ASの治療〜最新の動向

(THE LANCET 369 April 2007 pp.1379-1390より抜粋)

医療部長 井上 久



  • 基礎療法として患者教育、体操療法、理学療法、自助具、患者会活動、心理ケア などは大切であり、これらは、病気の本体、病勢の本質的な流れを変えたという エビデンスはないが、病状軽減には有効という報告は多々あり、またこの道の 専門家達も強く主張していることである。

  • NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)は、この薬が症状軽減に有効なこと自体が 診断根拠にもなるほどに有効な薬である。患者の50%以上が本薬剤のみてコントロール可能。
     本剤連用により、2年以内の追跡でレントゲン的にも骨化傾向を抑制したという報告も出た。 しかし、胃腸障害その他の副作用、特に胃腸・腎臓への副作用が軽減されたCOX-2ブロッカー (2007年に日本で販売された商品名はセレコックス)の心循環系への障害も含め、 これらを考慮にいれれば、骨化(強直)抑制のための継続投与(疼痛が軽く本剤が不要なのに) は安易にすべきではない。

  • DMARDs(疾患修飾性抗リウマチ薬)は、関節リウマチにおいては疾患の活動性や進行を 抑制するが、AS、特に脊椎・仙腸関節炎が主体のケースには有効というエビデンスはない。 実際にはリウマチ医によって多くのケースに使われているが、他に選択すべきものが ないからということで(安易に)使われているようである。
     ただ、四肢の関節炎が併発しているケースには、サラゾスルファピリジンSAPS (商品名アザルフィジンなど)が有効な場合もあるので、特に発症初期のケースには 使ってみる価値がある。

     関節リウマチには、症状や血液検査値に限らず骨破壊を抑制することが立証されている メトトレキサートMTX(商品名リウマトレックスなど)についてもASに対する 有効性に関するエビデンスはないが、20mg/週(日本で健保認可されているのは6mg/週) を使って、四肢の関節炎には有効だったという報告はある。
     同じく、関節リウマチには有効なレフルノミド(商品名アラバ)も一部の四肢関節炎に 有効だったという報告もある。サリドマイドがASにも有効だったという報告があるが、 その強い副作用の観点から広く普及されていない。骨粗鬆症用剤のビスフォスフォネート (商品名アレディア、フォサマック、ボナロンなど)も有効だったという報告もある。

  • 抗TNF-α製剤
     ここ数年、ASの治療として最も発展したのは本薬剤である。これまでに使われているのは、 インフリキシマブ(商品名レミケード)、エタネルセプト(商品名エンブレル)、アダリマブ (商品名ヒューミラ)であるが、短期間の追跡では症状・機能に限らず、血液検査所見や MRI所見においても著名な有効性を示している。ただし、レントゲン所見での改善 (骨化抑制)は見られない。

     インフリキシマブの2〜5年の投与でも効果は持続するが、1/3のケースでその効果の減弱が みられている。インフリキシマブを3年投与した後に中止したケースで再発が見られたが、 再投与により再び症状の軽減をみたという報告がある。
     エタネルセプトも同様に有効性を示す報告は多々ある。アダリマブは現在治験が 進行中であるが、脊椎の骨化が進行した重度末期ケースでも、症状軽減が見られている。

     ASのみならず、乾癬性脊椎関節炎、炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)に 伴う脊椎関節炎、さらには分類不能型の(血清反応陰性)脊椎関節炎にも有効だったという 報告がある。
     いずれの薬剤も費用面と副作用については問題となっており、また本剤がレントゲン上、 骨化(強直化)を抑制するかどうかはわかっていないが、発症早期で、血液炎症徴候(CRP) が著明で、MRIで脊椎、仙腸関節炎の所見が見られる人は、進行末期の人に比べてその効果は 高いことからも、本薬剤は、初期のAS患者のケアにとって有効と考えられる。

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