事例もあり、 丁寧なフォローが大事なのですが…。

【多田医師】
 使用されてるのはほとんどがリウマチの お医者さんではないかと思いますが、 リウマチの患者さんにはよく効いているんですね。 リウマチの場合には、レミケード®、 ヒュミラ® 以外にもいくつも生物学的製剤があって、 それらがすごく良く効くというのを知っているもので、 だったら強直性脊椎炎にもいいのではということで 使いたいというお医者さんもいるでしょうし、 先ほど言われたように選択肢が限られている からということもあって、やりようがないという ことで使う場合もあるように思います。

 リウマチの場合は、 関節の破壊を抑えることができる、 更には関節が破壊されたとこを 修復出来るかもしれない、 他のお薬をすべて止めることができるかも とかいうすごい効果があるもので、 リウマチと同じような感覚で使われる お医者さんがいるのかも知れません。 痛み止めでどうにか対応できている方に レミケード®治療を したりすることのないよう、 適応をよく吟味する必要があります。


(質問)
 レミケード®を使えば、 背中が強直する期間は延びるのでしょうか? 背中がくっつかないで済むでしょうか?

【井上医療部長】
 リウマチは初発から2年以内に 骨関節の破壊が出て来ますので、 初期から使えば進行を食い止められる ということが分かってきました。 ASはどうかというと、背骨が固まるまでには 10年、20年とかかるので、 まだレミケード®を 使用した場合と使用しなかった場合の違いとか 差は出てきておりません。 将来的には何らかの差がでてきたり するのかも知れませんが…。

 個人的には、生物学的製剤は高価なものですし、 誰もが背骨が固まって重症化するわけでも ありませんので、その予防のためにASと診断された後、 早い時期から使い続けるというのには賛同できません。


(質問)
ヒュミラ®と レミケード®は、 どちらが良いのですか?

【井上医療部長】
 これも良く聞かれますが、 ASではデータ的にそんなに差は出ていないようです。 ヒュミラ®は 皮下注射で自分でできます。 レミケード®は病院に行って 点滴しなければなりません。 それぞれ良し悪しがあって、 忙しくてなかなか病院にも行けない人は ヒュミラ®に…、 でもきちんとした自己管理が必須です。 レミケード®の方は 病院で点滴中に、スタッフと話し合いが できるというメリットがあります。 どうですか、何か差はあります?

【多田医師】
 あまり変わりないですね。 効く人にはどちらでも効きますし、 どちらかが効かなかった方に、 違うのを処方して格段に効く場合もありますし、 どちらも効かない方もごくたまには居られます。 どちらがどうとは言えない感じです。

 レミケード®は 初めはどうしても2時間点滴をするわけですが、 それが辛い方は自己注射の ヒュミラ®に変えたりもあります。 ただ自己注射はおなかの肉を つまんで自分で注射するわけで、 首が固まっていてやりにくいという方は 点滴になったりもします。 ケースバイケースですね。


(質問)
 私の娘(20代後半)が病院でASと診断され、 今ヒュミラ®の使用を勧められています。 今ロキソニン®と セレコックス®を使っております。 他の薬は使っておりません。

【井上医療部長】
 私の考えでは、 いよいよ他の薬ではどうにもならない、 一切の条件、状況を勘案して使用に踏み切るのが 生物学的製剤ではないかと思ってます。 少なくともファーストチョイスの薬ではありません。 痛み止めの薬が効いていれば無理にまだ使う 必要はないのではと思います。


【M女性部長】
それではどうもありがとうございました。


(会場 拍手)



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